腓骨骨折とは?弁護士が後遺症のポイントについて解説

執筆者:弁護士 北御門晋作 (弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士)

腓骨骨折とは、膝から足首に向かって並んでいる腓骨という骨の骨折です。

交通事故で脚に衝撃を受けると、膝と足首の間にある骨を骨折することがあります。

膝と足首には2本の骨が縦に並んでいますが、その細い方が、腓骨です。

これから、腓骨骨折とその場合に考えられる後遺症のポイントについて解説いたします。

腓骨骨折とは

腓骨骨折とは、膝から足首に向かって生えている2本の骨のうち、細い方の骨(腓骨)を骨折することを指します。

腓骨とは、下の図のとおり、膝と足首の間にある骨の細い方の骨です。

腓骨のイメージ図

腓骨には、歩行時の地面からの反発力の吸収、足首を自由自在に動かす補助などの役割があります。

 

 

腓骨骨折の症状

腓骨骨折も骨折のため、もちろん強い痛みが症状として現れます。

また、腓骨骨折をした場合、腓骨の役割を果たすことができなくなります。

例えば、歩行することはしばらく無理でしょうし、足首もうまく動かせないでしょう。

 

 

腓骨骨折の日常生活への影響

腓骨骨折となった場合、歩行や足首の動作がうまくできずに、日常生活に不便があります。

また、腓骨骨折はまずギプスで固定する必要があり、固定が外れた後には、歩行のリハビリなどを継続して行う必要があり、そのための時間がかかるので、その意味でも日常生活への支障はあります。

腓骨骨折によるギプスの期間

腓骨骨折の場合は、概ね1か月半〜3か月程度の期間、固定を行うことが多いようです。

腕などの他の部位の骨折と比較してもやや長い印象です。

ギプスでの固定を行なっていると普段通りの歩行はできないため、日常生活への支障は、小さくないでしょう。

 

歩けるまでリハビリが必要?

ギプスを外すくらいの時期に、荷重(体重をかけること)訓練を行います。

脚をギプスで固定をしていた期間は、ほとんど動かしていない状況ですので、関節や筋肉が固まって、なかなかうまく動かせませんので、徐々に荷重を増やして、歩行ができるように訓練を行います。

きちんと歩行ができるまでには、腓骨骨折から3か月以上はかかるようです。

もちろん、主治医の判断次第ではありますが、基本的には、歩けるまでリハビリは必要です。

 

腓骨骨折は全治どれくらい?

全治とは、完全に治ることを指しますが、腓骨骨折の完治は3か月以上はかかります。

また、骨折の状況や治療経過によっては、痛みが残ってしまう場合もありますので、完全に治らないケースもあります。

 

サポーターをするケース

腓骨骨折で骨折や手術の後、歩行の訓練を行うようですが、その際に、足首に過度な負担をかけないために足首にサポーターをするケースもあります。

歩行訓練の一例と言っても良いと思います。

 

 

腓骨骨折の原因

腓骨骨折は、交通事故により、膝下に強い衝撃を受けた場合や、足首に強い衝撃を受けた場合には、その衝撃が原因で起こります。

交通事故に遭って、膝下に強烈な痛みがある場合や、歩行がうまくできない場合には、腓骨骨折の可能性があります。

 

 

腓骨骨折の後遺障害認定の特徴と注意点

腓骨骨折の場合には、治療を行なったにもかかわらず、骨がうまくくっつかない場合や、痛みが残るケースなどがあります。

そのような場合には、後遺障害に該当する可能性が高いでしょう。

後遺障害に該当する可能性のある症状としては、以下のようなものがあります。

  1. ① 脚が変形した場合(変形障害)
  2. ② 脚が短くなった場合(短縮障害)
  3. ③ 脚の動きが大きく制限された場合(機能障害)
  4. ④ 痛みや痺れが残った場合(神経障害)
  5. ⑤ 大きな傷跡が残った場合(醜状障害)

①変形障害

腓骨骨折が原因で受傷部位の変形が残ってしまうケースやそもそも骨が癒合しなかった(くっつかない)ケースがあります。

そのような場合には、変形障害として以下の等級の後遺障害が認定される可能性があります。

症状 等級、号数
片脚に偽関節(骨がくっつかなった状況)があり、かつ、著しい運動障害がある場合 7級10号
片脚に偽関節がある場合 8級9号
片脚の大きな骨に変形が残った場合 12級8号

 

②短縮障害

腓骨骨折した場合、骨折した脚がもう片方の脚に比べて短くなってしまったままになるケースがあります。

そのような場合には、短縮障害として以下の等級の後遺障害が認定される可能性があります。

症状 等級、号数
片脚が、5センチメートル以上短くなった場合 8級5号
片脚が、3センチメートル以上短くなった場合 10級8号
片脚が、1センチメートル以上短くなった場合 13級8号

 

③機能障害

腓骨骨折が原因で、脚が動きにくくなったり、動かなくなったりするケースがあります。

そのような場合には、機能障害として以下の等級の後遺障害が認定される可能性があります。

症状 等級、号数
片脚の足首、膝のうち1つの関節の機能を失った場合 8級7号
片脚の足首、膝のうち1つの関節の機能に著しい障害が残った場合 10級11号
片脚の足首、膝のうち1つの関節の機能に障害が残った場合 12級7号

 

④神経障害

腓骨骨折が原因で受傷部位に痛みやシビレが残ってしまうケースがあります。

そのような場合には、神経障害として以下の等級の後遺障害が認定される可能性があります。

症状 等級、号数
局部に頑固な神経症状が残った場合 12級13号
局部に神経症状が残った場合 14級9号

 

⑤醜状障害

治療を行なっても、腓骨骨折の傷跡が残ってしまうケースがあります。

そのような場合には、醜状障害として以下の等級の後遺障害が認定される可能性があります。

症状 等級、号数など
腕、脚の露出面に手のひらの3倍の大きさの醜い跡が残った場合 12級相当
腕の露出面に手のひらの大きさの醜い跡が残った場合 14級4号
脚の露出面に手のひらの大きさの醜い跡が残った場合 14級5号

 

後遺障害認定の注意点

後遺障害認定では、後遺障害診断書を正確にかつ具体的に作成してもらうことが重要です。

後遺障害の認定において、後遺障害診断書は重視されていますので、後遺障害診断書の内容が不十分な場合には、本当は認められるべき後遺障害が認定されない可能性がありますので、注意が必要です。

特に腓骨骨折の場合には、先ほどご説明しましたとおり5系統の後遺障害が考えられ、それぞれの系統、程度ごとに等級が定められています。

後遺障害申請では、「その系統」の「その等級」に該当していることを証明する必要がありますが、例えば、「画像所見上、偽関節を残している。」という記載があれば、画像とともに非常に有力な資料となりますが、反対にそのような記載がない場合には、審査の際に見落とされる可能性もあります。

そのため、後遺障害認定では、後遺障害診断書を正確にかつ具体的に作成してもらうことが重要です。

 

 

腓骨骨折の慰謝料などの賠償金

腓骨骨折となった際には、入通院期間に応じて発生する入通院慰謝料や、後遺障害認定がされた場合には、後遺障害慰謝料を請求することができます。

主に以下の項目の賠償金を請求することができます。

賠償金の内訳(代表例)
賠償金 物的損害 後遺障害の認定に関係なく、損害が発生すれば請求できる項目 修理費用
レンタカー代
壊れた身の回りの品に関する損害
人的損害
(怪我に関わる損害)
治療費
通院交通費
休業損害
慰謝料 入通院慰謝料
後遺障害が認定された場合に請求できる項目 後遺障害慰謝料
逸失利益

上記の内訳表はあくまで代表的な賠償金の項目になりますので、上の表に記載がないものも請求できる可能性があります。

「このような損害があると思うけど、請求できるのかな?」と疑問に思った際には、交通事故に詳しい弁護士へ相談するべきでしょう。

 

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、交通事故で怪我をした人が怪我をして入院や通院を強いられたという精神的苦痛に対する慰謝料です。

入通院慰謝料の金額は、入院期間、通院期間、比較的重症かどうかという項目に応じて算定されます。

入通院慰謝料の弁護士基準は、以下の表のとおりです。

入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 53 101 145 184 217 244 266 284 297 306 314 321 328 334 340
1月 28 77 122 162 199 228 252 274 291 303 311 318 325 332 336 342
2月 52 98 139 177 210 236 260 281 297 308 315 322 329 334 338 344
3月 73 115 154 188 218 244 267 287 302 312 319 326 331 336 340 346
4月 90 130 165 196 226 251 273 292 306 316 323 328 333 338 342 348
5月 105 141 173 204 233 257 278 296 310 320 325 330 335 340 344 350
6月 116 149 181 211 239 262 282 300 314 322 327 332 337 342 346
7月 124 157 188 217 244 266 286 304 316 324 329 334 339 344
8月 132 164 194 222 248 270 290 306 318 326 331 336 341
9月 139 170 199 226 252 274 292 308 320 328 333 338
10月 145 175 203 230 256 276 294 310 322 330 335
11月 150 179 207 234 258 278 296 312 324 332
12月 154 183 211 236 260 280 298 314 326
13月 158 187 213 238 262 282 300 316
14月 162 189 215 240 264 284 302
15月 164 191 217 242 266 286

引用元:赤い本 別表Ⅰ 入通院慰謝料基準|日弁連交通事故相談センター

例えば、腓骨骨折で3か月入院をし、その後、6か月通院をした場合、弁護士基準で計算すると、入通院慰謝料211万円となります。

 

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ってしまったため、仕事がしにくくなり、減収が発生したことに対する賠償です。

逸失利益は、以下の計算式で計算をします。

計算式 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

そして、等級によって大きく異なるのが、上記の計算式のうちの労働能力喪失率になります。

各等級における労働能力喪失率は以下の表の通りです。

後遺障害等級 労働能力喪失率
8級 45%
10級 27%
12級 14%
14級 5%
非該当 0%

 

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ってしまい、仕事や日常生活に大きな支障が生じたことに対する慰謝料になります。

後遺障害慰謝料は、後遺障害の等級に応じて相場があります。

各等級に応じた相場(抜粋)は以下の表の通りです。

後遺障害等級 後遺障害慰謝料
8級 830万円
10級 550万円
12級 290万円
14級 110万円
非該当 0円

交通事故の賠償金の内容や相場について詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

腓骨骨折で適切な賠償金を得る5つのポイント

腓骨骨折で適切な賠償金を得る5つのポイント

①早期に画像撮影を実施する

病院での診察を受けた際には、早期に画像撮影の検査を受けるべきです。

腓骨骨折の場合には足首や膝をうまく動かせなくなるという症状もあります。

そのため、足首や膝の捻挫と勘違いをしていると、後に腓骨骨折がわかった時でも、交通事故によってその症状が発生したことについて、「今回の事故とは関係ない。」などと保険会社が争ってくる可能性が出てきます。

また、早期に症状を発見することによって適切な治療を受けることにもつながります。

 

②適切な治療を継続して行う

精密な検査を受けたのちには、適切な治療を受けることが肝心です。

主治医の指示に従って、継続して治療を行うことが何よりも回復につながると思います。

仕事や家事が忙しいなどの事情があったとしても、治療頻度が少ない場合には、「症状が軽かったとして賠償金を減額すべきである。」などと保険会社から争われる可能性があります。

また、入通院慰謝料は、治療の期間が長期になるほど、増加する傾向にありますので、適切な額の慰謝料を獲得するためには、しっかりと治療を行う必要があります。

もっとも、治療は、身体の回復のために行うものですので、賠償金を目的に、必要がないのに毎日通院することはやめておくのが無難でしょう。

通院と慰謝料の関係について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

③後遺障害を適切に認定してもらう

開放骨折で適切な賠償金を獲得するためには、適切な等級の認定を受けることが重要です。

後遺障害が認定されると、その等級に応じて、後遺障害逸失利益や、後遺障害慰謝料を請求できるため、後遺障害を適切に認定してもらうことが最重要です。

これまでの3つのポイントは、適切な後遺障害等級を獲得するために向けられたものでもあります。

認定された後遺障害の等級によって、労働能力喪失率や後遺障害慰謝料が変わります。

それでは、例をあげてどれほどの違いがあるかをご説明いたします。

基礎収入(年収)500万円の42歳のケースで、膝の機能を失った場合である8級と膝の機能に著しい障害が残った場合である10級を比較します。

8級 10級
後遺障害逸失利益 3917万9475円 2350万7685円
後遺障害慰謝料 830万円 550万円
合計 4747万9475円 2900万7685円

 

詳細

8級の場合
  • 基礎収入 500万円
  • 42歳の労働能力喪失期間 25年
  • 25年に対応するライプニッツ係数 17.4131
  • 労働能力喪失率 45%
後遺障害逸失利益
500万 × 17.4131 × 45% = 3917万9475円
後遺障害慰謝料
830万円
合計
4747万9475円
10級の場合
  • 基礎収入 500万円
  • 42歳の労働能力喪失期間 25年
  • 25年に対応するライプニッツ係数 17.4131
  • 労働能力喪失率 27%
後遺障害逸失利益
500万 × 17.4131 × 27% = 2350万7685円
後遺障害慰謝料
550万円
合計
2900万7685円

上記の例では、膝の機能がどれほど損なわれたかという認定が変わり、10級から8級になると、2000万円近くの違いがあります。

このように適切な賠償金を獲得するためには、後遺障害を適切に認定してもらうことが重要になります。

後遺障害の認定された場合の賠償金について詳しくはこちらをご覧ください。

 

④適切な賠償金の金額を算定する

交通事故における慰謝料とは、交通事故で怪我をした人が怪我によって生じた痛み、苦しみに対する精神的な苦痛に対する賠償金です。

痛みの状況や、感じ方については人それぞれのため、入院・通院の期間や、後遺障害の等級を基準として、計算される相場があります。

この相場こそが、慰謝料の計算における弁護士基準、任意保険基準、自賠責基準といった各基準になります。

自賠責基準

自賠責基準は、自賠責保険が設定をした基準で、人身事故における最低限度の補償の基準でもあります。

加害者が任意保険に加入しておらず、賠償金を支払わない場合には、まず自賠責保険に請求して、自賠責保険基準での賠償を回収することが多いです。

 

任意保険基準

この基準は、任意保険会社が独自で設定している基準です。

加害者が任意保険に加入しており、かつ、弁護士に依頼されていない場面での相場になります。

この基準は、各任意保険会社が独自に作成し公開されていないため詳細は不明ですが、概ね自賠責基準に少し加算された金額が基準とされているようです。

 

弁護士基準

この基準は、裁判基準とも言われ、裁判をした場合の入通院慰謝料の相場です。

弁護士が介入した状況では、この基準を使用して交渉に臨みます。

一番適切に近い基準とも言えるでしょう。

適切な賠償金についてのシミュレーションはこちらのページをご参照ください。

 

⑤加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらう

治療終了後、後遺障害認定結果が決定した後には、保険会社から賠償案が送付されます。

保険会社の送付する賠償案は、ほとんどの場合、任意保険会社基準で計算されたものになります。

先ほどご説明しましたとおり、任意保険会社基準は、弁護士の提示する弁護士基準と比べると少額になります。

そのため、合意前に一度は、賠償金が適切かどうか、場合によっては、専門家が代理人として交渉を行うべきか確認された方が良いでしょう。

しかし、免責証書にサインをして、相手方任意保険会社へ送付している場合には、専門家が代理人となって交渉を行うことは不可能となります。

免責証書にサインをして、相手方保険会社へ送付した段階で、「保険会社の案に応じてこれ以上の請求はしない。」という意思表示を行なったことになるためです。

そのため、加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらい、場合によっては、交通事故に詳しい弁護士に依頼をすべきでしょう。

弁護士による示談の内容について詳しくは以下ページをご参照ください。

 

 

まとめ

ここまで腓骨骨折について解説しました。

腓骨は脚にある骨であり、骨折してしまうと日常生活に不自由がありますので、しっかりと治療して完治を目指すことが最優先です。

しかし、適切な賠償金を獲得するためにも、場合によっては後遺障害申請を行う必要があることからも、交通事故に詳しい弁護士に相談するべきでしょう。

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