脾臓破裂とは?弁護士が後遺症のポイントについて解説

執筆者:弁護士 重永尚亮 (弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士)

交通事故等の外部からの強い衝撃がお腹に加わることで脾臓破裂(ひぞうはれつ)が発生する可能性があります。

治療を続けた結果、脾臓破裂自体が治ったとしても痛み等の後遺症が残ってしまうことがあります。

この後遺症が後遺障害と認定された場合には、等級に応じた後遺障害慰謝料を受け取ることができます。

そこで、脾臓破裂と後遺障害認定のポイントを解説いたします。

脾臓破裂とは

脾臓破裂とは、脾臓が外部からの強い衝撃により破裂してしまうことをいいます。

脾臓はお腹の左側、胃の奥に位置する臓器です。

脾臓は,通常10cm x 6cm x 3cm程の大きさで、赤血球、白血球、血小板を生産する臓器のことを言います。

脾臓の機能としては、古くなった血球を処分したり、血液を貯えたりする働きのほかに、リンパ球(白血球の一種)の産生や血液中の異物の処理など免疫に関する働きもします。

大量出血をした時や骨髄の機能が低下した時は、成人においても血球産生を行います。

脾臓破裂の発見方法としては以下の3つの方法があります。

  • 腹部X線撮影検査
  • CT画像検査
  • 超音波検査

腹部X線撮影検査

腹部X線撮影検査とは、脾臓が位置しているお腹にX線を照射して、脾臓の画像を撮影し、脾臓に異常が起こっていないかを確認します。

 

CT画像検査

CT画像検査とは、腹部X線撮影検査と同様にX線を使った検査です。

CT画像検査

この検査により、脾臓の状態と出血の程度を確認することができます。

 

超音波検査

超音波検査とは、お腹に機械を当てて、お腹の内部から反響した超音波を画像として映し出す検査です。超音波検査この検査により、脾臓の状態を確認することができます。

上記検査によって、脾臓がどれくらい傷ついているかや出血量を測定して、脾臓破裂の有無を判断します。

検査によって脾臓の出血が確認された場合、その出血の量によって治療方法が異なります。

なお、そもそも出血が確認できない場合は、自然に治るまで待つ形になります。

もっとも、最初に検査した時に出血が確認できなかった場合であっても、時間が経過した段階で出血が確認される場合があります。

このように一度検査しただけでは出血が確認できない場合がありますので、定期的に検査をした方が良いでしょう。

出血量が少ない場合 出血量が多い場合
脾臓動脈塞栓術を実施します。
脾臓動脈塞栓術とは、出血している動脈を塞いで止血する手術です。
脾臓自体を摘出する手術を実施します。

なお、脾臓を摘出した後に脾摘後重症感染症(敗血症等)が発生してしまう可能性があります。

そこで、現在では、出血量が多い場合であっても、できる限り脾臓を摘出しない方法での治療が検討されています。

具体的には血管内治療が行われます。

血管内治療とは、カテーテルという特殊な細い管を血管内に挿入し、各種の疾患を外科的手術のかわりに低侵襲的に治療する特殊な手技です。

引用元:血管内治療センター

しかし、どうしても出血が止まらない場合には、最終手段として脾臓自体を摘出することになります。

脾臓を摘出することに抵抗を感じる方も多いと思われます。

確かに、脾臓は血液を生産するという重要な機能を有しているため、少なからず人の体に影響が出ることは否定できません。

もっとも、人の体には、脾臓以外にも血液を生産する機能をもった組織(骨髄等)がありますので、脾臓を摘出したとしても人工脾臓を組み込まなくとも生命活動を維持できます。

注意点として、5歳以下の子供については脾臓に血液を生産する機能が集中している関係上、脾臓を摘出するかどうかは主治医の先生とよく相談した方が良いでしょう。

 

脾臓破裂と脾臓損傷との違い

脾臓破裂と脾臓損傷との違いは脾臓の損傷の程度によって区分けされています。

損傷の程度について以下の通り分類されています。

  • 1
    被膜下損傷
  • 2
    表在性損傷
  • 3
    深在性損傷

上から下にかけて損傷程度は大きくなります。

この中で最も損傷の程度が大きい深在性損傷となった場合に脾臓破裂と評価されます。

なお、深在性損傷とは、脾臓に発生している傷の深さが3cm以上にまで至っている状態を指します。

 

 

脾臓破裂したらどうなる?

脾臓破裂の症状

脾臓が破裂した場合の主な症状は、お腹の痛みや圧痛です。

具体的な痛みを感じる箇所としては、胸郭(「きょうかく」と読みます。人の肋骨等の骨格を指します。)のすぐ下のお腹の左側に発生します。

また、既にご説明した通り、脾臓は血液を生産する機能をもっていることから、脾臓が傷ついた場合、大量に出血する可能性が高いです。

この出血がお腹の内部に漏れ出て他の内臓等を圧迫することによって圧痛や腹痛といった痛みが発生します。

脾臓破裂によって体の中で大量出血が起こった場合は、血圧が低下して、ふらつき・視界が霞む・錯乱・気を失うといった症状が現れる場合もあります。

最悪の場合、出血性ショックにより死に至る可能性もあります。

以上の通り、脾臓破裂は人の命に関わる怪我といえます。

 

脾臓破裂の日常生活への影響

脾臓破裂の主たる症状が腹痛ということもあり、日常生活への影響は避けられません。

脾臓が破裂し、大量出血した場合は、上記症状が発生しているため日常生活に多大な影響を及ぼします。

既にご説明した通り、出血量が多い場合に血管内治療を行ったとしても症状の改善が見られない場合の治療方法としては、基本的に脾臓を摘出する方法しかありません。

脾臓を摘出したとしても人の命に関わるものではありません。

しかし、脾臓を摘出するという手術自体に脾摘後重症感染症に感染してしまう可能性があります。

また、脾臓はリンパ球(白血球の一種)の産生や血液中の異物の処理など免疫に関する働きを有していることから、免疫機能が低下し、感染症にかかってしまう可能性もあります。

具体的には、肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌といった菌に感染してしまう可能性や、敗血症等の症状が発症する可能性があります。

このような感染症等が発生してしまった場合、日常生活に大きな影響を及ぼすことになります。

 

脾臓破裂の生存率は?

脾臓破裂が発生した場合の生存率については、症状の程度によって異なります。

既にご説明した通り、症状が軽いものであれば、命に関わるものではありません。

脾臓が破裂した場合に注意すべきは大量出血が起こった場合です。

脾臓破裂に留まらず、大量に出血してしまうと出血性ショックを起こしてしまう場合があり、最悪の場合死に至ります。

もっとも、大量出血が発生してしまった場合であっても、早期に適切な処置により止血できた場合には、生存率は高まります。

違和感を少しでも感じた場合はすぐに医者に相談して検査してもらいましょう。

 

 

脾臓破裂の原因

左上腹部に対する外傷によるものです。

例えば、交通事故に遭って左上腹部に強い衝撃が加わった場合や、高所での作業中に誤って転落し、左上腹部に強い衝撃が加わった場合等です。

他にも、脾臓を覆っている肋骨が骨折したことにより、折れた骨が脾臓を傷つけた結果破裂が生じるといった間接的なきっかけの場合もあります。

持病として脾腫(脾臓が腫れて大きくなっている状態をいいます。)をお持ちの方は、上記原因により脾臓破裂が発生しやすい傾向にあります。

 

 

脾臓破裂の後遺障害認定の特徴と注意点

脾臓破裂が発生した場合に認められる後遺障害は以下の2つがあります。

等級 症状
13級11号 胸腹部の臓器の機能に障害を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

この2つの後遺障害の区別は、脾臓を摘出したかどうかです。

13級11号

胸腹部の臓器の機能に障害を残すものに当たる場合に13級11号と認定されます。

脾臓破裂の場合、脾臓を摘出した場合に、胸腹部の臓器の機能に障害を残すものに当たります。

脾臓摘出による免疫機能の低下によって、将来的に感染症のリスクを負うことになり、人体への悪影響が考えられることから後遺障害として認められています。

14級9号

局部に神経症状を残すものとは、事故が原因で発生した症状について、諸事情を踏まえて神経症状が残っていると医学的に説明できる場合に「局部に神経症状を残すもの」として認定されます。

神経症状の典型例としては、疼痛(痛み)です。

脾臓破裂の場合、脾臓は摘出しなかったものの、脾臓が位置している左上腹部付近や左肩付近に痛みが残ってしまった場合に局部に神経症状を残すものに当たる可能性があります。

交通事故等が原因で脾臓破裂が発生し、一定期間治療を続けていたにもかかわらず上記部分に痛みが残ってしまった場合には、後遺障害14級該当性を検討した方が良いでしょう。

もっとも、単に痛みが残っていることをもって直ちに後遺障害として認定されるわけではありません。

もし、痛みが残っていたとしても、痛みが医学的に説明できたとはいえない場合は後遺障害として認定されません。

後遺障害14級の認定を受けるためには高いハードルがあります。

 

 

脾臓破裂の慰謝料などの賠償金

脾臓破裂が発生した場合にもらうことができる慰謝料は入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の2つがあります。

また、後遺障害等級が認定された場合、認定された等級に応じた後遺障害逸失利益が認められる可能性があります。

後遺障害逸失利益とは、仮に事故が起きなかった場合、将来得られたであろう収入の減少分のことをいいます。

後遺障害逸失利益の計算方法については下記のページをご覧ください。

それぞれの慰謝料については、慰謝料については自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3つがあります。

もっとも、任意保険基準はあくまで保険会社の内部基準ですので、一般には公開されておりません。

そこで、一般に公表されている自賠責基準と弁護士基準(裁判基準)についてご説明いたします。

自賠責基準とは、加害者が必ず加入しなければならない強制加入保険です。

加害者が任意保険に入っていなかった場合でも被害者保護のために加入させられている保険です。

弁護士基準(裁判基準)とは、被害者側に弁護士がつき、加害者あるいは加害者側の保険会社と交渉を行った場合で、最終的に裁判所が入通院慰謝料や後遺障害慰謝料を決める際に参考にする基準です。

弁護士基準(裁判基準)は自賠責基準と比較して後遺障害慰謝料は高額となっています。

後遺症が後遺障害が認定された場合は、自賠責保険から等級に応じた後遺障害慰謝料が給付されることで被害者保護を図っています。

以下脾臓破裂の場合に認定される等級に応じた金額となります。

等級 自賠責基準 裁判基準
13級11号 57万円 180万円
14級9号 32万円 110万円

入通院慰謝料についても上記3つの基準によって金額が変わってきます。

入通院慰謝料の算定方法については後述しておりますので、そちらをご覧ください。

 

 

脾臓破裂で適切な賠償金を得る5つのポイント

脾臓破裂で適切な賠償金を得る5つのポイント

①治療を継続すること

交通事故等により脾臓破裂が発生した場合、既にご説明した通り、最初に検査した時に出血が確認できなかった場合であっても、時間が経過した段階で出血が確認される場合があります。

このように一度検査しただけでは出血が確認できない場合がありますので、定期的に検査してもらえるように治療を継続することが重要となります。

脾臓破裂の場合で、出血があるか否かは治療方針に大きな影響を与えますので、痛みがある場合には我慢せずに通院を継続するようにしましょう。

また、定期的に病院に通院することは慰謝料の金額にも影響します。

交通事故における慰謝料は入通院期間を基準に算定されます。

通院期間が長ければ長いほど慰謝料は増額します。

もっとも、例えば1ヶ月の実際に通院した日数が少ない場合は、1ヶ月全てが通院期間と判断されない可能性があります。

そのため、比較的頻繁に病院に通院する必要があるのです。

入通院慰謝料の計算方法については下記のページをご覧ください。

 

②後遺障害を適切に認定してもらう

脾臓破裂が治ったとしても、脾臓があった付近に痛み等が残ってしまう場合があります。

一般的にこの残ってしまった症状を後遺症と呼びますが、後遺障害と認められるためには、後遺障害申請を行い、後遺障害と認定される必要があります。

そして、既にご説明した通り、認定された等級に応じてもらえる慰謝料の金額が変わります。

そこで、残ってしまった症状について後遺障害を認定してもらい、適切な等級の認定を受ける必要があります。

後遺障害の認定のポイントについては下記のページをご覧ください。

 

③適切な賠償金の金額を算定する

加害者側が提示する示談内容は、本来被害者の方々に支払うべき金額よりも低額で提示されている可能性があります。

保険会社の心境としては、被害者の方々に支払う金額はできるだけ低額に抑えて保険会社から支払う金額を少なくしたいと考えています。

そのため、加害者側が提示する金額のまま示談してしまうと被害者の方々が気づかないことをいいことに不利な結果となってしまう可能性が高いのです。

そこで、加害者側の保険会社と示談をする際は、適切な賠償金が提示されているかを弁護士に確認することをお勧めします。

 

④加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらう

一度加害者側の示談内容でサインをしてしまうと後々金額に不満があったとしても取り消すことができなくなります。

上記③でご説明した通り、加害者側の保険会社が提示する金額が本来払うべき金額よりも低額となっている可能性があります。

そこで、被害者の方々が損をしないためにも適切な賠償金を獲得するためにも弁護士に相談すると良いでしょう。

また、既にご説明した通り、被害者の方々が自力で加害者側の保険会社と交渉した場合の慰謝料の金額と弁護士が間に入った場合の慰謝料の金額には開きがあります。

そのため、加害者側の提示する示談金額が示されたタイミングで弁護士にご依頼いただくと、この段階からであっても裁判基準で再計算を求めることができます。

このように、示談金額が上がる可能性が十分残されていることから、加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらうことは非常に重要です。

交通事故の示談をスムーズに行う方法については以下のページをご覧ください。

 

⑤後遺障害に詳しい弁護士に早い段階で相談する

早い段階から後遺障害に詳しい弁護士に相談することで、後遺障害認定のために逆算的なサポートを行うことができます。

また、後遺障害申請はとても複雑で治療と並行して後遺障害申請を見据えて行動するのはとても困難です。

そこで、後遺障害に詳しい弁護士に相談し、サポートを受けることで被害者の方々は治療に専念することができます。

 

 

まとめ

以上の通り、脾臓破裂が発生してしまう原因やその症状、認定される可能性のある後遺障害等級について解説いたしました。

脾臓破裂によって大量出血が発生してしまうと、脾臓摘出を避けられない状況になってしまう場合があります。

脾臓を摘出したとしても生命活動に大きな影響は与えないものの、感染症等の一定のリスクを抱えることになります。

また、脾臓破裂の程度が軽く脾臓摘出までには至らなかったとしても、脾臓付近に痛みが残ってしまう場合も考えられます。

このように、脾臓破裂が発生した場合、少なからず将来の健康面での不安が残り続けることになります。

この不安に対しての解決策の一つとしては、きちんと後遺障害として認定を受けた上で、適切な後遺障害慰謝料を受け取ることです。

そのためにも交通事故専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

当法律事務所は人身傷害部を設置しており、交通事故を専門とする弁護士が所属しております。

被害者の方が加入している保険会社において、弁護士費用特約を付けられている場合は、特殊な場合を除き弁護士費用は実質0円でご依頼いただけます。

LINE等のオンラインや電話相談を活用して全国対応も行っていますので、後遺障害診断書でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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