交通事故で精神的苦痛!慰謝料を請求できる?必要な手続も解説
交通事故で被害者の方が精神的な苦痛を受けた場合には、加害者に対して慰謝料を請求することができます。
交通事故の精神的苦痛に対する補償については、「入通院慰謝料」、「後遺障害慰謝料」、「死亡慰謝料」の3種類が存在しています。
実務上、加害者に慰謝料を請求できるのは人身事故のみであり、物損事故の場合には慰謝料を請求することはできません。
以下では、交通事故の慰謝料の相場や慰謝料を請求する際の注意点などを解説していますので、参考にされてください。
目次
交通事故の慰謝料とは
交通事故に遭った場合、被害者の方は加害者側から「慰謝料」を受け取ることができます。
この「慰謝料」とは、交通事故によって受けた精神的な苦痛を補償するために支払われる賠償金のことをいいます。
交通事故によって損害賠償の対象となるものには、大別して「財産的な損害」と「精神的な損害」の2種類があります。
「財産的な損害」とは、交通事故によって被害者の方が被った、治療費や修理費用や休業損害など財産的な不利益のことを指します。
これに対して、「精神的な損害」とは、交通事故によって被害者の方が受けた精神的な苦痛のことを指します。
精神的な苦痛についても賠償してもらうためには、金銭に換算して評価しなければなりません。
ただし、このような精神的苦痛については、怪我や治療の内容など被害者の状況によって異なるため、ケースバイケースで算定する必要が生じてきます。
慰謝料に関しては、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
交通事故の慰謝料をもらえるケース
どのような交通事故の被害に遭ったとしても、誰しもが精神的苦痛を感じることでしょう。
しかし、すべての交通事故の事案で加害者に慰謝料を請求できるわけではありません。
被害者の方が慰謝料を請求できるケースは以下のような場合です。
- 入院や通院をしたケース
- 後遺症が残ったケース
- 被害者が死亡したケース
以下それぞれについて受け取ることができる慰謝料について、詳しく解説していきます。
入院や通院をしたケース
交通事故によって被害者が怪我をして、入院や通院をした場合には、それによって生じる精神的な苦痛を賠償するためには、「入通院慰謝料」を請求することができます。
入通院慰謝料の相場については、怪我の程度や入通院の期間の長さに応じて決まります。
むち打ちなどの軽症の場合には、通院1日あたり6000円程度、入院1日あたり1万円程度が慰謝料の相場となります(入通院期間によって変動します)。
これに対して、骨折などの重症の場合には、通院1日あたり8000円程度、入院1日あたり1万6000円程度が慰謝料の相場となります(入通院期間によって変動します)。
このように同じ日数の通院・入院期間であっても怪我の程度によって慰謝料の金額が異なることになり、また同じ程度の怪我であっても通院・入院の日数によって慰謝料の金額は異なることになります。
入通院慰謝料に関する詳しい解説や、ご自身のケースで入通院慰謝料がいくらくらいになるのかを知りたいという方は、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
後遺症が残ったケース
交通事故による怪我で後遺症が残ってしまった場合には、被害者の身体的・精神的な苦痛を補償するため、「後遺障害慰謝料」を請求することができます。
交通事故による怪我については、病院による治療を受けることで完治するものもありますが、怪我の程度によっては完全には治らず何らかの症状が残ってしまうこともあります。
このような後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害の重さの程度に応じて慰謝料を請求することができます。
後遺障害の重さの程度を判断するために重要なのが、「後遺障害の等級認定」です。
交通事故による後遺障害については、等級や種類・系列が詳細に決められています。
具体的には、後遺症の部位や程度によって、重い順から1級〜14級までの等級と、140種類35系列の後遺障害が細かく分かれています。
交通事故による後遺障害の症状や程度については被害者によって異なるため、被害者ごとに個別に判断することは非常に困難です。
そこで、後遺障害等級の認定審査の書類内容をあらかじめ定められている基準に照らし合わせてどの等級にあてはまるのかを審査することで被害者の後遺障害等級を認定しています。
被害者が死亡したケース
交通事故により被害者が亡くなった場合には、亡くなった被害者自身の精神的な苦痛を補償するために「死亡慰謝料」を請求することができます。
死亡慰謝料は、一時的には死亡した被害者本人に発生すると考えられています。
しかし、死亡した被害者本人は加害者に請求することができませんので、その慰謝料請求権を相続した遺族が加害者に請求することになります。
これに対して民法第711条によれば、遺族にも固有の慰謝料請求権が発生することになると考えられています。
民法第711条に定められている遺族の範囲としては、「被害者の父母、配偶者及び子」です。
引用元:民法|e-Gov法令検索
もっとも、実質的にみてこれらの列挙されている者と同視できる者であれば、その者にも遺族固有の慰謝料請求権が認められる可能性があります。
具体的には、事実上の親子や、内縁配偶者の場合、親代わりに生活の面倒を見てきた兄弟姉妹などの場合です。
死亡慰謝料に関しては、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
交通事故の慰謝料をもらえないケース
交通事故で慰謝料を請求できないケース
過失割合が100%の場合には、交通事故に遭ったとしても慰謝料を請求することはできません。
例えば、信号無視で直進した交通事故や停車中の相手に追突した事故、センターラインオーバーの事故などです。
また物損事故でも、原則として慰謝料の請求は認められてません。
交通事故で物が破損した場合、破損したものに対し賠償を受ければ物を壊された被害者の精神的な苦痛についてもあわせて補償されると考えられるため、別途慰謝料請求権は発生しないと考えられています。
しかし、物損事故であっても例外的に慰謝料の請求が認められた例がありますので、以下でご紹介しましょう。
物損で交通事故慰謝料が認められた例
被害者のペットが犠牲になった事案
飼い犬が自動車に轢かれて死亡したにもかかわらず加害者が責任を否定した事案では、慰謝料として2万円の請求が認められています。
また、購入価格6万5000円のペット(8歳雄のラブラドルレトリバー)が交通事故に遭い、第二腰椎圧迫骨折、後肢麻痺、排水障害の症状を負った事案では、慰謝料40万円の請求が認められています。
被害者の所有物が破壊された事案
霊園内で自動車が墓石に衝突し、骨壺が露出した事案については、先祖、個人が眠る場所として強い敬愛追慕の念の対象となるという特殊性から慰謝料10万円の請求が認められています。
また、陶芸家の自宅のコンクリート壁に自動車が衝突し壁が倒れ陶芸家の作品が破損した事案についても慰謝料請求が認められています。
芸術作品が壊された場合には、被害者にとっての特別な主観的・精神的価値があり、作品の具体的な金額を認定できないとして慰謝料100万円の支払請求が認められています。
さらに、大型貨物自動車が民家へ飛び込んだことで住宅が損傷を受けた事案でも、慰謝料の請求が認められています。
交通事故で自宅が破壊された場合には、被害者の生活利益、社会的信用等の利益を侵害することになるため、慰謝料請求が認められます。
ただし、上記のようなケースは例外的な事例であり、原則として物損事故で慰謝料は認められていませんので、その点は注意しておく必要があるでしょう。
物損事故に関する慰謝料については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひ参考にしてください。
交通事故で請求できるのは慰謝料だけではない!
慰謝料は示談金の一部
交通事故に遭った被害者が加害者に請求できるのは、慰謝料だけではありません。
前述のとおり、慰謝料は「精神的な損害」を補償するための賠償金です。
交通事故による損害については、精神的な損害のみならず「財産的な損害」もありますので、被害者はこの損害分についても賠償請求をすることができます。
そのため、交通事故の被害者が受け取ることができる「示談金」は、慰謝料と財産的損害を合計した賠償金額をベースに算定されることになります。
そして、被害者が請求することができる経済的な損害として、よく問題となる項目には以下のようなものがあります。
- 医療費などの積極損害
- 休業損害
- 逸失利益
積極損害とは
積極損害とは、交通事故によって、被害者がお金を支払うことになった場合に、その支出を損害として扱うものです。
積極損害として認められるには、交通事故や加害行為との間に因果関係が認められる出費であることが必要です。
積極損害として、以下のような支出が含まれます。
病院での治療費や整骨院での施術費、鍼灸費、マッサージ治療費、装具・器具などの購入費用などが含まれます。
交通事故の治療関係費については、症状固定日までに生じたものを損害として請求することができます。
交通事故に遭い入院することになって付き添いが必要となった場合には、入院付添費を請求できる可能性があります。
入院付添費が請求できるのは、医師から入院中は被害者に付き添うように指示があった場合や、被害者が幼児・児童である場合です。
病院に通院するために公共交通機関を利用した場合には、その料金を損害として請求することができます。
電車やバスを利用した場合には、自宅から病院までの公共交通機関の種類と駅名を示して運賃を、自家用車で通院した場合には、ガソリン代や高速道路代、駐車場料金などの実費相当額を請求することができます。
また、治療や看護のために宿泊する必要がある場合には、宿泊費を請求することができます。
交通事故による入院や傷害の影響で進級や卒業が延びてしまい、余計に費用が掛かってしまうことがありますが、このような費用も損害として請求できる可能性があります。
交通事故により身体に障害が残った場合、障害の程度によっては、日常生活を送るにあたって自宅や自家用車のバリアフリー化が必要となる場合があります。
このような場合には、玄関・風呂場・トイレや自動車の改造費の請求が認められる可能性があります。
葬祭費用や墓碑建設費、仏壇購入費用などについても、社会通念上相当な範囲にとどまるものについては、損害として請求できる可能性があります。
積極損害については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
休業損害とは
交通事故で怪我をしたことで、仕事を休んだり時短勤務をしたりしたことで、事故前よりも収入が減少してしまうことがあります。
交通事故によって労働が制限されたことで収入が減少した場合には、その減少分を休業損害として請求することができます。
休業損害については、基本的には「収入日額 × 休業日数」という計算式で算出することになります。
休業損害については以下のページで詳しく解説していますので、こちらを参考にしてください。
逸失利益とは
逸失利益とは、仮に交通事故が起きなかったとした場合に将来得られたであろう収入の減少分のことを指します。
逸失利益として、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の2種類があります。
交通事故によって身体の痛みや可動域制限などの後遺障害が残ってしまった場合、労働能力の低下によって将来の収入の減少が予測されます。
このような後遺障害によって生じた減収分を後遺障害逸失利益といいます。
また、交通事故によって被害者が死亡した場合には、被害者が生存していれば得ることができたはずの収入が得られなくなります。
このような死亡によって生じた減収分を死亡逸失利益といいます。
逸失利益は、「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数」によって算出します。
逸失利益に関しては、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひ参考にしてください。
交通事故の慰謝料等の相場
交通事故に遭われた方の中には、ご自身のケースでいくら請求できそうなのかを早く知りたいという方もいらっしゃると思います。
他のWEBサイトの計算ツールの中には、慰謝料しか算出できないものも多く、賠償金の概算を計算できないものも散見されます。
ご自身の交通事故のケースで大まかな賠償金の金額を知りたいという方は、以下の自動計算ツールをご活用ください。
以下の交通事故賠償金シミュレーターは、慰謝料のほかに、休業損害、逸失利益の算定にも対応しています。
お手元のスマホで必要事項を入力いただくだけで素早く・簡単に賠償金の概算を算出することができます。
交通事故で慰謝料等を請求する手続
交通事故で慰謝料等を取得する流れ
交通事故に遭った場合に、慰謝料を取得するまでの流れは以下のとおりです。
交通事故に遭って、慰謝料等を請求する場合には、まずは医療機関で適切な治療を受ける必要があります。
医師から完治または症状固定と判断されるまでは、治療を継続する必要があります。
自己判断で勝手に通院を中断してしまうと、入通院慰謝料が低額になってしまう可能性があります。
また短期間の通院しかしていないと、後遺障害等級認定で不利になる可能性もあります。
症状が残っている場合には、保険会社の治療終了の打診に関わらず、医師と相談して適切な治療を受けたうえで後遺障害申請をするようにしてください。
交通事故で慰謝料等を取得するための書類
加害者が任意保険に加入している場合には、被害者の方は特に書類を準備する必要はありません。
この場合、保険会社において必要な診断書や明細書を取り寄せて賠償金の金額が算定され、被害者に示談金の提示が行われます。
これに対して、加害者が任意保険に加入しておらず、被害者が自賠責保険に請求しなければならない場合には、必要書類を集めて提出する必要があります。
慰謝料等を取得するために必要となる書類は以下のとおりです。
必要書類の種類 |
---|
自動車損害賠償責任保険支払請求書 兼 支払指図書 |
交通事故証明書 |
印鑑証明書 |
事故発生状況報告書 |
後遺障害診断書(後遺障害申請をする場合) |
施術証明書・施術費明細書 |
診断書、診療報酬明細書 |
死亡診断書、戸籍謄本(死亡慰謝料を請求する場合) |
通院交通費を請求する場合には、通院交通費明細書を保険会社に請求する必要があります。
また、休業損害を請求する場合、会社員の方は休業損害証明書や源泉徴収票が、個人事業主の方は確定申告書を提出する必要があります。
交通事故で慰謝料等を取得するための証拠
交通事故で慰謝料等を取得するためには、証拠の収集・保管が重要となっていきます。
慰謝料等を請求するために重要となる証拠には以下のようなものがあります。
- 診断書
- 診療報酬明細書(レセプト)
- 施術証明書・施術費明細書
- 後遺障害診断書
- 画像データ(CT、MRI、レントゲン)・写真
- 後遺障害等級認定票
- 死亡診断書または死体検案書
- 省略のない戸籍(除籍)謄本
交通事故で慰謝料等を取得するための費用
実費
実費とは、慰謝料等を請求する場合に必要となる、交通費、通信費、収入印紙や郵券などといった費用のことです。
これらの実費については、慰謝料等の請求を弁護士に依頼せずに被害者自身で対応した場合であっても負担せざるを得ないコストになります。
ご自身で手続きをする場合であっても、書類の送付や資料の取り寄せなどにかかる通信費や配送料などの実費は負担する必要があります。
弁護士費用
交通事故の弁護士費用には、以下のような費用項目が挙げられます。
- 相談料:
弁護士に交通事故事件を相談するために必要となる弁護士費用です。 - 着手金:
実際に交通事故事件を弁護士に依頼する場合に支払う弁護士費用です。最終的な結果に関わらず着手金は返金されません。 - 成功報酬:
依頼者の得た経済的利益に応じて弁護士に支払う弁護士費用です。依頼者が得られた経済的な利益の何パーセントという形で定められることが一般的です。 - 日当:
弁護士が裁判所や、話し合い調査のために出張した場合に、弁護士に活動してもらうために支払われる弁護士費用です。
なお、弁護士費用を低額に抑えたいという方は、「弁護士特約」を利用することをおすすめします。
弁護士費用特約とは、上限300万円までであれば、自己負担ゼロ円で弁護士に交通事故事件を依頼することができます。
まお、300万円の補償範囲を超えるケースはほとんどありませんので、多くの被害者の方が自己負担なく弁護士に対応をお願いすることができるでしょう。
弁護士の費用に関しては、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
精神的苦痛についてのQ&A
精神的苦痛で慰謝料請求できる条件は?
- 事故で怪我を負って入院・通院を強いられた場合
- 事故で怪我を負って後遺障害が残存した場合
- 交通事故によって被害者が死亡した場合
実務上、物損事故の場合には、破壊された物に対して賠償がされれば被害者の精神的苦痛も癒されると考えられているため、原則として慰謝料を請求することはできません。
精神的苦痛を理由とする慰謝料を請求する法的根拠は?
同条の規定が、精神的苦痛を理由とする慰謝料の請求が認められる法的根拠とされています。
まとめ
この記事では、交通事故で精神的な苦痛を受けた場合に請求できる慰謝料について解説してきました。
被害者の方は、慰謝料を含めた賠償金を適切に算定して加害者側の保険会社に請求していく必要があります。
ご自身だけで示談交渉するのが不安だという方は、ぜひ当事務所の弁護士にご依頼ください。
当事務所には、交通事故案件を日常的に処理する弁護士が所属する人身障害部があります。
交通事故のご相談やご依頼後の事件処理は、すべて人身障害部の弁護士が対応いたしますので、安心してご相談ください。
電話相談、オンライン相談(LINE、Meet、FaceTime、Zoom)にて、全国対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。