眼窩底骨折とは|後遺症のポイントについて弁護士が解説
眼窩底骨折(がんかていこっせつ)とは、眼球の下にあるくぼみのところの骨が折れてしまうことをいいます。
眼窩底骨折の後遺症としては、ものが二重に見える、視力が落ちる、目の付近に痛みが残るなどがあり、症状によっては後遺障害が認定される可能性があります。
本記事では、眼窩底骨折の原因、日常生活への影響や対処法、後遺障害認定の特徴について、解説していきます。
目次
眼窩底骨折(眼底骨折)とは
冒頭でも示したとおり、眼窩底骨折(がんかていこっせつ)とは、眼球の下にあるくぼみのところの骨が折れてしまうことをいいます。
眼球の下にあるくぼみのことを眼窩(がんか)ということから、このような名前が付けられています。
眼窩底骨折・眼底骨折・眼窩吹き抜け骨折は意味が違うの?
眼窩底骨折は、眼底骨折(がんていこっせつ)や眼窩吹き抜け骨折(がんかふきぬけこっせつ)ともいいます。
つまり、眼窩底骨折・眼底骨折・眼窩吹き抜け骨折は、全て基本的に同じ意味であり、違いはありません。
眼窩底骨折の症状と日常生活への影響
眼窩底骨折のケガをした場合、以下のような症状・日常生活への影響があります。
- ものが二重に見える(複視)
- 視力が落ちる
- 目の付近、頬〜上口唇などが痛む
- 眼球が凹む(眼球陥凹=がんきゅうかんおう)
眼窩底骨折でやってはいけないこと
眼窩底骨折のある人は、鼻をかんではいけません。
鼻をかむと、骨折した箇所から眼の組織に空気が流入し、視力障害を起こす可能性があります。
眼窩底骨折の原因
眼窩底骨折は、眼球の下のくぼみに外から強い力が加わることにより生じるものです。
眼球の下のくぼみ付近の骨は薄くなっており、強い圧力が加わることによって骨が折れてしまうのです。
眼球周辺に強い力が加わる場面としては、バイク事故で転倒し地面に顔面を打ち付ける、バイク事故で車の車体と顔がぶつかる、物が落ちてきて顔にぶつかる労災事故などです。
眼窩底骨折はどれくらいで治る
眼窩底骨折は、損傷の程度によって回復期間が異なります。
手術せずに回復が期待できる場合、回復期間は1ヶ月から半年程度ですが、回復期間を短くするために手術をすることもあります。
眼窩底骨折の後遺障害認定の特徴と注意点
眼窩底骨折では、上記でみたとおり様々な症状があります。
そして、後遺障害として残る症状についても、事案によって複数のものが考えられます。
以下は、眼窩底骨折で認定可能性のある後遺障害等級と各注意点です。
ものが二重に見える(複視)、眼球が動かしにくい等の障害〜眼球運動障害〜
複視の症状、眼球が動かしにくいなどが後遺障害として残った場合、10級2号、11級1号、12級1号、13級2号が認定される可能性があります。
10級2号 | 正面を見た場合に複視の症状を残すもの |
---|---|
11級1号 | 脊両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの |
12級1号 | 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの |
13級2号 | 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの |
10級2号 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
まず、「複視の症状を残すもの」といえるためには、以下の要件に該当する必要があります。
- ① 本人が複視のあることを自覚していること
- ② 眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること
- ③ ヘスクリーンテストにより患側(異常がある方)の像が水平方向又は垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されること
※ヘスクリーンテストとは、指標を赤緑ガラスで見たときの片目の赤像、他眼の緑像から両目の位置ずれを評価する検査方法です。
そして、「正面を見た場合に複視の症状を残すもの」とは、ヘスクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置にあることが確認されたものをいいます。
11級1号 両眼の眼球に著しい調節機能障害又運動障害を残すもの
「両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの」とは、両目について、眼球の注視野の広さが1/2以下に減じたものをいいます。
※注視野とは、頭部を固定し、眼球を運動させて直視できる範囲をいいます。
12級1号 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
「1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの」とは、片目について、眼球の注視野の広さが1/2以下に減じたものをいいます。
13級2号 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
「複視の症状を残すもの」として、10級2号同様、①本人が複視のあることを自覚していること、②眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること、③ヘスクリーンテストにより患側(異常がある方)の像が水平方向又は垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されることに該当する必要があります。
その上で、「正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの」とは、ヘスクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置以外で確認されたものをいいます。
視力が低下〜視力障害〜
眼窩底骨折で視力が低下した場合、その内容に応じて以下のような後遺障害等級の認定が得られる可能性があります。
等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
1級1号 | 両眼が失明したもの |
2級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの |
2級2号 | 両眼の視力が0.02以下になったもの |
3級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの |
4級1号 | 両眼の視力が0.06以下になったもの |
5級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの |
6級1号 | 両眼の視力が0.1以下になったもの |
7級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの |
8級1号 | 1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの |
9級1号 | 両眼の視力が0.6以下になったもの |
9級2号 | 1眼の視力が0.06以下になったもの |
10級1号 | 1眼の視力が0.1以下になったもの |
13級1号 | 1眼の視力が0.6以下になったもの |
目の付近などに痛みが残った〜神経障害〜
目の付近などに痛みが残った場合、神経障害として、12級13号、14級9号が認定される可能性があります。
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
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14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
「局部に頑固な神経症状を残すもの」とは、眼窩底骨折後に、画像所見がある状態で痛みや痺れなどの神経症状が残った場合に認定されます。
14級9号 局部に神経症状を残すもの
「局部に神経症状を残すもの」とは、眼窩底骨折後に、画像所見としてははっきりしないものの、痛みや痺れなどが残り、それが治療経過、症状の一貫性・連続性などから医学的に説明できる場合に認定されます。
目の付近に傷が残った〜醜状障害(しゅうじょうしょうがい)〜
眼窩底骨折により、目の付近に傷が残った場合、醜状障害(しゅうじょうしょうがい)として、7級12号、9級16号、12級14号が認定される可能性があります。
7級12号 | 外貌に著しい醜状を残すもの |
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9級16号 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの |
12級14号 | 外貌に醜状を残すもの |
眼窩底骨折の慰謝料などの賠償金
眼窩底骨折をした場合、多くの損害が生じる可能性があります。
以下では代表的な損害をいくつかご紹介いたします。
休業損害
治療のために仕事や家事を休んだ場合は、休業損害を請求できる可能性があります。
休業損害の計算式は、会社員、自営業(個人事業主)、主婦(主夫)などの立場によって異なります。
入通院慰謝料(傷害慰謝料)
眼窩底骨折で入院や通院をした場合、入通院慰謝料(傷害慰謝料とも呼びます)という慰謝料を請求できます。
入通院慰謝料は、裁判基準の場合、重傷か軽傷かで用いる基準が異なります。
眼窩底骨折の場合は、重傷用の基準を用いることになります。
重傷用の基準は以下のとおりです。
後遺障害慰謝料
後遺障害が認定された場合に、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料という慰謝料を請求できます。
後遺障害慰謝料の等級ごとの裁判基準は、以下のとおりです。
1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 7級 |
---|---|---|---|---|---|---|
2800万円 | 2370万円 | 1990万円 | 1670万円 | 1400万円 | 1180万円 | 1000万円 |
8級 | 9級 | 10級 | 11級 | 12級 | 13級 | 14級 |
830万円 | 690万円 | 550万円 | 420万円 | 290万円 | 180万円 | 110万円 |
後遺障害逸失利益
逸失利益とは、仮に交通事故がなかった場合に得られたであろう収入分の賠償のことを言います。
逸失利益の基本の計算方法は、以下のとおりです。
上記のうち、労働能喪失率は、認定される後遺障害等級によって異なります。
眼窩底骨折の手術費用はどうなる?
眼窩底骨折は、場合によって手術が必要となることがあります。
その際の手術費用は、基本的に加害者側に請求できます。
加害者の保険会社が治療費等を対応している場合は、後々にトラブルにならないよう、手術する前に手術予定であることを一言連絡しておきましょう。
眼窩底骨折で適切な賠償金を得る6つのポイント
症状固定までしっかり治療をする
これ以上症状が変化しなくなったという状態を、症状固定といいます。
まずは、症状固定までしっかり病院に通院して医師の治療を受けて完治を目指すべきです。
症状固定まで治療をしないと、慰謝料が原則的に通院期間との関係で金額が決まるため、想像以上に低い金額でしか認められない可能性があります。
そのため、我慢して通院をしないということは避けなければなりません。
なお、当然ですが、通院中はしっかり医師の指示に従った行動や薬を飲むべきです。
適切な後遺障害診断書を医師に作成してもらう
症状固定まで通院しても何らかの後遺障害が残ってしまったら、自賠責保険に後遺障害の申請をすべきです。
後遺障害の申請に必要な書類の中に、「後遺障害診断書」というものがあります。
後遺障害診断書とは、後遺症が残ってしまった場合に医師にその症状などを書いてもらう書類のことをいいます。
後遺障害診断書は、後遺障害申請の必要書類の中でも特に重要なものです。
▼後遺障害診断書のサンプル
後遺障害診断書では、自覚症状、つまり被害者が感じている目の付近の症状について、医師にしっかり伝えて記載してもらいましょう。
また、他覚症状の欄についても、それまでの医師が被害者に説明していた所見の内容と一致しているかチェックも必要です。
自賠責保険に適切な後遺障害を認定してもらう
医師に後遺障害診断書を作成してもらったら、実際に自賠責保険へ後遺障害の申請をしていきます。
自賠責保険への後遺障害の申請方法は、被害者が行う被害者請求と、保険会社が行う事前認定の2種類があります。
被害者請求では、自ら提出する資料を選べるというメリットがあり、後遺障害認定の確率を少しでも上げるためには、被害者請求を選択すべきです。
例えば、カルテや医師の意見書などは、通常保険会社の事前認定では提出されないため、被害者請求でこれらの資料を提出することが考えられます。
たしかに、被害者請求は資料を集めるのが大変というデメリットがありますが、そこは弁護士に任せれば問題ないです。
筆者の経験上の話で言えば、痛みの一貫性を主張するような事案では、カルテに痛みを継続的に訴えていたことが記載されていれば、有力な証拠となり、後遺障害が認定されやすいです。
なお、一度後遺障害を申請して納得がいく認定がなされなくても、異議申立てという制度があり、再チャレンジすることも可能です。
賠償金額をきちんと算定する
交通事故で眼窩底骨折をしてしまった場合、様々な損害が生じます。
その損害を項目ごとにしっかり算定して加害者や保険会社に提示する必要があります。
全て加害者側任せにしてしまうと、不当に安い金額で解決してしまい被害者が損をしてしまいます。
特に慰謝料などは、最も金額が高くなる裁判基準で計算する必要があります。
なお、簡易的に賠償金を計算する場合は、以下の自動計算ツールをご使用ください。
示談する前に弁護士に内容を確認してもらう
治療が終了し、ひと段落した頃に加害者の保険会社から示談の提示があるかと思います。
もっとも、示談をするかどうかは慎重になるべきです。
なぜなら、一度示談をしてしまった場合には、相場より低い金額でも基本的にはやり直すことができなくなってしまうからです。
加害者の保険会社が提示してきた示談内容が適切かどうかは、専門家である弁護士に確認してもらうべきです。
交通事故に詳しい弁護士に早期に相談する
眼窩底骨折をした場合、まずは早期に弁護士に相談すべきです。
弁護士に相談して、場合によっては依頼をして交渉の窓口になってもらうということが必要です。
早期に弁護士に相談することにより、治療の打ち切りへの対応や、後遺障害申請までのサポートなど多くのメリットがあります。
また、弁護士に依頼して任せることにより、適切な後遺障害が認定されて賠償金が増額されることもあります。
交通事故であれば無料相談を実施している弁護士も多いので、まずは問い合わせをしてみてください。
まとめ
以上でみてきたとおり、交通事故や労災で眼窩底骨折のケガを負ってしまった場合、様々な後遺障害が考えられ、適切な後遺障害の認定がなされなければ、しっかりと賠償金を得られなくなってしまいます。
後遺障害の知識は非常に専門性が高く、難しいものばかりです。
そのため、基本的には専門家である弁護士の力を借りるべきでしょう。
当事務所には交通事故や労災等の事故案件に注力する弁護士のみで構成される人身障害部があり、おケガで苦しむ方々を強力にサポートしています。
LINEなどによる全国対応も行っていますので、眼窩底骨折でお困りの方はお気軽にご相談ください。