後十字靭帯損傷とは?後遺症や日常生活への影響について解説
後十字靭帯損傷(こうじゅうじじんたいそんしょう)とは、膝を負傷した場合に発生する可能性のあるケガです。
後十字靭帯損傷を負った方は日常生活に影響が出ているかと思われます。
ここでは、後十字靭帯損傷の症状、日常生活への影響や治療法について解説します。
また、後遺障害のポイントについても人身障害に精通した弁護士が解説しますので是非参考になさってください。
目次
後十字靭帯損傷とは
後十字靭帯損傷(こうじゅうじじんたいそんしょう)とは、膝を負傷した場合に発生する可能性のあるケガです。
膝の靭帯には前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)、後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)、内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)、外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい)の4つの靭帯があります。
後十字靭帯とは、大まかな場所としては膝部分にある靭帯で、膝の動きをスムーズに行うために必要不可欠な靭帯です。
靭帯とは、腕や足の関節部分にあって骨と骨とをつなぐ帯のようなものです。
この靭帯が膝の裏側で十字にクロスしているもののうち、膝頭側が前十字靭帯で、その裏側に位置しているのが後十字靭帯です。
後十字靭帯の損傷とは、上記靭帯が交通事故や労災事故などの外部からの衝撃によって亀裂が生じたり断裂したりしてしまう状態をいいます。
後十字靭帯損傷は、前十字靭帯損傷と比べると、足の動かしにくさや痛みの点で自覚症状が少ないところが特徴です。
後十字靭帯損傷の症状
後十字靭帯損傷の軽度の場合の症状
後十字靭帯損傷の軽度な症状としては以下のものが挙げられます。
- ① 痛みや腫れ
- ② 膝の動かせる範囲が制限される
- ③ 歩いている時に膝に違和感を感じる
- ④ 走ったりジャンプして着地した時に姿勢を保てず膝から崩れ落ちてしまう
後十靭帯損傷のテストとは?
後十字靭帯損傷のテスト(検査方法)としては、以下の3つの方法があります。
- ① posterior sagテスト
- ② ストレスレントゲン撮影
- ③ MRI撮影
posterior sagテストは、被害者を仰向けに寝かせた状態で、股関節を45度、膝を90度に曲げることによって股関節と膝の動きが正常であるかを確認する検査方法です。
正常な状態である場合、膝を90度に曲げた時、膝から足首までの重みによって脛骨が膝の後ろ側に落ち込みます。
一方、後十字靭帯損傷が発生している場合、脛骨の上端を膝の後ろ側に押した時にぐらつきが発生します。
もっとも、posterior sagテストで分かるのは、後十字靭帯損傷が発生しているかもしれないという大まかなものです。
そこで、明確に後十字靭帯損傷が発生していると判断するためには、下記に説明するストレスレントゲン撮影が必要となります。
ストレスレントゲン撮影とは、すねの内側の骨(医学用語で「脛骨」といいます。)に器具等を使って圧力をかけた状態でレントゲン撮影をすることをいいます。
ストレスレントゲン撮影を行うことによって、後十字靭帯損傷が発生しているかどうかを判断することができます。
後十字靭帯損傷の注意点として、交通事故によって後十字靭帯損傷が発生したとしても通常のレントゲン撮影では発見できないという点です。
そうなると、救急病院においては、膝については異常なしと判断される可能性があります。
そこで、膝に違和感を感じている場合は、主治医に対してストレスレントゲン撮影を行ってもらうように打診することを強くお勧めします。
後十字靭帯損傷はストレスレントゲン撮影以外にもMRIを撮影することによって発見できる場合があります。
交通事故に遭ってからある程度時間が経過した後に後十字靭帯損傷が発覚したとしても、それが交通事故によるものであるのかという問題が生じます。
仮に、別の原因によって後十字靭帯損傷が発生したと判断されてしまうと後遺障害として認定されなくなってしまいます。
そうならないためにも、膝の違和感を感じた場合は、なるべく早い段階で主治医に対して上記①〜③の検査をお願いして、後十字靭帯損傷がないかを確認してもらうと良いでしょう。
後十字靭帯損傷の日常生活への影響
歩けるまでどれくらいかかる?
後十字靭帯損傷が発生した場合、症状の程度によって差はありますが、通常、手術を行った場合であれば手術をした翌日に松葉杖を使った歩行が可能となります。
そして、手術後一週間を経過した段階で松葉杖を頼らずに歩行することが可能となります。
その後、全治に至るまでには8ヶ月から12ヶ月を要する傾向にあります。
後十字靭帯損傷の原因
後十字靭帯の損傷は、膝の正面に強い衝撃が加わることによって生じます。
後十字靭帯損傷の主な原因は以下の4つが挙げられます。
- ① 交通事故による場合
- ② 転倒による場合
- ③ スポーツ中の接触による場合
- ④ 仕事中の事故による場合
交通事故によって、後十字靭帯損傷が発生する理由としては、車が急停車することにより、助手席に座っている場合はダッシュボードに膝をぶつけたことがきっかけに後十字靭帯に強い衝撃が加わるからです。
スポーツによる事故の例としては、膝に直接的な圧力がかかりやすいラグビーやアメフト、サッカーでの接触プレイ等が考えられます。
労災事故による例としては、高いところで作業をしていたところ、そこから転落した際に、膝を地面にぶつけた場合が考えられます。
後十字靭帯損傷の治療
後十字靭帯損傷の治療法
後十字靭帯損傷では、通常はいきなり手術ではなく、保存療法(手術ではなく、症状の改善・緩和を目指す治療方法のこと。)を行います。
具体的には、筋力の強化を試み、膝を安定させます。
膝の安定化が難しいようであれば、手術(靭帯再建術)が必要となります。
後十字靭帯損傷が完治するまでの期間
後十字靭帯損傷は、痛みのない範囲で徐々にリハビリを行っていき、完治まで8ヶ月から1年程度を要します。
後十字靭帯損傷のリハビリ
後十字靭帯損傷のリハビリは、比較的早い時期から、サポーターを付けて無理のない範囲で膝を曲げていくなどの訓練を行っていきます。
徐々に部分負荷やスクワット運動を行っていき、4ヶ月程度でジョギングなどの運動が可能となります。
リハビリ期間の禁忌
後十字靭帯損傷が回復するまでの間、正座をしたり、無理にしゃがんだりすると症状を悪化させるおそれがあります。
リハビリ期間の禁忌については専門医の指示に従うようにしてください。
後十字靭帯損傷のよくあるQ&A
後十字靭帯損傷は自然治癒しますか?
後十字靭帯損傷の症状が軽い場合、手術までは必要ではなありませんが、通常は保存療法が行われます。
治療をせずに後十字靭帯損傷を放置するのはリスクがあります。治療の必要性については、必ず専門医の意見を聞くようにしてください。
後十字靭帯損傷の後遺障害認定の特徴と注意点
交通事故等の原因により後十字靭帯が切れてしまった場合は、自然に元通りになることはありません。
治療によって痛みが和らいだり歩行が可能となったりすることはありますが、それでも一定の症状は残ってしまうことがほとんどです。
この残ってしまった症状が後遺障害と認定される可能性があります。
後十字靭帯損傷が後遺障害として認定されるためには以下の症状のいずれかが認められる必要があります。
- ① 痛みが残っていること(神経症状)
- ② 膝を動かせる範囲が制限されていること(機能障害)
- ③ 歩行するときに膝関節にぐらつきを感じることがあること(動揺関節)
そして、上記症状があることに加えて、MRIによって後十字靭帯損傷が生じていることを客観的に確認できており、主治医が交通事故によって後十字靭帯損傷が起こっていると診断している必要があります。
後十字靭帯損傷が後遺障害として認定された場合は、症状に応じた等級が認定されます。
具体的には、以下の等級が認定される可能性があります。
12級13号 | 局部にがん固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
10級11号 | 1下脚の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級7号 | 1下脚の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
準用8級 | 膝の関節を安定させるために常時硬性補装具を装着する必要がある場合 |
準用10級 | 膝の関節を安定させるために状況に応じて硬性補装具を装着する必要がある場合 |
①神経系統の機能の障害
神経系統の機能の障害とは、後十字靭帯損傷が発生した箇所に痛みや痺れが残ってしまう状態をいいます。
②機能障害
機能障害とは、後十字靭帯損傷が原因で、膝を動かせる範囲が交通事故や労災事故に遭う前よりも狭くなってしまった状態をいいます。
③動揺関節
動揺関節とは、後十字靭帯損傷が原因で、本来動かないはずの関節が動いてしまい、膝に負荷がかかってしまう状態をいいます。
後十字靭帯損傷の慰謝料などの賠償金
後十字靭帯損傷のために入院や通院を余儀なくされた場合、入通院期間を基準に慰謝料が算定されます。
これを入通院慰謝料といいます。
入通院慰謝料の算定方法については下記のページをご覧ください。
後十字靭帯損傷に対する後遺障害慰謝料は等級に応じて設定されています。
後十字靭帯損傷の慰謝料の相場は、裁判基準では等級ごとに以下の通り設定されています。
等級 | 慰謝料額 |
---|---|
8級 | 830万円 |
10級11号 | 550万円 |
12級7号、13号 | 290万円 |
14級9号 | 110万円 |
また、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料は別物ですので、両方の慰謝料を重ねて獲得することもできます。
後十字靭帯損傷で適切な賠償金を得る5つのポイント
後十字靭帯損傷で適切な賠償金を得るためのポイントは以下の5つがあります。
①事故にあった時点から早めに通院し、継続的に通院すること
既にご説明した通り、後十字靭帯損傷は、レントゲンに映らないため、事故直後の時点では判明しない場合もあります。
また、後十字靭帯損傷は、前十字靭帯損傷と比べると、足の動かしにくさや痛みの点で自覚症状が少ないところが特徴です。
したがって、後十字靭帯損傷があったとしても、気づかない、あるいは通院にいくのを面倒くさがって通院しないという方もいらっしゃいます。
通院慰謝料との関係で、慰謝料の算定基準となるのは、通院を途中でやめてしまった期間までとなってしまい、認められる慰謝料が低くなってしまう可能性があります。
そして、後遺障害申請との関係においても、途中で通院を止めてしまうと、被害者本人としてはまだ完全に治ったわけではないと思っていたとしても、客観的には通院しないということは症状は改善されたと判断されてしまう可能性があります。
そうなってしまうと、後遺障害が認められず、賠償金が少なくなってしまう可能性があります。
そこで、膝に少しでも違和感を感じているのであれば、できるだけ早い段階で通院して、後十字靭帯損傷が発生していないかをチェックしてもらってください。
もし、後十字靭帯損傷が発覚した場合、定期的に整形外科に通院するようにしましょう。
②後十字靭帯損傷が発生していることが分かるレントゲン画像、MRIを撮影しておくこと
後遺障害の申請にあたって、後十字靭帯損傷が発生していることを客観的に示さなければなりません。
そこで、後十字靭帯損傷を画像として残すためにレントゲン画像やMRI画像が必要になります。
注意点としては、交通事故から一定期間経過した後に撮影した場合だと、交通事故とは無関係の理由(例えば、スポーツをされている方は事故後のスポーツが原因で後十字靭帯が損傷したのではないか等)によって後十字靭帯損傷が発生したのではないかと疑われる可能性があります。
したがって、交通事故に遭ってから間もない時期にレントゲンを撮影しておく必要があります。
また、レントゲン撮影の方法は、すでにご説明した通り、ストレスレントゲンという特別な方法によって撮影する必要があります。
通常、主治医の先生は、ストレスレントゲン撮影が必要と判断する材料がない限り実施されない可能性があります。
そこで、主治医の先生に対して、膝関節がぐらつくといったように現在自覚している症状を正確に伝えることによってストレスレントゲン撮影を実施してもらうようにしましょう。
③後遺障害診断書に後十字靭帯損傷が発生していることを正確に記載してもらう
後遺障害を申請する場合には、医者が作成する後遺障害診断書の作成が必要となります。
後遺障害診断書の記載内容は後遺障害の申請において重要な意味を持ちます。
そこで、後十字靭帯損傷が発生しているということを明確に記載してもらう必要があります。
具体的には、例えば、右膝の後十字靭帯損傷が発生した場合は、正常な左膝と比べてどれほど悪くなっているかを後遺障害診断書に記載してもらう必要があります。
また、被害者の方々が自覚している症状を正確に医者に伝える必要があります。
④加害者側が提示する示談内容について弁護士に確認してもらう
加害者側が提示する示談内容は、本来被害者の方々に支払うべき金額よりも低額で提示されている可能性があります。
示談内容のうち、慰謝料その他の賠償金については、自賠責基準・任意保険の基準・裁判基準の3つがあり、裁判基準で算出された金額が最も高い傾向にあります。
そこで、加害者側の保険会社と示談をする際は、適切な賠償金が提示されているかを弁護士に確認することをお勧めします。
もし、一度加害者側の示談内容でサインをしてしまうと後々金額に不満があったとしても取り消すことができなくなります。
適切な賠償金を獲得するためにも弁護士に相談すると良いでしょう。
交通事故の示談をスムーズに行う方法については以下のページをご覧ください。
⑤交通事故を専門とする弁護士に依頼すること
後遺障害申請手続きには大きく分けて事前認定と被害者請求の2つの手続きがあります。
事前認定とは、加害者側の保険会社が資料を全て揃えて損害料率算出機構に後遺障害の申請を行うものです。
この手続きのデメリットとしては、加害者側の保険会社が後遺障害の申請を行うため、被害者の方々に有利となる資料を提出しない可能性があります。
そこで、被害者請求を行うことが適切な賠償金を取得するために重要となってきます。
そして、被害者請求のデメリットである被害者の方々がご自身で後遺障害申請の必要書類を集めなければならないという点については交通事故を専門とする弁護士にご依頼いただくことで資料取り寄せのサポートをすることができます。
事前認定と被害者請求の詳細については以下のページをご覧ください。
交通事故を専門とする弁護士に依頼することで煩雑な後遺障害申請手続を任せることができます。
後遺障害慰謝料には、自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3つがあり、自賠責基準・任意保険基準に比べて裁判基準の方が高額となっています。
そして、弁護士にご依頼いただくことで後遺障害慰謝料の算定基準は裁判基準となります。
このことから、同じ後遺障害等級が認定されるのであれば、弁護士にご依頼いただく方が適切な賠償金を受け取ることができます。
後遺障害に詳しい弁護士に依頼すべき理由については下記のページをご覧ください。
まとめ
後十字靭帯損傷は、既にご説明した通り、足の動かしにくさや痛みの点で自覚症状が少ないことや通常のレントゲン撮影では発覚しない怪我です。
そこで、交通事故や労災事故に遭われた場合で、少しでも膝に違和感を感じた場合は、主治医の先生に後十字靭帯損傷がないかをチェックして欲しいと相談してみてください。
もし、後十字靭帯損傷が発覚して、それが後遺障害として認定された場合は、等級に応じて慰謝料を獲得できるため、被害者の方々にとってメリットしかありません。
したがって、痛みがあった場合は我慢をせず積極的に主治医の先生に相談しましょう。
そして、後遺障害申請はとても煩雑です。
そこで、後遺障害申請に困った時は、交通事故を専門とする弁護士に相談されることをお勧めいたします。
当法律事務所は人身傷害部を設置しており、交通事故を専門とする弁護士が所属しており、後遺障害に悩む被害者をサポートできる体制が整っております。
被害者の方が加入している保険会社において、弁護士費用特約を付けられている場合は、特殊な場合を除き弁護士費用は実質0円でご依頼いただけます。
LINE等のオンラインや電話相談を活用して全国対応も行っていますのでお気軽にご相談ください。