過失割合9対1の交通事故|納得いかない場合の対処法【弁護士解説】

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


交通事故の過失割合の決め方

過失割合は、一般的に以下の流れで確定することになります。

過失割合決定までの流れ図

 

①事故態様を確定

まずは、どのような事故態様であったかを確定させる必要があります。

例えば、信号機のある交差点での直進車と右折車の事故でも、

  1. (1)直進車・右折車ともに青信号で交差点に進入した場合
  2. (2)直進車・右折車ともに赤信号で交差点に進入した場合

の2つの事故態様を比較すると、過失割合が異なってきます。

上記のようなケースで、被害者と加害者の信号機の色の主張が異なる場合、事故態様から争いがあるということになります。

 

②いずれの事故類型に該当するかを確定し、基本過失割合を把握

事故態様が確定したら、別冊判例タイムズ38民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版(東京地裁民事交通訴訟研究会 編)という書籍に記載されている事故態様のどの部分に該当するかを確定させ、基本過失割合がどうなっているか把握します。

上記書籍では、大きく分けて、

  1. 第1章 歩行者と四輪車・単車との事故
  2. 第2章 歩行者と自転車との事故
  3. 第3章 四輪車同士の事故
  4. 第4章 単車と四輪車の事故
  5. 第5章 自転車と四輪車・単車との事故
  6. 第6章 高速道路上の事故
  7. 第7章 駐車場内の事故

というような形で類型化されており、そこからさらに細かく態様によって類型化されています。

引用:別冊判例タイムズ38民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版(東京地裁民事交通訴訟研究会 編)

 

③修正要素の有無を確定

上記書籍には、基本過失割合だけでなく、過失割合の修正要素も記載されているので、当該事故で該当する修正要素がないか検証し、確定させます。

 

④過失割合が決定

①〜③の作業で、双方の主張が一致している場合は、合意で過失割合が決定します。

①〜③の作業の中で、双方の言い分に食い違いがあり、合意できない場合は、裁判所での裁判等で過失割合が決定します。

交通事故の裁判について、詳しくはこちらをご覧ください

 

類型化されていない事故態様の場合

上記書籍は、全ての事故態様を類型化しているわけではないため、該当がない事故態様も当然存在します

このような類型化されていない事故態様の場合は、

  • 道路交通法等の定め
  • 優者の危険負担の観点(例えば、車と歩行者の事故の場合、一般的には車の方が過失割合が高くなるように、破壊力がある方が注意義務が加重されるという考え方)
  • 要保護者修正(幼児・児童・高齢者・身体障害者等は社会的に保護されるべき者について、過失割合を有利に修正すべきという考え方)
  • 過去の裁判例で類似のものはどのように判断されているか

等を考慮して、過失割合を判断されることになります。

 

 

過失割合9対1となる事例

過失割合が9対1となる事例をいくつか紹介いたします。

自動車対自動車

信号機のない交差点で、一方が優先道路の直進車同士の衝突事故の場合

A優先車

B劣後車

このケースでは、基本過失割合は、Aが10%、Bが90%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Bの明らかな先入 +10%
Aの著しい過失(※) +15%
Aの重過失(※) +25%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Bの著しい過失 ー10%
Bの重過失 ー15%

※著しい過失、重過失について
著しい過失や重過失については、具体的事情によって該当性が判断されますが、一般的には以下のようなものが該当すると考えられています。

著しい過失の例

  • 脇見運転等著しい前方不注視
  • 著しいハンドル・ブレーキ操作不適切
  • 携帯電話の使用
  • 画像を注視しながらの運転
  • 時速15〜30kmのスピード違反
  • 酒気帯運転

重過失の例

  • 居眠り運転
  • 飲酒運転
  • 無免許運転
  • おおむね時速30kmのスピード違反
  • 過労、病気、薬物などにより正常な運転ができない恐れがある場合

以下の「著しい過失」「重過失」も基本的に同様の意味合いです。

 

直進車と道路外に出るための右折車との事故

A直進車

B右折車

このケースでは、基本過失割合は、Aが10%、Bが90%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Bの既右折 +10%
Aのゼブラゾーン進行 +10〜20%
Aの時速15km以上の速度違反 +10%
Aの時速30km以上の速度違反 +20%
Aの著しい過失 +10%
Aの重過失 +20%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
幹線道路 ー5%
Bの徐行なし ー10%
Bの合図なし ー10%
Bの著しい過失 ー10%
Bの重過失 ー20%

 

自動車対バイク

バイクが直進、自動車が路外から道路に進入する場合

Aバイク直進

B自動車路外から道路に進入

このケースでは、基本過失割合は、Aが10%、Bが90%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Bが頭を出して待機 +10%
Bが既進入 +10%
Aの時速15km以上の速度違反 +10%
Aの時速30km以上の速度違反 +20%
Aの著しい過失 +10%
Aの重過失 +20%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Bの徐行なし ー10%
幹線道路 ー5%
Bの著しい過失 ー10%
Bの重過失 ー20%

 

自動車対自転車

信号機のない交差点で、自転車が広路を直進、自動車が狭路を直進の場合

A自転車広路直進

B自動車狭路直進

このケースでは、基本過失割合は、Aが10%、Bが90%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが右側通行・左方から進入 +5%
Aの著しい過失 +10%
Aの重過失 +15%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 ー5%
Aの自転車横断帯通行 ー5%
Bの著しい過失 ー5%
Bの重過失 ー10%

 

交差点で、自転車が直進、自動車が先行していて左折して自転車を巻き込んだ場合

A自転車直進

B自動車先行左折

このケースでは、基本過失割合は、Aが10%、Bが90%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aの著しい・重過失 +5〜10%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 ー5%
Bの大回り左折・進入路鋭角 ー10%
Bの合図遅れ ー5%
Bの合図なし ー10%
Aの自転車横断帯通行 ー5%
Bの著しい過失・重過失 ー5〜10%

 

自動車対歩行者

歩行者が青信号で横断歩道外を横断開始し、自動車が青信号で右左折した場合

A歩行者青信号で横断歩道外を横断開始

B自動車青信号で右左折

このケースでは、基本過失割合は、Aが10%、Bが90%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
夜間 +5%
幹線道路 +10%
Aの直前直後横断・佇立・後退 +10%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
住宅街・商店街等 ー5%
Aが児童等・高齢者 ー5%
Aが幼児・身体障害者等 ー10%
Aが集団横断 ー5%
Bの著しい過失 ー10%
Bの重過失 ー20%
歩車道の区別なし ー5%

 

 

過失割合9対1に納得いかない場合は変更できる?

相手方保険会社が、過失割合について9対1を提示してきた場合、その提示を変更することはできるでしょうか。

結論としては、変更できる可能性があります

なぜなら、相手方保険会社は、契約者である加害者の言い分のみに基づいて過失割合を提示している可能性があることや、修正要素を加味していない可能性があるからです。

過失割合の修正要素について、詳しくはこちらをご覧ください。

変更のための対処方法は、以下のとおりです。

対処方法1 被害者自身で交渉する

被害者自身が、相手方保険会社と交渉して過失割合を変更することができます。

もっとも、素人の方が交渉のプロである保険会社を相手に、説得できるような主張の組み立て、証拠の活用は現実的に難しいと思われます。

 

対処方法2 被害者の保険会社担当者に交渉してもらう

被害者に多少の過失がある場合は、被害者の加入している保険の対物保険を使用し、示談代行サービスを利用して、被害者の保険会社担当者に過失割合の交渉をしてもらうこともできます。

なお、被害者がご自身の過失を0%と主張する場合、被害者が対物保険を使用することがないので、示談交渉を保険会社に依頼することはできません

 

対処方法3 弁護士に交渉してもらう

過失割合の変更にあたっては、専門的知識や、どのような証拠を収集すべきか等、ノウハウが必要になってきます。

このようなノウハウは、交通事故を多く扱っている弁護士であれば習得していると考えられます。

そこで、弁護士に委任し、過失割合の交渉を依頼することをお勧めします。

なお、弁護士は、過失割合の変更だけでなく、後遺障害の申請や、慰謝料の増額交渉など、様々な場面に携わることができます

交通事故における弁護士依頼のメリットについて、詳しくは以下ページをご覧ください。

また、ご自身の加入の保険に、弁護士費用特約があれば、実質的に費用負担なしで弁護士に依頼できる可能性があります。

弁護士費用特約について、詳しくはこちらをご覧ください。

過失割合の変更方法について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

過失割合が9対1から10対0に変更になった事例

当事務所で、事故当初、相手方保険会社から過失割合を9対1と提案されていたところ、弁護士が介入し、10対0になった解決事例をご紹介いたします。

※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。

なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

ご相談者Aさん(福岡市博多区)

ご依頼後取得した金額
53万6000円(自賠責保険金を含む)
受傷部位 首(頚椎捻挫)、膝(左膝関節打撲)
後遺障害等級 なし

 

主な損害項目 弁護士によるサポート結果
傷害慰謝料 50万円(裁判基準95%)
休業損害 3万円
通院交通費 6000円
結果 53万6000円

※既払いの治療費は除いています。

事故状況

Aさんは、自転車で路側帯を走行していました。

Aさんが自転車で走行途中、赤信号で停車していた自動車の助手席側ドアが急に開きました。

Aさんの走行していた自転車と自動車の助手席のドアが衝突し、Aさんは転倒して負傷しました。

過失割合の交渉について

相手方保険会社は、弁護士介入前に、Aさんに対して、過失割合は、9(自動車)対1(自転車)が妥当であると主張していました。

なお、自転車と自動車のドア開放事故については、判例タイムズに類型化されていません。

もっとも、バイクと自動車のドア開放事故については、判例タイムズに類型化されており、それによると、基本過失割合は9対1です。

相手方保険会社は、バイクと自動車のドア開放事故の基本過失割合を参考に、9対1を主張していました。

そこで、弁護士が、Aさんから事故の詳細を伺ったところ、

  • 自動車はハザードランプ等の合図をしていなかった(−5%の修正要素
  • Aさんの自転車が自動車の後輪を通り過ぎたあたりにドアが開放された(直前ドア開放、−10%の修正要素

ということが判明しました。

そこで、弁護士は、上記修正要素により、過失割合は10対0が妥当であると書面で主張しました。

そして、最終的に相手方保険会社の説得に成功し、過失割合は10対0での合意に至りました

自動車のドア開放事故の過失割合について、詳しくはこちらをご覧ください。

10対0の過失割合について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

過失割合9対1から9対0で合意する方法もある

被害者は10対0、加害者は9対1の過失割合をそれぞれ主張し、折り合いがつかないこともあるかと思います。

そのような場合は、主に早期解決のために、9対0という割合で合意できることもあります

9対0で合意するような場合を、「片側賠償」(略して片賠(かたばい)ともいいます)と呼ばれています。

9対0で合意することについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

過失割合9対1の損害賠償額の計算方法

過失相殺が絡む損害賠償額の計算方法の大枠は、以下のとおりです。

①総損害額を算出

まずは、損害が全体としていくらなのか計算します。

物損なら、修理費、代車費用、レッカー費用等全ての損害を足して計算します

人損なら、治療費、通院交通費、休業損害、傷害慰謝料等全ての損害を足して計算します

 

②総損害額から過失分を差し引く

①で算出した総損害額から過失分を差し引きます

例えば、総損害額が 100万円、被害者の過失が1割の場合、

100万円 – 10万円(100万円 × 0.1)= 90万円

となります。

 

③既払金があれば差し引く

最終的な損害を計算する時点で、既払金があれば差し引くことになります

特に、人的損害で、相手方保険会社が治療費の一括対応をしている場合や、休業損害の内払いをされている場合は、既払金として差し引きます。

一括対応について、詳しくはこちらをご覧ください

休業損害について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

具体例〜物損を例に〜

前提条件
  • 被害者の過失が1割、加害者の過失が9割
  • 被害者の物損の総損害額が 50万円、加害者の物損の総損害額が 10万円
  • 既払金はそれぞれ 0円
計算
被害者が加害者から受け取れる金額
50万円 – 5万円(50万円 × 0.1)= 45万円
加害者が被害者から受け取れる金額
10万円 – 9万円(10万円 × 0.9)= 1万円
双方損害がある場合の支払方法

(1)クロス払い

ぞれぞれの損害をそれぞれが支払う方法を「クロス払い」といいます。

上記のケースでは、加害者が被害者へ45万円を支払い、被害者が加害者へ1万円を支払って解決とします。

(2)相殺払い

損害が大きい方の損害から、損害が小さい方の損害を差し引いて、その残額を損害が大きい方に支払う方法を「相殺払い」といいます。

上記のケースでは、損害が大きい方は被害者の 45万円、損害の小さい方は加害者の 1万円なので、

45万円 – 1万円 = 44万円

したがって、加害者が被害者に対して44万円を支払って解決とします。

 

具体例〜人損を例に〜

前提条件
  • 被害者の過失が1割、加害者の過失が9割
  • 被害者の人損の総損害額は 700万円、加害者の人損の総損害額は 0円
  • 被害者への既払金は 100万円(治療費)
計算

700万円(総損害額)- 70万円(700万円 × 0.1)- 100万円(既払金)= 530万円

この時点で被害者が加害者から受け取れる金額は、530万円となります。

なお、弊所はLINEで損害賠償金の算出をするサービスを実施しておりますので、是非一度お試しください。

 

 

まとめ

過失割合が9対1になるような事案は、被害者の不満が溜まりやすいものです。
保険会社から9対1を提示されたとしても、本当にそれが妥当かどうか、修正要素はないかなどをしっかり検証する必要があります。
過失割合は上記で見てきたとおり、専門性が高いものですので、ご不安な方は弁護士にご相談ください。

 

 

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