中心性脊髄損傷とは?弁護士が後遺症のポイントについて解説
中心性脊髄損傷(ちゅうしんせいせきずいそんしょう)とは、交通事故によって首に強い衝撃が加わることが原因で、脊髄(せきずい)の中心部が損傷される傷病です。
首や背中の骨の骨折を伴わないことが特徴です。
人体の中心部の神経である脊髄を損傷をしていますので、回復が困難な重症となることもあります。
以下では、中心性脊髄損傷の原因や症状、後遺障害認定や賠償額の相場について解説いたします。
目次
中心性脊髄損傷とは
中心性脊髄損傷(ちゅうしんせいせきずいそんしょう)とは、首に強い衝撃が加わり、首や背中の骨折などはないものの、脊髄の中心部が損傷される傷病です。
脊髄の神経は、脊柱(背骨)の空洞を通っています。
脊髄神経は、全身のあらゆる動きを支配していますので、脊髄損傷のため、脊髄神経が損傷すると、体の動きに支障を来たすことになります。
脊髄を輪切りにすると、上半身を支配する神経は、脊髄神経の中心寄りに位置しています。
この頚椎を輪切りにしたものが上の図になります。
そのため、中心性脊髄損傷となった際には、上半身の神経症状が強く現れます。
中心性脊髄損傷の症状
先ほど説明したとおり、中心性脊髄損傷となった場合、上半身の神経症状が強く現れますので、上半身の動作がうまくできなくなることが症状です。
具体的には、手のしびれ、温覚(温かさの感覚)や痛覚(痛みの感覚)への影響があります。
手のしびれ
中心性脊髄損傷の上半身の神経症状として代表的なものは、手のしびれがあります。
正座をしていて脚がしびれた経験は多くの方にあるかと思いますが、そのようなしびれが手にあるような状況です。
手を使う細かい作業、例えば、箸を使った食事や裁縫など日常生活に必要な動作が難しくなることがありますので、日常生活への影響は大きいと言えるでしょう。
温覚や痛覚への影響
中心性脊髄損傷になると、腕や手の感覚の麻痺が起こることがあります。
触られたことを感じること(触覚)、暖かさ・冷たさを感じること(温格、冷覚)、痛さを感じること(痛覚)などの感覚を感じにくくなります。
そのため、日常生活において思わぬ怪我や火傷の原因となってしまうこともあり得ますので、そういった意味でも日常生活への支障は大きいでしょう。
中心性脊髄損傷のリハビリ
中心性脊髄損傷の場合、概ね半年から1年程度のリハビリ治療を行うことが多いですが、脊髄損傷は回復が難しいため、マヒなどの症状が残る可能性もあります。
中心性脊髄損傷は、大きな事故を原因とすることが多いため、救急措置が最優先で行われます。
また、数日から数週間程度、脊髄の損傷部位以下の反射が喪失することもあり、安静を保持することになります。
受傷後、損傷レベルによって差があるものの、1か月から3か月の時期は大きく回復の傾向があります。
受傷後1か月後頃から脊髄の損傷部位以下の反射が再び現れるものの、脊髄の損傷箇所に対応する部位がうまく動かせない状況が起こるようになります。
その後、徐々に脊髄の神経が回復し、マヒの領域も小さくなります。
受傷後3か月から4か月程度で回復の度合いが小さくなります。
マヒの回復は、徐々に進みますが、6ヶ月を過ぎると大きな回復が見られなくなり、リハビリを行っても大きな効果がなくなってくるので、リハビリ治療の終了時期とされることが多いです。
概ね6か月〜1年程度で治療終了(完治とは限りません)して、後にお話します後遺障害申請・示談交渉へと進めていくことになります。
中心性脊髄損傷はどれくらいで治る?
中心性脊髄損傷は概ね6か月〜1年ほどは回復に向かいますが、それ以後は、なかなか回復しないようです。
脊髄の神経は、一度傷ついてしまうと、将来に渡ってなかなか回復しないため、一生残ってしまう可能性もあります。
中心性脊髄損傷の原因
中心性脊髄損傷とは、交通事故によって首に強い衝撃が加わり、椎体(脊髄を覆っている骨)の骨折などはないものの、脊髄の中心部が損傷される傷病です。
交通事故や労災事故の衝撃により、首が勢いよくのけぞることによって、首の骨の中を走っている脊髄が損傷を受けることで起きます。
中心性脊髄損傷の後遺障害認定の特徴と注意点
中心性脊髄損傷の治療を継続しても、感覚の異常やマヒが残った場合には、神経症状に関する後遺障害として、以下の認定を受けられる可能性があります。
症状 | 等級 |
---|---|
せき髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの | 5級2号 |
せき髄損傷のため、軽易な労務以外には服することができないもの | 7級4号 |
神経系統の機能に障害を残し、服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの | 9級10号 |
局部に頑固な神経症状を残すもの | 12級13号 |
局部に神経症状を残すもの | 14級9号 |
中心性脊髄損傷の治療を行っても、脚に強いマヒが残った場合には、「せき髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」として5級2号に認定される可能性があります。
例えば、右脚に強いマヒが残り、意識的に動かすことのできないような場合には、5級2号に該当する可能性があります。
中心性脊髄損傷の治療を行っても、脚に相当程度のマヒが残った場合には、「せき髄症状のため、軽易な労務のほかに服することができないもの」として7級4号に認定される可能性があります。
例えば、右脚に相当程度のマヒが残り、杖なしに階段を登ることもできず、かつ、感覚の異常がある場合には、7級4号に該当する可能性があります。
中心性脊髄損傷の治療を行っても、マヒや極めて強いシビレが残った場合には、「神経系統の機能に障害を残し、服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの」として9級10号に認定される可能性があります。
例えば、右腕の一部にマヒが残り、自動車の運転が危険である程度のものである場合には、9級10号に該当する可能性があります。
中心性脊髄損傷の治療を行っても、感覚障害や軽度のマヒが残った場合には、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級13号の認定が受けられる可能性があります。
12級13号の認定の基準は、治療終了後も、通常の労働は可能であるものの、時には、強度のしびれや軽度のマヒがあるため、仕事にある程度の支障があることです。
また、12級13号に認定されるためには、その症状について、医学的な証明があることが必要になります。
中心性脊髄損傷の治療を行っても、感覚の異常が残った場合には、「局部に神経症状を残すもの」として14級9号の認定が受けられる可能性があります。
14級9号の認定の基準は、治療終了後も、広い範囲で蟻走感(虫が腕を這うようなムズムズする感覚)が広い範囲にあることです。
また、14級9号に認定されるためには、上記の異常があることについて、医学的な説明が可能であることが必要になります。
後遺障害認定に関しての注意点
中心性脊髄損傷は、骨折を伴わないため、骨髄神経の異常が発見されないと、適切な等級が認定されない可能性があります。
先ほど、ご説明しました、12級13号が認定されるためには、「医学的な証明」が必要となりますが、骨髄神経の異常が発見されないと、むちうち症と同様の扱いになり、12級以上の重い等級に認定される可能性は極めて低いでしょう。
そのため、早期の段階でしっかりと検査を行い、中心性脊髄損傷(あるいは中心性頸髄損傷)と診断してもらう必要があります。
中心性脊髄損傷の慰謝料などの賠償金
中心性脊髄損傷の場合には、入通院期間に応じて発生する入通院慰謝料や、後遺障害認定がされた場合の後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益などを請求することができます。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故で怪我をした人が怪我をして入院や通院を強いられたという精神的苦痛に対する慰謝料です。
入通院慰謝料の金額は、入院期間、通院期間、比較的重症かどうかという項目に応じて算定されます。
入通院慰謝料の弁護士基準は、以下の表のとおりです。
例えば、比較的重症で3か月入院をし、その後、6か月通院をした場合、弁護士基準で計算すると、入通院慰謝料211万円となります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ってしまい、仕事や日常生活に大きな支障が生じたことに対する慰謝料になります。
後遺障害慰謝料は、後遺障害の等級に応じて相場があります。
各等級に応じた後遺障害慰謝料の相場は以下の表の通りです。
等級 | 後遺障害慰謝料 |
---|---|
5級 | 1440万円 |
7級 | 1000万円 |
9級 | 690万円 |
12級 | 290万円 |
14級 | 110万円 |
(非該当) | 0円 |
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が原因で仕事がしづらくなり、収入の減少が発生したことに対する賠償です。
逸失利益は、以下の計算式で計算をします。
そして、上記の計算式のうちの労働能力喪失率が等級に応じて大きく変動します。
労働能力喪失率の表の抜粋は以下のとおりです。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
5級 | 79% |
7級 | 56% |
9級 | 35% |
12級 | 14% |
14級 | 5% |
(非該当) | 0% |
中心性脊髄損傷の場合に請求できる賠償金は他にもあります。
例えば、治療費、休業損害、装具費用、入通院の交通費などです。
これらの賠償金についての解説と相場については下記のページをご覧ください。
中心性脊髄損傷で適切な賠償金を得る6つのポイント
①早期にMRIの撮影を行う
交通事故に遭って、首が強烈にのけぞるような形となった場合、速やかに病院での診察を受けて、早期にMRI撮影を受けるべきです。
頚椎の骨折の可能性がある上、中心性脊髄損傷は外傷を伴わないためMRI撮影をしないとはなかなか中心性脊髄損傷であることがわからないためです。
また、交通事故から時間が経ってからのMRI撮影の場合、「今回の事故とは関係ないため、治療費は払わない。」などと保険会社が争ってくる可能性がありますので、早めのMRI写真は、保険会社から事故と中心性脊髄損傷の関係性を争われた際に有力な資料となります。
また、早期に症状を発見することによって適切な治療を受けることにもつながります。
②適切な治療を継続して行う
MRI撮影などの検査を受けたのちには、適切な治療を受けることが重要となります。
医師の指示に従って、リハビリに励むことが何よりも回復につながります。
しっかりとリハビリを行ったことは、医療記録として記録されますので、後遺障害申請や裁判となった場合に有力な証拠となります。
さらに、入通院慰謝料は、治療の期間が長期であるほど高額になるため、適切な額の慰謝料を獲得するためにも、しっかりとリハビリなどの治療を行う必要があります。
通院の期間と慰謝料の金額の関係については、こちらをご覧ください。
③後遺障害を適切に認定してもらう
腰椎圧迫骨折で適切な賠償金を獲得するためには、適切な等級の認定を受けることが重要です。
MRI検査やリハビリの継続は、適切な後遺障害等級を獲得するために向けられたものでもあります。
後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料は、どの等級に認定されたかによって金額が変わりますが、例えば以下のようなケースでは、受け取ることのできる賠償金に大きな差が生まれます。
基礎収入(年収)500万円の42歳のケースで、右手にマヒが残って9級が認定された場合と、マヒが軽度と認定された12級を比較します。
9級10号 | 12級13号 | |
---|---|---|
後遺障害逸失利益 | 3047万2925円 | 1218万9170円 |
後遺障害慰謝料 | 690万円 | 290万円 |
合計 | 3737万2925円 | 1508万9170円 |
差額 | 3737万2925円-1508万9170円 =2228万3755円 |
このように、9級か12級かでもらえる金額が2200万円以上もの大差があることがわかります。
このことから、後遺障害を適切に認定してもらうことは重要です。
後遺障害が認定された場合に請求できる賠償の項目について詳しくはこちらをご覧ください。
④適切な賠償金の金額を算定する
交通事故における慰謝料とは交通事故で怪我をした人の精神的な苦痛に対する賠償金です。
痛みの感じ方や治療の状況は、ケースによって異なりますので、入院・通院の期間や、後遺障害の等級を基準として、計算される相場があります。
この慰謝料の相場が、弁護士基準、任意保険基準、自賠責基準といった各基準になります。
基準の種類 | 内容 | 金額 |
---|---|---|
弁護士基準 | 弁護士が入り交渉する基準 | 適正額(裁判水準) |
任意保険基準 | 保険会社が提示する基準 | 低い |
自賠責基準 | 自賠責保険の基準 | 最も低い |
適切な賠償金についてのシミュレーションはこちらのページをご参照ください。
⑤加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらう
治療終了して、後遺障害認定の結果が決定した後には、保険会社から賠償案(示談の案)が送付されます。
保険会社の送付する賠償案は、多くの場合、任意保険会社基準で計算されたものです。
先ほどご説明しましたとおり、任意保険会社基準は、弁護士の提示する弁護士基準と比べると少額になります。
そのため、合意前に一度は、賠償金が適切かどうか、場合によっては、交通事故に詳しい弁護士が代理人として交渉を行うべきか確認された方が良いでしょう。
しかし、免責証書にサインをして、相手方任意保険会社へ送付している場合には、弁護士が代理人となって交渉を行うことは不可能となります。
免責証書にサインをして、相手方保険会社へ送付した段階で、「保険会社の案に応じます。」という意思表示を行なったことになるためです。
そのため、加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらい、場合によっては、交通事故に詳しい弁護士に依頼をすべきでしょう。
弁護士による示談の内容について詳しくはこちらをご参照ください。
⑥後遺障害に詳しい弁護士に早い段階で相談する
先ほどご説明しましたとおり、腰椎圧迫骨折で適切な賠償金を獲得するためには、治療の初期の段階でMRIの撮影を行うなど、早目に対応すべきことがあります。
早い段階で後遺障害に詳しい弁護士に相談しておくと、その段階から、今後の動きや、適切な治療や適切な賠償金を受けるための方針を打ち合わせることができます。
そのため、後遺障害に詳しい弁護士に早い段階で相談するべきでしょう。
まとめ
ここまで、中心性脊髄損傷について解説しました。
中心性脊髄損傷においては、MRIなどの撮影がなければいわゆるむちうち症との区別がつかず、適切な後遺障害に認定されず、その結果適切な賠償金を獲得することができなくなることもあり得ます。
そのような事態を避けるためには、専門的な知識が必要になるため、人身障害に詳しい弁護士へ可能な限り早く相談されるべきです。
当事務所においては、交通事故に特化した人身障害部を設けており、交通事故に精通した弁護士が皆様を強力にサポートしています。
交通事故を含む人身障害に関するご相談は、初回は無料でご相談いただけます。
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