後遺障害の認定に必要な期間は?弁護士が最短方法を解説
後遺障害の認定にかかる期間は、早くて1か月程度、遅くて6か月以上となります。
また、約92%の割合で90日以内に結果が出ています。
この記事では、後遺障害の認定に時間がかかる理由、認定までの時間をできるだけ短くする方法、認定が遅すぎるときの対処法等をご紹介いたします。
後遺障害の認定期間を知りたい方はぜひ参考になさってください。
目次
後遺障害の認定期間の目安
後遺障害とは
後遺障害とは、これ以上治療を続けても完全に治ることなく、身体的あるいは精神的な障害が将来にわたって残ってしまう状態をいいます。
後遺障害には、介護を要する後遺障害として1級〜2級(別表第1)、それ以外の後遺障害として1級〜14級(別表第2)という後遺障害等級があります。
後遺障害等級は、加害者の自賠責保険が認定します(ただし、実質的に認定するのは、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所という機関)。
後遺障害の認定にかかる期間
後遺障害の申請をしてから結果が出るまでの期間については、多くの場合1〜3ヶ月程度かかります。
参考として、以下の統計をご覧ください。
期間 | 割合 |
---|---|
30日以内 | 73.8% |
31日〜60日 | 13.7% |
61日〜90日 | 6.7% |
90日超 | 5.8% |
引用元:自動車保険の概状2022年度版(P37)|損害保険料率算出機構
約94%の割合で90日以内に結果が出るというデータになっています。
このデータから、後遺障害の認定にかかる期間の目安として、1〜3ヶ月程度ということができます。
もちろん、これはあくまで目安なので、事案によっては6ヶ月以上かかるということもあり得ます。
後遺障害の認定の重要性
交通事故において、後遺障害の認定は非常に重要です。
その理由は、以下の通りです。
①後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益を請求するため
後遺障害が残ってしまった場合、代表的な損害として、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益というものがあります。
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ってしまった場合の精神的苦痛に対する賠償のことをいいます。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ってしまった場合に将来の減収(仕事への影響)に対する補償のことをいいます。
この後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益は、原則、後遺障害等級が認定されない場合は請求できません。
そのため、痛みや動かしづらい等の後遺障害が残ったとしても、上記の損害を請求するためにまずは自賠責保険へ後遺障害の申請をする必要があります。
②認定される後遺障害等級により賠償額が変わる
2つめは、上記①に連動しているのですが、認定される後遺障害等級により請求できる後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の金額が異なってきます。
以下、後遺障害等級が10級が認められた場合と8級が認められた場合を比較してみます。
- 後遺障害等級10級 = 550万円
- 後遺障害等級8級 = 830万円
症状固定時40歳、年収400万円の会社員が事故にあった場合の例
【後遺障害等級10級の場合】
400万円 × 0.27(労働能力喪失率)× 18.3270(27年のライプニッツ係数)= 1979万3160円
【後遺障害等級8級の場合】
400万円 × 0.45(労働能力喪失率)× 18.3270(27年のライプニッツ係数)= 3298万8600円
このように、認定される後遺障害等級によって金額が異なることがお分かりになるかと思います。
したがって、やはり後遺障害が自賠責保険で認定されることは重要といえます。
なお、手っ取り早く後遺障害の損害の概算を知りたい方は、下記の自動計算ツールをご使用ください。
後遺障害認定に時間がかかる理由
原因①審査件数の問題
2020年度の自賠責損害調査事務所における受付件数は、104万1737件とされています。
引用元:自動車保険の概状2021年度版(P36)|損害保険料率算出機構
この件数には、後遺障害以外の案件も含まれていますが、それでもかなりの件数があると推測できます。
どれくらいの人数の担当者がいて各々どのように振り分けられているのかはわかりませんが、相当程度の件数が与えられていると考えられますので、一定程度時間がかかってしまうのはやむ得ないです。
原因②提出書類の不備による遅れ
後遺障害の審査は、一部の特殊な場合を除き、原則書面審査になります。
主に後遺障害の申請で提出する書類(被害者請求の場合)は、以下のようになります。
提出書類 | 取得先 | 提出の必要性 ※必ず提出が必要なものは◯印 ※場合によって提出が必要なものは△印 |
---|---|---|
支払請求書兼支払指図書 | 加害者の自賠責保険会社 | ◯ |
請求者本人の印鑑証明書 | 印鑑登録をしている市区町村 | ◯ |
住民票または戸籍謄本住民 | 住民登録をしている市区町村、本籍のある市区町村 | △ (事故当事者が未成年の場合に提出が必要) |
交通事故証明書 | 自動車安全運転センター | ◯ |
人身事故証明書入手不能理由書 | 加害者の自賠責保険会社 | △ (交通事故証明書の右下の欄が「物件事故」扱いになっている場合に提出が必要) |
事故発生状況報告書 | 加害者の自賠責保険会社 | ◯ |
診断書 | 病院 | ◯ |
診療報酬明細書 | 病院 | ◯ |
後遺障害診断書 | 病院 | ◯ |
レントゲン、MRI、CTなどの画像 | 病院 | △ (基本的には提出が必要) |
※場合によっては、この他に、物損資料を要求されることがあります。
上記のとおり、提出書類が多いため、確実に必要書類を提出できないこともあるかと思います。
提出する書類に不備があれば、自賠責保険の担当者あるいは自賠責損害調査事務所の担当者から、書類の訂正や追加提出を求められることがあります。
そうすると、書類の準備や郵送の時間がプラスでかかってしまうので、審査結果が出るまでの時間に影響を与えることになります。
原因③医療照会に時間がかかっている
自賠責損害調査事務所は、提出された書類だけでは後遺障害の判断が難しいと考えた場合、被害者から同意書(※)を取り付けた上で、被害者が通っていた病院に対して医療照会を行う場合があります。
医療照会とは、医師に対して、被害者の症状やその経過、所見の有無などについて書面で回答を求めるものです。
医師は多忙である等の理由から、この医療照会に対する回答が遅れることがあります。
医療照会の回答が遅れれば、それに伴って自賠責損害調査事務所の判断も遅れることになります。
原因④審査対象が時間がかかる症状の場合
例えば、負傷部位が多数ある場合は、その部位ごとに審査が行われるため、どうしても時間がかかってしまいます。
また、高次脳機能障害など、評価が難しい症状の場合は、資料も膨大であることが多く、結果が出るまで長くなってしまいがちです。
原因⑤提出書類の量が多い
提出書類が多ければ多いほど、その書類の精査に時間がかかります。
例えば、後遺障害の申請に必須ではないものの、記載内容によってはカルテ(診療録)を提出することがあります。
もっとも、カルテ(診療録)は、通院期間が長かったり、病院次第で何百ページもの分厚いものになっていることがあります。
そのような膨大なカルテ(診療録)の内容を精査するのは容易ではないでしょう。
このように、提出書類の量が多ければ、審査に一定の時間がかかってしまう可能性があります。
原因⑥上部機関での調査
自賠責損害調査事務所では判断が難しい事案は、地区本部・本部と呼ばれる上部機関でも調査がされます。
加えて、以下で記載する特定事案の場合は、後遺障害の専門部会というところで調査されます。
【特定事案】
- 脳外傷に高次脳機能障害に該当する可能性がある事案等
- 非器質性精神障害に該当する可能性がある事案等
- 異議申立事案
このように、上部機関で調査される場合は、その分調査に時間がかかるので、結果として結果が出るのが遅くなります。
後遺障害の認定期間を最短にする方法
上記で後遺障害認定に時間がかかる理由を解説しました。
時間がかかる理由には、被害者側で解消できるものとできないものがあります。
ここでは、被害者側でできる認定期間の短縮方法をご紹介いたします。
提出書類の不備をできるだけなくす
提出書類に不備があれば、その分訂正等に時間がかかってしまい、もったいないです。
そのため、提出書類に不備がないようにしっかり事前に準備することが重要です。
提出書類に不備がないようにするためには、
- 自賠責保険のパンフレット、インターネット等の記載を見ながら提出書類をチェックする
- 提出書類を弁護士にチェックしてもらう
等の対策が必要かと思います。
なお、当事務所では、主に弁護士費用特約に入られていない方向けに被害者請求のサポートプランも実施しております。
交通事故にくわしい弁護士へ依頼する
交通事故に詳しい弁護士へ依頼するのが何よりも一番良い方法かと思います。
なぜかというと、交通事故を日常的に扱っている弁護士であれば、提出書類を熟知しているため、収集までの時間が早いからです。
また、提出書類の不備も少ないと考えられるため、よりスムーズな進行が期待できます。
さらに、認定期間をできるだけ早めるだけでなく、後遺障害の認定の確率を少しでも上げられる可能性があります。
例えば、弁護士であれば、後遺障害の認定の確率を上げるために、場合によっては以下のような活動をしてくれることもあります。
【後遺障害の認定の確率を上げるための活動】
- 後遺障害診断書の内容のチェック
- カルテ(診療録のチェック)
- 医師面談で事情聴取
- 医師へ意見書の作成をお願いする
このように、交通事故にくわしい弁護士に依頼することは、認定期間を短縮させることができる可能性があるだけでなく、後遺障害の認定率を上げることができる可能性があるというメリットがあります。
後遺障害の認定が遅すぎるときの対処法
後遺障害の認定が遅いと感じられた場合は、以下の対処法が考えられます。
保険会社に進捗を問い合わせる
保険会社に進捗を問い合わせてみるというのが一つの手段かと思います。
被害者請求の場合
提出先の自賠責保険会社
事前認定の場合
- 相手方任意保険会社で対応してもらっている場合はその任意保険会社
- 人身傷害保険で対応してもらっている場合はご自身の任意保険会社
進捗を問い合わせた結果として、仮に保険会社の業務を進めるのが遅いということが滞っている原因である場合、早めに対応するよう促す必要があるでしょう。
交通事故にくわしい弁護士に相談する
交通事故にくわしい弁護士は、後遺障害申請に慣れていることが多いです。
そのため、事案を丁寧に分析し、後遺障害の認定が遅くなっている原因を突き止めることができる可能性があります。
的確なアドバイスを受けるためにも、一度交通事故にくわしい弁護士に相談されることをお勧めします。
後遺障害の認定の流れ
後遺障害の認定期間を理解するためには、後遺障害の認定がどのような流れで行われているか把握することも重要かと思います。
症状固定まで治療
まずは、事故が発生して治療を開始してから、症状固定と医師に判断されるまで治療を継続する必要があります。
症状固定とは、簡単に言ったら、症状がこれ以上良くも悪くもならないような状態を指します。
症状固定と判断される前に治療を終了してしまったら、後遺障害の申請をする意味がなくなってしまう可能性があります。
後遺障害診断書を作成してもらう等必要書類の準備
症状固定まで治療したら、後遺障害申請に必須の書類である後遺障害診断書を主治医に作成してもらいます。
後遺障害診断書は、早ければ数日、遅ければ3週間以上かかる場合があります。
また、被害者(またはその代理人弁護士)が申請を行う被害者請求の場合、上記でも触れた後遺障害申請に必要な書類(交通事故証明書、診断書、診療報酬明細書等)を集め、申請の準備をします。
後遺障害の申請
提出書類の準備ができたら、加害者の自賠責保険へ実際に提出します。
提出書類は、自賠責保険に郵送の方法で提出することができます。
自賠責保険会社から自賠責損害調査事務所への提出書類を送付
自賠責保険会社は、受け取った提出書類をチェックし、実質的な認定機関である自賠責損害調査事務所に送付します。
自賠責損害調査事務所での調査
自賠責損害調査事務所では、提出書類の内容をじっくり検討し、後遺障害が認定されるかを調査していきます。
医師への医療照会
上記でも触れた通り、場合によっては、自賠責損害調査事務所が被害者から同意書を取り付けた上で、病院に対し医療照会をします。
医療照会で得た回答も、後遺障害の認定のための資料となります。
自賠責損害調査事務所から自賠責保険会社へ調査結果報告
調査が終わったら、自賠責損害調査事務所から自賠責保険会社へ調査結果報告をします。
自賠責保険から被害者へ結果の通知
最後に、自賠責保険から被害者へ、後遺障害についての判断結果が記載された書面が郵送されます。
なお、判断結果に納得がいかない場合は、自賠責保険に異議申立て等を検討していくことになります。
後遺障害の認定が遅れることは全てにおいて悪いこと?
後遺障害の認定が遅れることは全てにおいて悪いとは限りません。
そもそも、後遺障害が認定されることが何より被害者にとって重要ですので、期間というよりは、どちらかというと後遺障害認定結果の方が大事です。
認定結果を獲得するために膨大な資料を提出した結果、認定までの結果が遅れたとしても、それはある程度仕方ない部分もあります。
後遺障害まで認定が遅れたとしても、例えば、訴訟提起をした場合にはその分遅延損害金が増えるケースもありますので、一概に悪いとは言えません。
もっとも、事案によっては、後遺障害の認定が遅れることによって、時効を気にしなければならないケースもあります。
時効にご不安がある方は、弁護士にご相談されるのが良いです。
まとめ
- 後遺障害とは、これ以上治療を続けても完全に治ることなく、身体的あるいは精神的な障害が将来にわたって残ってしまう状態をいう。
- 後遺障害の認定がなぜ重要かというと、①後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益を請求するため、②認定される後遺障害等級により賠償額が変わるためである。
- 後遺障害の申請をしてから結果が出るまでの期間の目安は、多くの場合1〜3ヶ月程度かかる。
- 後遺障害の認定まで時間がかかる理由は、①審査件数の問題、②提出書類の不備による遅れ、③医療照会に時間がかかっている、④審査対象が時間がかかる症状であること、⑤提出書類の量が多い、⑥上部機関で調査されているなどが考えられる。
- 後遺障害認定までの流れは、症状固定まで治療→後遺障害診断書を作成してもらう等必要書類の準備→後遺障害の申請→自賠責保険会社から自賠責損害調査事務所への提出書類を送付→自賠責損害調査事務所での調査→医師への医療照会→自賠責損害調査事務所から自賠責保険会社へ調査結果報告→自賠責保険から被害者へ結果の通知、ということが多い。
- 後遺障害の認定期間を最短にする方法は、①提出書類の不備をできるだけなくす、②交通事故にくわしい弁護士へ依頼することなどが考えられる。
- 後遺障害の認定が遅すぎるときの対処法としては、①保険会社に進捗を問い合わせる、②交通事故にくわしい弁護士に相談するなどが考えられる。
- 後遺障害の認定が遅れることは、全てにおいて悪いとは限らない
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