肋骨骨折による後遺症のポイント|弁護士が解説
交通事故や労災で肋骨(ろっこつ)を骨折することがあります。
肋骨骨折をして後遺症が残った場合、後遺障害等級が認定される可能性があります。
後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料が請求することができます。
本記事では、肋骨骨折に関わる問題について、交通事故案件を多く経験している弁護士が解説していきます。
目次
肋骨骨折とは
肋骨骨折(ろっこつこっせつ)とは、胸部付近に位置する肋骨(「あばら骨」ともいいます)が折れてしまうことをいいます。
肋骨は、左右12本ずつ対になっています。
肋骨は、主に心臓、肺、肝臓、脾臓(ひぞう)、腎臓などを保護する役割を担っています。
肋骨骨折の原因
肋骨骨折の原因としては、交通事故や労災事故(例えば、転落)などで肋骨に強い衝撃が加わった場合などが多いです。
交通事故では、激しく車に衝突され、ハンドル部分に胸を打ち付けることで骨折することがあります(ハンドル外傷)。
また、車の衝突の衝撃によってシートベルトが固定され、胸部が強く締め付けられることによって肋骨を骨折することがあります。
自転車や歩行中に車に衝突されボンネットに胸部を打ち付けたり、地面に胸部を強打した場合にも肋骨を骨折する場合があります。
肋骨骨折の症状
肋骨骨折の症状としては、骨が折れた部分に痛みが生じます。
深呼吸したり、くしゃみや咳により痛みを感じることもあります。
また、皮下出血(ひかしゅっけつ)を引き起こして、骨折した部分の皮膚が紫色になったり、腫れることがあります。
肋骨骨折の後遺症の症状
肋骨の後遺症として、骨が変形してくっついてしまい裸になると見た目で骨の変形が分かるような状態になることがあります。
この場合は、後で説明するとおり、後遺障害12級5号に認定される可能性があります。
また、骨折後に痛みなどの神経症状が残ってしまう可能性があります。
こうした症状を残した場合にも、後で説明するとおり、14級9号あるいは12級13号に認定される可能性があります。
肋骨骨折の日常生活への影響
深呼吸、せき、くしゃみなどをした時に痛みが増悪します。
また、体を動かす動作で胸付近に刺激や負担がかかる場合にも痛みが増悪します。
肋骨骨折は放置しても大丈夫?
肋骨骨折の放置は危険です。
肋骨骨折を放置していると肺などの他の臓器を損傷してしまうリスクがあります。
したがって、肋骨を強くぶつけて痛みがある場合や違和感があれば、すぐに病院に行って検査してもらってください。
肋骨骨折は自然に治る?
肋骨骨折は、保存治療(手術などはせず、薬物療法などで緩和を目指す治療のこと)で治していくこともあります。
肋骨骨折は、病院の医師の指示に従っていると自然治癒をしていくこともあります。
肋骨骨折の痛みのピークとは?
肋骨骨折の痛みのピークは、多くの場合、骨折してから数日間です。
骨折時に近い時点ほど痛みが感じやすいといえます。
肋骨骨折の安静期間はどれくらい?
肋骨骨折の安静期間の目安は、3週間〜1ヶ月程です。
安静期間と言っても、肋骨に負担のかからない程度の通常の生活ができることも多いです。
具体的な生活の仕方などについては、主治医の指示に従っていただければと思います。
肋骨骨折の痛みはいつまで?
肋骨骨折の痛みは、1ヶ月程続く可能性があります。
なお、肋骨骨折が治るまでの期間はケースバイケースですが、1〜6ヶ月程が多いです。
肋骨骨折でバストバンドを使用するケース
肋骨骨折で痛みがひどい場合、「バストバンド」と呼ばれる固定具で胸の付近を固定し、痛みを緩和させます。
バストバンドは2〜3週間程装着します。
バストバンドを使用するかどうか、どのように使用するかについては主治医の指示に従っていただければと思います。
肋骨骨折の後遺障害認定の特徴と注意点
肋骨骨折のケガをして後遺症が残った場合、残存している症状に応じて以下の後遺障害等級が認定される可能性があります。
変形障害
肋骨骨折により、最終的に骨はくっついたが肋骨が変形してしまった場合、12級5号が認定される可能性があります。
後遺障害等級 | 要件 |
---|---|
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
「著しい変形を残すもの」とは、裸体になった状態で明らかに変形がわかる状態のことをいいます。
そのため、レントゲンでなければ変形していることがわからないという状態では、12級5号の認定は厳しいです。
逆に、裸体になった状態で明らかに変形がわかる状態なのであれば、変形の箇所を写真で撮影して、証拠資料として自賠責保険に提出すべきです。
神経症状
肋骨骨折のケガをして、症状固定時まで通院したが、肋骨付近に痛みやしびれが残ってしまった場合は、神経症状として12級13号、もしくは14級9号が認定される可能性があります。
後遺障害等級 | 要件 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号か14級9号かの違いは、他覚的所見(たかくてきしょけん)、つまり画像所見があるといえるかです。
画像所見等がはっきりしていて、その所見が痛みやしびれの原因と言えれば、12級13号が認定されます。
画像所見でははっきりしないが、治療の状況や症状の一貫性などから痛みやしびれが医学的に説明できると言える場合は14級9号が認定されます。
肋骨骨折は、骨がしっかりくっついて治ることも多く、そうすると認定上多いのは、画像所見が要求される12級13号ではなく、14級9号です。
治療の状況や症状の一貫性を裏付ける資料として考えられるのは、診断書、カルテ、医師の意見書などです。
痛みやしびれが残っているのに、一度目の申請で何も後遺障害が認定されなかった場合は、14級9号の認定のために必要な資料はないか探して、異議申立てを検討すべきです。
肋骨骨折の後遺症と慰謝料の相場
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残存したことにより生じる精神的苦痛に対する賠償金のことです。
後遺障害慰謝料については、認定される後遺障害等級ごとに相場(裁判基準)が存在します。
肋骨骨折であり得る後遺障害等級とその等級での相場は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 裁判基準の相場 |
---|---|
12級5号 | 290万円 |
後遺障害等級 | 裁判基準の相場 |
---|---|
12級13号 | 290万円 |
14級9号 | 110万円 |
ただし、上記はあくまで相場ですので、状況によっては増額されるケースもあります。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残存した場合に予測される将来の収入減少に対する賠償金のことです。
後遺障害逸失利益の基本計算式は、以下のとおりです。
なお、労働能力喪失率は等級ごとに相場が決められており、12級は14%、14級は5%です。
変形障害(12級5号)の場合、変形しただけで労働には影響を与えないとして、加害者側から「後遺障害逸失利益を減額すべきだ!」と主張されることがあります。
もっとも、変形しただけでなく痛みも伴っている場合は、将来の労働に影響を与えることもあります。
加害者側が後遺障害逸失利益の減額を主張してきた場合は、痛みを伴っていて将来の労働に影響を与える等の主張を具体的に行わなければ、納得できる後遺障害逸失利益の獲得は難しいでしょう。
他に請求できるもの
肋骨を骨折した場合には、慰謝料や後遺障害逸失利益の他に以下のような損害を請求できる可能性があります。
- 治療費
- 整骨院の施術費用
- 通院交通費
- 入院雑費
- 装具費用
- 付添費用
- 休業損害
これらの損害について詳しくは、以下のページをご覧ください。
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肋骨骨折で適切な賠償金を得る4つのポイント
我慢しないでしっかり通院する
まずは、何より肋骨骨折をしっかり治すことに注力すべきです。
具体的には、病院に通院して、主治医の指示に従い、肋骨に負担をかけずに過ごすことです。
痛みを我慢して通院しないと、早期に治ることが難しくなるだけでなく、入通院慰謝料にも影響がある場合があります。
なぜなら、入通院慰謝料は、上記でも解説したとおり、原則通院期間で計算するため、通院をすぐにやめてしまうと、精神的苦痛があったとしても賠償金に反映されなくなってしまいます。
変形している場合や痛みが残っている場合は後遺障害の申請をする
上記で解説したとおり、肋骨骨折の場合は、変形障害(12級5号)や神経症状(12級13号、14級9号)の後遺障害等級の認定を受ける可能性があります。
そこで、肋骨が変形している場合や痛みが残っている場合は、加害者の自賠責保険に対して後遺障害の申請をすべきです。
自賠責保険の後遺障害認定がないと、原則的に後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の賠償金はもらうことができません。
後遺障害の申請をする場合は、主治医に「後遺障害診断書」と呼ばれる診断書を作成してもらう必要があります。
この後遺障害診断書は、後遺障害申請において非常に重要な書類ですので、他覚的所見は記載されているか、被害者が訴えている自覚症状の記載はされているか等をチェックすべきです。
ただし、医師が書く書類は専門用語も多いため、後遺障害診断書等のチェックは弁護士にしてもらった方が良いでしょう。
なお、後遺障害の申請は、申請書類を被害者側で選べる被害者請求を選択すべきでしょう。
加害者側が提示してきている内容が裁判基準に近い内容かチェック
加害者側(保険会社も含む)から賠償金を提示してくることがあります。
ただし、保険会社からの提示だと、最も高額となる裁判基準よりも低いことが多いです。
そのため、加害者側が送ってきた示談書に安易にサインすべきではないでしょう。
一度、示談書にサインをしてしまった場合には、その金額が裁判基準とかけ離れていたとしても、原則取り消しできません。
示談書にサインをするかどうかは慎重になった方が良いでしょう。
交通事故の経験豊富な弁護士に相談する
これまでみてきたとおり、適切な賠償金を獲得するためには、後遺障害の正しい申請をしなければいけなかったり、裁判基準を理解していたりと専門的な知識が必要なのは間違いないです。
そのため、できるだけ早く交通事故の経験豊富な弁護士に相談して、今後のアドバイスをもらった方が良いでしょう。
交通事故の経験豊富かどうかは、その弁護士が所属している法律事務所のホームページなどで確認できることが多いです。
なお、弁護士費用特約に加入していれば、被害者の弁護士費用負担が実質0円で弁護士に依頼することができますので、弁護士費用特約の加入の有無を確認してみてください。
肋骨骨折の裁判例
肋骨骨折の裁判例はいくつかありますが、ここでは後遺障害の労働能力喪失率に関わる裁判例をご紹介いたします。
判例 大阪地裁令和元年6月11交民52巻3号684頁
被害者は、バイクで交差点に進入したところ、出会い頭に車と衝突し、両側多発肋骨骨折、骨盤骨折等のケガを負い、それぞれのケガについて第12級5号が認められ、併合第11級に認定されました。
裁判所は、被害者の労働能力喪失率について、通常の11級と同じ20%労働能力喪失率を認めました。
変形障害は、骨が変形したことに着目して認定される障害であるため、骨が変形しているだけで、働きづらくなっていないとして、労働能力喪失が認められないこともあります。
しかし、本裁判例では、11級の相場である20%の労働能力喪失率がそのまま認定されました。
このように、変形障害のケースでも、仕事への支障を具体的に主張立証すれば、労働能力の喪失が認められる可能性はあるのです。
まとめ
- 肋骨骨折(ろっこつこっせつ)とは、胸部付近に位置する肋骨(「あばら骨」ともいいます)が折れてしまうことである。
- 肋骨骨折の原因としては、交通事故や労災事故(例えば、転落)などで肋骨に強い衝撃が加わった場合などが多いこと。
- 肋骨骨折の後遺障害としては、変形障害の12級5号、神経症状(痛み)の12級13号・14級9号の認定可能性がある。
- 肋骨骨折の賠償金の種類としては、治療費、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益などがある。
- 肋骨骨折の適切な賠償金を得るための4つのポイントは、①我慢しないでしっかり通院する、②変形している場合や痛みが残っている場合は後遺障害の申請をする、③加害者側が提示してきている内容が裁判基準に近い内容かチェックする、④交通事故の経験豊富な弁護士に相談するということである。
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