車の死亡事故の発生状況は?事故原因や賠償金の相場も解説

監修者:弁護士 鈴木啓太 弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

車の事故で死亡する方は、年間3000人前後おられます。

事故原因としては、正面衝突等や歩行者横断中の事故、出会い頭衝突が多くなっています。

交通事故で死亡した方のご遺族は、突然のことで大きな悲嘆の中にあるにもかかわらず、保険会社との示談交渉、加害者の刑事事件への対応、今後の生活設計への対応などを迫られます。

ご遺族にとっては、それら全てが大きな負担になってきます。

今回の記事では、交通死亡事故の発生状況や事故原因についてご紹介し、交通事故で亡くなった方のご遺族が請求できる賠償金の内容、加害者が負うべき刑事上・行政上の責任について解説していきます。

車の死亡事故の発生状況

車の死亡事故の件数

交通事故での死亡者数

出典:令和4年における交通事故の発生状況について(警察庁交通局)

交通事故での死亡者数は、ここ5年ほどは年間3000人前後で推移しています。

年間の死者数は年々減少しており、平成30年から令和4年の5年間でも約900人減少しました。

1年間の中でいうと、年末に死者数が最も多くなる傾向が見られます。

月別交通事故死者数の推移

出典:令和4年における交通事故の発生状況について(警察庁交通局)

 

 

車事故の原因ランキング

事故類型別交通死亡事故発生件数(令和2年)

車の事故原因としては、多いものから順に、正面衝突等、歩行者横断中、出会い頭衝突となっており、これらだけで全体の約70%を占めています。

引用元:第1章 道路交通事故の動向|令和3年交通安全白書(全文)|内閣府

 

車の死亡率は車種で異なる?

自動車には軽乗用車、軽貨物車、普通乗用車、普通貨物車等様々な種類がありますが、実は、車の種類によって、事故が起きた際の運転者の死亡率が異なります。

最も運転者の死亡率が高いのが軽貨物車で、次が普通貨物車、軽乗用車と続きます(「交通事故と運転者と車両の相関についての分析結果(平成26年度)」(公益財団法人交通事故総合分析センター)の「人身事故関与運転者1000人当たりの運転者死者数」)。

 

 

 

車で死亡させた加害者はどうなる?

車の事故で被害者を死亡させてしまった場合、加害者は、

  • 刑事上の責任
  • 民事上の責任
  • 行政上の責任

を負うことになります。

それぞれどのような責任が発生するのか、ご説明していきます。

刑事上の責任

交通事故で被害者を死亡させてしまった場合、加害者には次のような刑罰が科せられます。

過失運転致死傷罪

交通死亡事故を起こした場合、原則的には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷処罰法)に定められた過失運転致死傷罪(同法第5条)の罪が成立します。

過失運転致死傷罪では、被害者が死亡した場合でもケガのみの場合でも、7年以下の懲役刑若しくは禁固刑、又は100万円以下の罰金を科されます(ただし、被害者のケガが軽いときは、刑が免除されることもあります。)。

危険運転致死傷罪

危険な運転をして人身事故を起こした場合には、危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法2条)が成立します。

危険運転致死傷罪が成立するケースには、次のようなものがあります。

  • ① アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態で運転した場合
  • ② 制御困難な高速度で運転した場合
  • ③ 車を制御する技能がないのに運転した場合
  • ④ 人や車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転した場合
  • ⑤ 車の通行を妨害する目的で、走行中の車の前方で停止したり、著しく接近したりする方法で運転した場合
  • ⑥ 高速道路又は自動車専用道路で、④と同様の運転をすることにより、走行中の自動車に停止又は徐行させた場合
  • ⑦ 赤信号等を無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転した場合
  • ⑧ 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転した場合

上のような運転で被害者を死亡させた場合には1年以上20年以下の懲役刑が科せられます(被害者にけがをさせたに止まる場合は15年以下の懲役刑となります。)。

また、上の①の場合ほどではないけれども、アルコール又は薬物の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転したところ、アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥って事故を起こした場合、被害者を死亡させてしまうと15年以下の懲役刑が科せられます(被害者がケガをした場合は12年以下の懲役刑となります。)(同法3条)。

被害者参加制度など

交通事故の被害者となった方や被害者の配偶者、両親、子、兄弟姉妹などは、刑事裁判への被害者参加制度を利用することができます。

この制度を利用すれば、裁判所の許可を得て、被害者参加人として刑事裁判に参加することができます。

被害者参加制度の利用を希望する場合は、検察官に申し出ます。

刑事裁判に参加すれば、検察官の隣などに着席し、直接証人を尋問することができます(情状に関する事項に限る。)し、被告人に対して直接質問をすることもできます(意見陳述を行うために必要な場合に限る。)。

さらに、検察官の権限行使(証拠調べの請求、論告、求刑など)に関し、検察官に意見を述べ、説明を受けることもできますし、裁判所で、事実又は法律の適用(いわゆる求刑)について意見を述べることもできます。

被害者参加する際には弁護士を選任することもできます。

被害者参加制度のほかにも、心情等の意見陳述制度を利用した意見陳述を行うこともできます。

 

民事上の責任

民事上の責任としては、損害賠償(民法709条)を支払う責任が発生します。

根拠条文
民法
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

出典:民法 | e-Gov法令検索

損害賠償の詳しい内容については、「車の死亡事故の賠償金の相場」で解説します。

 

行政上の責任

行政上の責任としては、運転免許の点数に関係する処分を下されるというものがあります。

運転免許の点数は、交通事故や交通違反があると加算されていき、一定の点数が貯まると運転免許の停止、取消しなどが行われることになります。

死亡事故を起こした場合であれば、それまでに違反歴がない場合であっても、加害者にもっぱら過失がある場合には20点が加点されて免許取消しに、被害者にも過失がある場合には13点が加点されて免許停止90日になります。

既に違反歴があって一定の点数が累積されている場合には、より重い処分が行われることになります。

参考
行政処分基準点数|警視庁
交通事故の付加点数|警視庁

 

 

車の死亡事故の賠償金の相場

車の事故の死亡慰謝料の相場

車の事故で被害者が亡くなった場合の死亡慰謝料は、一定の算定基準によって定められます。

算定基準には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3種類があります。

自賠責基準は、自賠責保険から支払われる賠償金の算定に当たって用いられる基準です。

任意保険基準は、自動車保険(任意保険)を提供している保険会社が各社の内部で定めている支払基準です。

弁護士基準は、弁護士が示談交渉などの際に用いる基準です。裁判でも用いられるので、裁判基準とも呼ばれます。

それぞれの基準による算定金額の高さは、自賠責基準<任意保険基準<弁護士基準となることがほとんどです。

任意保険基準は公表されていないので、ここでは、弁護士基準と任意保険基準による死亡慰謝料の算定額について解説します。

 

弁護士基準の場合

弁護士基準では、死亡慰謝料は、被害者の方の家族内での立場によって次のように変わってきます。

被害者が一家の収入を支える立場(一家の支柱)だった場合 2800万円
一家の支柱ではなかった場合(母親、配偶者など) 2500万円
その他(独身の男女、子ども、幼児等) 2000万円~2500万円

ただし、上の基準はあくまで一応の目安ですので、それぞれの被害者の事情によって増減されることがあります。

また、被害者自身の慰謝料とは別に、ご遺族自身の精神的苦痛に対する慰謝料が認められることもあります(全てのケースで認められるわけではありません。)。

ご遺族自身の慰謝料は、1人当たり100~300万円程度となる傾向にあります。

 

自賠責基準の場合

自賠責基準では、死亡慰謝料は一律400万円(2020年3月31日以前に発生した交通事故の場合は350万円)とされています。

自賠責基準の場合、遺族のうち、被害者の父母、配偶者、子について、遺族固有の慰謝料を請求することができます。

請求額は、

  • 請求権者1人の場合・・・550万円
  • 2人の場合・・・全員合わせて650万円
  • 3人以上の場合・・・全員合わせて750万円

となります。

被害者が扶養していた人がいる場合は、さらに200万円が加算されます。

交通事故で死亡した場合の慰謝料については、増額事由なども合わせて、以下のページで詳しく解説しております。

 

車の死亡事故の賠償金の計算方法

死亡事故の場合には、死亡慰謝料以外にも次のような損害について賠償を請求することができます。

  • 積極損害(治療費、入院雑費など)
  • 死亡逸失利益
  • 休業損害
  • 入通院慰謝料
  • 車両に関する賠償

 

積極損害

治療費、入院雑費、付添看護費用、付添人交通費、葬祭費、弁護士費用など、事故により出費を余儀なくされた費用を積極損害といいます。

積極損害は交通事故により発生した損害なので、加害者が賠償責任を負います。

 

死亡逸失利益

交通事故で亡くなった方は、生きていればその後も得られたであろう収入を失ってしまいます。

これは、死亡逸失利益といわれ、損害賠償の対象となります。

死亡逸失利益は、死亡慰謝料と並んで高額になる項目となっており、被害者の年齢や収入によっては1億円近い金額になる場合もあります。

死亡逸失利益は、次の計算式により算定します。

計算式 基礎収入 ×(1 - 生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

基礎収入は実収入によって算定するのが原則ですが、年齢、就労状況(会社員、自営業、主婦、年金生活者など)などによって算定方法が変わってきます。

生活費控除率も、性別、年齢などにより、それぞれ定められています。

就労可能年数は、通常死亡時から67歳までの年数となっています。

ライプニッツ係数については、以下のページに早見表がございます。

2020年3月31日以前に発生した交通事故の場合は法定利率3%のもの、同年4月1日以降に発生した交通事故の場合は法定利率5%のものを、それぞれご覧ください。

死亡逸失利益の詳しい算定方法については、以下のページでご紹介しております。

 

休業損害

死亡前に治療を行い、仕事を休業していた場合、休業による減収(休業損害)も損害賠償の対象となります。

休業損害は、1日当たりの収入 × 休業日数(有休使用分を含む)で算出します。

休業損害の計算方法、1日当たりの収入の定め方(職業により異なります)については、以下のページをご参照ください。

 

入通院慰謝料(傷害慰謝料)

交通事故によるケガにより入通院をした場合に支払われる慰謝料が、入通院慰謝料です。

最終的に事故によるケガが元で死亡した場合でも、それまでに入通院をして治療を受けていれば、入通院慰謝料を受け取ることができます。

入通院慰謝料の算定方法については、以下のページで詳しく解説しています。

 

車両に関する賠償

壊れた車両に関する賠償も受けることができます。

修理ができる場合、適正修理費相当額が認められます。

修理費が車両時価額に買替諸費用を加えた金額を上回る場合には、経済的全損となります。

物理的又は経済的全損となった場合、事故時の車両の時価相当額と売却代金の差額(買替差額)が損害として認められます。

死亡交通事故で請求できる損害賠償金、慰謝料については、以下のページで詳しく解説しております。

 

 

ご遺族はどうしたらいい?

交通事故で身近な方を亡くされたご遺族は、葬儀の手配、死亡に伴う各種手続きなどだけではなく、交通事故に関してもするべきことが発生してきます。

交通事故に関連することで、ご遺族がしておくべきことについてご説明します。

事故に関する事項の確認

交通事故の被害に遭った場合、加害者の情報、事故の日時、場所、事故状況など事故に関する事項の確認が大切です。

事故後、被害者が話ができる状態であった場合は、被害者の方の言い分を主張していけるようにするためにも、なるべく話を聞いておくほうが望ましいです。

警察や同乗者などにも話を聞くようにしましょう。

目撃者が見つかれば、その人にも連絡を取り、話を聞けるとよいです。

目撃者を見つけるために、警察に立て看板を立ててもらうようお願いする、自分で探す努力をするなどの方法をとることもあります。

話を聞く際は、後で証拠とできるよう、録音しておくことをお勧めします。

 

保険会社への連絡

交通事故に遭った場合は、警察などへの連絡の後、保険会社にも連絡します。

まずは、自分が加入している自動車保険会社に連絡しましょう。

人身傷害保険や車両保険、示談代行サービスの利用について聞くことができます。

相手方の保険会社とのやり取りも発生してきます。

通常は相手方の保険会社の方から連絡がありますが、なかなか連絡がこない場合に備え、加害者の保険会社を聞いておくようにしましょう。

相手方の保険会社が分からない場合、自賠責保険の保険会社については交通事故証明書から調べることができます。

ただ、任意保険の保険会社については、一般の方では調べられないので、弁護士に依頼し、弁護士会照会を利用して調査することになります。

 

交通事故にくわしい弁護士に相談する

交通事故で身近な方を亡くしたご遺族は、突然のことで最初はどうすればよいかわからない方も多いと思います。

まずは必要な手続きなどを済ませるのがやっと、という方がほとんどでしょう。

そうしたことが落ち着くと、次は被害者の方を失ってどうやって生活を維持していくか、ということに直面される方も多くおられます。

精神的なショックや喪失感からも、簡単には立ち直れなくて不思議はありません。

そうした中で、さらに、加害者側の保険会社と損害賠償の交渉もしなければなりません。

これは、ご遺族の方にとって大きな負担となります。

この保険会社との交渉を早いうちから弁護士に任せてしまえれば、ご遺族の負担は大きく減ります。

しかも、保険会社は、必ずしも被害者に十分な補償を申し入れてくれるわけではありません。

保険会社が提示してくる示談案は自社の内部基準(任意保険基準)に沿って作成されている場合が多いのですが、これは、弁護士が入った交渉時に用いられる弁護士基準による金額よりも低く抑えられていることが多いのです。

被害者の方が弁護士を立てて交渉をしなければ、弁護士基準による賠償金額を得ることはできないため、今後の生活を支える適正な賠償金を得ることもできなくなります。

今後生活に困窮することを防ぐためにも、弁護士への依頼をすることは重要です。

当事務所でも、死亡事故に遭われた被害者のご遺族の方々のためのサポートを行っております。

詳しいことは、以下のページでご案内しております。

お困りの方は、ぜひ一度お目通しください。

 

 

車の死亡事故についてのQ&A

車で死亡事故を起こしたら免許はどうなる?

車で死亡事故を起こした場合、加害者にもっぱら過失がある場合には20点が、被害者にも過失がある場合には13点が加点されます。
20点が加点された場合、それまでに違反歴がなくとも、一発で免許取消しになります。

13点が加点された場合は、それまでに違反歴がなくとも、免許停止90日となります。

 

既に違反歴があって一定の点数が累積されている場合などには、より重い処分が行われます。

参考
行政処分基準点数|警視庁
交通事故の付加点数|警視庁

 

車で死亡させたら逮捕される?

車を運転中に死亡事故という重大事故を起こしてしまった場合、逮捕される可能性は高くなります。

 

特に、以下のような事情があると、逮捕される可能性はさらに高くなります。

  • 飲酒・無免許運転であった
  • ひき逃げをした
  • 逃亡や証拠隠滅を図る可能性がある
    例:加害者が言い逃れをしようとしており、供述が二転三転してきた
  • ドライブレコーダーの画像を消した
  • 飲酒をごまかすために水を飲んだ
  • 目撃者と口裏合わせをしようとした
  • 警察の捜査に非協力的

ただ、死亡事故を起こしたら必ず逮捕される、というわけでもありません。

警察の捜査に素直に協力しており、罪証隠滅、逃亡のおそれが低い、事故の悪質性も特別高いわけではない、といった場合などは、逮捕されないこともあります。

なお、加害者も大けがをしており治療が必要な場合は、治療がある程度進み、体調が安定するまで逮捕されないことが多いです。

 

まとめ

今回の記事では、車の死亡事故の発生状況、死亡事故を起こした加害者の責任、慰謝料などの損害賠償の内容、事故後にご遺族が行うべきことなどについて解説しました。

自動車は我々の生活を便利にするものではありますが、自動車事故で命を落とす方も決して少なくないことを忘れてはなりません。

しかも、自動車事故は、いつ誰の身に降りかかってもおかしくないものでもあります。

自動車事故の被害に遭った場合の対処法について知っておくことは、事故の被害に遭われてしまった方にはもちろん、まだ被害に遭っていない方にとっても大切なことです。

ただ、いくら知識を得たとしても、実際に事故に遭ってしまった、身近な人が亡くなってしまった、となると、当事者だけで対処しようとすると大変な負担になります。

交通事故問題に詳しい弁護士に依頼することができれば、それぞれの方の状況に応じてどのような対処が必要であるかのアドバイスも受けられますし、保険会社や警察とのやり取りの大部分を任せることもできますので、ご遺族自身は生活の立て直しに集中することができるようになります。

それに、弁護士に依頼した方が、今後の生活を支えるために大切な賠償金の交渉で、より良い結果を得られる可能性が増します。

当事務所でも、交通事故で死亡された被害者のご遺族の皆様へのサポートを行っております。

当事務所では人身傷害部も設け、交通事故の人身事故に関するノウハウを蓄積しており、皆様により良いサポートを提供できる体制を整えております。

交通事故に遭われてお困りの方は、ぜひ一度当事務所までご相談ください。

 

 

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賠償金の計算方法

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