下半身不随による後遺症のポイント|弁護士が解説

執筆者:弁護士 西崎侃 (弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士)


突然の交通事故で下半身不随になられた被害者は、事故以前には当たり前にしていた仕事や日常生活に多大な影響が出て、身体はもちろん、心も痛めて苦しんでおられると思います。

こうした交通事故の問題に巻き込まれると、被害者やご家族の生活は目まぐるしく変化していくため、適切な賠償金を獲得することが、少しでも被害者やご家族の身体や心を癒やすという意味でも大切だと思われます。

この記事では下半身不随になった場合に認定される可能性がある後遺障害等級・賠償額や下半身不随で適切な賠償金を得るためのポイントを記載しておりますので、下半身不随になってしまった被害者やご家族の方のお役に立てれば幸いです。

下半身不随とは

下半身不随とは、交通事故により、下肢(股関節よりも下の部分)が麻痺してしまった状態のことをいいます。

下半身不随は、大きく分けると以下の2つに分けることができます。

  1. ①単麻痺(たんまひ):一下肢(片足)が麻痺してしまった状態となること
  2. ②対麻痺(ついまひ):両下肢(両足)が麻痺してしまった状態となること

また、下半身不随になると以下のような症状がでてくることがあります。

  • 麻痺している下肢を動かせない、動かしにくい
  • 麻痺している下肢の感覚がなくなる、感覚が鈍くなる
  • 麻痺している下肢の筋力が失われる、低下する
  • 腸や膀胱の機能が失われる

 

下半身不随の日常生活への影響

交通事故や労災事故で下半身不随となってしまった場合、片足または両足が麻痺してしまうことになるため、仕事や日常生活に多大な影響が生じることになります

特に、片足または両足が麻痺してしまうと、日常生活を送る上で必要不可欠な歩行が不可能または困難になる可能性があります。

また、ご家族の方は、慣れない介護が必要になってきたり、代わりに仕事を行ったりするなど苦労や負担が大きくなってしまうのが実情です。

このように下半身不随が原因で日常生活に多大な影響が出ると、被害者やご家族の方はこれまでの日常生活が一変してしまうことになるので、今後の生活のためにも適切な賠償金を請求するようにしましょう。

 

 

下半身不随の原因

交通事故や労災事故で下半身不随になる原因として考えられることは、次のようなものです。

脊髄(脳から腰の下部にかけて通っている神経組織)を損傷・骨折したこと

脊髄は、全身に指令を送る役割を担っていますので、交通事故により脊髄が強い衝撃を受けた場合、全身への指令をうまく出すことができなくなり、運動障害や感覚障害が生じ下半身不随になることがあります

なお、MRIやCT等の画像上、脊髄の骨折・脱臼などが明らかでなく、脊髄損傷の所見も明らかでない場合には、脊髄を損傷したかどうかから裁判で争われることが多いです。

脊髄損傷の存否について争われた場合には、裁判所に適切な認定をしてもらうためにも一度経験豊富な弁護士にご相談されることをおすすめします。

頭蓋骨を骨折したこと

交通事故で頭蓋骨が骨折するほどの強い衝撃を頭部に受けた場合、これにより脳が損傷し、下半身不随になることがあります

外部からの強い衝撃によりくも膜下(脳を保護する膜のうち、くも膜と軟膜の間のこと)に出血が広がること(外傷性くも膜下出血)

交通事故により脳が損傷し、くも膜下に出血が広がることで下半身不随になることがあります。

 

 

下半身不随の後遺障害認定の特徴と注意点

交通事故により被害者が下半身不随になってしまった場合、次のような後遺障害等級に認定される可能性があります。

等級 具体的な症状
別表第1第1級1号
  • 高度の対麻痺が認められるもの
  • 中等度の対麻痺であって、食事、入浴、用便、更衣等について常に介護を要するもの
別表第1第2級1号 中等度の対麻痺であって、食事、入浴、用便、更衣等について随時介護を要するもの
別表第2第3級3号 上記以外の中等度の対麻痺が認められるもの
別表第2第5級2号
  • 軽度の対麻痺が認められるもの
  • 一下肢(片足)の高度の単麻痺が認められるもの
別表第2第7級4号 一下肢(片足)の中等度の単麻痺が認められるもの
別表第2第9級10号 一下肢(片足)の軽度の単麻痺が認められるもの
別表第2第12級13号
  • 運動性、支持性、速度等についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの
  • 運動障害は認められないが、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの

いずれの後遺障害等級に認定されるかどうかは、以下のような事情を考慮して判断されます。

  1. ① 麻痺の範囲
  2. ② 麻痺の程度
  3. ③ 介護の必要性、程度
  4. ④ 労務(仕事)が制限される程度

このうち、①麻痺の範囲及び②麻痺の程度については、身体的所見やMRI、CTなどによって立証する必要があります

そのため、主治医の意見書に書いてある麻痺の症状等と、麻痺の範囲及び程度との間に矛盾がないかどうかを確認するようにしましょう。

例えば、主治医の意見書に麻痺している部分のいずれの関節も自動運動(自分の意思で関節を動かすことができること)によっては全可動域にわたって動かすことができると記載されているにもかかわらず、麻痺の程度が高度とされている場合には、主治医に再度意見を求める等の調査が必要になってきます。

後遺障害等級の認定による賠償額や示談のポイントについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。

 

 

下半身不随の慰謝料などの賠償金

交通事故で下半身不随になった場合、次のような慰謝料・費用を請求できる可能性があります。

  1. ① 入通院慰謝料
  2. ② 後遺障害慰謝料
  3. ③ 後遺障害逸失利益
  4. ④ 将来介護費
  5. ⑤ 将来の雑費
  6. ⑥ 器具等購入費
  7. ⑦ 家屋・自動車等改造費

①入通院慰謝料とは、入通院期間に応じた慰謝料のことをいいます。

②後遺障害慰謝料とは、自賠責保険会社や裁判所で後遺障害等級の認定がされた場合に認められる慰謝料のことをいいます。

①入通院慰謝料と②後遺障害慰謝料の相場としては以下のようになります。

慰謝料の種類 慰謝料の決め方 相場
①入通院慰謝料 怪我の程度と入通院期間の長さ 通院1日:約2,711円〜9,333円
入院1日:約7,555円〜17,666円
②後遺障害慰謝料 後遺障害が残ったときの障害の程度(等級) 290万円〜2800万円

※①入通院慰謝料、②後遺障害慰謝料の相場は、すべて弁護士基準(弁護士が入って算定する場合の基準)を前提にしています。

※①入通院慰謝料の下限の金額は、通院期間または入院期間が15ヶ月であった場合の1日あたりの単価となります。したがって、上記期間が15ヶ月を超える場合には、上記相場の金額よりもさらに下がることになります。

③後遺障害逸失利益とは、交通事故で下半身不随にならなければ本来得ることができたであろう利益のことをいいます。

後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算定します。

後遺障害逸失利益
= 1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
具体例
事故前年度の年収が500万円で、交通事故が原因で下半身不随になったことにより後遺障害9級10号に認定された場合には、相場としては約170万円〜4200万円ほどになります。
なお、相場の金額は、弁護士基準(弁護士が入った場合の基準)を前提にしています。
また、労働能力喪失率35%、労働能力喪失期間1年〜45年を前提にしています。

また、上記①〜③以外にも④〜⑦のような項目も請求できる可能性があります。

④将来介護費は、ご家族の方が介護された場合には、1日につき8000円となります。

ただし、具体的な看護状況により上記金額は増減します。

⑤将来の雑費(紙おむつなどの介護用品)は、将来介護が必要な場合に、その実費分の請求をすることができます。

⑥器具等購入費は、車椅子や杖を購入・交換する必要がある場合には、その実費分を請求することができます。

⑦家屋・自動車等改造費は、被害者の下半身不随の程度・内容を具体的に考慮し、自宅や自動車を改造する必要がある場合には、浴室・便所・出入り口・自動車などの改造費を請求することができます。

上記のように、下半身不随になった場合には、請求できる可能性がある項目が数多くあります。

そのため、請求漏れをなくすためにも専門家である弁護士に一度相談するようにしましょう

 

 

下半身不随で適切な賠償金を得る5つのポイント

下半身不随で適切な賠償金を得る5つのポイント

適切な治療を受ける

交通事故の被害者が下半身不随になった場合、交通事故により、脳や脊髄を損傷したことによって片足または両足に麻痺が生じている可能性があります。

そのため、下半身不随になった原因を特定するために、MRI、CT、レントゲン等の画像検査や神経学的検査を受けていただく必要があります

神経学的検査とは、反射機能や感覚機能などの神経機能を確認するさまざまな検査のことをいいます。

MRI、CT、レントゲンの違い
  • MRI:磁力を用いて、身体の状態を撮影する検査方法です。
    そのため、骨以外の身体の組織を確認することに利用できます。
  • CT:X線を用いて、身体の状態を撮影する検査方法です。
    そのため、3次元の画像で骨の状態を確認することに利用できます。
  • レントゲン:X線を用いて、身体の状態を撮影する検査方法です。
    そのため、2次元の画像で骨の状態を確認することに利用できます。

このような画像検査によって、損傷の部位・程度を検査し、下半身不随の原因が特定できた場合には、その原因にあった適切な治療を受ける必要があります。

具体的にどの治療方法を選択するかは、主治医の先生の判断によりますが、例えば、下半身不随の原因が脊髄の損傷である場合には、リハビリ、痛みを緩和するための投薬等の治療方法が有効になることが多いです。

これらの治療を継続することで、下半身の麻痺が少しでも良くなるだけでなく、慰謝料の金額の増額が期待できます。

なぜなら、弁護士が交渉に入った場合に使う慰謝料の基準(弁護士基準)は、原則として通院期間を基準に算定するからです。

そのため、病院に通院し必要な治療・検査を受け、その治療を継続するようにしましょう

交通事故で怪我をした場合の通院回数や頻度等について、詳細は以下の記事をご覧いただければと思います。

 

後遺障害を適切に認定してもらう

交通事故により被害者が下半身不随になってしまった場合、認められる可能性がある後遺障害等級は以下の表のようになります。

後遺障害等級によって支払われる慰謝料の金額が異なるため、適切な後遺障害等級を得ることが重要になってきます。

そして、適切な後遺障害等級を得るためには、どのような証拠が有効的で、どのような証拠を集めれば後遺障害に認定されやすいかなどを徹底的に考える必要があります。

等級 慰謝料の金額
(弁護士を入れた場合)
別表第1第1級1号 2800万円
別表第1第2級1号 2370万円
別表第2第3級3号 1990万円
別表第2第5級2号 1400万円
別表第2第7級4号 1000万円
別表第2第9級10号 690万円
別表第2第12級13号 290万円

※「弁護士を入れた場合」とは、弁護士基準(裁判基準)のことです。

後遺障害等級の認定による賠償金の増額や逸失利益について、詳しく確認されたい場合は以下の記事をご覧ください。

適切な慰謝料の金額を算定する

「適切な慰謝料」とは、事故状況や症状の経過、治療期間等を踏まえて、事故にあったことにより受けた精神的苦痛が適切に反映された賠償金のことをいいます。

弁護士を入れた場合の基準(弁護士基準)で算定された慰謝料であれば、弁護士が事故状況や症状の経過、治療期間等を踏まえて算定するため、「適切な慰謝料」といえます

具体的には以下の表のように差額が生じます。

等級 後遺障害の内容 慰謝料の金額
(弁護士を入れなかった場合)
慰謝料の金額
(弁護士を入れた場合)
別表第1第1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 1650万円 2800万円
別表第1第2級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 1203万円 2370万円
別表第2第3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 861万円 1990万円
別表第2第5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 618万円 1400万円
別表第2第7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 419万円 1000万円
別表第2第9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 249万円 690万円
別表第2第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの 94万円 290万円

※「弁護士を入れなかった場合」とは、自賠責基準のことをいい、「弁護士を入れた場合」とは、弁護士基準(裁判基準)のことをいいます。

例えば、被害者が交通事故で下半身不随になり、「局部に頑固な神経症状を残す」ことになった場合、弁護士が介入した場合と弁護士が介入しなかった場合との間には、196万円もの差が生じることになります。

そのため、下半身不随になってしまったことに対する適切な慰謝料を支払ってもらうためにも経験豊富な弁護士に依頼し、交渉を任せることをおすすめいたします

慰謝料の相場、計算方法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

 

相手方が提示する示談内容は事前に弁護士に確認してもらう

示談とは、お互いに争いのない事実・条件を前提に、お互いの合意によって事件を解決する方法のことをいいます。

示談は、一般的に書面で行うことが多いです。

そのため、示談をする上で大切なポイントは、書面に書かれている金額、条件、支払期限等に誤りがないかを確認することになります。

一度示談をするための書面に署名・押印してしまうと、後から撤回することは非常に難しいので、事前に弁護士に確認してもらう方がいいでしょう。

示談をスムーズに行うためのポイント等について、詳しく確認されたい方は以下の記事をご確認ください。

 

後遺障害等級の認定について詳しい弁護士に相談する

交通事故に遭われた場合、被害者が行うこととしては、以下のようなことが挙げられます。

  • 可能な限り治療やリハビリを行う。
  • 適切な治療期間・慰謝料を認めてもらうなどの交渉を相手方保険会社と行う。
  • 適切な後遺障害等級を獲得する。

下半身不随になってしまった被害者やご家族の方が、治療やリハビリと並行しながらこのようなやり取りをすべて行いながら示談するというのは、負担が大きいものです。

そのため、相手方保険会社とのやり取りや手続きなどを早い段階から弁護士に任せることで、被害者やご家族の方は治療、リハビリ、介護等に専念していただくことができるうえ、適切な賠償金の獲得や請求漏れがなくなることなどが期待できます。

弁護士への依頼によるメリット・デメリット等について、詳しくご覧になりたい方は以下をご確認ください。

 

 

まとめ

以上、下半身不随になった場合に認定される可能性がある後遺障害や賠償金、下半身不随で適切な賠償金を得るためのポイントについて詳しく解説いたしました。

交通事故や労災事故で下半身不随となってしまった場合、被害者やご家族の方はこれまでの日常生活が一変してしまうことになるので、仕事や日常生活に多大な影響が生じることになります。

また、下半身不随が原因で後遺障害が残ってしまった場合、適切な後遺障害等級を認めてもらい適切な慰謝料等を獲得することが重要です。

当法律事務所は、それぞれの弁護士が得意分野をもっており、交通事故の分野では後遺障害認定相当の案件を取り扱う人身障害部の弁護士が対応いたします。

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