交通事故の慰謝料は誰が払う?払えないときの対処法
交通事故の慰謝料は、加害者が払うのが原則です。
もっとも、多くの自動車を運転する人は任意保険に加入しているため、実務上は、多くの場合、保険会社が払うことになります。
加害者が任意保険に加入しておらず、慰謝料等の賠償金を支払わない場合には、裁判を検討しなければなりません。
加害者としても裁判となれば大きな負担となるので、示談交渉の段階で分割での支払いを提案するなど誠実な交渉をすることが求められます。
以下では、交通事故の慰謝料は誰が払うか、慰謝料を払えない時の対処法について詳しく解説していますので、参考にされてください。
目次
交通事故慰謝料とは
交通事故慰謝料とは、被害者が交通事故により被った精神的苦痛に対する賠償金です。
交通事故慰謝料には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料があります。
入通院慰謝料とは、交通事故が原因の怪我によって、入院や通院を余儀なくされたことについての精神的苦痛に対する賠償金です。
後遺障害慰謝料とは、交通事故が原因の怪我によって後遺障害が残ってしまい、日常生活や仕事に大きな支障を来すことになる精神的苦痛に対する賠償金です。
死亡慰謝料とは、交通事故が原因で死亡した場合に、被害者自身が死亡したという精神的苦痛に対して支払われるものです。
死亡慰謝料には、交通事故にあった本人の慰謝料と遺族の慰謝料があります。
なお、後遺障害慰謝料は、後遺障害に認定された場合に限り支払ってもらえます。
具体的に交通事故慰謝料の相場や計算方法を知りたい方は、以下のページをご覧ください。
交通事故の慰謝料は誰が払う?
交通事故の慰謝料は、法律上の原則としては、加害者本人が払うことになっています。
もっとも、多くの車を運転する人は任意保険に加入しているため、実務上、多くの場合、交通事故の慰謝料を払うのは、加害者が加入している保険会社からになります。
加害者が有効な任意保険に加入していない場合には、原則どおり、加害者本人に請求をすることになります。
なお、加害者本人が任意保険に加入していない場合でも、労災保険や、被害者が加入している人身傷害保険、相手方の自賠責保険に請求をした上で、不足部分を相手方本人に請求するケースが多いです。
交通事故の賠償義務は慰謝料だけではない
交通事故の賠償義務は、慰謝料だけではありません。
交通事故の加害者となってしまった場合は、慰謝料以外にも、壊れた物(物的損害)の賠償や治療費などの実費を被害者に対して賠償する責任を負います。
賠償義務の項目として代表的なものは、以下の表のとおりです。
賠償金 | 物的損害 | 修理費用 | |
---|---|---|---|
レンタカー代 | |||
壊れた身の回りの品に関する損害 | |||
人的損害 (怪我に関わる損害) |
治療費 | ||
通院交通費 | |||
休業損害 | |||
慰謝料 | 入通院慰謝料 | ||
後遺障害慰謝料 | |||
逸失利益 |
上記の内訳表はあくまで代表的な賠償義務の項目になりますので、記載がないものも請求できる可能性があります。
交通事故の慰謝料や賠償金に関してより詳しくはこちらをご覧ください。
交通事故慰謝料を払えないとどうなる?
多くの加害者は、任意保険会社に加入しているので、お金がなくて賠償金を支払えないということは少ないでしょう。
しかし、任意保険に加入していない加害者が交通事故慰謝料を払えない場合には、被害者から裁判を起こされて、最終的には、財産や給料の一部を差し押さえられる可能性があります。
そのような場合には、できる限り早く、被害者や被害者側の弁護士からの連絡に反応をして、自分の状況を伝えつつ、できる限り誠意を持って対応をするべきでしょう。
これから、加害者が交通事故慰謝料を支払わないとどうなるかを説明いたします。
慰謝料の請求の文書が届く
被害者が弁護士に賠償金の請求を委任をすると、その弁護士から、加害者に対して、慰謝料を含む賠償金の請求に関する通知文書が届きます。
加害者はその通知文書を受けた場合、できる限り早く被害者側弁護士と賠償金に関する示談の話を進めるべきです。
加害者が賠償金に関する示談の話をする場合には、自分の経済状況を素直に伝えつつ、きちんと払うことのできる内容で示談を成立させる必要があります。
示談ができなかったり、賠償金が支払えなかったりする場合には、裁判が起こされる可能性があります。
被害者側の弁護士からの連絡を無視しても同様に裁判を起こされる可能性があります。
裁判を起こされる
交通事故の加害者が被害者側の弁護士と示談ができなかったり、示談の約束通りに賠償金を払えなかったりすると、裁判が起こされる可能性があります。
裁判を起こされると、裁判所から加害者に対して、呼び出しの文書が届きます。
裁判を自分で進めていくのは、とても大変なので、裁判所から届いた書類一式をもって弁護士に相談し、対応を検討すべきでしょう。
加害者が裁判所からの呼び出しを無視していると「加害者側の主張はない。」という扱いになって敗訴することになります。
財産や給与の差押えがされる
裁判に敗訴してもさらに無視を続けると、加害者の自宅や給与の差押えがされる可能性があります。
差押えとは、裁判所によって一定の財産の処分を禁止された上、その財産をお金に換えられ、被害者(債権者)への支払いに充てるという制度です。
交通事故加害者にとっては、裁判所によって強制的に財産を没収され、賠償金の支払いをさせられるという制度です。
差押えの対象となる財産は、現金、預金、不動産、保険の解約返戻金、今後受けとる給与など様々です。
対象とされる可能性が比較的高いのは、自宅となっている不動産や給与と思われます。
実際に差押えが行われると、自宅や給与の一部が強制的に取られるので、加害者の生活に大きな支障をきたすことになります。
そのような事態を避けるために、訴訟提起された場合には、誠実に対応すべきです。
なお、被害者側が、加害者の財産の調査をするための手続を申立てる可能性もあります。
その手続に関する裁判所からの呼び出しを無視すると、罰則が科される可能性があります(民事執行法213条1項5号及び6号、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)。
賠償金を支払えないときの対処法
被害者の対処法
被害者は、賠償金を支払ってもらえない場合には、適切な補償を可能な限り受け取るために、賠償金に代わる保険金を受領して、できる限りの補償を受けることを目指します。
各種保険で賄えなかった部分について加害者に請求をすることになります。
具体的には、以下の表に記載していることを検討することになります。
- 適切な賠償金額を計算する
- 各種保険を使用できないか検討する
- 各種保険で補償されなかった部分を相手方に請求をする
適切な賠償金を計算する
加害者へ賠償金を請求するためには、交通事故が原因でどのような損害が発生し、その損害額がいくらかというのを被害者側が示す必要があります。
賠償金の項目は、慰謝料の他にも、治療費や、休業損害などの得られたはずの金銭を得られなかったことについての賠償の項目があります。
これらの項目を漏れなく挙げて、適切な金額で計算することが適切な賠償を受けるための第一歩になります。
労災保険が使用できないか検討する
適切な賠償金額を計算した後、各種保険の使用ができないかを検討します。
まずは、労災保険が使用できないかを検討しましょう。
労災保険とは、業務中や通勤中に遭った事故に対して補償や給付をする保険です。
交通事故が、通勤の途中のものであった場合には、労災申請をし、労災保険からの給付を受けることができます。
給付の対象となるのは、治療費、仕事ができなかった期間の補填、後遺障害が残った場合の将来の減収に対する補填になります。
なお、労災保険は、あくまで、労働者の生活を守るための制度であり、精神的苦痛に関して補填をするものではないため、慰謝料は支給されませんので、他の保険や加害者本人へ請求をすることになります。
労災保険について詳しくはこちらをご覧ください。
人身傷害保険を使用する
人身傷害保険は、被害者自身が加入している保険で、治療費、休業損害、慰謝料などの補償を受けることができる保険です。
事故後の治療費については、人身傷害保険が病院へ直接治療費を払うので、被害者自身の手出しがなく治療を継続することができます。
また、治療が終了した後には、人身傷害保険会社が、保険会社独自の基準で保険金を計算して被害者に書面で計算結果を伝えます。
被害者は、保険会社から送られた計算結果についての書面を確認の上、署名押印をすると、人身傷害保険から保険金を受け取ることができます。
もっとも、保険金の金額は、保険会社独自の基準ですので、裁判上認められる適切な金額で計算されることは期待できません。
そのため、人身傷害保険から保険金を受け取れた場合であっても、一度は交通事故に詳しい弁護士に相談をすることを強くお勧めします。
自賠責保険会社へ請求する
加害者が賠償金全額を一括で支払えない可能性がある場合には、自賠責保険への請求を行うこともあります。
なお、人身傷害保険から保険金を受領している場合には、自賠責保険への請求を行うことはありません。
自賠責保険とは、自動車(原動機付き自転車を含みます)を運転する際に、加入が必須の保険で、未加入の場合には罰則がある保険です。
自賠責保険からは、怪我に関する賠償金の一部が補償されます。
自賠責保険からの賠償金について、入通院慰謝料は日額4300円、治療費、通院の交通費、休業損害(事故を原因とする怪我や治療のために仕事ができなかったための減収)や治療費などが対象となりますが、120万円の上限があります。
また、物損については、自賠責保険の補償の対象となりません。
加害者本人への請求
適切な賠償金額から、各種保険から保険金や賠償金として受け取った金額を差し引いてその残りを加害者に請求します。
請求の方法は、内容証明郵便で請求し、それでも賠償金の支払いを受けられない場合には、裁判を検討することになります。
裁判を起こすことは被害者本人でも可能ですが、とても大変であり、適切な賠償額を獲得できないリスクがあります。
したがって、遅くとも、加害者に直接請求をする前には、交通事故に詳しい弁護士に一度は相談をしておくことをお勧めします。
加害者の対処法
加害者となった場合は、可能な限り、被害者からの請求に早急に対応し、賠償金を払うように努めるべきです。
その後、自賠責保険から賠償金の一部の返金を受けるべきでしょう。
被害者の連絡への対応
まず、被害者や被害者側の弁護士からの連絡は無視するべきではありません。
示談金の全額を一括で払うことができなくても、被害者に誠意があると感じてもらえれば、分割での支払いに応じてもらえる可能性があります。
また、被害者側の弁護士からの連絡に対して無視を続けていれば、裁判や差押えが行われて加害者の生活に支障をきたす可能性もあります。
実際に差押えを受けてしまうと、それを原状に戻すのは困難ですので、差押えを受ける前に、対応をすべきです。
自賠責保険への請求
加害者が被害者に対し、示談金を支払った場合、自賠責保険へ返金を請求することを検討すべきです。
被害者や被害者の任意保険会社が自賠責保険から、自賠責基準満額の給付を受けている場合には、自賠責保険へ請求をしても返金を求めることはできませんが、そうでない場合には、自賠責保険へ返金を求めることができます。
被害者との示談を行う際に、被害者から自賠責保険からの給付を受けているかどうかを確認しておきましょう。
交通事故の弁護士費用は誰が払う?
交通事故の弁護士費用は、原則として、依頼者が負担することになります。
もっとも、被害者自身の保険に弁護士費用特約がついている場合には、その特約を使用することによって弁護士費用を被害者の保険会社が負担してくれます。
被害者となった場合には、一度弁護士に相談をしたほうが良いですし、場合によっては弁護士に依頼をするべき事案もあります。
そのため、交通事故の被害者となってしまった場合には、ご加入の保険に弁護士費用特約が付いているかどうかを確認するべきです。
もし、弁護士費用特約に加入しているかどうか不明な場合には、ご加入の保険会社に連絡をすれば、回答してもらえます。
慰謝料請求を弁護士に相談するメリット
慰謝料請求を弁護士に相談するメリットは、相談者の現状に応じたアドバイスが受けられることです。
その後、必要に応じて弁護士に依頼をすることも可能です。
交通事故に詳しい弁護士であれば、加害者や加害者側の保険会社に対する請求のノウハウを持っていますので、強力なサポートを受けることができます。
特に、正確に適切な賠償金を計算するのは、専門知識がないと困難ですので、一度は交通事故に詳しい弁護士に相談をすることをお勧めします。
交通事故の支払い義務についてのQ&A
事故の示談金は誰が払うのですか?
もっとも、加害者の任意保険の使用ができない場合には、加害者自身が示談金を払うことになります。
また、自動車の運行について管理したり、利益を得たりしている人がいる場合には、運行供用者としてその人が示談金を支払うことになります。
事故の示談金は、ケースによって異なりますが、数十万円〜数千万円になることもありますので、自動車を運転するのであれば、絶対に任意保険に加入をするべきです。
人身事故の賠償金は誰が払うのですか?
人身事故の賠償金に関しても加害者が任意保険に加入している場合には、その任意保険会社が支払うことになります。
厳密な日本語の意味としては、「示談金」と「賠償金」は異なる部分もありますが、交通事故の賠償の話をする場合は、いずれも同義と考えられていいでしょう。
まとめ
ここまで、交通事故の慰謝料は誰が払うか、払えないときの対処法について解説しました。
自動車を運転する人はいつ交通事故の加害者となるかはわかりません。
そのため、任意保険にきちんと加入して、その保険が有効であることは定期的に確認するべきでしょう。
万一、有効な任意保険がない時に事故を起こしてしまった場合には、被害者からの連絡などには、なるべく誠実に対応し、差押えをされるなどの事態に陥らないようにするべきです。
反対に交通事故の被害者となり、加害者の任意保険を使用できない場合には、適切な賠償金を計算し、その賠償金を何らかの形で受け取ることができるようにします。
その方法は、各種保険への請求や、加害者本人との交渉、場合によっては裁判を起こす必要もあります。
このような手続を被害者自身で行うのは、精神的にも負担がありますし、専門的な知識も必要とします。
そのため、事故の加害者が任意保険に加入していない場合には、一度は交通事故に詳しい弁護士に相談をするべきです。
当事務所は、交通事故をはじめとする人身障害に特化した部を編成し、交通事故被害者に対して協力にサポートを行います。
また、当事務所は、オフィスでの対面での相談はもちろん、ZoomやLine、FaceTimeを使用したオンライン相談にも対応し、全国どこからでもご相談が可能です。
交通事故の事案に関しましては、初回相談無料ですので、ぜひ一度ご相談いただければ幸いです。