高次脳機能障害とは?弁護士が後遺症のポイントについて解説
高次脳機能障害とは、交通事故や労災事故などで頭部に外傷を負ったことで、認知障害、行動障害、人格変化などが起きる障害です。
高次脳機能障害は、外観上、その障害が分からないため、他人から誤解されて本人や家族が辛い思いをされることがあります。
また、本人に障害の存在について自覚がないこともあるため、ご家族が大変な思いをされることもあります。
以下では、高次脳機能障害の症状や相談先、後遺障害等級について詳しく解説していますので、参考にされてください。
この記事でわかること
- 高次脳機能障害の症状
- 高次脳機能障害の相談窓口
- 高次脳機能障害の後遺障害等級
- 適切な賠償金を受け取るポイント
目次
高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害とは、交通事故や労災事故などで頭部に外傷を負ったことで、認知障害、行動障害、人格変化などが起きる障害です。
経験した知識や記憶を関連づけて理解し説明する、計画を立てて行動する、新しいことを記憶する、その場にあった適切な行動をするといった脳の機能に障害が生じてしまうのです。
高次脳機能障害は、脳の内部の問題であり、外観上は健康に見えます。
したがって、他人から見ると、外観上いたって健康そうな人が社会的な行動をとっていないように見え誤解されることがあります。
高次脳機能障害の症状とは?
高次脳機能障害の症状としては、大きく分けて認知障害、行動障害、人格変化の症状があります。
具体的な内容は、下表のとおりです。
認知障害 | 記憶・記名力障害、注意・集中力障害、遂行機能障害などです。 具体的には、以下のような症状です。
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行動障害 |
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人格変化 |
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上記のような症状は、どれか一つというよりも併存して残っていることが多いです。
高次脳機能障害は寝てばかり?
高次脳機能障害が残ってしまった方の中で、ベッドで横になっていることが多くなってしまう方もいらっしゃいます。
高次脳機能障害の症状には、気力が低下し、自発的に物事に取り組めなくなる症状が出ることがありますが、その症状があらわれていると考えられます。
こうした場合、家族は心配するでしょうしどのような対応をしていいのか迷うことでしょう。
簡単なことではありませんが、高次脳機能障害の症状であることを理解して、行動を促すように声かけを続けることになります。
人は、新しいことを実行することよりも、ある程度決められたことを繰り返す方が行動しやすい傾向にあります。
したがって、行動すべきことを決めてあげて習慣づけることで行動を促すことが考えられます。
高次脳機能障害と精神障害
高次脳機能障害でわがままになる?
高次脳機能障害が残った方の中には、好きなものしか食べないなど、こだわりが強くなったり、ちょっとしたことで怒るようになるなど、わがままになってしまっているように感じられる方もいます。
こうした行動も高次脳機能障害の症状であるため、大変なことではありますが、家族は理解した上で、こだわりを尊重しながら、対応していくことが必要になります。
急に怒り出すようなことがあれば、少し距離を置いてクールダウンしてあげるなど工夫して対応することが必要になります。
嘘をつくようになる?
高次脳機能障害の症状の一つとして認知障害があります。
このような認知機能の障害から、物事をうまく説明できなかったり、事実と異なることを言ってしまうことがあります。
本人としては、意図していませんが、他人からすると結果的に嘘を言っていると見えてしまうこともあるでしょう。
したがって、周囲の人から、嘘をついていると誤解されてしまうこともあります。
高次脳機能障害による記憶障害
高次脳機能障害の症状の一つとして記憶障害があります。
人と約束をしたこと、薬を飲んだこと、食事をしたこと、物を買ったことなどの記憶がなくなってしまい、約束を破ったり、同じ物を何度も買ってくるなどしてしまうことがあります。
こうした場合には、メモを取ることを習慣づけるなど、できる限り、記録に残して思い出せるように工夫することが大切でしょう。
高次脳機能障害は治る?
高次脳機能障害の症状は様々ありますが、症状に合わせたリハビリをすることで、一定の治療効果があり、回復が見られる場合があるようです。
もっとも、回復の程度にも限界があり、できる限り早くリハビリを開始した方が治療の効果が出る傾向にあるようなので、症状に気づいたら、早めに病院を受診してリハビリを開始すべきでしょう。
高次脳機能障害の余命
高次脳機能障害者の平均余命は、健常者(病気や障害がない人)の平均余命と比べて短い傾向にあります。
高次脳機能障害の平均寿命に関する資料
東京都福祉保健局の実施した調査結果の報告書によれば、高次脳機能障害者の平均余命は下表のとおりです(一部を抜粋)。
年齢 | 高次脳機能障害者の平均余命 | 健常者の平均余命 |
---|---|---|
5歳 | 53.26年 | 76.30年 |
15歳 | 46.16年 | 66.36年 |
25歳 | 39.08年 | 56.59年 |
35歳 | 32.17年 | 46.87年 |
45歳 | 24.22年 | 37.28年 |
55歳 | 15.78年 | 28.05年 |
65歳 | 8.41年 | 19.52年 |
75歳 | 3.89年 | 12.13年 |
※健常者の平均余命は2023年「簡易生命表」に基づいています。
年齢 | 高次脳機能障害者の平均余命 | 健常者の平均余命 |
---|---|---|
5歳 | 61.78年 | 82.35年 |
15歳 | 54.05年 | 72.40年 |
25歳 | 46.37年 | 64.53年 |
35歳 | 38.84年 | 52.74年 |
45歳 | 30.15年 | 43.01年 |
55歳 | 20.76年 | 33.54年 |
65歳 | 10.98年 | 24.38年 |
75歳 | 4.46年 | 15.74年 |
※健常者の平均余命は2023年「簡易生命表」に基づいています。
引用元:東京都福祉保健局実施の高次脳機能障害者実態調査結果の報告書
高次脳機能障害の原因
高次脳機能障害は、脳に損傷を受けることで発症します。
交通事故や労災事故により頭部に衝撃を受け、脳挫傷、びまん性軸索損傷、くも膜下出血などの傷害を負った場合に、高次脳機能障害を発症する可能性があります。
その他には、脳卒中、脳炎、脳腫瘍などの病気によって発症することがあります。
高次脳機能障害の相談窓口
高次脳機能障害は、本人や家族のみで解決するには難しい問題があります。
抱え込まずに第三者に相談することも検討すべきです。
交通事故や労災事故の場合には、加害者側や会社に対する損害賠償の問題があるため、交通事故に強い弁護士に相談されるべきです。
高次脳機能障害の治療の問題については、治療を受けた病院の脳神経外科やリハビリテーション施設などに相談しましょう。
就労の問題については、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する障害者職業センターにて相談することが可能です。
また、高次脳機能障害の問題は、本人だけでなく家族も大きなストレスを抱える場合があります。
高次脳機能障害を家族にもつ方々が立ち上げられている家族の会もありますので、家族だけで抱え込まず、家族の会に相談されることも検討すべきでしょう。
問題の内容 | 相談先 |
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損害賠償の問題 |
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就労の問題 |
|
治療の問題 |
|
家族の抱える問題 |
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高次脳機能障害の後遺障害認定の特徴と注意点
後遺障害の認定方法
高次脳機能障害が後遺障害として認定されるには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- ① 脳損傷が確認できること
- ② 事故後の意識障害があること
- ③ 高次脳機能障害の症状が出ていること
条件 | 内容 |
---|---|
脳損傷が確認できること | 脳損傷を裏付ける画像検査結果が必要です。 脳挫傷、くも膜下出血、硬膜下血腫などの傷害を負っていることが確認できることが必要です。 |
事故後の意識障害があること | 事故後、一定期間意識障害があることが必要です。 意識障害とは、意識がはっきりしておらず、現在の年月日や自分がどこにいるか分からない、呼びかけないと覚醒しない、呼びかけても覚醒しないなどのことです。 |
高次脳機能障害の症状が出ていること | 認知障害、行動障害、人格変化などの高次脳機能障害の症状が出ていることが必要です。 |
高次脳機能障害の後遺障害等級
高次脳機能障害の後遺障害の等級は、以下のとおりです。
自賠責保険では、下記の認定基準について、「補足的な考え方」を踏まえて認定を行っています。
等級 | 認定基準 | 補足的な考え方 |
---|---|---|
1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 身体機能は残存しているが、高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの |
2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 著しい判断能力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体的動作には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや監視を欠かすことができないもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また、声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業能力などに問題があるもの |
高次脳機能障害の方に対する弁護士の適切な対応の仕方
高次脳機能障害の方の中でも症状の軽重があります。
ある程度、自分の障害を理解して説明できる人もいれば、障害が残ってしまっていることに気づいていない方もいます。
したがって、自分に障害が残っていることに気づいていない方については、家族にもしっかりと話を聞く必要があります。
また、自分の障害を理解している方であっても、全ての障害について理解しているかは分からないため、家族の話を聞く必要があるでしょう。
本人や家族は、高次脳機能障害という障害で大変な思いをされているということを十分に理解して、寄り添って話しを聞くことが大切であると考えます。
高次脳機能障害の慰謝料などの賠償金
高次脳機能障害となった場合には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益を請求することができます。
また、障害の程度によって将来介護費用、将来雑費、自宅改装費用などを請求することができます。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、入院や通院をしたことに対する慰謝料であり、傷害慰謝料とも呼ばれています。
通院期間・日数で慰謝料の金額を計算することになります。
計算方法について詳しくは以下をご覧ください。
また、入通院慰謝料の概算を簡単に計算できる以下の計算シミュレーターもご活用ください。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、後遺障害に認定された場合に請求できる慰謝料です。
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料の金額は下表のとおりです。
等級 | 後遺障害慰謝料額 |
---|---|
1級1号 | 2800万円 |
2級1号 | 2370万円 |
3級3号 | 1990万円 |
5級2号 | 1400万円 |
7級4号 | 1000万円 |
9級10号 | 690万円 |
逸失利益
逸失利益は、後遺障害によって働きづらくなってしまい、将来減収してしまうことに対する補償です。
高次脳機能障害により、認知障害などが生じた場合には、事故前と同じように仕事をすることは難しくなるでしょう。
そのため、離職や転職を余儀なくされ収入が減ってしまう可能性は高いです。
逸失利益はこうした減収に対する補償です。
計算方法について詳しくは以下をご覧ください。
また、逸失利益の概算を簡単に計算できる以下の計算シミュレーターもご活用ください。
将来介護費用、将来雑費、自宅改装費用
将来介護費用
将来介護費用とは、将来にあたって介護が必要となると認められる場合に請求することができる損害項目です。
高次脳機能障害によって、1級1号、2級1号に認定された場合には、将来介護費用を請求することができる可能性が高いです。
3級以下でも請求できる場合はりますが、具体的に介護の必要性を主張立証していく必要があるでしょう。
将来雑費
将来雑費とは、将来において必要となる雑費の賠償です。
例えば、トイレでの排泄が難しい場合にはおむつを使用することになりますので、こうしたおむつの賠償が考えられます。
被害者の状況に応じて必要となる費用も変わってきますので、どのような雑費が必要になるのか、漏れがないように検討して具体的に請求していく必要があります。
自宅改装費用
自宅での介護をする場合、段差がある部分をスロープにしたり、手すりを付けたりるなどしてバリアフリー化する必要があります。
後遺障害が重篤な1級や2級の事案では、こうした自宅改装費も請求することを検討しなければなりません。
家族のストレスについて慰謝料請求できる?
高次脳機能障害は、怒りっぽくなったり、こだわりが強くなったり、記憶力が落ちたりするなどの症状がありますので、一緒に生活する家族も大きなストレスを抱えることがあります。
こうしたストレスについて、交通事故であれば加害者側に慰謝料請求をしたいと思われることも十分に理解できます。
しかし、こうしたストレスのみを原因として家族が慰謝料請求をすることは難しいです。
交通事故によって被害者が寝たきりになってしまうなどの障害を負った場合には、近親者慰謝料として、慰謝料を請求することはできるのですが、同居によるストレスといった理由の慰謝料を請求することは難しいでしょう。
高次脳機能障害で適切な賠償金を得る5つのポイント
高次脳機能障害を放置せずに治療を受ける
交通事故や労災事故で頭部外傷を負ってしまった後に、高次脳機能障害の症状が出た場合には、すぐに病院に行かれることをお勧めします。
高次脳機能障害は、様々な症状が出ますが、リハビリをすることで症状を目立たなくすることもできます。
病院に行かず、家庭内のみで解決することはとても大変なことですし、時間の経過とともに症状が回復しづらくなる可能性もあります。
また、病院に行かないと、高次脳機能障害に関する記録が医療記録に残らないため、後遺障害の認定に影響が出る可能性もあります。
したがって、高次脳機能障害の症状がある場合にはを放置せずに治療を受けることをお勧めします。
日常生活報告書を適切に作成する
後遺障害慰謝料や逸失利益の金額は、後遺障害等級によって数百万円から数千万円変わります。
したがって、適切な後遺障害認定を受けることはとても大切です。
高次脳機能障害の等級の程度は、症状の程度によって変わってきます。
症状の程度の判断資料の一つとして、ご家族などが作成される日常生活報告書というものがあります。
これは、被害者本人の事故前と事故後の生活状況の違いについて説明する書面です。
この書面の中で、事故前と事故後の被害者本人の違いについて、具体的なエピソードを交えて説明することがとても大切です。
必要に応じて、職場の同僚や上司、学校の先生などに話を聞いて書面化して提出することも検討すべきです。
適切な後遺障害認定を受けるためには、適切な日常生活報告書の作成が必要となるため、ご不安なことや記載方法に不安があれば専門の弁護士に相談されることをお勧めします。
適切な賠償金の金額を算定する
高次脳機能障害の場合、逸失利益の金額が大きくなることが多いです。
また、将来介護費用や、将来雑費、自宅改装費用などの計算方法も難しいです。
ちょっとした勘違いや請求漏れによって大きく賠償額が減ってしまう可能性もあります。
したがって、高次脳機能障害で後遺障害に認定された場合には、正確な計算、請求漏れがないように、しっかりと専門の弁護士に相談された方がいいでしょう。
加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらう
高次脳機能障害では、通常の場合では請求できないような損害項目(将来介護費用、将来雑費、自宅改装費用など)があります。
保険会社からの賠償の提示は、被害者の事情を全て加味して必要な損害項目を網羅してくれているわけではありません。
したがって、保険会社からの提示があった場合には、示談する前に専門の弁護士に提示内容を確認してもらうことは、とても大切なことです。
後遺障害の申請を弁護士に任せる
高次脳機能障害の後遺障害の申請にあたっては、通常の必要書類以外にも必要な書類があります。
具体的には、日常生活報告書、神経系統の障害に関する医学的意見、頭部外傷後の意識障害についての所見といった書類が必要になります。
特に日常生活報告書は、被害者側の家族などが作成するもので、上記したとおり、どの等級に認定されるのかを検討するにあたっての判断資料になります。
被害者の事故前後の変化について、弁護士から「◯◯な違いはないか?」といった問いかけから、意識喚起されて、被害者の変化を思い出すといったこともありますので、弁護士が日常生活報告書の作成に関わることで、より正確な報告書の作成が期待できます。
より正確な日常生活報告書を作成することで適切な後遺障害認定を受けることが期待できるため、高次脳機能障害の後遺障害申請にあたっては弁護士に依頼することをお勧めします。
まとめ
高次脳機能障害は、本人だけでなく、そのご家族も大変な思いをされる障害です。
本人や家族だけで解決しようとせずに、各問題に応じて、専門家の力を借りながら問題解決した方がいいでしょう。
損害賠償の問題であれば、弁護士に依頼されることをお勧めします。
高次脳機能障害の場合、賠償金が高額になる傾向にあり、その計算方法も複雑になりがちです。
適切な補償を受けるためには専門の弁護士に相談し、依頼して手続き進めることが大切です。
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