交通事故による負傷で、目のピントが合いづらくなった。後遺障害は?
目のピントの後遺障害
交通事故により頭部や目を負傷した場合、目の焦点が合わせづらくなる場合があります。
目の後遺症として、自賠責保険の後遺障害の等級が設定されているものは、①視力障害、②調整機能障害、③運動障害、④視野障害があります。
このうち、設例の目のピントが合いづらいというものは、②の調整機能障害に該当します。
この調整機能障害については、以下の2つが用意されています。
- 11級1号
「両眼の眼球に著しい調整機能障害を残すもの」 - 12級1号
「1眼の眼球に著しい調整機能障害を残すもの」
一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構
目の後遺障害等級グラフ
ここで、「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」とは、眼球の調節力が通常の場合の2分の1以下になった場合です。
そして、調整力というのは、明らかに認識できる遠点から近点までの距離的な範囲をレンズに換算した値のことを意味しています。
具体的には、ジオプトリー(D)という単位で表されており、検査には、アコモドポリレコーダーという装置が用いられます。
そして、どのようにピントの調整力を評価していくかについてですが、まず、後遺症が残っている眼が片方のみの場合で、もう一方の眼には異常がない場合は、異常のない眼の数値と比べて評価します。
例えば、交通事故で右眼をけがして、左眼は異常がない場合、左眼の調整力が6.3であれば、右眼の調整力が 6.3 ÷ 2 = 3.15以下 の数値になれば12級1号に該当することになります。
また、両眼を負傷した場合や、片眼しかけがをしていないもののけがをしていない眼にも調整力の異常があると判断される場合には、年齢別のピントの調整力の参考値を用いて、調整力の後遺症の程度を判断します。
なお、年齢は後遺障害診断書を作成する症状固定の段階での年齢で、例えば、44歳の方の場合は40歳の4.4Dが基準の調整力となります。
一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構
上記の表のとおり、年齢が上がるにしたがって、加齢により眼のピントの調整力も低下していきます。
そのため、自賠責保険の後遺障害の認定にあたっては、ピントの調整力がそもそも1.5D以下の場合には、実質的な調節力を失っているとされます。
したがって、健康な眼が検査で1.5D以上の数値が得られなければ、後遺障害等級認定の対象になりません。
また、被害者の方が55歳以上の場合には、上記の表を用いると、もともとのピントの調整力が1.5Dとなるため、後遺障害の認定は得られないことになります。
先ほど記載したとおり、調整力の判断は症状固定の段階で行いますので、交通事故時点で54歳だった被害者が治療を行って、症状固定の段階では55歳になっていた場合には、健康な眼が検査で1.5D以上の数値が得られなければ後遺障害には当たらないことになってしまいます。
もちろん、調整力の後遺症が自賠責保険の後遺障害として認定されるためには、眼に外傷を負うなどして、眼に関する診断が下されていることが必要です。
ピントの後遺症と因果関係
ここまで説明してきた目の調節力機能障害は、加齢とともにもともとピント調整機能が低下するため、交通事故との因果関係が争われることが多いです。
また、目の調節力に異常があったとしても、被害者が眼鏡を使用することで日常生活に不都合が生じない場合には、後遺障害と認定された場合でも、労働能力喪失率について、後遺障害等級表の基準よりも低い喪失率を認定した裁判例があります(東京地判平成元年8月22日)。
東京地判平成元年8月22日の事案では、11級1号の後遺障害が認定されていましたが、20%の喪失率の半分に当たる10%の認定にとどまっています。
このように、目にピントの後遺症が生じた場合には、自賠責保険の後遺障害に認定してもらうために、後遺症が交通事故で生じたということの立証はもちろんのこと、仕事や家事に具体的にどのような影響を与えているかについてもしっかりと主張立証していく必要があります。