自転車と車の事故|自転車が悪い場合もある?過失割合について解説

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


自転車と車の事故の場合、多くのケースでは破壊力のある車の方が過失が高くなり、破壊力の小さい方自転車の方が過失が低くなる傾向にあります。

ただし、事故態様によっては自転車の方が過失が高くなることがありますので注意が必要です。

自転車と車の事故の過失割合についてくわしく解説します。

自転車と車の事故の過失割合の考え方

自転車は過失割合が低くなる?

過失割合を決めるにあたっての一つの考え方として、「優者の危険負担」というものがあります。

優者の危険負担とは、破壊力がある方が注意義務が加重されるという考え方です。

この優者の危険負担の考え方に基づいて、自転車と車の事故の場合、多くのケースでは破壊力のある車の方が過失が高くなり、破壊力の小さい方自転車の方が過失が低くなる傾向にあります。

過失割合について、詳しくは以下をご覧ください。

 

 

自転車が悪い場合もある?

上記の「優者の危険負担」の考え方は、あくまで過失割合を決めるにあたっての一要素に過ぎません。

事故態様によっては、自転車の方が過失が高くなることがあります。

一般感覚として「これはさすがに自転車の方が悪い!」というような事故態様では、自転車の過失の方が高くなることが多いです。

自転車の方が過失が高くなる例については、以下の自転車と車の事故における過失割合の「具体例〜自転車の方が過失が低い場合〜」で解説いたします。

 

 

自転車と車の事故における過失割合

基本割合とは

過失割合を確定させるにあたっては、まず事故態様を確定させます。

事故態様を確定させた後は、その事故態様を前提とした基本割合を確認します。

基本割合とは、別冊判例タイムズ38民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準全訂5版(東京地裁民事交通訴訟研究会 編)という交通事故の過失割合が掲載されている本に記載されている、当該事故類型の原則的な過失割合のことをいいます。

参考:民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版] 別冊判例タイムズ38号

過失割合を確定するにあたって、この基本割合がどうなっているかが重要です。

 

過失割合の修正要素とは

上記の基本割合は、あくまで原則的な過失割合なので、一定の事情があれば、基本割合のパーセンテージが変動します。

このような基本割合を変動させる一定の事情のことを、過失割合の修正要素といいます。

過失割合の修正要素は、個々の類型によって異なることが多いため、事案によって何か修正要素がないか確認する必要があります。

過失割合の修正要素について、詳しくは以下をご覧ください。

 

具体例〜自転車の方が過失が低い場合〜

信号機のある交差点で、自転車が黄色信号、自動車が赤信号で交差点に進入した場合
A自転車・黄色信号
B自動車・赤信号

自転車が黄色信号、自動車が赤信号で交差点に進入した場合の過失割合の図

このケースでは、基本割合は、Aが10%、Bが90%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが赤信号直前進入 +5%
Aの著しい過失(※) +5%
Aの重過失(※) +10%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 -5%
Aが自転車横断帯通行 -5%
Bの著しい過失 -5%
Bの重過失 -10%

 

※著しい過失、重過失について

著しい過失や重過失については、具体的事情によって該当性が判断されますが、一般的には以下のようなものが該当すると考えられています。

著しい過失の例
  • 脇見運転等著しい前方不注視
  • 著しいハンドル・ブレーキ操作不適切
  • 携帯電話の使用
  • 画像を注視しながらの運転
  • 画像を注視しながらの運転
  • 時速15〜30kmのスピード違反
  • 酒気帯運転

 

重過失の例
  • 居眠り運転
  • 飲酒運転
  • 無免許運転
  • おおむね時速30kmのスピード違反
  • 過労、病気、薬物などにより正常な運転ができない恐れがある場合

以下の「著しい過失」「重過失」も基本的に同様の意味合いです。

 

信号機のある交差点で、双方赤信号で交差点に進入した場合
A自転車・赤信号
B自動車・赤信号

信号機のある交差点で、双方赤信号で交差点に進入した場合の過失割合の図

このケースでは、基本割合は、Aが30%、Bが70%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
夜間 +5%
Aの著しい過失 +5%
Aの重過失 +10%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 -5%
Aの明らかな先入 -15%
Aが自転車横断帯通行失 -10%
Aの横断歩道通行 -5%
Bの著しい過失 -5%
Bの重過失 -10%

 

信号機のない交差点で、同幅員で直進車同士の衝突の場合
A自転車
B自動車

信号機のない交差点で、同幅員で直進車同士の衝突の場合の過失割合の図

このケースでは、基本割合は、Aが20%、Bが80%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
夜間 +5%
Aが右側通行・左から進入 +5%
Aの著しい過失 +10%
Aの重過失 +10 〜 15%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 -5%
Aが自転車横断帯通行 -10%
Aの横断歩道通行 -5%
Bの著しい過失 -10%
Bの重過失 -10 〜 20%

 

信号機のない交差点で、自動車に一時停止規制がある場合
A自転車
B自動車・一時停止規制あり

信号機のない交差点で、自動車に一時停止規制がある場合の過失割合図

このケースでは、基本割合は、Aが10%、Bが90%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Bが一時停止 +10%
Aが右側通行・左から進入 +5%
Aの著しい過失 +10%
Aの重過失 +15%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 -5%
Aが自転車横断帯通行 -5%
Bの著しい過失 -5%
Bの重過失 -10%

 

信号機のある交差点で、自転車が直進、自動車が右折した場合(どちらも青信号で進入)
A自転車直進・青信号
B自動車右折・青信号

信号機のある交差点で、自転車が直進、自動車が右折した場合の過失割合図
このケースでは、基本割合は、Aが10%、Bが90%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Bが既右折 +10%
Aのの著しい過失・重過失 +5 〜 10%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 -10%
Bが徐行なし -5%
Bが直近右折 -5%
Bが合図なし -5%
Bが早回り右折・大回り右折 -5%
Aが自転車横断帯通行 -5%
Bの著しい過失・重過失 -5〜10%

 

交差点で、自転車が直進、自動車が左折した際の巻き込み事故
A自転車直進
B自動車左折

交差点で、自転車が直進、自動車が左折した際の巻き込み事故の過失割合図
このケースでは、基本割合は、Aが10%、Bが90%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aの著しい過失・重過失 +5 〜 10%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 -5%
Bが大回り右折・進入路鋭角 -10%
Bが合図遅れ -5%
Bが合図なし -10%
Aが自転車横断帯通行 -5%
Bの著しい過失・重過失 -5 〜 10%

 

具体例〜自転車の方が過失が高い場合〜

信号機のある交差点で、自転車が赤信号、自動車が青信号で進入した場合
A自転車・赤信号
B自動車・青信号

信号機のある交差点で、自転車が赤信号、自動車が青信号で進入した場合の過失割合図
このケースでは、基本割合は、Aが80%、Bが20%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
夜間 +5%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 -10%
Aが自転車横断帯通行 -10%
Aが横断歩道通行 -5%
Bの著しい過失 -10%
Bの重過失 -20%

 

信号機のある交差点で、自転車が赤信号、自動車が黄色信号で進入した場合
A自転車・赤信号
B自動車・黄色信号

信号機のある交差点で、自転車が赤信号、自動車が黄色信号で進入した場合の過失割合
このケースでは、基本割合は、Aが60%、Bが40%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
夜間 +5%
Aの著しい過失 +5%
Aの重過失 +10%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 -10%
Bが赤信号直前進入 -15%
Aが自転車横断帯通行 -10%
Aが横断歩道通行 -5%
Bの著しい過失 -10%
Bの重過失 -15%

 

信号機のある交差点で、自転車が赤信号で進入し、自動車が青信号で進入した後、赤信号で右折した場合(対向方向)
A自転車・赤信号
B自動車・青信号で進入し赤信号で右折

信号機のある交差点で、自転車が赤信号で進入し、自動車が青信号で進入した後、赤信号で右折した場合の過失割合図
このケースでは、基本割合は、Aが70%、Bが30%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aの著しい過失・重過失 +5 〜 10%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 -10%
Bが合図なし -10%
Aが自転車横断帯通行 -10%
Aが横断歩道通行 -5%
Bの著しい過失・重過失 -5 〜 10%

 

信号機のある交差点で、自転車が赤信号で進入し、自動車が青信号で進入した後、赤信号で右折した場合(同一方向)
A自転車・赤信号
B自動車・青信号で進入し赤信号で右折

信号機のある交差点で、自転車が赤信号で進入し、自動車が青信号で進入した後、赤信号で右折した場合の過失割合図
このケースでは、基本割合は、Aが75%、Bが25%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aの著しい過失・重過失 +5〜10%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 -10%
Bが合図なし -10%
Aが自転車横断帯通行 -10%
Aが横断歩道通行 -5%
Bの著しい過失・重過失 -5〜10%

 

交差点で、歩行者用信号機等が赤信号で自転車が進入し、自動車が青信号で進入した場合
A自転車・歩行者用信号機等が赤信号
B自動車・青信号で進入

交差点で、歩行者用信号機等が赤信号で自転車が進入し、自動車が青信号で進入した場合の過失割合図

このケースでは、基本割合は、Aが60%、Bが40%です。

修正要素としては、以下の事情がある場合は、Aに不利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
夜間 +5%
Aの著しい過失・重過失 +5 〜 10%

他方、以下の事情がある場合は、Aに有利に修正されます。

過失割合(Aの割合を基準)
Aが児童等・高齢者 -10%
Aが自転車横断帯通行 -5%
Bが徐行なし -5%
Bの著しい過失 -10%
Bの重過失 -20%

 

 

自転車と車の事故での注意点

自転車側が被害者の場合

証拠の確保の困難性

最近では、ドライブレコーダーの普及により、車側にドライブレコーダーが搭載されていることが多くなりました。

もっとも、自転車の場合は、ドライブレコーダーのような録画機能を持つ機械を搭載していることは少なく、客観的な証拠を確保することは困難です。

加害者が車で、ドライブレコーダーを搭載していることもありますが、必ずしも被害者に開示してくれるとは限りません。

自転車が被害者の場合で過失割合が争いになるような事案では、目撃者や付近の防犯カメラ映像などの証拠を確保していくことが必要ですが、容易ではありません。

 

損害が大きくなることによる解決までの長期化

自転車が被害者の場合、生身の体と車が衝突したりするので、骨折や脱臼といった大怪我をしやすいです。

また、入院を要する怪我になることもあるでしょう。

大怪我をすれば、治療や後遺障害認定まで時間を要したり、損害が比較的大きくなるので保険会社と揉めやすい状況になります。

そのため、一般的には、解決まで時間を要することが多い印象です。

 

物損の交渉の難点

自転車が被害者の場合の物損には、自転車、衣服、携帯電話、装飾品などの損害物が考えられます。

これらの損害物の立証には、損傷状態を写真撮影し、添付することが必要です。

また、購入価格がそのまま損害となるわけではなく、修理費用、もしくは時価額での賠償となり、その評価が問題となることも少なくありません。

加えて、物損は、基本的に時効は3年であり、人損の5年よりも短いため、早期解決が求められます。

時効について、詳しくは以下をご覧ください。

 

車側が被害者の場合

軽微な事故とみなされる

車側が被害者で怪我をした場合、一般的に受ける衝撃が大きくないことから、賠償される治療費等は少なくなる傾向にあります。

特に、自転車側が任意保険に加入している場合、交渉担当者から、

  • そもそも怪我をするような事故ではないから、治療費の対応をしない
  • 治療費の対応はするが、その期間は1ヶ月程度である

などの主張をされることがあります。

治療期間が短くなれば、その分受け取る慰謝料も少なくなります。

治療費の打ち切りについて、詳しくは以下をご覧ください。

 

後遺障害等級の認定機関がない

加害者が自動車の場合、後遺障害が残存した場合は、相手方が加入している自賠責保険を通じて、損害保険料率算出機構という機関が後遺障害等級の判断をします。

もっとも、加害者が自転車の場合、自賠責保険のような制度はないため、後遺障害等級の判断をしてくれる機関は基本的にありません。

そのため、被害者に後遺障害が残存した場合は、後遺障害診断書やカルテの記載から、「自賠責保険の●級相当の後遺障害が残存した」という主張をしていかなければなりません。

そして、このような場合は、後遺障害等級につき判断機関が判断しているわけではないので、非常に争いになりやすいです。

後遺障害について、詳しくは以下をご覧ください。

自賠責保険と自転車の関係について、詳しくは以下をご覧ください。

 

自転車保険未加入により加害者本人と交渉しなければならない

自治体によっては、自転車保険の加入義務を課しているところもありますが、残念ながら加入していない方も多くいらっしゃいます。

仮に加害者が自転車保険に加入していなかった場合、加害者と直接、賠償額等の交渉を行わなければなりません。

加害者が自転車保険に加入していない理由が資力がないというものであった場合、賠償についても資金面で回収できない可能性があります。

また、加害者と直接交渉する場合は、法律的な主張を理解してもらえないこともあり、交渉が難航し、解決まで長期化してしまうおそれがあります。

 

 

まとめ

過失割合は事案ごとに、個別具体的な検討を要します。

その結果として、上記で解説したとおり、自転車対車の事案で、自転車の方が悪いと判断されることもあります。

過失割合は、証拠の確保、基本割合の適切な把握、修正要素の検討など、丁寧な活動が求められます。

また、過失割合だけでなく、自転車が被害者の場合、車側が被害者の場合それぞれに特有の注意点があります。

非常に難しい領域ですので、相手方に提示された過失割合に納得がいかない場合や、被害に遭われてこれからどうすれば良いか悩まれている方は、ご自身だけで対応するのではなく、交通事故を多く扱っている弁護士に相談してみてください。

 

 

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