逸失利益がもらえない原因とは?対処法も解説
逸失利益がもらえない原因には、
- ① 後遺障害等級認定を受けていない
- ② 収入がない
- ③ 減収が生じていない
- ④ 労働能力が低下していない
などといったものがあります。
こうした事情があると、加害者側の保険会社から「逸失利益は支払えない」と言われてしまう場合が多くなります。
ただ、一見上記の条件に当てはまる場合であっても、実際には仕事に支障が生じている、将来的な昇給、昇進、転職などの際に不利益を被る可能性がある、などといった事情を具体的に立証できれば、逸失利益が得られる場合もあります。
逸失利益は、金額的な面で、損害賠償の中で大きな割合を占める重要な項目ですので、もらえないとなると、その後の生活に大きな影響が出る可能性があります。
保険会社から逸失利益の支払いを拒まれても、すぐに諦めてしまうのではなく、一度交通事故に詳しい弁護士に相談してみることが大切です。
今回は、逸失利益がもらえない原因について解説し、逸失利益を得るためにはどうすればよいのかについて、当事務所での解決事例を交えながらご紹介していきます。
目次
逸失利益とは?
逸失利益とは、交通事故により後遺障害を負ったり死亡したりしたために、事故がなければ得られたはずなのに得られなくなってしまった収入(利益)のことをいいます。
逸失利益は、交通事故による損害賠償の項目(慰謝料、休業損害、積極損害など)の中の一項目となっています。
逸失利益と損害賠償の関係については、以下のページをご覧ください。
逸失利益全般に関する説明は、以下のページをご覧ください。
逸失利益がもらえない原因
後遺症が残った又は被害者が死亡したというケースでは、多くの場合、逸失利益についても損害賠償の対象とされます。
しかし、中には、加害者側の保険会社から、「逸失利益は支払えない」と言われるケースもあります。
逸失利益がもらえないと言われる原因として、主に考えられるものには次のようなものがあります。
それぞれの項目について解説していきます。
①後遺障害等級認定を受けていない
後遺障害を負った場合の逸失利益は、通常、後遺障害等級認定を受けた上で算定されます。
治療を進めても治る見込みがない痛み・関節の可動域制限などが残ってしまった場合は、主治医に後遺障害診断書を書いてもらい、後遺障害等級認定の申請を行いましょう。
後遺障害等級に関する解説は、以下のページをご覧ください。
なお、病院に通院せずに整骨院にのみ通ってしまうと、医師に後遺障害診断書を作成してもらえなくなる場合があります。
そのため、整骨院に通院する場合、最低でも月1回程度は病院でも診察を受ける必要があるなど、注意すべき点がいくつかあります。
整骨院に通院する場合の注意点は、以下のページをご覧ください。
②収入がない
事故前に失業中などで収入がなかった、という場合も、保険会社から「逸失利益は支払えない」と言われることがあります。
ただ、失業中の場合は、弁護士基準(裁判基準)では、「労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性がある」場合には、逸失利益が認められる、とされています(「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準・上巻(基準編)」(日弁連交通事故相談センター東京支部)(通称「赤い本」))。
事故当時学生で収入がなかった(またはアルバイト収入程度だった)という場合も、将来的には働いてお金を稼げていたと考えられますので、高校卒業(又は大学卒業)以降の逸失利益が認められます。
主婦(主夫)の場合も、現金収入がなかったとしても家事労働を行っているのですから、これを金銭的に評価し、逸失利益が算定されます。
しかし、弁護士を通さずに加害者側の保険会社と示談交渉していると、保険会社から、「主婦でこの程度の後遺障害なら、家事に支障はないので逸失利益はもらえない」「無職だったから逸失利益は認められない」などと言われ、逸失利益の支払いを拒まれることも多くあります。
保険会社からこのような対応を受けた場合は、一度交通事故に詳しい弁護士に相談してみて、法律的な観点から、本当に逸失利益が得られないケースなのかを見てもらうことをお勧めします。
なお、主婦が交通事故に遭った場合の逸失利益、休業損害、慰謝料などの算定方法については、以下のページでも解説しております。
どうぞご参照ください。
③減収が生じていない
交通事故で後遺症を負ったにもかかわらず、実際には減収が生じなかった、というケースもあります。
典型的には、年金収入や不労所得(家賃、配当、利息など)を得ているだけなので、後遺症があっても収入に変わりはない、というケースがあります。
会社員・公務員などであっても、いきなり給料を減らされはしない、という場合もあります。
こうした場合、「事故により得られなくなった利益(逸失利益)はない」ということになりますので、原則的には逸失利益はもらえません。
そのため、客観的に見た減収がないとなると、加害者側の保険会社から、「あなたの収入は減っていないので、逸失利益はもらえない」と言われることが多くなります。
しかし、一見減収が生じていないように見える場合でも、逸失利益が得られる場合もあります。
たとえば、会社員・公務員などで、すぐには給料を減らされなかった、という場合でも、
- 将来の昇進、昇給、転職等について不利益を受ける可能性がある
- 同じ業務をこなしてはいるが、以前より時間がかかるなどしており、本人の努力や周囲の協力が必要となっている
- 後遺障害のために、事故前と同じ業務をすることに支障が生じている
という場合には、多くの裁判例で逸失利益が認められています。
年金や家賃等で生活している方の場合は、逸失利益を得ることは難しいケースが多いのですが、
- 家事や育児(孫の世話)などをしていたのに、後遺障害のために支障が出るようになった
- 家賃を得るために自ら物件の管理をしていたのに、後遺障害のせいでできなくなった
などという具体的な事情を主張・立証し、弁護士を通じて粘り強く交渉することで、逸失利益を得られたケースもあります。
「実際には事故の後も収入が変わっていないから、逸失利益はもらえないかも・・・」と思った場合も、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。
なお、年金生活者の場合でも、死亡してしまった場合には、今後得られたはずの年金が逸失利益となることが認められています。
④労働能力が低下していない
後遺障害の態様によっては、後遺障害等級認定を受けていても、実際には労働能力に影響がないなどと考えられてしまう場合もあります。
例えば、醜状障害(傷跡が残る後遺障害)のみの場合など、労働能力喪失率について保険会社との間でよく争いになります。
醜状障害だけでは、仕事にどのような影響があるのか判然としない、というのがその理由です。
特に、家事については、家の中での仕事ですので、傷跡があっても関係ないのではないか、と主張されることが多くなります。
そのため、醜状障害の場合には、実際に仕事や家事にどのような支障が生じているのか、例を挙げて具体的に説明する必要が出てきます。
ほかにも、腰椎の圧迫骨折、鎖骨骨折後の変形障害の場合、実際の労働能力喪失率が、後遺障害等級ごとに定められている数値よりも低いのではないか、と争われ、逸失利益の額を下げるように主張されることが多くあります。
これらの後遺障害については、裁判例でも、認定された後遺障害等級に対応する労働能力喪失率ほどの労働能力の低下はない、として、労働能力喪失率をより低く認定するものが少なくありません。
逸失利益をもらえるようにするには?
保険会社から逸失利益の支払いを拒まれてしまうと、「自分は逸失利益はもらえないのか・・・」を思われるかもしれません。
しかし、場合によっては、逸失利益をもらえるようにできる可能性もあります。
逸失利益をもらえるようにするには、次のような方法が考えられます。
適切な後遺障害等級認定を受ける
後遺障害による逸失利益を得るためには、まずは適切な後遺障害等級認定を受けましょう。
後遺障害等級認定を受ける方法としては、加害者側の保険会社から手続きを行ってもらう事前認定と、被害者自ら申請を行う被害者請求があります。
治療中の示談交渉の中で、加害者側の保険会社との間で症状の重さなどに関する認識に差がありそうだと感じておられる場合は、被害者請求を行い、被害者の立場で証拠資料を準備して手続を行うことをお勧めしております。
被害者請求をする際には、十分な証拠を揃えるためにも、弁護士に依頼して進めることをお勧めします。
事前認定でも被害者請求でも、後遺障害等級認定を受ける際には後遺障害診断書の内容が大変重要になります。
後遺障害診断書は主治医に作成してもらうのですが、主治医に任せきりにするだけでは、十分な内容の後遺障害診断書にならない場合があります。
後遺障害診断書を作成してもらう前に、弁護士に相談し、医師にどのようなことを伝えるべきか、どのような内容を後遺障害診断書に盛り込んでもらうべきかについてアドバイスをもらい、それを前提に医師ともよく話し合っておきましょう。
既に後遺障害等級認定を得ている場合でも、納得ができない場合は、異議申立てをして再度認定をやり直してもらいましょう。
後遺障害等級認定への異議申立ては何度でもできますので、ご自身で既に異議申立てをされた場合でも、弁護士に相談し、再度の異議申立てを検討してみることをお勧めします。
仕事に生じている支障を明らかにする
後遺障害等級認定を受ける際にも、後遺障害等級認定を受けてから示談交渉をする際にも、十分な逸失利益を受け取るためには、後遺障害によって仕事に生じている支障を明らかにすることが役に立つ場合があります。
後遺障害等級認定や示談交渉で思うような結果が得られない場合には、「痛みがあるせいで集中力が落ち、仕事に以前より多くの時間を要している」「傷跡(醜状痕)のことを理由に配置転換された」など、実際に生じている支障のことを文章にまとめ、被害者の陳述書として提出することが多くあります。
こうして実態を明らかにして臨むことで、適切な後遺障害等級認定を受けられる、示談交渉で相手方も譲歩してくる、といったことが少なくありません。
交通事故に強い弁護士に相談
示談交渉の際に、加害者側の保険会社が逸失利益を認めない場合や、認めたとしても額が低すぎるのではないかと感じられる場合には、ぜひ一度、交通事故問題に詳しい弁護士に相談してください。
そうすれば、弁護士基準や裁判例からみて、本当に逸失利益が保険会社の言うとおりになるものなのかについてアドバイスをもらうことができます。
保険会社の提示額では不十分だということであれば、弁護士に示談交渉を依頼し、裁判基準での賠償額を請求するようにしましょう。
弁護士に依頼すれば、逸失利益等を獲得するために必要な準備(主張内容の検討、陳述書などの証拠の用意など)を代わりに行い、加害者側の保険会社との交渉も代理してもらうことができます。
交通事故問題については弁護士に相談すべきであること、交通事故問題に詳しい弁護士の選び方については、以下のページで詳しくご説明しております。
もらえないと思っていた逸失利益が獲得できた事例
当事務所において解決した事例の中には、一見逸失利益の獲得が難しそうに見えたケースでも、当事務所の弁護士が交渉を行った結果、逸失利益を含めた賠償金を獲得できたケースがあります。
そのうちの一部をご紹介します(なお、以下では、事件の特定ができないよう、事件内容などを一部変更しております。)。
①事故当時無職だった被害者が逸失利益を獲得した事例
このケースの被害者(30代)は事故当時無職であり、事故の前年の収入もほとんどありませんでした。
当初、加害者側の保険会社は、この点を主張して、逸失利益について争っていました。
しかし、被害者は事故当時まだ30代と若く、将来的にまったく収入がないままであるとは考えられませんでした。
そこで、当事務所の弁護士が、賃金センサスを用いて逸失利益を算定し、これを支払うよう求めて交渉を行いました。
その結果、加害者側も、賃金センサスの70%を基礎収入とした後遺障害逸失利益を認めました。
このケースでの後遺障害逸失利益は、約2180万円に及んでいます。
②高校生だった被害者が35年分の逸失利益を得られたケース
このケースは、交通事故によって足関節内果骨折後の痛み(14級9号)、下肢の醜状障害(傷跡)(14級5号)の後遺障害を負った被害者(事故当時高校生・女性)に関するものです。
当初保険会社から提示された案では、治療費を除いた損害賠償額は合計165万円(傷害慰謝料90万円、後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料75万円)とされていました。
これに対し、当事務所の弁護士が代理人となって交渉しました。
その中で、加害者側に対し、
- 事故当時高校生だった被害者にとって、足の傷跡(醜状障害)は精神的にショックの大きいものだったこと
- 痛みも、むち打ちとは違い骨折という器質的な変化によって生じたものなので、簡単に消失するとは考え難いこと
などを主張して、大学卒業後から67歳までの逸失利益及び後遺障害等級14級の基準以上の後遺障害慰謝料の支払いを求めました。
このケースでは、最終的に裁判を起こすことになりました。
そして、訴訟手続の中で、裁判所から和解案が提示されて和解することになりました。
和解では、被害者側の主張がほぼ受け入れられ、
- 大学卒業後から35年間の逸失利益(270万円)
- 裁判基準から30%程度増額した後遺障害慰謝料(150万円)
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料)190万円
- 近親者の付添費用(22万円)など合計650万円(治療費を除く)
の損害賠償を受け取ることができ、当初の提案額から500万円近く増額することができました。
③年金生活者だった被害者(70代後半)が逸失利益を獲得した事例
このケースでは、被害者は高齢で、年金生活をしていました。
そのため、事故で後遺障害(併合14級)を負っても減収はなく、保険会社は「逸失利益はゼロ」と主張していました。
そこで、被害者から依頼を受けた当事務所の弁護士は、事故前には被害者が孫の塾の送迎や料理などの家事労働を一部行っていたが、事故後はこれらの家事ができなくなった、ということを主張し、家事労働が制限されたことに対する逸失利益を請求しました。
こうして弁護士が粘り強く交渉したところ、後遺障害逸失利益12万円を獲得することができました。
逸失利益が認められなかったときの対処法
保険会社との交渉で逸失利益が認められなかった場合は、「逸失利益をもらえるようにするには?」でご紹介したような対処法を検討してみましょう。
その際には、ぜひ交通事故に詳しい弁護士に相談してください。
交通事故での示談交渉を仕事としている保険会社の担当者と、示談交渉の経験がほとんどない被害者とでは、情報量や交渉技術に大きな差があります。
そのような中で、被害者がご自身だけで逸失利益を得ようと行動してみても、残念ながら、成果を上げることは難しいです。
逸失利益について保険会社との間で意見が合わなくなった場合は、ぜひともまず、交通事故に詳しい弁護士を探し、相談してみてください。
交通事故に精通した弁護士であれば、逸失利益がもらえる可能性があるか、どのような証拠を準備すればよいかについてアドバイスしてくれます。
交通事故について弁護士に相談する相談するメリット、交通事故に詳しい弁護士の選び方については、以下のページで詳しくご紹介しております。
逸失利益について関連Q&A
無職だと逸失利益はもらえない?
事故当時無職であっても、弁護士基準では逸失利益をもらえる場合が多いです。
事故時に無職だった方の逸失利益は、弁護士基準では、「労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性がある」場合は認められるとされています(「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準・上巻(基準編)」(日弁連交通事故相談センター東京支部)(通称「赤い本」))。
当事務所でも、無職だった被害者の方について、賃金センサスにより算定した逸失利益を獲得した事例があります。
この事例については以下のページでご紹介しておりますので、ぜひご一読ください。
減収のない逸失利益は認められますか?
実際に減収が生じていない場合、原則的に逸失利益は認められません。
ただ、被害者の側で、「後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情」を主張・立証することができれば、逸失利益が認められることもあります。
具体的には、①後遺症に起因して実際に就業上の支障(昇進・昇格上や転職時の不利益を含む)が生じていること、②本人が後遺障害の影響を補うためにしている特段の努力(工夫・残業等)等の内容及びそれを長期間継続することが合理的に期待できないものであること等、③家事労働をしている場合に家事に支障が生じていることなどについて、実際の状況を主張・立証することになります。
当事務所における解決事例で、年金で生活しており事故による減収は生じていなかった方について逸失利益を獲得できたケースがあります。
以下のページで詳しくご紹介しておりますので、興味のある方はご一読ください。
逸失利益がもらえないのはおかしい!どうすれば?
加害者側の保険会社が「逸失利益は支払えない」などと言っている場合には、一度交通事故問題に詳しい弁護士に相談してみましょう。
そうすれば、弁護士が、法的に逸失利益の請求が可能かどうか検討し、可能な場合には、必要な主張や証拠の準備についてアドバイスをしてくれます。
示談交渉を依頼すれば、弁護士が代理人となって、こうした準備を行ってくれます。
減収を偽ったらどうなる?
加害者側の保険会社に対して減収に関する状況を偽り、逸失利益の賠償金を得ようとすると、詐欺罪に問われる可能性があります。
損害賠償を請求する際は、ご自身の被害状況や減収の状況について嘘をつくことはしないようにしてください。
まとめ
今回は、逸失利益がもらえない原因、逸失利益がもらえない場合の対処法などについて解説しました。
逸失利益は、損害賠償額の中でも大きな割合を占める重要な項目です。
逸失利益がもらえないとなると、損害賠償額が大きく減ってしまうことが多く、その後の生活にも大きな影響が生じます。
保険会社から「逸失利益は支払えない」と言われた場合は、重大なことですので、「保険会社が言っているから」と受け入れてしまうことなく、ぜひ一度、交通事故に詳しい弁護士に相談してください。
そうすれば、弁護士に、逸失利益が本当に得られないのかについて確認してもらい、逸失利益を得るためにどうすればよいかのアドバイスを得ることができます。
示談交渉を弁護士に依頼すれば、逸失利益を得るために必要な主張・立証の準備、保険会社との示談交渉、後遺障害等級認定に関する手続きなどを代わりに行ってもらうこともできます。
当事務所でも、逸失利益を得るために必要な各種のサポートをご提供しております。
当事務所で交通事故の被害者のサポートを行う弁護士は、人身傷害部で交通事故に関する多数の経験を積み、専門知識に習熟した弁護士たちです。
逸失利益の問題に限らず、交通事故の被害に遭ってお困りの方は、当事務所まで、ぜひ一度ご相談ください。