股関節骨折とは?日常生活への影響や後遺症のポイント
股関節骨折(こかんせつこっせつ)とは、太もも部分にある骨が骨折することをいいます。
股関節を骨折した方は、日常生活に影響が出ているかと思われます。
ここでは、股関節骨折の症状、日常生活への影響や治療法について解説します。
また、後遺障害のポイントについても人身障害に精通した弁護士が解説します。
ぜひ参考になさってください。
股関節骨折とは
股関節骨折(こかんせつこっせつ)とは、太もも部分にある骨が骨折することをいいます。
股関節は人が歩行する上で重要な関節となります。
具体的な骨の形状は以下の通りで、この骨のどこかが損傷することで骨折となります。
股関節骨折の症状
股関節骨折が発生した場合、通常激しい痛みが原因で歩いたり立ったりといった脚を動かすことが難しい状態になります。
もし、骨折した部分に出血が確認された場合は、出血が原因のふらつきが発生することがあります。
また、痛みは神経回路を通じて脳に伝達される関係上、股関節と同じ神経回路上にある膝に痛みが発生する可能性もあります。
股関節骨折の日常生活への影響
股関節骨折で歩けるまでの期間は?
股関節骨折の場合、骨折の程度にはよりますが、骨折自体は通常治療によって2〜3ヶ月で治ります。
しかし、骨折が治ったとしてもすぐに歩ける状態になる訳ではありません。
骨折が治ったタイミングでリハビリが行われ、順調に回復が進んだ場合であっても、通常6ヶ月以上の期間が必要となります。
股関節は人が歩行をする上で重要な役割を果たしているため、日常生活に支障が出ない状態まで回復するには時間がかかります。
一般にご高齢の方の骨折は、若い方と比べて治りにくい傾向です。
ご高齢の方が股関節を骨折した場合、その後寝たきりとなってしまうこともあるので注意が必要です。
股関節骨折の入院期間は?
股関節骨折の場合、他のケガよりも入院期間が長くなる傾向であり、3週間以上を要する見込みです。
これは日常生活に影響が大きく、リハビリの継続が必要となるためです。
股関節骨折の原因
股関節骨折の主な原因は、股関節に対して外側から圧力が加わって、これに骨が耐えきれず折れてしまったというものです。
具体的には、歩行中つまずいて転んだ拍子に股関節に衝撃が加わって折れてしまった場合です。
他にも、股関節骨折に限らず、高齢者の場合、骨粗しょう症と相まって股関節骨折のリスクが高まります。
交通事故のような大きな衝撃が加わる場合には、股関節骨折が引き起こされる可能性が高いといえます。
また、仕事中に階段から転落した場合や建設作業の足場から転落した場合などの労災事故においても股関節骨折が引き起こされる可能性が高いといえます。
股関節骨折の後遺障害認定の特徴と注意点
股関節骨折で痛みがあると後遺症が残る?
股関節を骨折した場合には、骨がきれいにくっつかず、後遺症として骨折部分に痛みが残ることがあります。
また、骨がきれいにくっついたとしても、痛みが残ることがあります。
こうした痛みの後遺症は、後遺障害に認定される可能性があります。
股関節骨折による痛みが無いからといって後遺障害認定がされないという訳ではありません。
股関節骨折によって、関節が動かしづらくなったり、骨が変形してしまったような場合でも後遺障害に認定される可能性があります。
なお、後遺症と後遺障害とは別物ですので、詳しくは下記の記事をご覧ください。
股関節骨折の後遺障害
交通事故や労災事故によって股関節骨折が発生した場合には、以下の後遺障害が認められる可能性があります。
①機能障害(可動域制限)
機能障害とは、股関節骨折が原因で、股関節を動かせる範囲が交通事故に遭う前よりも狭くなってしまった場合をいいます。
例えば、日常生活において、事故に遭う前は一定の歩幅で歩くことができていたのに対し、股関節骨折によって、左右の歩幅が変わり歩きづらくなった場合をいいます。
機能障害には、股関節を正常に動かせる範囲がどのくらい狭くなったのかを基準に主に3つの後遺障害等級が用意されております。
等級 | 症状 |
---|---|
8級7号 | 1下脚の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
10級11号 | 1下脚の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級7号 | 1下脚の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
1下脚の3大関節中の1関節の用を廃したものとは以下の状態になることをいいます。
- 関節がくっついて動かなくなる状態
- 関節を支配する末梢神経が機能せず、関節が思うように動かなくなることまたはこれに近い状態
- 人工関節、人工骨頭を関節に入れたとしても、股間関節を動かせる範囲が健康な時の股間関節と比較して可動域が1/2以下に制限されている状態
8級7号と認定された場合は、股関節が全く動かないか、ほとんど動かすことができない状態となっている場合です。
また、人工骨頭や人工関節を入れたとしても、股関節を動かせる範囲が正常な場合に比べて半分以下の場合も8級と認定されます。
人工骨頭と人工関節とは、その名の通り、人工的に作られた股関節のパーツを骨折部分に組み入れて股関節を補強するものです。
1下脚の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すものとは、以下の状態になることをいいます。
- 股関節を動かせる範囲が健康な時の股関節と比較して1/2以下に制限されている状態
- 8級の人工関節、人工骨頭を関節に入れたとしても、股間関節を動かせる範囲が健康な時の股間関節と比較して可動域が1/2以下に制限されている場合に当たらない状態
10級11号と認定された場合、股関節を動かせる範囲が正常な場合に比べて半分しかない場合をいいます。
8級7号の人工関節、人工骨頭を関節に入れたとしても、股間関節を動かせる範囲が健康な時の股間関節と比較して可動域が1/2以下に制限されている場合に当たらない状態とは、8級7号に当たらない状態である場合であっても10級11号の後遺障害等級が認められます。
つまり、人工関節、人工骨頭を関節に入れた場合には、8級7号か10級11号のいずれかが認定される可能性があります。
1下肢の3大関節中の1関節に障害を残すものとは、股関節を動かせる範囲が健康な時に比べて3/4となっている場合をいいます。
②変形障害
変形障害とは、骨折自体は治ったものの、骨折した部分が上手くくっつかずに、本来あるべき股関節の形が崩れ、骨盤や股関節周りの骨が歪んでしまう状態をいいます。
股関節の変形障害が確認されると、後遺障害12級が認められる可能性があります。
等級 | 症状 |
---|---|
12級5号 | 骨盤骨に著しい変形障害を残すもの |
骨盤骨に著しい変形を残すものと認められた場合には、12級と認定されます。
著しい変形とは、レントゲン写真で確認できる程度では足りず、外観から見て骨盤のずれが明らかに分かる状態のことをいいます。
③動揺関節
動揺関節とは、交通事故等が原因で股関節が不安定になり、本来動かない部分が動いてしまう状態をいいます。
例えば、股関節が安定していないことから、知らず知らずのうちに股関節に負担をかける歩行をしてしまう可能性があります。
股関節の動揺関節が確認されると、その程度に応じて、8級相当、10級相当、12級相当と認定される可能性があります。
等級 | 症状 |
---|---|
8級相当 | 硬性補装具(プラスチックや金属でできたサポーター)を常時装着していなければ歩行できない状態 |
10級相当 | 硬性補装具を常に必要としている状態ではないものの、頻繁に装着している状態 |
12級相当 | 一時的に硬性補装具が必要となる場合がある状態や頻繁に股関節の脱臼が発生する状態 |
④神経障害
神経障害とは、骨折した股関節自体は治ったものの、骨折した箇所に神経痛が残ってしまう状態をいいます。
股関節の神経症状が確認された場合、その程度に応じて12級13号、14級9号と認定される可能性があります。
等級 | 症状 |
---|---|
12級13号 | 局部にがん固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
例えば、股関節骨折は治ったものの、股関節付近に痛みや痺れが残ってしまった場合です。
高齢者の場合も後遺障害が認められる?
高齢者の場合、骨粗しょう症を既にお持ちの方が多い傾向にあります。
骨粗しょう症の場合、骨が脆くなっていることから、交通事故のような大きな衝撃が加わる場合には、股関節骨折が生じやすい状態にあります。
このように骨折しやすい状態であっても、交通事故により股関節骨折して、上記した後遺障害の条件を満たす場合には、後遺障害が認定されます。
もっとも、注意点として、骨粗しょう症をお持ちの場合は、交通事故ではなく日常的な動作の中で股関節骨折が発生する可能性があります。
もし、交通事故に遭われてから一定期間経過した後に、股関節骨折が発覚した場合は、この股関節骨折と交通事故との因果関係が否定される可能性があります。
そうなると、股関節骨折については後遺障害として認められない可能性があります。
交通事故により股関節骨折の発生が疑われた場合は、交通事故に遭った日からなるべく近い日にレントゲン撮影やCTの撮影を行うことをお勧めいたします。
その他の注意点として、交通事故に遭遇する前に既に骨粗しょう症があると診断されている場合は、骨粗しょう症と交通事故が相まって股関節骨折発生した場合には、骨粗しょう症の影響が大きいとして慰謝料等が減額される可能性があります(専門用語で素因減額といいます。)。
もっとも、高齢者の場合は、骨粗しょう症が発生している割合が多く、骨粗しょう症があることは織り込み済みのものとして素因減額されにくい傾向にあります。
股関節骨折の手術をした場合も後遺障害が認められる?
股関節骨折の手術をした結果、事故に遭う前の状態に戻って何の症状もない場合には、後遺障害に認定されることはありません。
しかし、手術を施したとしても、何らかの症状が残ってしまうことはよくあります。
例えば、既に説明した通り、股関節の動きが悪くなってスムーズに歩くことができない場合(機能障害)や、股関節骨折は治癒したものの、痛みが残っている場合(神経障害)のように支障が残ってしまうことがあります。
したがって、股関節骨折の手術をしたとしても、症状が残ってしまい、後遺障害が認められる場合はあります。
股関節骨折の慰謝料などの賠償金
股関節骨折の手術をしないとき賠償金はどうなる?
股関節骨折が原因により、既に述べた後遺障害が認定された場合には、認定された等級に応じて決まった賠償金(専門用語で、後遺障害慰謝料といいます。)が支払われます。
そして、等級が高くなっていくにつれて賠償金も高額となっていきます。
例えば、10級の場合の賠償金は、550万円であるのに対し、8級の場合の賠償金は830万であり、280万円も変わってきます。
したがって、股関節骨折の手術をしなかったとしても後遺障害に認定された場合には、等級に応じた賠償金が支払われます。
しかし、股関節骨折の手術をした場合は、ケガの程度が大きなものであったことを示す指標となります。
分かりやすい例をいえば、人工骨頭や人工関節を組み入れる場合には必ず股関節の手術が必要となります。
そして、人工骨頭や人工関節を組み入れた場合は、基本的に後遺障害の等級として8級か10級が認められます。
人工骨頭や人工関節の手術をすることは後遺障害にも影響するといえます。
このように、手術が必要となるような症状の場合には、8級あるいは10級が認定される可能性が高まります。
したがって、手術をしているか否かは、後遺障害等級が何級であるかを決定し、ひいては等級に応じた賠償金の金額にも影響を与える可能性があります。
ただ、高額の賠償金を得るために本来不要な手術を受けることは、体に余計な負担を掛け体調を悪化させるリスクもあることから本末転倒です。
手術をするか否かは賠償金のことだけでなく、主治医の話をしっかり聞いた上で必要となった場合に行うことをお勧めします。
股関節骨折の手術費用はどうなる?
股関節骨折が発生した手術費用について以下のパターンによって異なります。
①加害者加入の保険会社が支払う場合
加害者が保険会社にきちんと加入している場合は、股関節骨折のための手術費用については加害者が加入している保険会社に支払いをしてもらえます。
したがって、被害者の方々が股関節骨折の手術費用を負担することはありません。
よって、被害者の方々は主治医の先生が手術を進める場合にお金の心配をすることはありません。
②加害者が無保険の場合
加害者が無保険の場合は、被害者の方々が人身傷害保険に加入している場合は、この保険を使うことによって、手術費用を賄うことができます。
もし、人身傷害保険に加入していない場合は、手術費用を加害者本人に請求することになります。
もっとも、加害者にお金がないことも考えられます。
その場合は、被害者の方々がご自身で負担した上で、加害者に請求する必要があります。
ただ、健康保険を利用することで3割負担に抑えることも可能です。
そこで、主治医の先生が手術を進める場合は、お体のためにも手術をされることをお勧めします。
そのほかにも高額医療制度を活用することによって、被害者の方々が負担すべき治療費を減らすことができます。
健康保険や高額医療制度について不明点等がある場合は、交通事故を専門とする弁護士に相談することをお勧めします。
股関節骨折で適切な賠償金を得る7つのポイント
股関節骨折で適切な賠償金を得るためのポイントは以下の7つです。
①整形外科に定期的に通院すること
股関節骨折が後遺障害と認定されるためには、交通事故に逢った時点の症状が治療してもなお回復の見込みがないと判断される必要があります。
もし、交通事故に遭ってすぐは病院に行っていたものの、途中から行かなくなった場合は、客観的には症状が回復して通院の必要性がなくなったから通院していないと判断されてしまう可能性があります。
そうなってしまうと、後遺障害を申請する段階で不利に働く事情となってしまいます。
そこで、交通事故に逢った時点から後遺障害の申請をする段階までコンスタントに通院し、治療の必要性があることと継続して治療をしているにもかかわらずなお症状が残ってしまっているということを診断書上に残しておく必要があるのです。
また、入通院慰謝料については、入通院の期間に応じて支払われるようになっています。
したがって、主治医の指示を守って、適切な期間通院することをお勧めします。
通院頻度については下記のページをご覧ください。
②股関節骨折について適切な後遺障害認定を受けること
股関節骨折に対して支払われる主な賠償金は入通院慰謝料と後遺障害慰謝料、逸失利益です。
後遺障害慰謝料と逸失利益は、股関節骨折が後遺障害に認定された場合に認められます。
そこで、適切な後遺障害慰謝料を得るためには適切な後遺障害等級を認定される必要があります。
後遺障害等級が慰謝料に大きな影響を与えることについては下記のページをご覧ください。
③事故から間もない時期にレントゲン撮影・CT撮影・MRI撮影を行うこと
後遺障害認定で重要な意味を持ってくるのは、事故によって股関節骨折が発生していることを客観的に明らかにしておくことです。
従って、股関節に痛みを感じたら、医師に相談して、早期にレントゲン撮影・CT撮影・MRI撮影するようにしましょう。
④後遺障害診断書を適切に記載してもらうこと
後遺障害の申請をする際には、病院が作成する後遺障害診断書が必要不可欠となっています。
そこで、後遺障害診断書の記載内容は適切な後遺障害等級が認定されるために非常に重要となってきます。
主治医の先生から後遺障害診断書を作成すると言われた時には、股関節骨折によってどのような支障が生じているのかを正確に記入してもらうようにしましょう。
後遺障害の審査は、後遺障害診断書に記載してあることだけが対象です。
従って、股関節に動かしづらさがあれば、可動域の検査をしてもらい記載してもらう必要があります。
こうした記載がないと、そもそも審査されませんので注意しましょう。
⑤被害者請求を行うこと
後遺障害申請の方法は、加害者側の保険会社が行う事前認定と、被害者本人が行う被害者請求の2つがあります。
被害者請求の詳細については以下のページを参照ください。
被害者請求をすることによって、相手方保険会社が提出しない被害者に有利な資料を提出できるため、適切な後遺障害等級を認定される可能性が高まります。
被害者請求は必要書類を集める必要がある点で被害者の方々の負担があるものの、弁護士に依頼することによってその負担を軽くすることができます。
⑥加害者側が提示する示談内容について弁護士に確認してもらう。
加害者側が提示する示談内容は、本来被害者の方々に支払うべき金額よりも低額で提示されている可能性があります。
しかし、適切な示談金を知っていなければ加害者側が提示する示談内容が適切であるかを判断することができません。
示談内容のうち、慰謝料その他の賠償金については、自賠責基準・任意保険の基準・弁護士基準(裁判基準)の3つがあり、裁判基準で算出された金額が最も高い傾向にあります。
注意点として、一度加害者側の示談内容でサインをしてしまうと後々金額に不満があったとしても取り消すことができなくなります。
そこで、加害者側から示談内容が提示された時は、すぐにサインをせずに、弁護士に相談することをお勧めいたします。
交通事故の示談をスムーズに行う方法については以下のページをご覧ください。
⑦後遺障害申請に強い交通事故専門の弁護士に早い段階で相談する
後遺障害申請は、手続きが難しく被害者の方々だけでは行うことには非常に難しいです。
そこで、早期に後遺障害申請に強い交通事故専門の弁護士にご依頼いただくことで適切な後遺障害等級が認定される可能性が高まります。
交通事故を弁護士に依頼するメリットについては下記のページをご覧ください。
まとめ
股関節は人間が歩くために必要不可欠な関節です。
したがって、交通事故や労災事故により股関節を骨折してしまうと、正常に歩くことが困難となる可能性が高いです。
そこで、股関節骨折となった場合には、頻繁に整形外科に通院して治療に務めると同時に適切な通院慰謝料を獲得することが重要です。
また、治療の結果、股関節に障害が残ってしまった場合は、後遺障害申請を行い、適切な後遺障害等級を受けた上で後遺障害慰謝料を獲得することも重要です。
被害者の方々にとって治療をしながら慰謝料のことについて考えることはなかなか難しいことだと思いますので、一度交通事故を専門とする弁護士にご相談することをお勧めいたします。
当法律事務所は人身傷害部を設置しており、交通事故を専門とする弁護士が所属しており、
後遺障害に悩む被害者をサポートできる体制が整っております。
被害者の方が加入している保険会社において、弁護士費用特約を付けられている場合は、特殊な場合を除き弁護士費用は実質0円でご依頼いただけます。
LINE等のオンラインや電話相談を活用して全国対応も行っていますので、後遺障害診断書でお困りの方は、お気軽にご相談ください。