症状固定とは?後遺障害や治療費との関係をわかりやすく
症状固定とは、症状が一進一退で治療を継続しても効果がなく、これ以上は改善の見込みがない状態のことをいいます。
症状固定は、治療費や休業損害の補償の範囲や入通院慰謝料の金額にも影響するもので、とても重要なポイントです。
この記事では、症状固定の意味や決まり方、賠償額に与える影響などについて詳しく解説していますので、参考にされてください。
症状固定とは
症状固定の意味
交通事故のケガの治療を行っていくと、症状が一進一退で、なかなかこれ以上は改善を見込めそうにないという状況にいたります。
通常、被害者に生じる症状は、交通事故にあった直後が一番重く、そこから治療をしていく中で徐々に症状の程度が緩和されていきます。
症状の程度が緩和されている場合には、治療の効果が出ているということになります。
もっとも、一定期間治療を行っていると、その効果も緩やかになってきます。
このように、これ以上治療を行っても症状の改善を期待することができないであろうという時点を症状固定といいます。
症状固定は、ケガが事故前と同じまたほぼ近い状態まで改善する「治癒」とは、意味が違います。
症状固定が重要とされている理由
交通事故賠償実務において、症状固定の概念は以下のようにとても大切な意味を持ちます。
- 加害者は症状固定日以降の治療費と休業損害の支払い義務を負わない
- 入通院慰謝料の計算期間が確定する(事故日〜症状固定日)
- 症状固定日は、後遺障害事案では消滅時効の時間の経過により賠償請求ができなくなる法制度の起算点になる
このように、症状固定の概念は、賠償の範囲を確定するのに非常に重要な概念となっているのです。
症状固定は誰が決める?
症状固定の判断は、医学的な判断になります。
したがって、医学的知見を持って、最も患者に接している主治医の意見が参考にされることになります。
突然、加害者側の保険会社から「症状固定とします」、「治療費を打ち切る」と告げられることがありますが、保険会社の担当者が判断できることではありません。
保険会社から、症状固定と一方的に言われた場合には、主治医に相談することをお勧めします。
もっとも、主治医の意見により絶対的に決まるかというとそういうわけではありません。
症状固定時期について、相手方と争いになって話し合いで決まらない場合には、裁判所に決めてもらうことになります。
裁判所は、事故の規模、傷病名、治療の経過、症状の推移、医師の見解など様々な事情を考慮して、症状固定日を確定することになります。
保険会社から症状固定と言われ、治療を打ち切られた場合
上記したように、保険会社が、症状固定と一方的に決めつけて治療を打ち切ってくることもあります。
その時点で、痛みもなく治療の必要もなければ、そのまま治療を終了してもよいでしょう。
しかし、痛みが残っていて、医師からも治療を続けたほうがいいと言われているのであれば、通院を継続した方がいい場合もあります。
主治医に症状固定と言われたら
主治医の先生に症状固定と言われた場合には、何か余程の事情がない限りは、その時点で治療費は打ち切られることになります。
症状固定後は、後遺障害等級の申請をするか、あるいは、示談交渉に入ることになります。
ただし、主治医から症状固定と言われたとしても、治療を止めなければならないというわけではありません。
治療費の補償を交通事故の加害者に請求することは困難ですが、被害者の方の健康保険を使用して、自費で治療を継続することは可能です。
医師に、突然、症状固定と言われないためにも、主治医とは日頃から十分にコミュニケーションを取ることが大切です。
症状固定となり後遺障害申請をする際には主治医に後遺障害診断書を作成してもらう必要がありますが、事前に症状に関するメモを作成し、診察の際主治医に渡すことも効果的です。
医師は、多忙なので、一人一人の患者の詳細な状況まで十分把握できないこともあるからです。
メモを作成する場合のポイントは、できるだけ具体的に記載するということです。
例えば、体の痛みであれば、痛みが出る部位、時間帯、痛みの程度、痛みによる影響(どういう動作ができなくなったかなど。)等を記載するようにしましょう。
症状固定の時期
症状固定の時期は、個別事情によって変わってきますが、ケガの内容や程度によって大まかな目安がありますので、以下説明します。
症状固定までの期間の目安
傷病の内容や程度、症状の経過には個人差があるので、傷病ごとに症状固定期間を基準化するのは難しいです。
かつて保険会社には、DMK136(Dは打撲1か月で症状固定、Mはむち打ち3か月で症状固定、Kは骨折6か月で症状固定の意味)という目安があったと言われています。
しかし、むちうちである頚椎捻挫でも、数か月で症状固定となる場合もあれば、症状固定まで半年以上かかることもありますので、症状固定時期を一般化するのは難しいのです。
弊所での解決事例などを踏まえると、症状固定時期としては、以下のようなイメージとなっています。
むちうちの場合
頸椎捻挫、腰椎捻挫等のむちうちの場合、2、3ヶ月程度で治癒して治療を終了することもあります。
しかし、痛みが6ヶ月以上継続する場合には、症状固定として、後遺障害の申請をすることが多いです。
むちうちの場合でも、1年以上通院を継続して症状固定となる方もいます。
骨折の場合
骨折により、痛みや可動域制限(体が動かしづらくなる)生じている場合も、少なくとも6ヶ月以上を経過して症状固定となることが多いです。
骨を固定するためにボルトやプレートを入れており抜釘手術をする必要がある場合には、症状固定まで1年以上要することもあります。
醜状障害の場合(顔などに傷跡が残った場合)
醜状障害の場合(顔などに傷跡が残った場合)も、事故から6ヶ月を経過した頃に症状固定とすることが多いです。
高次脳機能障害の場合
高次脳機能障害は、脳挫傷やくも膜下出血などの重篤な傷害を負った場合に、残存する可能性が出てきます。
こうした重篤な傷害による状態が落ち着いてからの症状固定となるため、症状固定までには1年以上は要する傾向にあります。
症状固定と賠償金の関係について
治療費
症状固定になると、その日以降について、加害者や相手保険会社は治療費を支払う義務がなくなります。
例外的に症状固定後の治療費が認められることもありますが、ほとんどの場合、症状固定後の治療費は認められません。
もっとも、治療を終了しなければならないということではありません。
あくまで、症状固定日以降の治療費を相手方に請求できなくなるということですので、自費で通院を継続することは問題ありません。
休業損害
症状固定日をもって、休業損害は請求できなくなります。
症状固定日以降は、後遺障害逸失利益として賠償を請求することになります。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、事故日から症状固定日までの入通院による精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
したがって、症状固定日が確定することで、入通院慰謝料が計算できるようになります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、等級の程度に応じて金額が決まっています。
後遺障害の存否や程度の判断は、症状固定時の体の状態で判断されることになるため、症状固定時の身体の状況を後遺障害診断書に明確に記載してもらうことが大切です。
逸失利益
逸失利益の計算式は、以下のとおりですが、労働能力の喪失期間は、症状固定日を起算日として期間が決められるので、症状固定の時期によって逸失利益の金額も前後します。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
症状固定後の必要な手続き
症状固定後の手続きとしては、以下のいずれかになります。
- ① 後遺障害申請をする
- ② 示談交渉を開始する
以下では、それぞれについて説明します。
①後遺障害の申請
症状固定した後は、後遺障害の申請を行うか検討することになります。
症状固定になった時点で、違和感程度の症状であれば後遺障害申請の必要はないかもしれませんが、痛みや関節の可動域制限などがある場合には申請された方がいいでしょう。
後遺障害の申請方法としては、以下の2つの方法があります。
- 事前認定
- 被害者請求
以下、それぞれ説明します。
事前認定
事前認定とは、相手保険会社が後遺障害申請をしてくれる方法です。
事前認定には、以下のようなメリットがあります。
他方で、事前認定には以下のようなデメリットがあります。
被害者請求
被害者請求とは、被害者側で必要書類を集めて後遺障害申請をする方法です。
被害者請求には以下のようなメリットがあります。
他方で、以下のデメリットがあります。
事前認定と被害者請求のどっちがいい?
事前認定と被害者請求には、それぞれ上記のようなメリット・デメリットがありますが、おすすめは被害者請求です。
被害者請求の場合、認定に有利となる証拠を添付することができ、より適切な認定結果を得ることが期待できます。
有利になりうる証拠としては、以下のような証拠が考えられます。
- カルテ(診療録)等の医療記録
- 画像鑑定報告書
- 医師の意見書
- 物損の損害レポート(修理費用の見積もり、破損した車両の写真など)
- 実況見分調書
- 被害者の陳述書
被害者請求の場合、資料を集めるなど手間はかかりますが、弁護士に依頼すれば、全て弁護士が対応してくれます。
また、弁護士費用特約に加入されている場合には、弁護士費用も保険会社に支払ってもらうことができます。
弁護士費用特約は、上限額300万円という制限はありますが、弁護士費用が300万円を超えるケースでは、重い後遺障害が残っている場合に限られますので、多くのケースで被害者は弁護士費用の負担なく依頼することができます。
したがって、弁護士費用特約に加入されている場合には、弁護士に依頼して被害者請求をすることをお勧めします。
②後遺障害の申請を行わない場合は示談交渉を開始
症状固定時に、痛みなどが軽微であり、後遺障害の申請を行わない場合には、相手方と示談交渉を開始することになります。
弁護士が既に介入している場合には、弁護士において損害を計算し相手方に提示することになります。
弁護士が介入していない場合には、保険会社の方から賠償の提示がなされます。
もっとも、相手方に保険会社がついていない場合には、被害者の方から提示しなければ、示談交渉が始まらないことが多いでしょう。
症状固定についてのQ&A
医師の症状固定の判断に納得できないときはどうすればいい?
主治医の症状固定の判断に納得いかない場合には、主治医が症状固定と判断した理由を確認しましょう。
その理由が医学的根拠に基づいており、説得的である場合には、医師の判断に従わざるをえません。
他方で、「保険会社が終了といっているから」といった説明であれば、話し合いの余地があるでしょう。
医師に、残存している症状を説明して、治療によって徐々に回復していることを説明しましょう。
医師の判断を変えることは難しいかもしれませんが、治療の効果が出ているうちは、症状固定とは言えませんので、しっかりと話し合いましょう。
症状固定にデメリットはありますか?
治療を継続したい場合には、症状固定することはデメリットといえるでしょう。
症状固定後にリハビリはある?
自費でリハビリを継続することは可能です。
ケガした部位が複数ある場合の症状固定はどうなる?
したがって、症状固定時期は、それぞれの部位によって時期が変わることもあります。
例えば、脳挫傷と手の骨折をした場合には、整形外科と脳神経外科に通院することになります。
この場合、多くのケースでは、手の骨折についての症状固定の判断は整形外科の医師がすることになり、脳挫傷の症状固定の判断は脳神経外科の医師がすることになるため、それぞれ症状固定時期が異なるということはありえるのです。
まとめ
以上、説明したとおり、症状固定はとても重要な概念です。
特にご相談のなかで多いのは「保険会社から症状固定と言われて治療費の対応を終了されそうだ」といったご相談です。
自費で治療を継続することは大変なため、保険会社には、適切な時期までしっかりと治療費の対応をしてもらうべきです。
保険会社からの症状固定の主張に対しては、弁護士に相談・依頼するなどしてしっかりと対応しましょう。
当事務所では、人身障害部を設置しており、所属する弁護士は、日常的に交通事故案件を取り扱っています。
交通事故案件のご相談や事件処理は、全て人身障害部の弁護士が対応していますので、安心してご相談下さい。
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