後遺障害14級の逸失利益はいくら?弁護士が解説|計算ツール
後遺障害14級の逸失利益は、「基礎収入 ✕ 5% ✕ 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」で計算します。
逸失利益とは、交通事故にあったことで得られなくなった将来の収入のことです。
交通事故の逸失利益としては、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の2種類があります。
後遺障害14級の場合、労働能力喪失率については5%とされます。
また、最も認定されることが多い14級9号の場合、労働能力喪失期間は、5年程度に制限されることが一般的です。
以下では、交通事故で後遺障害14級に認定された場合の逸失利益の計算方法などについて解説していますので、参考にされてください。
逸失利益とは?
「逸失利益(いっしつりえき)」とは、交通事故に遭わなければ本来得られたはずの将来の収入のことを指します。
交通事故による負傷が原因で後遺障害が残った場合には、事故前に比べて仕事に支障が出てくることがあり、被害に遭われた方によっては事故前と同じ業務を続けられないというケースもあります。
このように、交通事故がなければ得られるはずであった収入の補償を受けるために、加害者に逸失利益を損害として賠償請求することができるのです。
被害者の方が相手方に請求できる逸失利益には、「後遺障害の逸失利益」と「死亡の逸失利益」の2種類があります。
後遺障害の逸失利益
まず、「後遺障害の逸失利益」とは、交通事故によって後遺障害が残った場合の逸失利益を指します。
交通事故で後遺障害を負ってしまうと、後遺障害の程度によっては、労働が全くできない、または一部しかできないなど、本来であれば得られたはずの収入金額が減ってしまいます。
このような減収分を損害として加害者に請求できるものが、後遺障害逸失利益です。
後遺障害逸失利益は、基本的に将来の収入を現在に割り戻して算出することになるため、中間利息(現在の価値に換算する際の利息分)を差し引く必要があります。
後遺障害逸失利益の具体的な計算方法については、後述します。
後遺障害とは?
交通事故で怪我を負った場合、治療を継続したにもかかわらず完治せず、将来的に回復が見込めない身体的・精神的な症状が残ってしまうことがあります。
一般的にこのような症状を交通事故の「後遺症」ということが多いでしょう。
これに対して、「後遺障害」には、交通事故により残ってしまった身体的・精神的な傷害で、それ以上治療を継続しても症状が改善しない状態(症状固定)後に労働能力の低下・喪失を伴っていることが必要とされています。
また、交通事故と因果関係があることを証明することができ、その程度が自賠責保険の後遺障害等級に該当するものである必要があります。
したがって、被害者が後遺症があると主張したとしても、必ずしも後遺障害が認定されるわけではないという点には注意しておく必要があるでしょう。
損害賠償の対象となる後遺障害に該当するか否かについては、医師ではなく、損害保険料率算出機構が審査し自賠責保険が認定を行います。
自賠責保険の認定に納得がいかない場合には、最終的には裁判所が判断することになります。
交通事故の後遺障害については、部位や程度によって1級から14級までの等級と、140種類、35系列の後遺障害に分けられています。
後遺障害等級には、介護を要する後遺障害として1級〜2級、それ以外の後遺障害として1級〜14級まであります。
後遺障害等級は、等級の数字が小さくなるにつれて、後遺障害は重くなります。
例えば、12級と14級では、14級の方が症状が軽い後遺障害となります。
後遺障害に関しては、以下の記事で詳しく解説しておりますので、よろしければ参考にされてください。
後遺障害14級で逸失利益はいくらもらえる?
逸失利益をシミュレーターで簡単に計算
逸失利益としていくらの賠償金を受け取れるのか、ということをすぐに知りたいという方は、以下で紹介する自動計算機をご利用ください。
前述のように後遺障害による逸失利益は、以下の計算式によって算出されます。
このように計算式を見ただけでは、いくらの逸失利益を受け取れるのかはすぐにはわからないでしょう。
そこで、この自動計算機を使えば、ご自身の年収や認定された後遺障害等級などの必要事項を入力するだけで請求できる逸失利益のおよその金額を素早く算出することができます。
この自動計算機を利用すれば、過失割合を反映したうえで、慰謝料、休業損害、逸失利益などの損害費目も簡単に計算することができます。
なお、自動計算機は損害のすべてを網羅しているわけではありません。
後述のように治療費や通院交通費、葬儀費用なども交通事故の損害として加害者に請求できるケースがあります。
ご自身のケースにおける特別の事情や例外的な事例については、自動計算機では考慮することができませんので、交通事故事件を専門的に取り扱っている弁護士にご相談されることがおすすめです。
逸失利益の計算方法
逸失利益の計算式
それでは、具体的に後遺障害の逸失利益はどのように計算するのかについて、以下で解説していきます。
逸失利益の計算方法については、計算式が決まっており、以下の数式で求められます。
したがって、逸失利益を求めるには、以下の3つの数値を確定する必要があります。
- ① 基礎収入
- ② 労働能力喪失率
- ③ 喪失期間に対応するライプニッツ係数
以下、くわしく見ていきましょう。
①基礎収入について
基礎収入とは、被害者がどの程度の収入を得る見込みがあるかどうかということです。
したがって、被害者の方が交通事故にあう段階でどのような職業についていたか、年収はどの程度あったのかということがポイントになります。
以下は典型的な職業別の基礎収入の考え方をまとめたものです。
- 会社員の場合
原則として交通事故の前年の年収額が対象となるため、源泉徴収票の支払金額を基礎収入として計算します。 - フリーランスの場合
原則として交通事故の前年の確定申告書の所得額を基礎収入として計算します。
- 会社役員の場合
原則として交通事故の前年の報酬金額が対象となります。
- 専業主婦の場合
原則として賃金センサスの女性労働者の平均賃金を基礎収入とします。
基礎収入について、くわしくお調べになりたい方はこちらのページをご参照ください。
②労働能力喪失率について
次に、労働能力喪失率とは、その後遺障害がどの程度、本来の能力を失わせることになるかというもので、パーセントで表されます。
交通事故にあう前の状態を100%とした場合に、どの程度パフォーマンスが落ちるのかというのが労働能力喪失率ということになります。
これについては、認定された後遺障害の等級に応じて、一応の喪失率の目安が決まっています。
後遺障害14級の場合は「5%」と決められています。
③ライプニッツ係数について
ライプニッツ係数とは、中間利息控除を行うための係数です。
逸失利益は、将来の収入の減少分を示談の段階で一括して先に受け取るものです。
もし、この受け取ったお金を運用した場合、通常は利息がつきます。
そこで、公平の観点から、この将来の利息による増額分は控除すべきと考えられています。
この利息の控除のことを、中間利息といいます。
中間利息を控除する計算はとても複雑であるため、ライプニッツ係数という簡易化された数字を使います。
ライプニッツ係数は労働能力喪失期間に応じて決められています。
ライプニッツ係数表(法定利率3%)
労働能力 喪失期間 (年) |
係 数 | 労働能力 喪失期間 (年) |
係 数 |
1 | 0.9709 | 44 | 24.2543 |
2 | 1.9135 | 45 | 24.5187 |
3 | 2.8286 | 46 | 24.7754 |
4 | 3.7171 | 47 | 25.0247 |
5 | 4.5797 | 48 | 25.2667 |
6 | 5.4172 | 49 | 25.5017 |
7 | 6.2303 | 50 | 25.7298 |
8 | 7.0197 | 51 | 25.9512 |
9 | 7.7861 | 52 | 26.1662 |
10 | 8.5302 | 53 | 26.3750 |
11 | 9.2526 | 54 | 26.5777 |
12 | 9.9540 | 55 | 26.7744 |
13 | 10.6350 | 56 | 26.9655 |
14 | 11.2961 | 57 | 27.1509 |
15 | 11.9379 | 58 | 27.3310 |
16 | 12.5611 | 59 | 27.5058 |
17 | 13.1661 | 60 | 27.6756 |
18 | 13.7535 | 61 | 27.8404 |
19 | 14.3238 | 62 | 28.0003 |
20 | 14.8775 | 63 | 28.1557 |
21 | 15.4150 | 64 | 28.3065 |
22 | 15.9369 | 65 | 28.4529 |
23 | 16.4436 | 66 | 28.5950 |
24 | 16.9355 | 67 | 28.7330 |
25 | 17.4131 | 68 | 28.8670 |
26 | 17.8768 | 69 | 28.9971 |
27 | 18.3270 | 70 | 29.1234 |
28 | 18.7641 | 71 | 29.2460 |
29 | 19.1885 | 72 | 29.3651 |
30 | 19.6004 | 73 | 29.4807 |
31 | 20.0004 | 74 | 29.5929 |
32 | 20.3888 | 75 | 29.7018 |
33 | 20.7658 | 76 | 29.8076 |
34 | 21.1318 | 77 | 29.9103 |
35 | 21.4872 | 78 | 30.0100 |
36 | 21.8323 | 79 | 30.1068 |
37 | 22.1672 | 80 | 30.2008 |
38 | 22.4925 | 81 | 30.2920 |
39 | 22.8082 | 82 | 30.3806 |
40 | 23.1148 | 83 | 30.4666 |
41 | 23.4124 | 84 | 30.5501 |
42 | 23.7014 | 85 | 30.6312 |
43 | 23.9819 | 86 | 30.7099 |
令和2年3月31日以前に発生した交通事故の場合には、以下の係数表を使用して計算します。
▼こちらをクリック
-
令和2年3月31日以前に発生した交通事故の損害賠償請求に適用する表
ライプニッツ係数表(法定利率5%)ボタン
年齢 | 労働能力 喪失期間 (年) |
係 数 |
0 | 49 | 14.980 |
1 | 49 | 15.429 |
2 | 49 | 15.892 |
3 | 49 | 16.369 |
4 | 49 | 16.860 |
5 | 49 | 17.365 |
6 | 49 | 17.886 |
7 | 49 | 18.423 |
8 | 49 | 18.976 |
9 | 49 | 19.545 |
10 | 49 | 20.131 |
11 | 49 | 20.735 |
12 | 49 | 21.357 |
13 | 49 | 21.998 |
14 | 49 | 22.658 |
15 | 49 | 23.338 |
16 | 49 | 24.038 |
17 | 49 | 24.759 |
引用:別表Ⅱ-1就労可能年数とライプニッツ係数表|国土交通省
むちうちで14級9号の後遺障害に認定された場合、労働能力喪失期間については、多くの裁判例で5年程度とするものが目立ちます。
この場合、ライプニッツ係数は「4.5797」となります。
もっとも、14級の場合に5年というのはあくまでも目安です。
したがって、被害者側としては、むちうちであったとしても、症状の程度によっては5年を超える期間を保険会社に主張すべき場合もあると考えます。
逸失利益の計算には3つの基準がある
①基礎収入や②労働能力喪失率の算出については、以下の3つの基準があります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士(裁判所)基準
「自賠責基準」とは、自賠責保険から損害賠償を受ける場合の損害の算定方法となる基準です。
自賠責保険は、すべてのドライバーに加入が義務付けられている強制保険であり、交通事故でケガをした被害者に生じた損害を填補し、最低限の救済をすることを目的としています。
自賠責基準の場合、基礎収入に賃金センサス(平均賃金)の年収額を用いることができるため、実収入がこれより低い被害者の場合にはメリットがあります。
しかし、自賠責基準には上限額があり、後遺障害部分の基準のなかではもっとも低い基準となります。
後遺障害14級の限度額は75万円(慰謝料も含む)です。
「任意保険基準」は、加害者が任意保険に加入している場合、その保険会社が賠償額を算定するために用いる基準です。
任意保険基準は各保険会社が社内基準として規定しているため、公表されていません。
具体的な基準については、各保険会社によって異なる可能性がありますが、一般的に弁護士基準よりは低い水準の算定基準です。こ
なお、任意保険会社は自賠責基準で計算して賠償の提示をしてくることもあるので、任意保険会社の提示が全て任意保険基準で計算されているとは限らない点には注意が必要です。
逸失利益は弁護士基準が最も高額化しやすい
逸失利益の算出に関しては、弁護士(裁判所)基準が最も高額化しやすい基準です。
弁護士基準とは、弁護士が代理人として介入して交渉する場合に用いられる基準です。
弁護士基準は上記3つの基準の中で最も適正かつ高額な賠償金の算定基準です。
なぜなら、弁護士基準は過去の裁判例を参考に作成されているからです。そのため、裁判所基準ともいいます。
紛争となった交通事故事件について、各当事者が証拠によって自身の言い分について主張・立証を尽くした段階で、裁判所が適切な賠償額として認めた金額であるため、最も合理的かつ適切な算定基準であるといえます。
上で解説した14級の逸失利益の計算についても、弁護士基準を前提としています。
自賠責保険基準では支払い額に上限が設けられているため、その上限を超える保険金は支払われません。
そのようなケースでは、弁護士が被害者の代理人となって交渉を行ったほうが受け取れる賠償金が高額となる可能性があるのです。
逸失利益に関する詳細な解説や、適切な逸失利益を支払ってもらうためにポイントなどについては、以下の記事で詳しく説明しておりますので、よろしければ参考にされてください。
後遺障害14級の場合の計算例
それでは、後遺障害等級が14級と認定された場合の逸失利益について、具体的な事例で計算してみましょう。
逸失利益の計算は、「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数」によって算出します。
原則として、後遺障害14級に認定された場合の労働能力喪失率は5%とされています。
具体例 男性 会社員 症状固定時36歳 年収460万円 むちうちで神経障害が残ってしまった場合(後遺障害14級9号)
この方の労働能力喪失率は、後遺障害14級9号であるため5%です。
そして、14級のむちうちの場合には、労働能力の喪失期間については5年程度に制限されることが一般的です。
5年の労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数は4.5797です。
したがって、後遺障害逸失利益の金額は次のように計算されます。
基礎収入460万円 × 労働能力喪失率5% × 喪失期間に対応するライプニッツ係数4.5797 = 105万3331円
この例では、105万3331円が逸失利益の賠償額となります。
具体例 女性 専業主婦 症状固定時44歳むちうちで神経障害が残ってしまった場合(後遺障害14級9号)
この方の労働能力喪失率、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数は上記と同様です。
そのうえで、原則として専業主婦の基礎収入については「賃金センサス」に基づき、女性労働者の全年齢の平均賃金を基礎収入とします。
令和4年度では、女性労働者の全年齢平均賃金は394万3500円となっています。
したがって、後遺障害逸失利益の金額は次のように計算されます。
基礎収入394万3500円 × 労働能力喪失率5% × 喪失期間に対応するライプニッツ係数4.5797 = 90万3002円
この例では、90万3002円が逸失利益の賠償額となります。
後遺障害14級で取得できる賠償金
逸失利益以外の損害賠償項目一覧
交通事故の被害者が請求することができる賠償金は、逸失利益だけではありません。
逸失利益以外に請求することができる一般的な損害項目として、以下のようなものがあります。
- 慰謝料
- 休業損害
- 治療費等の積極損害
以下それぞれについて解説していきます。
慰謝料
慰謝料とは、事故によって被害者が負った精神的な苦痛を補償するために支払われる賠償金のことをいいます。
交通事故の慰謝料としては、入通院慰謝料・後遺症慰謝料・死亡慰謝料の3種類があります。
慰謝料の算定基準についても、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3基準が存在していますが、弁護士基準が最も高額な算定基準となります。
なお、慰謝料については以下の記事で詳しく解説しておりますので、よろしければ参考にされてください。
休業損害
休業損害とは、交通事故が原因で仕事を休まざるを得なくなったことで得られなかった収入のことをいいます。
このように得られなかった収入を損害として加害者に請求することができます。
休業損害については、基本的に「1日当たりの基礎収入 × 休業日数」によって算出することになります。
なお、休業損害については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、よろしければ参考にされてください。
治療費等の積極損害
積極損害とは、事故が起こらなければ出費しなかったであろう費用で、積極的に財産を失わざるをえなかった場合の損害をいいます。
被害者の葬儀費用、介護費用、治療費、それらに伴って発生する交通費や雑費などがこれに当たります。
積極損害については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、よろしければ参考にされてください。
逸失利益についてのQ&A
後遺障害14級の逸失利益は5年以上は無理?
ただし、後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断すべきであると考えられているため、14級の場合に5年というのはあくまでも目安です。
したがって、被害者側としては、むちうちであったとしても、症状の程度によっては5年を超える期間が認められる可能性があります。
後遺障害14級の労働能力喪失期間はどれくらい?
ただし、後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断すべきであるため、具体的な症状の程度によっては、67歳までの労働能力喪失期間を認める裁判例は存在しています。
まとめ
この記事では、交通事故で後遺障害14級と認定された場合の逸失利益の計算方法などについて解説してきました。
保険会社が提示してくる賠償額は低額なものである可能性があるため、適切に計算したうえで交渉する必要があるケースもたくさんあります。
ご自身で対応することが不安な場合には、ぜひ当事務所の弁護士にご相談ください。
当事務所には、交通事故案件を日常的に処理する弁護士が所属する人身障害部があります。
交通事故のご相談やご依頼後の事件処理は、すべて人身障害部の弁護士が対応いたしますので、安心してご相談ください。
電話相談、オンライン相談(LINE、Meet、FaceTime、Zoom)にて、全国対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。