交通事故の加害者でも慰謝料をもらえる?必要な条件と手続
交通事故の加害者であっても、怪我をして通院や入院をすることとなり、かつ、相手に一定の過失(落ち度)があった場合には、慰謝料をもらうことができます。
この記事では、交通事故の加害者がどのような場合に慰謝料をもらえるかについて加害者が慰謝料をもらうための条件や受け取ることのできる慰謝料の計算方法、そのほかに加害者がもらえる賠償金などについて、詳しい解説をしています。
この記事をお読みいただくことにより、加害者がどのような場合にどのくらいの慰謝料をもらえるかについて知ることができます。
目次
交通事故の加害者とは?
交通事故の加害者とは、交通事故の相手から損害賠償を請求される立場にある人のことをいいます。
この反対に、交通事故の相手に対して損害賠償を請求する権利がある人は、交通事故の被害者だということになります。
交通事故では、この後に説明するように、交通事故の当事者にどの程度の落ち度があるのかという、当事者の過失割合というものが決定されます。
交通事故の当事者は、自身の過失割合が100パーセント(相手の過失割合が0パーセント)であるというケースでない限り、それぞれが相手に対して損害賠償を請求することができます。
すなわち、交通事故について自身に少しでも過失がある場合は、加害者であるともいえます。
また、交通事故について相手にも自分にも過失がある場合、当事者の双方が相手に対して損害賠償を請求する立場にあるとともに、請求される立場にあります。
そのため、この場合にはどちらの当事者も「被害者」でもあり「加害者」でもあるということになります。
交通事故の慰謝料とは?
交通事故の慰謝料とは、交通事故によって被った精神的苦痛を賠償するために支払われる金銭のことです。
交通事故によって怪我をして通院や入院をした場合には、交通事故の相手に対し、「入通院慰謝料」を請求することができます。
具体的に受け取ることができる入通院慰謝料の金額については、この後に説明する慰謝料の計算方法によって算定されます。
交通事故の加害者が慰謝料をもらえる条件
①加害者が交通事故によって怪我をしたこと
交通事故では、被害者だけでなく加害者のほうも怪我をすることがあります。
交通事故の加害者が慰謝料をもらうためには、基本的には、加害者が事故によって怪我をしたことが条件となります。
なお、加害者の怪我については、通院または入院していなければ一般的に慰謝料をもらうことは難しいといえます。
加害者が怪我をしていない場合には、事故に遭った自分の車の中にあった非常に高価な物品が壊れてしまったなどのようなごく一部の例外を除いて、慰謝料をもらうことは非常に難しいです。
②被害者に落ち度(過失)があること
さらに、交通事故の加害者が慰謝料をもらうための条件として、交通事故で怪我をしたことだけでは足りず、相手(被害者)に交通事故について一定の落ち度(過失)があることが必要となります。
交通事故が起きたことについて被害者に何の落ち度もない場合には、加害者は慰謝料をもらうことはできません。
なお、この後説明するように、加害者がもらうことができる慰謝料やその他の損害賠償は、相手(被害者)の過失割合の範囲に限られます。
交通事故の加害者が受け取る慰謝料の相場
交通事故の加害者が入院また通院した場合に受け取ることができる慰謝料の相場は、この後に説明する弁護士基準によると以下の表のようになっています。
ただし、この表は交通事故の過失割合が10対0、すなわち被害者の過失が100%で加害者の過失が0%の場合の慰謝料の相場を示したものです。
被害者の過失が100%でない場合は、その過失割合に応じて、この後に説明する計算方法によってこの表よりも減額された金額の慰謝料を受け取ることになります。
引用元:赤い本 別表Ⅰ 入通院慰謝料基準|日弁連交通事故相談センター
引用元:引用元:赤い本 別表Ⅰ 入通院慰謝料基準|日弁連交通事故相談センター
骨折・脱臼のように重傷の場合と、打撲・むちうちのように軽傷の場合とで、使用する表が異なり、慰謝料の相場も異なります。
これらの表は、交通事故によって通院または入院あるいはその両方をした場合に、通院期間や入院期間に応じて、適正な慰謝料の金額を表したものです。
入院はせずに通院だけをした場合、これらの表の一番左の列の「通院」欄に記載された月数に対応する部分の金額が、慰謝料の相場です。
入院と通院の両方をした場合、「入院した月数」と「通院月数」が交わる部分の金額が慰謝料の相場です。
例えば、交通事故の過失割合が10対0(被害者の過失が100%で加害者の過失が0%)の場合に加害者が怪我をして1ヶ月通院したときは、骨折・脱臼のように重傷なら28万円、打撲・むちうちのように軽傷の場合は19万円が慰謝料の相場です。
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また、この自動計算機は慰謝料だけでなく、その他の損害賠償金を計算することもできます。
交通事故の加害者が受け取る慰謝料の計算方法
慰謝料を算定するための3つの基準
交通事故の慰謝料の金額の算定に関しては、①自賠責保険基準、②任意保険基準、③弁護士基準の3つの基準があります。
通常、各基準によって慰謝料の金額が異なります。
自賠責保険基準
3つの基準の中で、通常、慰謝料の金額が最も低い金額とされているのが自賠責保険基準です。
交通事故で被害を受けた人の救済の観点から、最低限の基準を定めているからです。
任意保険基準
自賠責保険基基準よりも少し高いか同程度の金額とされているいのが任意保険基準です。
それぞれの任意保険会社が独自に定めている慰謝料の算定基準です。
弁護士基準
3つの基準の中で、慰謝料が最も高額となるのが弁護士基準です。
弁護士基準は、裁判所が過去の交通事故において判断した内容に基づいて定められた算定基準であるため、最も適正な基準だといえます。
過失割合によって慰謝料は減額される
加害者が受け取る慰謝料の計算においては、交通事故の過失割合が考慮され、加害者は、交通事故の相手(被害者)の過失割合の分だけしか慰謝料を受け取ることができません。
例えば被害者の過失割合が3割の場合、加害者は、上で述べた各基準によって算定された慰謝料の3割分しか受け取ることができません。
残りの分は、加害者の自己負担となります。
また、加害者の過失割合が10割(100%)、すなわち被害者の過失割合が0%の場合には、加害者は慰謝料を受け取ることはできません。
反対に、被害者の過失割合が10割(100%)である場合には、慰謝料は全額支払ってもらうことができますが、被害者の過失割合が10割というケースは稀です。
交通事故の加害者がもらえるのは慰謝料だけではない!
慰謝料は、交通事故で怪我をしたことによる精神的な損害に対する賠償金です。
交通事故では、通常、このような精神的な損害以外にもさまざまな損害が発生します。
そのため、交通事故の加害者は、慰謝料のほかにも、次に説明するさまざまな損害項目について、賠償金を受け取ることができます。
なお、それぞれの損害に関する賠償金についても、慰謝料の場合と同じく、過失割合に応じて減額されることに注意してください。
慰謝料以外の損害項目一覧
交通事故の加害者は、①休業損害、②逸失利益、③治療費などの積極損害について、賠償金を請求することができます。
休業損害
休業損害とは、交通事故で怪我をしたために仕事を休んだり遅刻・早退をしたりして、給料・収入が減ってしまった損害のことです。
基本的には以下の計算方法によって算定された金額が休業損害となります。
また、休業損害の金額は、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準のそれぞれの基準で金額が異なっています。
自賠責基準では、1日あたり6100円が原則ですが、源泉徴収票・給与明細などで6100円を超えることが証明されれば、1日当たり1万90000円が上限額となります。
また、任意保険基準は各保険会社が設定している内部基準のため非公開とされていますが、自賠責保険基準とほぼ同じ金額であり、弁護士基準より低い金額とされているのが一般的です。
これに対して、弁護士基準では、勤務先の会社が作成した休業損害証明書を基礎にして休業損害の金額を計算します。
事故前の直近3ヶ月の給与の総額を3ヶ月の出勤日数で割ることによって1日の単価を算出したうえで、休業日数を乗じることによって、休業損害を計算することとなります。
この計算方法によれば、3つの基準の中で休業損害の金額が最も高くなります。
逸失利益
交通事故によって後遺症が残った場合、相手方に対して逸失利益の請求が可能です。
逸失利益は、交通事故による後遺症のせいで本来得られるはずの利益が得られなくなった場合の損害のことです。
以下の計算方法を用いて逸失利益を計算します。
基礎収入は、被害者が将来得る見込みがあった収入をいい、交通事故の時点における被害者の職業や年収に応じて決定されます。
治療費、通院交通費などの積極損害
積極損害とは、交通事故によって実際に支払うことを余儀なくされた費用のことです。
治療費、通院付添費、通院交通費などが積極損害の代表的なものです。
治療費
交通事故の加害者が怪我をした場合の治療費については、過失割合に応じた金額を被害者側に請求することが可能です。
被害者の過失割合が10割(100%)であればその全額を被害者側に請求できます。
通院交通費・通院付添費
通院交通費は、交通事故の怪我の治療のために通院をした場合にかかった交通費です。
バスや電車などの公共交通機関による通院の場合はその実費の請求が可能です。
自家用車による通院の場合、自宅から医療機関までの距離1km当たり15円の請求が可能です。
また、通院の際に、被害者の怪我の状況や年齢などによって他人に付き添ってもらうことを要すると認められた場合、通院付添費を請求できます。
通院付添費として請求できるのは、1日当たり3300円です。
賠償金はいくら?自動計算機で算定しよう!
以下の自動計算器をご利用いただくことで、慰謝料以外の賠償金について、ご自身のケースにおける具体的な金額の概算を知ることができます。
相手方との示談交渉を有利に進めるためにも、あらかじめご自身が受け取ることができる賠償額を計算しておくことが重要ですので、ぜひ活用していただければと思います。
交通事故の慰謝料等を受け取る手続
交通事故の慰謝料等の取得までの流れ
加害者が交通事故の慰謝料等を取得するまでの流れを図で示すと、以下のようになります。
交通事故の発生~示談交渉の開始まで
交通事故が発生し怪我をした場合は、ただちに病院で治療してもらいましょう。
怪我の程度によって、通院や入院による治療を継続します。
怪我が治った場合は治療の終了となり、その時点で被害者側との示談交渉を始めます。
治療の継続によっても怪我や痛みが治らないのであれば、まだ示談交渉は始めずに、症状固定(これ以上治療を続けても症状の改善が見込めないという状態)として後遺障害の申請を行うこととなります。
申請の結果、後遺障害が確定した場合には、被害者側との示談交渉を始めます。
示談交渉
示談交渉は、被害者側との間で、慰謝料その他の賠償金の金額について話し合うものです。
示談交渉は、被害者が任意保険に未加入の場合は被害者本人と行い、被害者が任意保険に加入している場合は、その任意保険会社との間で行うこととなります。
示談が成立した場合
示談交渉がまとまれば示談成立となり、示談の内容に従って通院慰謝料を受け取ることができます。
示談交渉を開始して、早ければ1週間程度で示談が成立します。
ただし、賠償額が高額である場合や争点が複雑である場合などは、示談成立まで半年以上かかることもあります。
示談が不成立となった場合
示談交渉がまとまらず示談が成立しなかった場合は、裁判などによって解決を目指し、解決すれば通院慰謝料を取得することができます。
なお、裁判による場合、通常は解決まで1年程度かかることとなります。
交通事故の慰謝料等を取得するのに必要となる書類
加害者が任意保険会社に加入している場合には、示談交渉の際に、任意保険会社によって具体的な慰謝料の金額が提示されます。
したがって、任意保険会社と示談交渉を行う場合、慰謝料を取得するための書類や明細書を取得しておく必要はありません。
これに対して、加害者側の任意保険会社ではなく、被害者請求の方法で自賠責保険会社に慰謝料を請求する場合は、主に以下のような書類や明細書を取得しておく必要があります。
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 診断書
- 診療報酬明細書
- 自動車損害賠償責任保険支払請求書兼支払指図書
- 印鑑証明書
なお、交通事故証明書に記載されている加害者側の自賠責保険会社に連絡し、これらの書類の様式を郵送してもらうことができます。
休業損害や通院交通費を請求する場合には、休業損害証明書、通院交通費明細書などを別途提出する必要があります。
交通事故証明書
そこに記載されている内容の交通事故があったという事実を証明するための書類が、交通事故証明書です。
交通事故証明書は、その交通事故が発生した場所を管轄する「自動車安全運転センター」から取り寄せて入手します。
交通事故の発生日時や発生場所、交通事故の加害者および被害者、交通事故の類型、交通事故を受け付けた警察署などが記載されています。
事故発生状況報告書
被害者の方が作成した図や文章によって、交通事故が発生した時の具体的な状況の説明をする書類です。
事故発生状況報告書の書式は、保険会社から入手することができ、被害者の方が交通事故時の具体的な状況を記載して作成します。
診断書
怪我の程度や、怪我と交通事故との間の因果関係などが記載された書類で、医師が作成します。
病院に作成を依頼して入手できます。
加害者が任意保険会社に加入している場合には、その任意保険会社がすでに診断書を取得していることがありますので、その場合には任意保険会社に連絡して送ってもらえます。
なお、整骨院に通院した場合は、整骨院に「施術証明書」の作成を依頼して入手しておく必要があります。
診療報酬明細書
病院での治療の内容等が記載された書類であり、診断書と同じく、病院に作成を依頼することで入手可能です。
なお、加害者が任意保険に加入済みの場合には、加害者側の任意保険会社がすでに取得していることがありますので、任意保険会社に確認しましょう。
自動車損害賠償責任保険支払請求書兼支払指図書
賠償金を請求する「支払請求書」と、治療費などを請求する「支払指図書」が一体となった書類であり、自賠責保険への請求の際に必要です。
保険会社から書式を入手して、ご自身で、交通事故の当事者の氏名や住所、賠償金の振込口座等を記載して作成します。
交通事故の加害者についてのQ&A
加害者にお金が無い場合慰謝料は誰が払うの?
そのため、交通事故の相手本人とではなく、相手が加入している任意保険会社と慰謝料や賠償金の金額について交渉することとなります。
加害者が保険に入っていなかったらどうなる?
相手にお金が無いときは、慰謝料やその他の賠償金を支払ってもらえない可能性があります。
ただし、自賠責保険は強制加入保険であるため、通常は交通事故の相手は自賠責保険には加入しているはずです。
その場合、相手が加入している自賠責保険から、被害者請求によって一定額の慰謝料や賠償金を支払ってもらうことができます。
まとめ
以上、交通事故の加害者でも慰謝料をもらえるかについて、加害者が慰謝料をもらえる条件や受け取ることのできる慰謝料の相場、慰謝料の適正な計算方法や、その他に加害者がもらえる賠償金などについて、詳しく解説しました。
交通事故の加害者であっても、怪我をして通院などをし、かつ相手に一定の過失があった場合には、慰謝料や賠償金をもらうことができます。
交通事故を起こしてしまった場合であっても、一方的に慰謝料や賠償金を支払わなければならない立場にあるとは限りませんので、ご自身も慰謝料などの支払いを受けることができる状況にあるかについてしっかりと確認しましょう。
当事務所では、日常的に交通事故案件を取り扱う人身障害部を設けています。
交通事故案件は、相談対応から事件処理まで人身障害部の弁護士が対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
また、電話相談、オンライン相談(LINE、Meet、Zoom、FaceTime)を用いて全国対応をしておりますので、お気軽にお問い合わせください。