もらい事故の慰謝料|注意点や慰謝料の相場【自動計算機付き】
もらい事故は基本的に過失割合は10対0となります。
そのため、もらい事故の慰謝料は、基本的に満額もらえます。
慰謝料の相場は、治療期間や怪我の程度によって変わり、むちうちの通院3ヶ月で53万円、通院6ヶ月で89万円(弁護士基準)となります。
このページでは、もらい事故の特徴、慰謝料の相場、慰謝料請求のポイントなどについて弁護士が詳しく解説いたします。
目次
もらい事故とは
もらい事故とは、一般的に被害者に全く過失がない事故のことをいいます。
「もらい事故」という法的な概念や定義があるわけではありません。
被害者に過失がない事故なので、「事故」を「もらった」という意味合いでもらい事故という表現がされています。
もらい事故の過失割合
もらい事故は、上記のとおり、被害者に全く過失がない事故のことをいいますので、基本的に過失割合は10対0となります。
車同士におけるもらい事故(過失割合が10対0)となる事故の例は、以下のとおりです。
- 交差点で赤信号を無視した車両との出会い頭事故
- 信号停止中の追突事故
- 対向車がセンターラインを越えて正面衝突した事故
過失割合が10対0となる事例について、詳しくはこちらをご覧ください。
他方、一見もらい事故のように見えるが、過失割合が10対0とはならない事故は、以下のようなものです。
- 2車線道路において、被害者車両が直進していたところ、前方にいた加害者車両が隣の車線から急に進路変更してきた衝突した事故
→ 基本過失割合は、3(直進車)対7(進路変更車) - 信号のある交差点において、被害者が直進車、加害者が右折車の衝突事故(どちらも青信号の場合)
→ 基本過失割合は、2(直進車)対8(右折車) - 被害者車両が直進していたところ、道路外から道路に進入するために右折してきた加害者車両と衝突した事故
→ 基本過失割合は、2(直進車)対8(道路外から道路への右折車)
過失割合について、詳しくはこちらをご覧ください。
もらい事故は被害者の保険会社が介入できない
自動車保険には、示談代行サービスが契約内容に含まれているため、保険会社同士で過失割合などを当事者に代わって交渉してくれることがあります。
しかし、もらい事故の場合は、示談代行サービスは使用できないのです。
もらい事故の場合、被害者に過失がないため、被害者側の保険会社は賠償金を支払う必要がなく何の利害関係もありません。
こうした状況下で、保険会社が示談交渉をしてしまうと弁護士法72条(弁護士でない人が法律の根拠なく代理交渉をすることを禁じる規定)に違反して違法行為となってしまうのです。
したがって、もらい事故の場合には、被害者自身で相手保険会社や加害者と交渉しなければなりません。
対処法:弁護士に代理交渉を依頼する
被害者自身で交渉する場合、基本的に保険会社は平日の日中しか連絡がつながらないので、平日の日中に時間を割いて、交渉に臨まなければなりません。
また、保険会社は、日常的に交通事故に関する交渉を行っており、それなりの知識量と交渉力をもっていますので、被害者個人で保険会社に対抗するのは簡単ではありません。
その対処法としては、専門の弁護士に代理交渉を依頼することが考えられます。
弁護士は、依頼を受ければ被害者に代わって、相手保険会社や加害者と代理交渉を行うことができます。
また、交通事故を専門的に取り扱う弁護士であれば、交通事故の知識・経験、交渉力も備えており、被害者個人で交渉するよりも、よりよい結果が期待できます。
もらい事故に該当?〜フローチャート〜
もらい事故に該当するかどうかについて、以下のフローチャートをご参照ください。
もらい事故の慰謝料の相場
慰謝料には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つがあります。
それぞれの特徴は、下表のとおりです。
入通院慰謝料 | 入院や通院をしたことに対する慰謝料 |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害に認定された場合にその等級に応じて支払われる慰謝料 |
死亡慰謝料 | 死亡したことに対する慰謝料 |
これらの慰謝料の算定基準について、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3つの基準があります。
それぞれの特徴は以下のとおりです。
自賠責基準 | 自賠責保険が使用する基準で法令で定められている。 上限額があり、治療費、休業損害、入通院慰謝料などの傷害部分は120万円が上限となっている。 3つの基準の中では最も低い基準。 |
任意保険基準 | 各任意保険会社が独自に設定している基準で、現在は公表されていない。 自賠責基準より少し高い賠償水準になっている。 |
弁護士基準 (裁判基準) |
弁護士が示談交渉の際に使用する基準であり、裁判になった場合に裁判所が使用する基準でもある。 3つの基準の中で最も高い基準である。 |
以下では、最も適切な賠償基準である弁護士基準で慰謝料の相場について解説します。
入通院慰謝料の相場
入通院慰謝料とは、交通事故によって入院や通院をした場合に発生する慰謝料のことです。
入通院慰謝料は、弁護士基準だと、軽症の場合と重症の場合で、用いる基準が異なります。
軽傷の場合
軽症とは、例えば、むちうち、打撲など、レントゲン等で異常がない場合です。
軽症の場合は、以下の表を用います。
- ※1 慰謝料算定では、1ヶ月=30日でカウントします。
- ※2 ここでいう「〜月」というのは、実際に通院した日数(実通院日数)ではなく、通院開始日〜最終通院日までの通院期間のことを指します。
- ※3 入院のみのとき⇒「入院」の欄の入院期間(一番上の行の月数)に対応する部分の金額が慰謝料の基準となります。
- ※4 通院のみのとき⇒「通院」の欄の通院期間(一番左の列の月数)に対応する部分の金額が慰謝料の基準となります。
- ※5 入院と通院があった場合⇒入院した月数と通院した月数とが交わる欄に記載された金額が慰謝料の基準となります。
具体例① 入院なし、通院院期間5ヶ月の場合
→ 通院の欄の5ヶ月を見ると、79万円となっています。
具体例② 入院1ヶ月、通院4ヶ月の場合
→ 入院の欄1ヶ月と、通院の欄4ヶ月が交わるところを見ると、95万円となっています。
交通事故の慰謝料について、詳しくはこちらをご覧ください。
重症の場合
重症とは、例えば、骨折や脱臼など、レントゲン等で異常がある場合です。
重症の場合は、以下の表を用います。
表の見方は、軽症の場合と同様です。
後遺障害慰謝料の相場
後遺障害慰謝料は、交通事故により、痛みが残存する、骨が変形する、動かしづらくなるというような状態で、自賠責で後遺障害等級が認定された場合等に請求できる金額です。
後遺障害について、詳しくはこちらをご覧ください。
後遺障害慰謝料は、認定される等級によって金額が異なります。
等級に応じた金額は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 弁護士基準での慰謝料の額 |
---|---|
第1級 | 2800万円 |
第2級 | 2370万円 |
第3級 | 1990万円 |
第4級 | 1670万円 |
第5級 | 1400万円 |
第6級 | 1180万円 |
第7級 | 1000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料とは、その名のとおり、死亡した場合に発生する慰謝料のことです。
死亡慰謝料の弁護士基準は、以下のとおりです。
立場 | 慰謝料額 |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
その他 | 2000万円〜2500万円 |
※一家の支柱とは、亡くなった被害者が被害者の家族の家計を支えていた場合です。
※上記金額には、民法711条の「被害者の父母、配偶者、子」とそれに準ずる者の固有の慰謝料も含まれています。
※「その他」は、一家の支柱、母親・配偶者に該当しない人を指します。
※あくまでも相場ですので、具体的に事情によって増減します。
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入通院慰謝料をある程度正確に計算するには、日割りの計算なども必要になり、複雑な計算になります。
以下の交通事故賠償金計算シミュレーターでは、入通院慰謝料の概算に加え、休業損害の概算等も計算できますので、ぜひご活用ください。
もらい事故で慰謝料以外に請求できるお金
もらい事故では、慰謝料以外でも事案によって以下の賠償を請求できる可能性があります。
その他の損害でも交通事故と因果関係が認められる範囲であれば請求することができます。
賠償項目 | 内容 |
---|---|
治療費 | 病院での治療費・入院費、整骨院での施術費用など |
休業損害 | 仕事を休んだことで給料が減った場合の補償。 主婦の場合でも主婦休損として休業損害を請求することができる。 |
通院交通費 | 自宅から病院や整骨院への通院に要した費用の補償。 公共交通機関の場合は、その実費が補償され、自家用車で通院した場合には1kmにつき15円を請求することができる。 |
逸失利益 | 後遺障害が残ったことにより将来の収入が減ってしまうことに対する補償。 賠償額が高額になる傾向がある。 |
入院雑費 | 入院した場合の実費に対する補償で1日1500円(弁護士基準) |
文書料 | 後遺障害診断書の作成代、その他診断書代など |
付添費用 | 入院、通院の付き添い費用。 幼児や特に付き添いが必要と認められる場合に補償される。 |
将来介護費用 | 将来介護が必要となる場合の費用。 |
葬儀費用 | 亡くなった場合の葬儀費用の補償。 |
車の修理代 | 適正価格の修理費用を請求できる。 修理費用が、車両の時価額と買替諸費用の合計を上回る場合は、時価額と買替諸費用の合計の金額までしか請求できない。 |
もらい事故の慰謝料請求の4つのポイント
体に痛みがあればすぐに病院を受診する
もらい事故に遭って、体に痛みを感じた場合には速やかに病院を受診しましょう。
そのうち治るだろうと考えて病院に行かず、時間が経過してから我慢できなくなって病院を受診しても、保険会社に治療費を支払ってもらえない可能性があります。
事故発生から通院までの間に時間が開いてしまうと、ケガと事故との関係性を疑われてしまうのです。
保険会社は、病院に行っていないということは、ケガはないんだと評価します。
仕事や家事・育児で病院に行けなかったとしても同様ですので、少しでも痛みがあれば速やかに病院を受診しましょう。
治療の必要性がある限りは通院する
入通院慰謝料への影響
これまで説明したとおり、入通院慰謝料は、通院期間の長短で算出されます。
したがって、治療の必要性がある限りは、通院されることをお勧めします。
治療の必要性があるかどうかは、医学的判断になりますので、主治医の意見を聞いて判断することになります。
主治医が治療が必要であるとの意見であれば、症状の改善の見込みもありますし、かつ、適切な慰謝料を補償してもらうためにも通院は継続されたほうがいいでしょう。
後遺障害認定への影響
通院の期間は、入通院慰謝料だけでなく後遺障害の認定にも影響します。
後遺障害等級で最も認定される件数が多い14級9号は、交通事故による症状が残っていることを医学的に説明できる場合に認定されます。
医学的に説明できるかどうかは、事故に関する諸事情を総合考慮して判断されることになりますが、その中でも通院期間はとても重要な考慮要素になっています。
後遺障害は、一生残ってしまうかもしれない症状に対して認定されるものなので、少なくとも6ヶ月は通院していないと14級9号の認定は難しいです。
事案にもよりますが、6ヶ月以降については、通院期間が長くなるほど認定される傾向が高まっているように感じます。
通院期間以外にも、事故の規模・態様、症状の一貫性・連続性、治療の内容、通院頻度、神経学的所見の有無、画像所見の有無など、様々な事情を総合考慮して判断されることになりますが、通院期間は最も重要な考慮要素の一つと言えるでしょう。
症状が残っている場合には後遺障害申請をする
6ヶ月以上治療を継続しても、体の痛みや関節の動かしづらさなど、事故による症状が残っている場合には、後遺障害の申請を検討すべきでしょう。
後遺障害に認定された場合には、後遺障害慰謝料を請求することができます。
もっとも低い等級である14級の認定であっても後遺障害慰謝料は110万円です。
また、後遺障害が認定された場合には逸失利益も請求することができ、賠償額が大きく変わってきますので、症状が残っている場合には後遺障害申請を検討しましょう。
示談交渉を弁護士に依頼する
弁護士に依頼することで慰謝料の増額が期待できる
被害者自身で保険会社と賠償交渉をする場合には、自賠責基準あるいは任意保険基準を前提に賠償の交渉をすることがほとんどです。
被害者自身で弁護士基準(裁判基準)を前提に賠償を提示しても、「弁護士が介入していないから弁護士基準は使えない」などと保険会社担当者に言われてしまうでしょう。
弁護士が保険会社と交渉する場合には、弁護士基準を前提に交渉するため多くの場合、賠償額を増額することが期待できます。
また、慰謝料だけでなく、賠償全体について弁護士が検討して賠償額を算出し、保険会社と交渉するので、弁護士が介入することで賠償額が数倍になることもあります。
弁護士費用特約の活用
弁護士費用特約とは、弁護士に依頼するための費用を保険会社が支払ってくれる保険特約です。
多くの保険会社の弁護士費用特約の上限額は300万円ですが、弁護士費用が300万円を超えるケースは重症案件に限られますので、多くのケースでは弁護士費用特約で弁護士費用を賄うことができます。
また、弁護士費用特約を使ったとしても保険の等級には影響せず、保険料は変わりません。
したがって、被害者としては、金銭的な負担なく弁護士に交渉を依頼することができるのです。
弁護士費用特約に加入されている場合には、弁護士に示談交渉を任せることを検討しましょう。
なお、法律事務所によっては、弁護士費用特約で支払われる弁護士費用とは別に費用が必要となる事務所もありますので、依頼するにあたっては、弁護士費用特約で費用を賄えるか確認するようにしましょう。
もらい事故にあったら|被害者が行動すべきポイント
もらい事故にあった場合の、被害者が行動すべきポイントは、以下のとおりです。
①警察へ事故の報告
道路交通法上、交通事故が起きた場合、加害者のみならず、被害者の方も警察への報告義務を負っています(道路交通法72条1項)。
したがって、加害者の方が警察へ連絡する様子がない場合等は、もらい事故の被害者であっても、警察へ連絡してください。
②証拠の保全
怪我の状況にもよりますが、ある程度余裕がある場合は、以下の証拠を保全してください。
- 加害者の氏名、住所、電話番号を確認し、メモする
- ドライブレコーダーの映像の保存
- 車両の破損状況や怪我の状況を写真撮影する
- 目撃者の情報の確保
③警察の任意捜査(実況見分等)への協力
警察が事故現場に到着した後は、その当日や後日に実況見分などの任意捜査が行われます。
実況見分の内容を反映した実況見分調書が後々の証拠になる可能性があるので、特段の事情がない限り、任意捜査には協力し、事故状況等を正確に警察に伝える必要があります。
実況見分について、詳しくはこちらをご覧ください。
④車両の修理等の検討・負傷がある場合は病院への通院
車両に傷がある場合は、修理等を検討してください。
修理の流れは、上記の「車両修理の流れ」をご参照ください。
また、経済的全損の場合は、修理費用が全額保障されませんので(上記の解説参照)、そもそも修理するかは要検討です。
加えて、負傷がある場合は、早めに病院に通院してください。
事故から一定期間空いてからの通院は、事故との因果関係が否定されて、治療費等が支払われない可能性があります。
目安としては、事故当日から遅くとも3日以内に通院すべきであると考えています。
⑤ご自身の保険会社に連絡
もらい事故であっても、念の為、ご自身が加入されている保険会社に連絡されることをお勧めします。
理由としては、加入保険の内容によっては、加害者側の賠償以外で金銭を受領できる可能性がありますし、弁護士費用特約に加入していれば、弁護士に対応を依頼することができるからです。
⑥弁護士へ相談
交通事故は精神的な負担や保険会社への対応など、様々な被害者の苦労があるかと思います。
争点がある場合はもちろんですが、争点がない場合などでも、加害者や保険会社への対応を弁護士に一任できる可能性がありますので、弁護士にご相談されることをお勧めします。
もらい事故でよくある質問
もらい事故でも過失割合で揉めることはある?
しかし、もらい事故であるかどうかについて、争いがある場合には揉めることがあります。
例えば、信号無視をした車に衝突された場合は、もらい事故ですが、加害者側が信号無視ではなく黄色で交差点に進入したという主張をしてくる場合があります。
事実としては、加害者は信号無視をしていたとしても、このように主張されることで揉める可能性があるのです。
ドライブレコーダーなどで信号無視を証明できればいいのですが、証拠がない場合には、揉めてなかなか過失割合が決まらないこともあります。
もらい事故の慰謝料はいつもらえる?
示談が成立せず、裁判になった場合は、和解の成立後や判決確定後になります。
なお、相手方保険会社が認めてくれれば、示談成立の前段階で慰謝料の一部を受領できることもあります(これを「内払い」と呼びます)。
まとめ
- もらい事故とは、過失割合が10対0の事故のことです。
- もらい事故の慰謝料には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料があり、それぞれ相場があります。
- もらい事故の場合は、治療費や慰謝料などの人損、修理費用などの物損が賠償の対象となります。
- もらい事故の場合、被害者が加入している任意保険会社は交渉してくれないため、被害者自身が交渉するか、弁護士に依頼して弁護士が交渉することになります。
- 治療の必要性がある場合には、治療を継続して6ヶ月以上経過しても症状が残る場合には後遺障害申請を検討しましょう。
- 弁護士に依頼することで、慰謝料の増額が期待できます。特に弁護士費用特約に加入している場合には、積極的に利用することをお勧めします。
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