交通事故で後遺症が残ったら慰謝料を請求できる?【自動計算機】
交通事故で後遺症が残ってしまった場合は、「後遺障害慰謝料」という独自の慰謝料を請求することができます。
交通事故に遭うと、時に、治療しても治る見込みのない後遺症を負ってしまうことがあります。
後遺症が残ってしまった場合には、そのことにより被った精神的損害を償ってもらうために、「後遺障害慰謝料」を請求することができます。
この記事では、後遺症が残った場合に請求できる慰謝料について、どのような基準で算定されるのか、相場はどうなっているのか、後遺障害慰謝料以外に請求できる損害項目は何か、慰謝料等を受け取るための手続き・費用はどうなっているのか、注意すべき点は何か、といったことについて解説していきます。
皆様の参考になれば幸いです。
目次
後遺症が残ったら慰謝料を請求できる?
後遺症が残る、とは、ケガなどにより身体に何らかの症状が残ってしまい、治療をしても改善が望めない状態になることを言います。
交通事故に遭って後遺症が残った場合は、被害者は一生涯にわたって不自由な思いをすることになってしまいます。
これは、大変辛いことです。
後遺症としてよく見られるものには、
- 痛みが残る
- 手足や指を失う
- 傷跡が残る
- 目や耳が悪くなる
- 臓器の機能に障害が残る
- 身体が思うように動かなくなる
といったものがあります。
酷い場合には、全身を動かせなくなり、常に介護を要する状態になることもあります。
こうした後遺症が残ってしまうと、被害者は、日常的に大変苦しい思いをし続けることになってしまうのです。
このような後遺症により生じる精神的苦痛に対し、民法は、損害賠償(慰謝料)を請求する法律上の権利を認めています(民法710条)。
後遺症が残った場合に請求できる慰謝料のことを、後遺症の慰謝料、後遺障害慰謝料などと呼びます。
後遺障害とは、後遺症のうち、自賠責保険の基準によって障害として評価することとされたもののことです(ただし、場合によっては後遺症と同じ意味で使われることもあります)。
後遺症の慰謝料とは?
後遺症の慰謝料(後遺障害慰謝料)とは、交通事故などで後遺症を負ってしまった場合に、そのことにより被った精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
まずは、後遺症の慰謝料を含め、交通事故で問題となる慰謝料について簡単にご紹介します。
慰謝料には3つの種類がある
交通事故で支払われる慰謝料には、次の3種類があります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害(後遺症)慰謝料
- 死亡慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故によるケガで入院や通院をした場合に支払われる慰謝料です。
入通院慰謝料は、実際に入院・通院した期間に応じて支払われます。
そのため、通院が必要と言われていても、実際に通院していなければ、入通院慰謝料は支払われません。
なお、入通院慰謝料は、後遺障害慰謝料がもらえる場合にも、別途請求することができます。
後遺障害(後遺症)慰謝料は、上でもご説明したとおり、事故で後遺症が残った場合に支払われる慰謝料です。
後遺障害慰謝料については、次の項でご説明します。
死亡慰謝料は、交通事故によって被害者が死亡した場合に支払われる慰謝料です。
死亡慰謝料額は、被害者が家族の収入を支えていたか否かなどによって変わってきます。
例えば、弁護士が損害賠償の算定基準として用いる「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)」(日弁連交通事故相談センター東京支部編)(通称「赤い本」)では、死亡慰謝料の基準は次のようになっています。
交通事故の慰謝料については、以下のページでも詳しく解説しています。
後遺障害慰謝料について
後遺障害慰謝料は、交通事故で後遺障害を負ったことによる被害者の精神的な苦痛を補償するものです。
交通事故に遭った方の中には、事故でけがをしたことにより、身体に何らかの障害が残ってしまい、治らなくなってしまう人もおられます。
例えば、交通事故で肩を骨折したような場合に、治療して骨折自体は治ったけれども、慢性的な痛みが続くようになってしまった、動かせる範囲が狭くなってしまった、というような症状が残ってしまい、これ以上治療をしても良くならない状態になってしまったとします。
このように、今後治療を続けても改善の見込みがない症状のことを後遺症といいます。
交通事故の賠償に関する場面では、この後遺症について、補償対象として取り扱うか否かの基準を定めた「後遺障害」という等級制度が設けられています。
この後遺障害に該当する後遺症が残っていることが認められると、後遺障害等級によって定められた逸失利益の割合、慰謝料額などをもとに賠償が進められていきます。
なお、後遺症自体は残っていても、「後遺障害」に当たらないとされてしまうと、後遺障害慰謝料や労働能力の一部喪失による逸失利益の賠償を求めることは難しくなります。
ただし、後遺障害等級表に明確には記載されていない後遺症であっても、後遺障害等級表記載の後遺障害に相当する後遺症があると認められると、後遺障害慰謝料などを請求できる場合があります。
後遺障害等級表を見ただけで、「私の症状とは違う・・・」とあきらめてしまわず、まずは交通事故による損害賠償請求に詳しい弁護士に相談してみましょう。
後遺障害慰謝料については、以下のページでも詳しく解説しています。
後遺症が残ったときの慰謝料の相場
端的に示すと、後遺症の慰謝料の相場は、110万円~2800万円(弁護士基準の場合)程度となっています。
非常に大きな幅がありますが、これは、後遺障害の等級ごとに、後遺障害慰謝料が大きく異なるからです。
また、上記の金額は「弁護士基準」と呼ばれる基準によって算定した場合の金額になります。
弁護士基準は裁判でも用いられる基準ですので、裁判を起こして後遺障害慰謝料を請求した場合にも同じような金額が認められると考えられます。
なお、各等級での慰謝料額(弁護士基準)は、「弁護士基準について」の項で解説しています。
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交通事故の被害に遭うと、いずれは相手方の保険会社から賠償額の提示があるでしょう。
しかし、相手方の保険会社から提示された賠償額は、必ずしも妥当なものとは限りません。
むしろ、保険会社から提示される賠償額は、本来被害者が受け取ることができる金額の相場を下回る傾向にあります。
交通事故の賠償に関する話合いは「交渉」なので、相手方は相手方で、自分にとってなるべく有利なように提案をしてきます。
そうすると、被害者側もきちんとした知識を備えて、自分の権利を守れるようにしておかなければなりません。
しかし、ほとんどの場合、被害者の方は交通事故に遭うことは初めてで、交通事故での損害賠償についての専門知識など持っていません。
そのため、相手方から提示された賠償額が妥当なのかそうでないのかも、簡単には判断できません。
「保険会社が言うのだから、妥当な額なのだろう」などと安易に考えて、サインをしてしまうと、後々後悔することもあります。
こうした事態に陥らないためにも、交通事故に遭ってしまった場合には、早いうちから弁護士に相談しておくことをお勧めします。
しかし、弁護士に相談する前に、まずは手早く賠償額の目安を知りたい、という方もおられるでしょう。
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後遺症の慰謝料の計算方法
慰謝料の計算は3つの基準がある
交通事故の慰謝料を計算する基準には、次の3つがあります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準
それぞれの基準について解説します。
自賠責基準について
自賠責基準についてご説明する前に、まずは「自賠責」について簡単にご説明します。
自賠責とは、自動車損害賠償責任保険の通称です。
自賠責は、自動車の利用増加により人身事故が増えたため、被害者が全く補償を受けられない状況を無くすために、自動車の利用者全体でそうした事故の被害者への賠償を負担する制度として設けられています。
自賠責には、自動車やバイクを運転する場合には必ず入らなければなりません。
そのため、自賠責は、「強制保険」とも呼ばれています。
自賠責基準は、この自賠責での賠償額の算定のために用いられる基準です。
自賠責は、自動車を運転する全員に加入が義務付けられているため、加入者の負担を重くしすぎるわけにはいきません。
そのため、自賠責から支払われる賠償額は低めに抑えられる傾向があり、自賠責基準による算定額は3つの基準の中で最も低くなる傾向にあります。
自賠責基準は、自動車損害賠償保障施行令において定められています。
この自賠責基準によると、後遺障害慰謝料は、残った後遺症の後遺障害等級に従って定められます。
後遺障害等級は、後遺障害の内容・程度によって第1級から第14級までの等級として、自賠責基準と同じく、自動車損害賠償保障施行令において定められています。
この等級によって、慰謝料額や、逸失利益を算定する際に必要となる労働能力喪失率などが決せられます。
自賠責基準での後遺障害慰謝料の額は、以下のようになっています。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料額 |
---|---|
第1級 | 1650万円~1850万円 |
第2級 | 1203万円~1373万円 |
注:別表第1に該当する場合は、初期費用等として、第1級には500万円、第2級には205万円を加算する。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料額 |
---|---|
第1級 | 1150万円~1350万円 |
第2級 | 998万円~1168万円 |
第3級 | 861万円~1005万円 |
第4級 | 737万円 |
第5級 | 618万円 |
第6級 | 512万円 |
第7級 | 419万円 |
第8級 | 331万円 |
第9級 | 249万円 |
第10級 | 190万円 |
第11級 | 136万円 |
第12級 | 94万円 |
第13級 | 57万円 |
第14級 | 32万円 |
参考:自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準|国土交通省
上の表のとおり、自賠責基準では、後遺障害慰謝料は、32万円~1850万円になります。
なお、別表1と、別表2の第1級から第3級において、後遺障害慰謝料額に幅が設けられているのは、被扶養者がいるか否かによって、慰謝料額に差が設けられているためです。
この金額は、自動車損害賠償保障施行令別表第1、別表第2、令和元年金融庁・国土交通省告示第3号に規定されています。
自賠責基準について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
任意保険基準について
上に見たように、強制加入の自賠責から支払われる慰謝料など損害場所の額は低く、それだけでは被害者への賠償の全てを賄うことはできません。
そこで、多くの人は、車を運転する際、各保険会社が提供する自動車保険に加入し、事故が起きた際の賠償金の支払いに備えています。
このような、各自が任意に選んで加入する自動車事故に備えた保険を、「任意保険」といいます。
任意保険基準は、こうした任意保険を提供している保険会社が、各社で独自に内部的に設定している基準です。
任意保険基準は、保険会社を通じた交渉の際に用いられます。
交通事故が起きると、加害者と被害者は、通常、まずはそれぞれが加入している保険会社を通じて、賠償金額などについて交渉することになります。
この際に、加害者側の保険会社が、その会社の内部基準(任意保険基準)で賠償額を提示してきます。
こうした提示の際、書面に「弊社基準」などと書いてあることがありますが、この「弊社基準」こそ、その会社の任意保険基準になります。
任意保険基準は、保険会社の内部基準なので、外部に公表はされていませんし、各社によって違いもありますが、多くの場合、自賠責基準よりは高額になっています。
ただ、保険会社は、事情により、自社の任意保険基準よりも低額での支払い提案をしてくることもありますし、自賠責基準を用いて計算しているケースもあります。
また、任意保険基準は、裁判でも使用される弁護士基準よりも低い水準とされていることがほとんどです。
このように、保険会社からの提示額は、適正な金額とされていない可能性も十分ありますので、よく注意しなければなりません。
弁護士基準について
弁護士基準は、弁護士が慰謝料などの賠償金を算定する際に用いる基準です。
弁護士も関与して交渉をすることになると、この弁護士基準を用いて慰謝料額などが算定されるようになります。
弁護士基準は、裁判所の基準とも一致するものとなっており、裁判基準ともいわれます。
弁護士基準は、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)」(日弁連交通事故相談センター東京支部編)(通称「赤い本」)に掲載されています。
弁護士基準では、各等級での後遺障害慰謝料額は以下のように定められています。
後遺障害等級 | 慰謝料額 |
---|---|
第1級 | 2800万円 |
第2級 | 2370万円 |
第3級 | 1990万円 |
第4級 | 1670万円 |
第5級 | 1400万円 |
第6級 | 1180万円 |
第7級 | 1000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
この表をご覧いただくと、弁護士基準による後遺障害慰謝料は、上でご説明した自賠責基準により算定した額と比べると約1.5倍~3倍程度の金額になっていることが分かります。
任意保険基準でも、これ以上の額となることはまずありません。
弁護士基準により算定した慰謝料額が最も高額であることがお判りいただけるかと思います。
弁護士基準による慰謝料の算定、自賠責基準との違いについては、以下のページもご覧ください。
慰謝料は弁護士基準が最も高額で適正であること
上の3つの基準の中では、弁護士基準が最も高額かつ適正なものとなっています。
弁護士基準の賠償額が他の基準に比べて高額なことは、上でもご説明したとおりです。
さらに、弁護士基準=裁判基準ですので、最終的に裁判で損害賠償を請求した場合の金額を踏まえての解決案となるため、妥当性が担保されることにもなっています。
ただ、弁護士基準による賠償額の計算を適切に行うのは、専門家でなければ難しいです。
そのため、高額で妥当な賠償額を得るためには、自分でも弁護士を立てることが重要となります。
特に、後遺症が残ったケースや一家の稼ぎ手が死亡してしまったケースでは、将来安心して生活するためにも、不当に低い金額で示談をしてしまうことは避けなければなりません。
それほど大きなけがではないと思っていても、後になって後遺症が残ることが分かる場合もあります。
交通事故でけがをしたら、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
なお、場合によっては、提案してきたのが相手方の弁護士であっても、弁護士基準によることなく提案が行われることもありますので、注意が必要です。
このような提案が行われることがあるのは、早期に解決することが被害者のメリットにもなる、という考え方があるからです。
確かに、交渉段階であれば、裁判までせず早期に解決すること自体が被害者の方にとってメリットとなり得ます。
そのため、相手方の弁護士としては、「早く和解するため加害者側も納得できる金額を提示することは、不当な行為とはならない」と考えて、裁判の最終的な結論として見込まれる金額よりは低い額での和解を提案することがあるのです。
このように、相手方の弁護士からの提案額が必ずしも裁判にした場合の金額と同額となっているとは限らないことを知っておきましょう。
もちろん、早期解決することが被害者にとっても良いことである場合も多いので、状況によっては、弁護士基準よりも低めの額で示談をすることも有意義な場合はあります。
しかし、どういう解決を選ぶにせよ、提案額が、本来の弁護士基準=裁判基準とどの程度の差があるのかは、きちんと知った上で判断したいものです。
提示された和解内容をきちんと理解し、納得して交渉を進めるためにも、交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
後遺症があるときは後遺障害慰謝料以外も請求する
後遺症がある場合に請求できる金額は、後遺障害慰謝料に限られるものではありません。
次は、後遺障害慰謝料以外の項目についても解説していきます。
後遺症があるケースの損害賠償項目一覧
後遺症があるケースで損害賠償を請求できる項目には、以下のようなものがあります。
- 入通院慰謝料
- 休業損害
- 逸失利益
- 治療費などの積極損害
それぞれについて簡単に解説します。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、上でもご説明したとおり、交通事故などによるケガのために入院したり通院したりした場合に請求できる慰謝料です。
入通院慰謝料は、実際の通院期間、入院期間に応じて支払われます。
とはいえ、必要以上に頻繁に又は長期に通院した場合には、その日数全てに応じた慰謝料が認められるわけではありません。
事故後すぐに受診していなかった場合や、通院を中断していた期間がある場合にも、入通院慰謝料が認められないことがあります。
病院には、医師の指示に従って、継続的に、適切な頻度で通うようにしましょう。
入通院慰謝料の詳しい説明や計算方法、請求するためのポイントについて知りたい方は、以下のページをご覧ください。
休業損害
交通事故によるケガやその治療のために、仕事を休まなければならなくなることや、十分に働けなくなることもあります。
そうした事態が起きた場合は、休業損害を請求することができます。
休業損害が認められるには、現に休業していること、あるいは、現に収入が減少していることが必要です(ただし、有休を使用しても問題はありません)。
主婦・主夫の家事労働の場合など、元々現実収入を得ていない場合は、その労働の金銭的価値を評価し、さらに、どの程度働けなかったかも認定して、休業損害を計算することになります。
弁護士基準の場合、実際の収入額を基にして、実際に休業した日数分の休業損害を計算します。
具体的には、サラリーマンの場合、事故前の直近3か月の給与の総額を90日で割った金額を1日分の単価とし、その金額に休業日数を乗じて計算します。
被害者にとっては、この考え方が有利となる場合が多いので、弁護士基準を用いて損害を計算するべきです。
ただ、被害者の収入額が少ない場合は、自賠責基準による方が有利な場合もあります。
自賠責基準では、1日当たりの休業損害は原則6100円とされています。
そのため、事故前の直近3か月の給与の合計額が、6100 × 90 = 54万9000円(1か月分18万3000円)を下回るようであれば、自賠責基準で計算した方が、休業損害が多くなります。
なお、自賠責基準でも、収入が日額6100円を超えることが明らかな証明資料(給与明細、源泉徴収票など)を提出すれば、休業損害の増額が認められます。
ただし、上限額は1万9000円となっており、これを超える休業損害は認められません。
なお、以上の解説は、休業日が連続していた場合を前提としております。
休業した日が連続しておらず、とびとびになっている場合は、弁護士基準では、事故直近3か月の給料の合計を実労働日数(実際に働いた日数)で割って一日当たりの単価を計算します。
90日で割るよりも、こちらの方が被害者にとって有利になります。
そのため、自賠責基準の方が有利になる収入の水準も変わってきますので、注意が必要です。
休業損害についてより詳しく知りたい方、サラリーマン以外の休業損害の計算方法を知りたい方は、以下のページをご覧ください。
逸失利益
逸失利益とは、交通事故によって後遺障害が残った場合、又は死亡してしまった場合に、これによって得られなくなってしまった収入のことをいいます。
これも交通事故による損害ですので、加害者に賠償する責任があります。
逸失利益と休業損害は、どちらも事故により収入が減少した損害となりますが、発生する時期が違います。
休業損害は、後遺症の場合なら症状固定(死亡した場合なら死亡)までの間に生じた減収を対象としています。
他方、逸失利益は、後遺症の症状固定後(死亡した場合なら死亡後)に生じる減収を対象としています。
逸失利益の計算式は、次のようになります。
それぞれの項目について簡単にご説明します。
基礎収入
基礎収入は、逸失利益を算定する際の基礎とされる「事故がなければ得られたであろう収入の額」です。
基礎収入は、休業損害の場合と同様に、交通事故前に被害者が得ていた収入を基に算定されます。
会社員であれば、原則として、交通事故に遭う前の年収を基礎収入とすることになります。
自営業者の場合であれば、確定申告をしていれば、最新の確定申告の所得額を基礎収入とします。
ただし、青色申告控除や専従者控除など、税金上の優遇措置を利用しているだけで実際の出費を伴わない控除については、所得額に加算して考えます。
自営業者で確定申告をしていない場合は、①どれだけの収入を得ているかを具体的に証明していく、又は②賃金センサス(平均賃金)を用いるといった方法で基礎収入を算定します。
一方、主婦(主夫)、乳幼児、学生、無職者などの場合は、現実収入がないので、賃金センサスを用いて基礎収入を算定することになります。
引退していて就労する見込みがない高齢者については、弁護士基準では、交通事故がなかったとしても収入を得る見込みがなかったのだから、交通事故による減収もなく、逸失利益は認められないこととなります。
ただ、自賠責基準では、高齢で無職の場合でも一定の逸失利益を認める場合があります。
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、働いて収入を得る能力を失ってしまった割合のことで、後遺障害等級第〇級であれば〇%、などと定められています。
後遺症が残った場合、その症状・程度は人によって様々であり、それぞれの方によって「どの程度収入に影響があったか」も異なります。
そこで、収入への影響の程度を類型的に定めるため、後遺障害等級ごとに労働能力喪失率が規定されています。
具体的には、以下の表のとおりとなっています。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
ただ、後遺障害の状態によっては、「上の表ほどには労働能力喪失率は高くない」などと相手方の保険会社から主張されることがあります。
比較的よく争われる例としては、傷跡が残ったケース、腰椎の圧迫骨折のケース、鎖骨骨折後の変形障害のケースなどがあります。
これらのケースでは、後遺障害等級ごとに定められているほどに実際の労働能力が落ちるのかが疑問視され、「労働能力喪失率はもっと低いはず」との主張がされやすいのです。
このように主張された場合は、実際の症状を具体的に主張・立証し、稼働能力が落ちていることを訴えていかなければなりません。
逆に、仕事の種類によっては、上の労働能力喪失率では賄いきれないほどの労働能力の喪失がある、と主張できる場合もあります。
例えば、プロのピアニストなどが手にけがをし、後遺障害として手のしびれなどの神経障害(後遺障害14級9号)が残ったとします。
このような場合、上の表のとおりであれば労働能力喪失率は5%となります。
しかし、ピアニストは手を使うことが大変重要となる仕事ですので、手に残った後遺障害は一般の場合よりも大きく評価されるべきであると主張することが考えられます。
当事務所の解決事例で、上の労働能力喪失率を上回る割合での逸失利益を得られたケースについて、以下のページで紹介しております。
なお、死亡事故の場合、死亡後の労働能力はゼロとなりますので、労働能力喪失率を100%として逸失利益を計算することになります。
ライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、将来生じる逸失利益を賠償させる場合に中間利息を控除するために用いる係数です。
まずは中間利息の控除についてご説明します。
交通事故の賠償金は、多くの場合、示談後などに一括で支払われます。
そのため、逸失利益のように将来生じる損害に対する賠償金は、いわば先払いされることになります。
つまり、10年後に得られるはずだった100万円を、現時点であらかじめ賠償することになるのです。
このような場合に、現時点でも100万円を支払わせてしまうと、不公平なことになると考えられています。
現時点で100万円を受け取った被害者としては、これを10年間運用して利息収入を上げ、10年後には100万円を超える金額に増やすことができてしまうと考えられるからです。
そこで、10年間で得られる利息を差し引いた金額を計算し、現時点での賠償金を算出することが必要とされます。
その際に使用されるのが、ライプニッツ係数となります。
労働能力喪失期間
ライプニッツ係数は、労働能力喪失期間に応じて定められています。
労働能力喪失期間とは、後遺障害による労働能力の低下によって影響を受ける期間のことをいいます。
労働能力喪失期間は、症状固定日から始まり、就労可能年齢の終期となる67歳に終了する、とされることが多いです。
ただ、次のような例外があります。
被害者が67歳を超える高齢者で、仕事もしている場合は、被害者の症状固定の日からの平均余命までの期間の半分を労働能力喪失期間とします。
子供(未成年)や大学生の場合、18歳(大学生未満の場合)又は大学を卒業して就労する予定の22歳から67歳までを労働能力喪失期間とします。
むちうちなどの神経症状の場合、67歳までずっと痛みによる労働能力喪失が続くとは考え難いとして、例外的な取扱いが行われています。
具体的には、
- 14級9号の「局部に神経症状を残すもの」については、5年程度
- 12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」については、10年程度
が労働能力喪失期間とされることが多くなっています。
逸失利益の計算の仕方、ライプニッツ係数の一覧表などをより詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
治療費などの積極損害
交通事故でけがをするなどし、被害者において出費が必要となった場合、この出費した額が積極損害とされ、損害賠償の対象となります。
積極損害となる出費の代表例としては、以下のようなものがあります。
それぞれについて簡単にご説明します。
①治療関係費
医師による治療費、薬代、器具代、柔道整復師の施術費などは、治療関係費として、損害賠償の対象となります。
ただ、賠償の対象と認められるには、事故等とその出費の間に因果関係があることが認められる必要があります。
因果関係があると認められるには、事故等によるケガの治療のためにその出費が必要なものであること(必要性)、相当と認められるものであること(相当性)が必要となります。
どのような出費でも賠償の対象となるわけではないので、注意してください。
よく問題となるのは、柔道整復師、鍼灸、マッサージ等の施術費や、一般的に行われていない先進的な治療の費用です。
これらについての賠償が認められる可能性を上げるためには、医師の診察も定期的に受けておくことが重要です。
例えば、柔道整復師による施術を受けている場合には、医師の診察も定期的に受け、柔道整復師に通うようにとの指示をしてもらうなどして、「柔道整復師の施術を受けることについて、必要性、相当性が認められる」との裏付けを得ておきましょう。
そうしないと、後になって、「その出費については損害賠償金を支払うことができません」と言われてしまい、裁判でも同様に判断されてしまうことがあり得ます。
交通事故によるケガの治療のために柔道整復師(整骨院)に通う場合の注意点などについては、以下のページをご参照ください。
最終的な示談・和解ができる前に、加害者側の任意保険会社から、医療機関に対して直接、治療費などが随時支払われることがあります(一括対応)。
このような場合に、柔道整復師の施術費なども特段問題とされずに支払われていることがあります。
そうすると、被害者としては、「この費用は賠償として支払ってもらえるのだ」と思ってしまいがちです。
しかし、加害者側の保険会社が一括対応していたとしても、最終的に賠償が必要な損害として認められないことも十分あり得ます。
その場合、既に支払われた柔道整復師の施術費などは、最終的な賠償金額から差し引かれてしまいます。
これを不服として裁判をした場合でも、柔道整復師の施術費などが「事故と因果関係のある積極損害」と判決で認められないことは十分あり得ます。
そうなると、上の場合と同様に、それまで受け取ってきた施術費を賠償額から差し引かれてしまいます。
このようなことにならないためにも、加害者側の保険会社が施術費などを一括対応している場合であっても、柔道整復師などに通っている場合、医師の診察を定期的に受け、診断書、診療報酬明細書もきちんと保管しておくことが大切です。
なお、任意保険会社が直接払いをしている場合は、これらの資料は保険会社が保管しているので、保険会社に写しを送るよう依頼することになります。
後遺症が残る事案の場合、いつまで治療を続けられるかには気を付ける必要があります。
後遺症が残る場合、ある時点で、これ以上治療を続けても症状の改善が望めない状態になります。
この状態を「症状固定」といいます。
症状固定の状態になると、それ以上の治療を受けることは無意味で不必要、ということになってしまいます。
そのため、症状固定日以降も医師の治療を受けたとしても、原則としては、賠償の対象として認められません。
ただ、例外的に、症状固定後も治療費が賠償の対象となる場合があります。
症状固定後の治療費が賠償の対象として認められるケースとしては、次のようなものがあります。
- ① 重度後遺障害を負っており、生命維持のために治療が必要な場合
- ② 症状の悪化を防ぐために治療が必要とされる場合
- ③ 症状固定後も強い身体的苦痛が残り、苦痛を軽減するための治療が必要な場合
また、将来的に手術(インプラント、人工骨頭置換など)が必要な場合にも、将来の手術費用が賠償の対象となります。
②付添費用
被害者の状態により、看護や介護が必要な場合には、看護や介護で付き添う人のための費用(付添費用)が認められる場合があります。
入院中の場合、弁護士基準では、付添費用は、医師の指示があれば原則として必要性が認められます。
医師の指示がない場合でも、ケガの程度が大きく身体の自由がきかない場合などには付き添いの必要性が認められることがあります。
被害者が子どもの場合も、付添費用が認められることが多いです。
自宅療養中についても、日常生活に看護・介護が必要な場合には、介護費用が認められます。
通院付添費については、被害者が幼い子供である場合や、足にけがをしていて歩行が困難であり、一人では通院できない場合などに認められます。
付添費用の金額は、付き添う人が親族か否か、入院中か自宅療養中か、介護の必要性の程度などによって変わってきます。
③将来介護費用
重い後遺障害が残ってしまった場合、将来にわたって介護が必要になることがあります。
そのような場合には、将来の介護費用も含めて損害賠償の対象となります。
こうした将来介護費用の賠償は、通常は、後遺障害の別表第1の1級又は2級の場合に認められます。
この「後遺障害の別表第1」は、多くの場合に用いられる後遺障害等級(別表第2)とは異なるので注意が必要です。
「後遺障害等級の別表第1の1級、2級」の内容は、下の表のようになっています。
第1級 |
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第2級 |
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備考:各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする。
ただし、これらの後遺障害に当てはまる程度のものでなくとも、ケースごとの具体的状況によっては、将来の介護費用が認められることがあります。
当事務所の解決事例で、将来の介護費用を獲得できたケースについて、次のページでご紹介しております。
④雑費
交通事故によるケガの治療等のために発生した入院雑費(寝具、衣類、洗面具、電話代、テレビ賃借料など)、将来の雑費(重い後遺障害が残り、おむつなどの衛生用品などが継続的に必要となった場合)も、損害として請求することができます。
入院雑費は、弁護士基準では1日1500円とするのが相場です(自賠責基準では1日1100円)。
将来の雑費については、ケースバイケースとなっています。
⑤通院交通費・宿泊費等
通院に要した交通費は、公共交通機関については実費で認められ、賠償を受けられます。
しかし、タクシーについては、事故による症状や交通機関の便からみて公共交通機関の利用が難しい、という場合でなければ、タクシー代の実費を賠償の対象とすることはできません。
タクシー代が損害と認められない場合は、公共交通機関を利用した場合の交通費を限度に、通院交通費の損害賠償を受けることになります。
治療や看護のために宿泊を要する場合には、宿泊費についても賠償を受けられる場合があります。
タクシー代が通院費用として認められるか否かについては、以下のページで詳しく解説しています。
⑥学生・生徒の学習費用
事故の影響で進級や卒業が伸びてしまった場合、通常以上に学費などの費用が掛かってしまう場合があります。
このような場合には、そうした費用も損害として認められる可能性があります。
また、事故に遭ってしまったせいで入学できなくなった、という場合には、既に支払った入学金や制服代が損害として認められることもあります。
⑦リフォーム代・自動車改造費
事故により後遺症が残ったために、自宅や自家用車をバリアフリー化するリフォームが必要となる場合があります。
このような場合には、リフォーム費用は、必要性が認められる範囲内で損害賠償の対象となってきます。
ただし、どんなリフォームでも賠償対象となるわけではありませんので、後遺症の具体的な状況、生活上の支障、リフォームが生活上の支障を解消するために必要であることなどについて、証拠に基づいて具体的に主張立証できる必要があります。
⑧弁護士費用
交通事故による損害賠償を請求するために弁護士に依頼をした場合、弁護士に支払う費用(弁護士費用)について賠償を受けることができる場合があります。
特に、訴訟を起こした場合は、弁護士費用も損害賠償の対象となることが多いです。
訴訟を起こした場合、裁判所が認めた損害額(弁護士費用を除く。)の10%程度が弁護士費用として認められるのが一般的です。
⑨遅延損害金
事故発生の日以降、損害賠償金には法定利率による遅延損害金が発生します。
この遅延損害金も、加害者に対して請求することができます。
法定利率については、以下のページをご覧ください。
ここまで、積極損害について簡単にご説明しました。
以上に挙げた積極損害について、より詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
後遺症の慰謝料等を受け取るための手続
交通事故の慰謝料等の請求の流れ
入通院治療・一括対応
交通事故によってけがをすると、入通院による治療が必要となります。
この治療をきちんと受けないと、後々後遺障害等級認定を受ける際などに不利になりかねませんので、面倒だと思っても医師の指示通りに通院するようにしましょう。
通院の際、加害者側の保険会社が直接医療機関に支払いをする場合があります(一括対応)。
この場合、被害者は窓口で診療代を支払う必要はありません。
しかし、一括対応があったからといって、その診療代を確実に加害者側に負担させられるわけではありません。
直接払いはあくまで仮払いなので、後から過失相殺の主張をされたり、不要な通院だったから負担できないと言われたりすることがあります。
そうなると、既に一括対応を受けた金額の一部を最終的な損害賠償額から差し引かれてしまうこともあり得ますので、注意が必要です。
症状固定・後遺障害等級認定の申請
治療してもこれ以上症状の改善が望めない状態になると、症状固定となります。
症状固定すると、残った症状は後遺障害(後遺症)となり、慰謝料や逸失利益の確定のため、後遺障害等級認定を申請することになります。
後遺障害等級認定を受けるには、加害者請求と被害者請求という二つの方法があります。
加害者請求は、加害者側の任意保険会社から被害者に対して直接全額の賠償金を支払い、自賠責への請求は、後から加害者側によってしてもらう、というものです。
加害者請求では、賠償金を支払う前に、加害者側の任意保険会社から自賠責に対して後遺障害等級の認定を申請します。
これを事前認定といいます。
被害者請求は、被害者が、自賠責に対して、直接支払いを請求することができる制度です。
被害者請求では、後遺障害等級認定についても、被害者が直接自賠責に対して申し立てることになります。
示談交渉
後遺障害等級が定まったら、加害者側の保険会社との間で示談交渉をします。
示談交渉では、多くの場合、加害者側の保険会社から賠償額の提案があります。
この提案での賠償額は、任意保険基準となっており、必ずしも高額・妥当なものとなっていないことは既にご説明したとおりです。
十分な賠償を得るためには、被害者側でも弁護士を立て、弁護士基準による賠償を求めていくことが重要です。
交通事故の示談交渉時に注意すべき点については、以下のページをご覧ください。
示談成立・訴訟提起
賠償額や支払条件について合意ができると、示談成立となります。
示談が成立してから賠償金が支払われるまでの期間は、2週間程度となることが多いです。
示談ができない場合は、訴訟提起などの対応を行います。
交通事故の慰謝料等の請求に必要な書類
交通事故の慰謝料等を請求する際に状況に応じて必要となる書類の主なものには、以下のものがあります。
交通事故自体に関するもの | 交通事故証明書 | 自動車安全運転センターが発行。 事故車両の運転者、被害者、人身事故・物件事故の別なども記載されている。 |
人身事故証明書入手不能理由書 | 警察に物損事故として届け出ており、人身事故に切り替えていない場合に必要になる書類 | |
実況見分調書 | 人身事故の場合のみ警察が作成。 事故現場、事故車両の状況などが記載されており、写真も添付されている。 |
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事故発生状況報告書 | 被害者請求をした場合に、被害者で作成して提出するよう求められる。保険会社から書類をもらうので、それに必要事項(事故当時の状況、現場の見取り図など)を書き込んで作成する。 | |
ケガに関する必要書類 | 診断書 | 担当医などに作成してもらう。入通院期間、症状の経過などに関する記載が重要になる。 |
診療報酬明細書 | 入通院時の治療内容、治療費が記載されている。 | |
調剤報酬明細書 | 病院で薬の処方を受けて、薬局で薬をもらった場合に発行されるもの。 | |
損害に関する書類 | 通院交通費明細書 | 通院に要した公共交通機関の利用料金、自家用車のガソリン代、タクシー代などの明細を作成して提出する。 |
タクシー代・駐車場代の領収証 | タクシー代や駐車場代の立証に必要。 | |
休業損害証明書 | 被害者が会社員の場合、保険会社から渡された書類を会社に提出し、作成してもらう。 | |
確定申告書・収支内訳書・青色申告決算書の写し | 被害者が自営業者の場合、前年度の確定申告書等の写しを提出する。 | |
後遺障害に関する書類 | 後遺障害診断書 | 担当医に作成してもらい、提出する。作成時には、弁護士のアドバイスに従うなどして、適切な書き方となるよう医師に依頼する。 |
物損資料 | 事故車両の壊れ方などを示す写真、資料を提出する場合もある。 | |
レントゲン、MRIなどの画像 | 検査した際の画像があれば、病院から開示してもらい、提出する。 | |
カルテ | 病院に開示してもらい、提出する。 | |
被害者の陳述書 | 被害者から、事故のこと、治療経過、現在の症状、後遺障害による生活への影響などを聞き取って陳述書にする。(被害者が自ら作成しても構わない。) | |
支払請求書 | 保険会社から書類が送られてくるので、必要事項を記載して提出する。 | |
印鑑証明書 | 後遺障害申請にあたって、被害者の印鑑証明書が必要。 |
被害者請求で必要になる書類について、詳しくは以下のページをご参照ください。
交通事故による慰謝料の請求時に用意する明細については、以下のページもご参照ください。
交通事故の後遺障害慰謝料の証拠
後遺障害慰謝料を請求する場合でも、上に挙げたもの以外に特に証拠を提出する必要はありません。
後遺障害慰謝料は、原則として後遺障害等級に応じて支払われるため、上の必要書類以外の証拠を追加で提出する必要はないのです。
ただし、加害者側が後遺障害等級を争ってくるような場合には、医師の意見書等の医学的証拠を準備する必要がある場合もあります。
交通事故の慰謝料等の請求にかかる費用
実費
交通事故の慰謝料等の請求をするために裁判を起こす場合は、裁判所に納める申立手数料、郵便費用などが必要となります。
申立手数料は請求額によって変わります。
例えば、
- 請求額が500万円の場合は3万円
- 請求額が1億円の場合は32万円
などとされています。
郵便費用は、原告と被告の人数、訴訟代理人の有無などによって変わってきますが、多くの場合、数千円~数万円程度となります。
示談交渉や被害者請求をする場合も、郵便料金、通信費などは必要となる場合があります。
弁護士費用
弁護士費用としては、主に、
- 相談料
- 着手金
- 報酬金
が必要となります。
相談料は、法律相談をした際にお支払いいただく費用のことです。
弁護士に依頼するかは決めていないけれど、まずは法律相談をしたい、という場合には、相談料をお支払いいただくことになります。
相談料は30分5000円程度とされていることが多いです。
中には、初回無料で相談できる法律事務所もあります。
弁護士に交渉や訴訟提起を依頼することになると、着手金を支払っていただくことになります。
着手金の額は請求金額によって変わってきますが、10万円程度~となっていることが多いです。
報酬金は、弁護士に依頼したことで得られた金額(回収額)の10%程度~となっていることが多いです。
以上のほかに、弁護士が遠方の裁判所や事故現場まで出張したような場合は、交通費、出張費をお支払いいただくことがあります。
交通事故に関しては、任意保険に弁護士費用特約を付けておられる方が多くおられます。
弁護士費用特約を利用できれば、限度額の範囲内であれば、ご自身で弁護士費用を負担することなく、弁護士に依頼をすることが可能です。
以下のページにて、当事務所における弁護士費用について、弁護士特約を利用される場合とされない場合に分けてご紹介しておりますので、ご参考になさってください。
後遺症の慰謝料を請求するために注意すべきこと
医師の定期的な診察を受ける
後遺症の慰謝料を請求する可能性がある場合は、医師の定期的な診察をきちんと受けるようにしましょう。
後遺症がどのようなものであるか、交通事故でのケガによって発生したものであるかといったことを立証するには、医師の診察記録が重要になってきます。
そのため、医師の診察を定期的に受けていないと、「いつの時期からどのような症状があって後遺症になったのか?」「後から出てきたこの症状は、本当に事故によるものか?」といった疑問を持たれたときに、証拠をもって反論することができなくなってしまいます。
症状固定に注意する
交通事故でけがをした場合に、「これ以上治療しても、症状が改善することはない」という状態になると、症状固定したものとされます。
「症状固定した」とされてしまうと、症状固定日以降の通院治療については、「必要性が認められないもの」とされ、加害者側に負担させることができなくなります。
この「症状固定日」は、最終的には裁判所によって判断してもらうことができるのですが、裁判になる前の交渉中に加害者側の保険会社によって主張されることもあります。
そのため、まだ被害者が通院しているにもかかわらず、加害者側の保険会社から「もう症状固定しているから、これ以降の治療費は支払えない」と言われてしまうことが起こってきます。
こうなると、それまで加害者側の保険会社から医療機関に対して直接治療費等が支払われていた(直接払い)場合も、支払いが打ち切られてしまい、以後、被害者が窓口で診療代を負担しなければならなくなります。
しかし、被害者としては、「まだ治療が必要なのに」と納得できないこともあるでしょう。
その場合、自腹で通院を続け、後から裁判などで症状固定日を争っていく、ということが考えられます。
ただ、このようなやり方にはリスクがあります。
結局裁判所で加害者側の主張が認められてしまうと、自腹で負担してきた治療費を取り戻すことができなくなってしまうのです。
「主治医が『まだ治療を続けましょう』と言っているから大丈夫」と考える方もおられますが、それは危険です。
「症状固定したかどうか」は、法律的な観点から決められることになっており、主治医の意見が必ずしも通るわけではないのです。
支払った治療費を取り戻せない事態を避けるためには、加害者側から症状固定を主張されたのを機に治療を止めて、後遺障害診断に進み、後遺症が残ったことを前提として交渉を進めることも考えられます。
どのように対処したらよいかは、交通事故事件に詳しい弁護士に相談しながら決めていくことが重要になります。
後遺障害等級認定への対応をする
後遺症が残ってしまった場合には、その後遺症が、後遺障害等級の何級と認定されるかが大変重要になります。
後遺症がある事案では、後遺障害等級によって、後遺障害慰謝料や逸失利益の額が大きく左右されるからです。
後遺障害等級の認定は、症状固定した後に行われます。
認定の際には、医師の作成した後遺障害診断書が提出されます。
この後遺障害診断書は、後遺障害等級の認定に大きな影響を与えるものですので、作成してもらう段階から、弁護士に関わってもらう方が良いです。
後遺障害等級の認定への対応は本来的な医師の業務ではないため、医師の中には、後遺障害等級の認定に関して詳しくない方もおられます。
そのため、医師にそのつもりがあるわけではなく、また、医学的に間違っているとはいえなくとも、後遺障害等級の認定を受ける側の視点から見ると適切でない表現の診断書を作られてしまう可能性があります。
そうした事態を防ぐため、後遺障害診断書を作成してもらう際には、弁護士のアドバイスを受けるなどして、医師に対し、適切な診断書となるよう、具体的な書き方やNG例を示してお願いすることが必要な場合があります。
その他の資料に関しても、一般的に提出される保険会社の資料(診療記録、診断書等)に加え、被害者側からも資料を提出した方が良い場合があります。
例えば、事故の衝撃の程度を示す刑事記録、症状固定後も症状が継続していることを示す証拠(通院している場合の領収書等)、通院に断絶期間がある場合に、断絶していたことの合理的理由を示す証拠などを提出する場合があります。
後遺障害等級認定に不服がある場合は、自賠責保険の審査会に対して、異議申立てをすることもできます。
異議申立てでは、被害者に不利益な変更がなされることはなく、回数制限もありません。
ただ、異議申立てでは、当事者である被害者から意見を述べたり、資料を提出したりする必要がありますので、専門家である弁護士に依頼して行う方が良い場合もあります。
異議申立てで満足のいく結果が得られなかった場合は、裁判を起こして争うことになります。
当事務所の解決事例で、異議申立てをして後遺障害が認定されて事例について、以下のページでご紹介しております。
後遺障害等級の表にはない症状でもあきらめない
後遺障害等級について記載された別表第2には、後遺障害等級に認定される症状が列挙されており、ここに列挙された症状が認められれば後遺障害等級が認定されます。
ただ、この別表第2に記載されていない症状であっても、各等級に相当するものとして、後遺障害に準じて等級を認定してもらうことも可能です。
表にはない症状だからとあきらめずに、弁護士に相談し、適切な診断書を準備するなどして、後遺障害等級の認定を受けられるよう申請するなどしてみましょう。
後遺障害が複数あると等級が上がる
後遺障害が2つ以上ある場合、併合されて、次のように等級が上がります。
- ① 5級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は、重い後遺障害等級の3級上位の等級
- ② 8級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は、重い後遺障害等級の2級上位の等級
- ③ 13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は、重い後遺障害等級の1級上位の等級
- ④ その他の場合は重い後遺障害の該当する等級
後遺症が複数残っている場合は、上の併合によって上位の後遺障害等級で認定される可能性がありますので、複数の後遺症についてきちん医師に伝え、診察を受けておきましょう。
保険会社からの提示額が適正額とは限らない
相手方の保険会社が提示してくる賠償金額は、自社で定めた任意保険基準によって作成されていることが多いです。
ところが、ここまででもご説明したとおり、この任意保険基準は、必ずしも弁護士基準(裁判基準)と同程度の金額になるわけではありません。
むしろ、多くの場合、弁護士基準よりは低い水準の金額が提示されます。
一般の方は交通事故による損害賠償に関する知識が豊富ではないので、「保険会社がいうなら、この金額が妥当なのだろう」と思ってしまうことが少なくありません。
しかし、その認識は、誤っている可能性があります。
裁判にすることなく早期に解決すること自体にも利益がありますので一概にはいえませんが、保険会社の提示額が弁護士基準による賠償額を相当程度下回るようであれば、自分でも弁護士を立てて交渉又は裁判をした方が有利な場合が多いです。
弁護士費用については、弁護士費用特約が使える場合が多いので心配しすぎる必要はないことは、既にご説明したとおりです。
また、弁護士に依頼したからといってすぐに裁判になるわけではなく、金額を上げた示談で済ませられることも多いので、その点についてもご安心ください。
サインするときは慎重に!
交通事故の示談交渉では、相手方の保険会社からの提案を受け、示談書にサインするかどうか決めてほしいと求められることがあります。
この時にサインをしてしまうと、その事故についての賠償に関しては「合意=契約が成立した」ということになってしまいます。
こうなってしまうと、後々内容に不満が出てきたとしても、変更することは困難です。
裁判基準を下回る内容だった場合でも、一度合意が成立してしまうと、変更することは大変難しいです。
合意成立後に、より多くの賠償を得ようとして裁判を起こしたとしても、合意した額が優先され、裁判基準による算定額での賠償を認めてもらうことは非常に難しくなります。
このように、示談書へのサインは大変重い意味をもつものなのです。
「後からまた請求すればいいか」などと安易に考えてはいけません。
示談書にサインしてしまったら、この後事態や考えが変わっても、そう簡単には変更させてもらえない、ということをよく理解しておくことが大切です。
示談書にサインしても良いのかどうかわからない場合は、交通事故に強い弁護士に相談するなど、次にご説明するポイントを踏まえて対応しましょう。
後遺症の慰謝料の3つのポイント
症状が固定したと言われても、あきらめない!
治療が進むと、加害者側の保険会社から、「もう症状は固定した」と言われることがあります。
症状が固定したとされてしまうと、それ以後、加害者側の保険会社から医療機関に直接治療費を支払う直接払いは行われなくなってしまい、被害者には治療を打ち切るよう圧力がかかってきます。
しかし、中には、まだ症状が固定したとは言い難いのに、症状固定を主張してこられることもあります。
まだ治療を継続することで改善が望める、という場合には、病院に通って治療を続け、治療の必要性や改善していく状態をカルテに残してもらうことで、症状はまだ固定していないことを裏付けることができる場合があります。
上手くいけば、後々の示談交渉や裁判で、加害者側の保険会社が主張する時期には症状固定はしていなかったと認められ、直接払い打ち切り後の治療費も加害者側に負担させることができます。
ただ、後の示談交渉や裁判でも加害者側が主張する症状固定の時期が認められてしまうこともあります。
その場合には、症状固定日とされた日より後の治療費を加害者に負担させることはできなくなるので、注意が必要です。
症状固定については、以下のページでも詳しく解説しています。
基準は絶対ではない
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級によって基準が定まっているため、後遺障害等級が決まれば機械的に慰謝料額も決められてしまうと思われる方もおられるかもしれません。
しかし、具体的な事情によっては、増額されることもありますし、逆に減額されることもあります。
増額されるケースの例としては、次のようなものがあります。
- ① 事故態様が悪質である(飲酒運転、無免許運転、赤信号無視、スマホを見ながらの運転、著しいスピード違反など)
- ② 事故後の行動が極めて悪質である(ひき逃げ、証拠隠滅など)
- ③ 被害者や被害者の近親者が事故を原因に精神疾患を発症した
- ④ 事故により解雇、退職、退学、離婚などに至った
- ⑤ 死亡した被害者の家族内での立場による(一人っ子、幼児の両親など)
他方、減額される要因としては、次のようなものがあります。
過失相殺
事故に関して被害者にも過失がある場合、過失相殺が行われます。
例えば、ある交通事故に関して、加害者の過失が70%、被害者の過失が30%、被害者が被った損害の全額が1000万円だったとします。
この場合には、被害者が受け取れる金額は、過失相殺により、
となってしまいます。
損益相殺
事故により損害を受けた被害者が、同一の原因により利益を受けている場合に、その利益を損害から控除することを損益相殺といいます。
例えば、加害者から直接に賠償の一部を受け取った、自賠責から先に支払いを受けた、被害者が加入していた保険会社から人身傷害保険等の保険金を受け取ったといった場合には、損益相殺が行われます。
労災保険(特別支給金を除く。)、国民年金法・厚生年金法等の公的年金制度に基づく給付(障害基礎年金、障害厚生年金等)、介護保険給付といったものも、一定の範囲で損益相殺の対象となります。
一方、香典、見舞金、被害者が加入する保険からの搭乗者傷害保険金、生命保険金、失業給付、身体障害者法に基づく給付などは損益相殺の対象となりません。
損益相殺に関する問題は複雑で、正確に判断するには専門的な知識が必要となります。
損益相殺に関して疑問がある場合は、弁護士に相談してみてください。
以下のページでも損益相殺について解説しておりますので、どうぞご参照ください。
素因減額
被害者の従前からの体質、持病、特異な性格といった素因によって損害が発生・拡大した場合に、そうした被害者側の素因を考慮して賠償額を減額することがあります。
これを素因減額といいます。
素因減額についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
このように、後遺障害慰謝料額は機械的に決まるものではなく、減額要因、増額要因があることに注意する必要があります。
交通事故に強い弁護士に相談する
ここまでに解説したようなポイントや注意点を押さえながら損害賠償を請求していくことは、一般の方には困難です。
交通事故に遭ってしまって賠償金を請求したい場合には、交通事故に強い弁護士に相談することを強くお勧めします。
交通事故に強い弁護士に相談できれば、症状固定時期や後遺障害等級の認定についても適切に対応し、通院の継続に関するアドバイスもくれます。
弁護士に依頼すれば、保険会社等とのやり取りを全部弁護士に任せることができるので、安心して治療に専念できるというメリットもあります。
交通事故に強い弁護士に相談することのメリット、交通事故に強い弁護士の探し方などについては、以下のページで詳しく解説しています。
ぜひ一度ご覧ください。
後遺症の慰謝料請求についてのQ&A
後遺障害慰謝料はどこから支払われますか?
保険では賄いきれない場合は加害者本人に、加害者が任意保険に入っていなかった場合には加害者本人と自賠責保険に、被害者から直接請求することになります。
後遺障害慰謝料14級はいくらですか?
まとめ
今回は、後遺障害慰謝料の請求を中心に、交通事故で後遺症が残った場合の損害賠償請求について解説しました。
交通事故は、だれにでも起こり得るものです。
にもかかわらず、いざ交通事故に遭ったときにはどうすればよいか、損害賠償を求めていく中では何に気を付けたらよいのか、といったことについては、あまり知られていないのが実情です。
そのため、実際に交通事故に遭ってしまわれた方や被害者の近親者の方は、どうすればよいのかわからず途方に暮れてしまうことも珍しくありません。
そんな中、保険会社などから賠償案の提示を受け、よく分からないままその提案を飲んでしまう、ということも起こってきます。
しかし、それはいけません。
交通事故の被害に遭った場合、特に後遺症が残るような事態になってしまった場合は、適切な賠償金を得られるかどうかが、その後の人生を大きく左右します。
相手方の保険会社のいうことを鵜呑みにせず、まずは交通事故に詳しい弁護士に相談しにいきましょう。
自ら弁護士に相談すれば、専門家である弁護士が、あなたの立場に立って、あなたにとってより良い解決となるようサポートしてくれます。
当事務所でも、交通事故事件を日常的に取り扱う人身障害部を設け、被害者の方に充実したサポートを提供できる体制を整えております。
事故直後からのサポートだけでなく、通院中に治療の打ち切りを通告された方へのサポート、後遺障害申請に関するサポートなども行っております。
交通事故に遭ってしまった方は、ぜひ一度、当事務所までご相談ください。