弁護士基準の交通事故の慰謝料を自分で請求できる?
弁護士に依頼しなくても被害者自身で弁護士基準の慰謝料を請求できますが、実際に弁護士基準で慰謝料を獲得するのは交渉段階では難しいです。
「請求」することと、実際にその金額を「獲得」することは別物です。
請求は、損害を計算して、相手方に「この金額を払ってくださいね。」と申し出ることです。
そのため、弁護士基準の内容を知ってさえすれば、請求すること自体は可能なのです。
これに対し、獲得するとは、その金額で相手方と合意して(裁判の場合は判決をもらって)、金額を受領することです。
要するに、「請求」ができてもその金額を「獲得」できるとは限らないわけです。
本記事では、弁護士に依頼しない状態で弁護士基準で解決することが難しい理由や、弁護士に慰謝料請求を依頼するメリットなどを解説しております。
「自分で弁護士基準で請求してみようかな」と考えられている方は、ぜひ一度本記事をご覧になってください。
目次
自分で弁護士基準の交通事故の慰謝料を請求できる?
弁護士に依頼せずに弁護士基準で交通事故の慰謝料を請求すること自体は可能ですが、実際にその弁護士基準の金額で賠償金を獲得することは難しいといえます。
インターネットやAIが発達した現代においては、少し調べれば、弁護士基準の相場の知識を習得できます。
もっとも、交渉段階において保険会社に自分で計算した弁護士基準の慰謝料を提示しても、簡単に認められることはほとんどないと思います。
交渉ではなく、自分で裁判提起をすれば弁護士基準で獲得できる可能性は高いですが、弁護士資格を持たない一般の方が適切に裁判を進めていくということは困難です。
交通事故慰謝料の弁護士基準とは
慰謝料とは、精神的な苦痛に対する賠償です。
慰謝料は、ケガをして治療した場合に発生する入通院慰謝料と、後遺障害が残った場合に発生する後遺障害慰謝料があります。
慰謝料の特徴として、治療費や休業損害と違って、本来は損害の額がいくらかという評価がわかりにくいということが挙げられます。
もっとも、慰謝料の額が何の物差しもなしに決められてしまっては、公平性に欠けることになるため、一定の基準が用意されています。
交通事故の慰謝料の場合、その基準は3つあります。
【交通事故の慰謝料の3つの基準】
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準(裁判基準ともいいます。)
この3つの基準のうち、慰謝料の額が原則的に最も高くなるのが弁護士基準です。
弁護士基準は、弁護士が介入すれば交渉段階からその基準を前提に交渉できるものになります。
また、弁護士基準は、裁判上でもその基準を前提に判断されるという特徴があります。
弁護士基準の入通院慰謝料は、基本的に通院期間(最初の通院から最後の通院までの総日数)に応じて決まります。
弁護士基準の詳細について、詳しくはこちらをご覧ください。
結論から申し上げると、実通院日数を考慮して弁護士基準の金額が修正されるケースもあります。
上記でも解説したとおり、弁護士基準の入通院慰謝料は、基本的に通院期間で決まるので、実通院日数を考慮しないのが通常です。
もっとも、通院期間に比して実通院日数があまりにも少ない場合は、重傷の場合は実通院日数の3.5倍、軽傷の場合は実通院日数の3倍をそれぞれ通院期間としてみなして算出することがあります。
症状の程度や治療内容にもよりますが、月に2〜3回程しか通院していないケースではこのような修正がなされる可能性が高いので、実通院日数はしっかり確保しましょう。
自分で弁護士基準の慰謝料を交渉するのが難しい理由
自分で弁護士基準の慰謝料を交渉するのが難しい理由は、以下の3つが挙げられます。
そもそも正確な弁護士基準を算出することが難しい
ご自身で弁護士基準で請求する場合、慰謝料の金額を自分で計算しなければなりません。
弁護士基準の表の存在だけを知っていても、それだけでは算出できません。
個人で慰謝料を計算する場合、以下のような懸念事項があります。
- 重傷用と軽傷用の表のどちらを使用すべきかの判断を正しくできるか
- 日割りの計算を理解しているか
- 入院待機中の期間やギプス固定中などの安静を要する自宅療養期間がある場合の計算
- 自賠責保険がない事案(自転車同士の事故等)の後遺障害慰謝料の算出
- 慰謝料の増額事由の主張ができるか
保険会社が自賠責基準や任意保険基準で解決しようとする
保険会社は、ほとんどの事案で自賠責基準や任意保険基準といった弁護士基準よりも低い基準で解決しようとしてきます。
よほどの事情がない限り、個人でこちらから弁護士基準で提示しても、「それなら弁護士に頼んでください。」などと言われ、門前払いをされてしまうでしょう。
このように、保険会社が弁護士に依頼していない方に対して弁護士基準で解決しようとしない理由は定かではありません。
もっとも、考えられる理由としては、保険会社の営利性があると思っています。
すなわち、保険会社も営利企業なので、利益を出さなければなりません。
そのため、賠償金として支払う額ができるだけ低い方が利益は出やすいです。
そして、被害者が弁護士に依頼していない場合と依頼している場合とでは、一般的に考えて、保険会社の視点で裁判を提起されるリスクは前者の方が低いです。
このような現状を踏まえ、保険会社は利益確保のため、弁護士に依頼していない方に対しては、多少強引になっても自賠責基準や任意保険基準で解決しようとするのではないかと考えられます。
感情論になりやすく本来するべき請求を見失う
被害者の方は、事故によって失うものも多いです。
悲しみや怒りなどの様々な感情もあるかと思います。
ただ、その感情が交渉において裏目に出ることもあります。
すなわち、慰謝料請求も損害賠償請求という法的な請求の一種なので、証拠に基づいて淡々請求しなければいけませんが、そこに感情が乗ってしまうと、余計な一言を言ってしまって保険会社から相手にされず、なかなか交渉が進まない事態が想定されます。
そして、交渉が進まなければ、弁護士基準での解決という本来的な目的を達成することが難しくなります。
慰謝料請求を弁護士に依頼するのにデメリットがある?
弁護士に依頼すれば、ほとんどのケースで慰謝料は増額されますが、弁護士費用との関係で経済的に被害者にとってマイナスになるケースがあります。
経済的にマイナスになりやすいケースは、以下のような場合です。
- ① 損害が物損(ケガなし)のみの場合
- ② 打撲や捻挫などの軽傷で通院期間も短い場合
- ③ 被害者の過失の度合いも大きい場合
- ④ 加害者が任意保険に加入しておらず賠償金の回収見込みが不透明である場合
交通事故の弁護士費用
交通事故の弁護士費用は、弁護士費用特約がない場合は、以下のような費用体系が多いです。
法律相談料 | 0円〜30分5500円 |
着手金 | 0円〜33万円 |
報酬金 | 経済的利益の11%〜17.6%(着手金が0円の場合は、これに加え、固定報酬もあり得る) |
もっとも、車やその他の保険に弁護士費用特約がついている場合は、基本的に依頼者負担0円で(※)弁護士に相談や依頼をすることができます。
(※)300万円までなどの保険会社の支払い上限があり、それを超える弁護士報酬が発生する場合には、依頼者負担が発生することがあります。
慰謝料請求を弁護士に依頼する5つのメリット
①弁護士基準を前提とした解決の可能性が高まる
上記のとおり、弁護士に依頼しないで弁護士基準で解決することは難しいです。
もっとも、弁護士に依頼すれば弁護士基準での解決可能性は一気に高まります。
特に、交通事故に慣れている弁護士であれば、裁判例などを加味して適切な賠償金を勝取るための活動をしてくれることでしょう。
②被害者の交渉のストレスを軽減する
交通事故は、治療が終わらないと損害が確定しません。
大きな事故の場合、半年以上治療を要することもあります。
その間、保険会社とやりとりを続けなければいけません。
また、慰謝料請求の点においても、すんなり弁護士基準で認めてくれなければ、被害者のストレスも溜まるでしょう。
弁護士に依頼すれば、面倒でストレスが溜まる交渉を全て代行してもらうことが可能です。
そうすると、被害者の方は、治療やお仕事、家事や学業に専念することができます。
③治療の打ち切りに対して対抗すること
保険会社は、一定の期間が経過すると、一方的に治療費の対応を終了しようとしてきます。
もっとも、保険会社が治療費を支払う義務があるのは、症状固定までです。
症状固定とは、これ以上症状が良くも悪くもならないという状態をいいます。
そして、症状固定は勝手に保険会社が決められるものではなく、医師の判断が重要です。
医師の判断を無視した治療の打ち切りであれば、弁護士は治療の打ち切りをやめるよう説得する交渉を行います。
治療期間が延びれば、その分、慰謝料の金額が増額されることになります。
④後遺障害の申請なども任せられること
症状固定の時期になっても痛みなどの後遺障害が残っている場合、自賠責保険に対して、後遺障害申請を検討することになります。
ご自身で後遺障害の申請をする場合は、必要書類を作成したりなどの手間がかかりますが、弁護士に依頼すれば申請を代行してやってもらうことが可能です。
後遺障害が認定されれば、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料を請求できます。
また、認定された等級に不服がある場合は異議申立てをすることができますが、異議申立ては新たな証拠を提出しなければならないため、専門家である弁護士が行わないと結果は期待できないでしょう。
⑤いざとなったら裁判等を提起してもらえること
相手方が適切な慰謝料の解決を拒む場合、最終的には裁判や紛争処理センターに持ち込んで第三者に判断してもらうことを検討します。
もっとも、裁判や紛争処理センターは、書類の作成や期日の出頭など、一般の方にとっては慣れていないことばかりで大変です。
弁護士に依頼すれば、裁判等に必要な作業を任せることができます。
まとめ
- 弁護士に依頼せずに弁護士基準で交通事故の慰謝料を請求すること自体は可能だが、実際にその弁護士基準の金額で賠償金を獲得することは難しい。
- 交通事故慰謝料の弁護士基準とは、3つの基準の中の一つで、原則的に金額が最も高くなる基準のことをいう。
- 自分で弁護士基準の慰謝料を交渉するのが難しい理由としては、①そもそも個人で正確な弁護士基準を算出することが難しい、②保険会社が営利会社であるため自賠責基準や任意保険基準で解決しようとすること、③感情論になりやすく本来するべき請求を見失いやすいことなどが挙げられる。
- 弁護士に依頼すれば、ほとんどのケースで慰謝料は増額されるが、弁護士費用との関係で経済的に被害者にとってマイナスになるケースがある。
- 慰謝料請求を弁護士に依頼する5つのメリットとしては、①弁護士基準を前提とした解決の可能性が高まること、②被害者の交渉のストレスを軽減すること、③治療の打ち切りに対して対抗すること、④後遺障害の申請なども任せられること、⑤いざとなったら裁判等を提起してもらえることなどが挙げられる。
本記事をご覧になった方は、自分で弁護士基準で請求しても、その金額で解決することが難しいと理解していただけたかと思います。
弁護士基準での解決を望む場合は、弁護士に依頼するようにしてください。
デイライト法律事務所の人身障害部では、交通事故事案の解決実績が豊富で、これまで数々の慰謝料請求をしてきました。
慰謝料請求でお悩みの方は、ぜひ一度弊所にお問合せください。