自転車の死亡事故の発生状況は?事故原因や賠償金の相場も解説
自転車事故で死亡する人数は、年間300人前後で推移しています。
自転車側が安全確認を怠って事故になっているケースも多いのですが、自転車運転者に違反がなくとも、事故に巻き込まれ命を落とすケースも少なくありません。
自転車事故で死亡した場合の賠償金は、死亡慰謝料が2000万円~2800万円、死亡逸失利益は人によっては数千万~1億円近くとなります。
自転車は身近で日常的な乗り物ですが、無防備な状態で運転するものですので、事故になると、運転者が大きな被害に遭う危険もあります。
今回の記事では、自転車乗用中の死亡事故の状況についてご紹介し、自転車事故で死亡した場合の損害賠償についても解説していきます。
自転車の死亡事故の発生状況
自転車の死亡事故の件数
車と自転車の事故により死亡した自転車側の運転者の人数は、以下のグラフのように、年間300人前後となります。
交通事故全体での死亡者数は年間3000人前後で推移していますので(令和4年における交通事故の発生状況について(警察庁交通局))、自転車乗車中に車との事故で亡くなる自転車の運転者は、交通事故全体の死者の約1割となります。
自動車による死亡事故の発生状況については、以下のページをご覧ください。
自転車事故の原因ランキング
自転車の運転者が死亡した自転車事故の原因のランキングは、以下のようになっています。
- 1位 安全運転義務違反(安全不確認、操作不適、その他安全運転義務違反) 37%
- 2位 違反なし 24%
- 3位 その他の違反 16%
- 4位 交差点安全進行義務違反 9%
- 5位 一時不停止、信号無視 7%
こうしてみると、安全運転義務による事故が多いこととともに、自転車側は交通ルールを守っていたとしても、交通事故に巻き込まれ死亡してしまうことも多いという現状が浮かび上がります。
自転車の事故は学生が多い?
自転車事故での死者に特に学生が多いということはありません。
自転車に乗っていて死亡する人数は、高齢者が最も多いです。
自転車乗用中の死者数の中で、高齢者は60%から70%を占めています。
ただ、学生はまだ自転車での走行に慣れていないこともあり、事故を起こすことももちろんあります。
学生の自転車事故の状況について、簡単に見ていきましょう。
大学生の自転車の事故
全国大学生活協同組合連合会によると、自転車運転中の交通事故によって入院保障の共済金の支払い対象となった件数は、146件となっています(2021年度)。
出典:大学生協の保障制度からみた大学生の病気・ケガ・事故2021年次報告2021(日本コープ共済生活協同組合連合会ほか)
高校生の自転車の事故
少し古い統計になりますが、平成31年に警察庁が作成した「自転車関連事故に係る分析」によると、平成27年から平成30年の間の高校生の自転車関連死亡・重傷事故件数は、年間800件前後となっています。
うち死亡事故は、年間10件台となっています。
中学生の自転車の事故
同じく平成31年の「自転車関連事故に係る分析」(警察庁)によると、平成27年から平成30年の間の中学生の自転車関連死亡・重傷事故件数は、年間360件から470件程度となっています。
うち死亡事故は、年間10件未満となっています。
小学生の自転車の事故
同じく平成31年の「自転車関連事故に係る分析」(警察庁)によると、平成27年から平成30年の間の小学生の自転車関連死亡・重傷事故件数は、年間400件程度(ただし、平成30年は286件)となっています。
うち死亡事故は、年間10件前後となっています。
なお、小学生の自転車乗用中の事故での死者重傷者数は、平成29年までは年間400人程度でしたが、平成30年から令和3年までは200人台で推移しています。
出典:第1節 子供(小学生)の交通事故の状況|令和4年交通安全白書(全文) – 内閣府
自転車の死亡事故の賠償金の相場
死亡事故の賠償金の計算方法
交通事故で死亡すると、加害者に賠償金を請求することができます。
賠償金は、生じた損害の項目(治療費、葬祭費、慰謝料など)ごとに一つ一つ算定され、それらを足し合わせて最終的な損害賠償額となります。
死亡事故の場合の賠償金の項目には、主に以下のようなものがあります。
- 死亡逸失利益
- 死亡慰謝料
- 休業損害
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
- 積極損害(治療費、入院雑費、付添人交通費、葬儀費用など)
死亡逸失利益
交通事故で死亡すると、その後も生きていれば得られたはずの収入を得られなくなってしまいます。
この損失が、死亡逸失利益です。
死亡逸失利益は、損害賠償の項目の中で最も金額が大きくなることが多く、収入や年齢によっては5000万円~1億円などになります。
死亡逸失利益は、以下の計算式で算定します。
上の計算式にある基礎収入額は、職業や年齢などにより異なります。
会社員であれば、実際の収入額を基礎収入とします。
現実には現金収入のない主婦、子ども、学生などの場合には、賃金センサスを用いて収入を算定する方法がとられます。
学生、主婦の場合の損害賠償の算定については、後ほど具体例とともに詳しくご紹介します。
生活費控除率、就労可能年数に対応するライプニッツ係数など、死亡逸失利益の計算に関する詳しい説明は、以下のページをご覧ください。
死亡慰謝料
生命を失ったことによる甚大な精神的苦痛を償うものとして、死亡慰謝料が支払われます。
死亡慰謝料の目安は、以下のようになっています。
被害者が一家の収入を支える立場(一家の支柱)だった場合 | 2800万円 |
一家の支柱ではなかった場合(母親、配偶者など) | 2500万円 |
その他(独身の男女、子ども、幼児等) | 2000万円~2500万円 |
参考:「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)」(日弁連交通事故相談センター東京支部編)(2023年版)(通称「赤い本」)
休業損害
休業損害は、ケガの治療などのために仕事を休むことになったために生じた減収のことです。
亡くなる前に治療期間があった場合には、休業損害も請求することができます。
休業損害は、有休休暇を使用した場合にも請求できます。
休業損害は、1日当たりの基礎収入×休業日数として算定します。
休業損害の算定方法について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
入通院慰謝料(傷害慰謝料)
入通院慰謝料(傷害慰謝料)は、ケガにより入通院での治療が必要となった場合に支払われる慰謝料です。
実際に入通院した日数・頻度などに応じて支払われます。
死亡する前に入通院によって治療した期間がある場合、入通院慰謝料も発生します。
入通院慰謝料(傷害慰謝料)については、以下のページで詳しく解説しています。
積極損害(治療費、入院雑費、付添人交通費、葬儀費用など)
積極損害とは、交通事故により被害者が支出することになった費用のことをいいます。
死亡事故の場合、主に以下のような積極損害が発生します。
- 治療費
- 入院雑費
- 付添費用
- 付添人交通費・宿泊費
- 葬儀費用
- 弁護士費用
- 遅延損害金
積極損害に関する詳しい説明は、以下のページをご覧ください。
上でご説明したうちの入通院慰謝料(傷害慰謝料)、休業損害、死亡慰謝料、死亡逸失利益については、当事務所のサイトに設けている交通事故賠償金計算シミュレーターで手軽に計算することができます。
交通事故で死亡した場合に請求できる慰謝料をはじめとした損害賠償については、以下のページでも解説しています。
学生の自転車の事故のケース
自転車での死亡事故における損害賠償の計算方法について、具体例で解説していきます(なお、入通院慰謝料(傷害慰謝料)、休業損害、積極損害については、個別の事案によって発生の有無、金額が大きく変わりますので、ここでは死亡逸失利益と死亡慰謝料についてのみ解説します。)。
まずは、事故で死亡したのが学生であった場合について解説します。
学生が死亡した場合の死亡慰謝料
学生の場合、「その他(独身の男女、子ども、幼児など)」に当たりますので、死亡慰謝料の目安は2000万円~2500万円となります。
学生が死亡した場合の死亡逸失利益
学生の場合、現実の収入はない又は低いことがほとんどですので、現実の収入を見るだけでは、得られたはずの将来の収入を計算する上での妥当な基礎収入となりません。
そこで、学生の場合は、賃金センサスを用いて基礎収入を仮に設定し、死亡逸失利益を算出します。
原則的には、賃金センサスの学歴計・全年齢平均の平均賃金を基礎収入とします。
大学生又は大学に進学見込みのある高校生の場合は、大学卒・全年齢平均の賃金センサスが用いられることが多いです。
就労可能期間は、原則的には、高校を卒業する18歳から67歳までの間とされます。
大学を卒業することが見込まれる場合には、大学を卒業する22歳から67歳までの間とされます。
実際に計算する際には、ライプニッツ係数について、「18歳未満の者に適用する表」が赤い本などにありますので、これを利用することになります。
生活費控除率は、男性の学生の場合50%、女性の学生の場合30%が基本とされています。
ただし、女性の場合は、全労働者(男女計)の全年齢平均賃金を基礎収入とする場合には、生活費控除率を45%程度とすることが多いです。
ここで、実際の計算例をご紹介します。
具体例 女子中学生(14歳)が自転車事故で死亡した場合の逸失利益(事故日は令和2年4月日以降)
489万3100円(男女計・全学歴計平均賃金令和3年版)
×(1 - 0.45)
× 22.6579(15歳に適用するライプニッツ係数)
= 6097万7054円
18歳未満の場合に適用されるライプニッツ係数については、以下のページをご覧ください。
年少者が交通事故で死亡した場合の逸失利益の算定方法についてより詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
母親の自転車の事故のケース
次は、一家の母親が自転車事故で死亡した場合について解説します。
母親が死亡した場合の死亡慰謝料
母親の場合、「一家の支柱に準ずる場合(母親、配偶者など)」に当たりますので、死亡慰謝料の目安は2500万円となります。
母親が死亡した場合の死亡逸失利益
母親が死亡した場合の死亡逸失利益は、それぞれの方の状況によって変わってきます。
まず、基礎収入は、死亡した母親が専業主婦であったか仕事をしていたかによって変わります
専業主婦の場合は現実の収入はありませんので、代わりに女性労働者の全学歴計・全年齢平均の賃金額を基礎収入とします。
仕事もしている場合、実収入が上記の平均賃金額以上である場合には実収入を基礎収入額とし、下回る場合には専業主婦と同様とします。
生活費控除率は、女性の場合30%が基本となります。
就労可能年数は67歳までとされることが多いです。
専業主婦の場合について、具体的な計算例をご紹介します。
具体例 専業主婦(40歳)が自転車事故で死亡した場合の逸失利益(事故日は令和2年4月日以降)
385万9400円(女性労働者の全学歴計・全年齢平均賃金令和3年版)
×(1 ー 0.3)
× 18.3270(67歳 ー 40歳=27年間に対応するライプニッツ係数)
= 4951万1857円
専業主婦の逸失利益の算定方法については、以下のページでもご紹介しています。
ご遺族はどうしたらいい?
交通事故で身内の方が亡くなられた場合にご遺族の方はどうすればよいのか、ご説明していきます。
事故の状況を確かめる
身内の方が事故に巻き込まれたら、まずは、
- 事故が起きた日時
- 事故現場
- 加害者が運転していた車(自動車か自転車かなど)
- 事故の状況・原因
などについて確認しましょう。
被害者の方がまだ生きておられる間に対面できた場合は、後々被害者の方の言い分をきちんと主張していくためにも、できれば被害者の方から事故に関する話を聞いておけることが望ましいです。
他にも、警察や同乗者、目撃者から話を聞くことができます。
目撃者がいない場合、警察に「立て看板を出すなどして目撃者を探してほしい」と頼んだり、自らチラシを配るなどして目撃者を探したりすることもあります。
なお、関係者に話を聞く場合は、後から証拠とできるように、録音しておくよいです。
保険会社に連絡する
交通事故に遭った場合、被害者又は家族が加入している保険会社に連絡しましょう。
自転車運転中に事故に遭った場合、被害者自身や家族が加入している自動車保険の人身傷害保険の対象となる場合があります。
ほかにも、傷害保険などに入っている場合には対象となる場合があります。
保険の内容は分かりにくいこともありますので、まずは保険会社に連絡してみましょう。
被害者には過失はなかったのだから、自分の側の保険を使う必要はない、と思われる場合でも、保険会社への連絡はしておきましょう。
後に被害者側にも過失があったことが分かったとき、遅れて連絡すると、保険金の支払いがスムーズに受けられなくなるおそれがありますので、自分の側の保険会社にも必ず連絡しておきましょう。
加害者が加入している自動車保険会社とも連絡を取ることになります。
通常は、加害者から連絡を受けた保険会社から電話があります。
しかし、たまに、いっこうに加害者側の保険会社から連絡がない場合もあります。
そのような場合に備え、加害者と接触する機会がある場合は、必ず加入している自動車保険の保険会社について聞いておきましょう。
もし加害者側の保険会社が分からない場合は、
- 交通事故証明書に記載されている加害者の自賠責保険会社に連絡する
- 弁護士に示談交渉を依頼し、弁護士会照会で調査してもらう
といった方法をとることが考えられます。
交通事故にくわしい弁護士に相談する
交通事故に遭われた場合は、なるべく早く交通事故にくわしい弁護士に相談することをお勧めします。
交通事故に遭うと、治療だけでなく、損害賠償について加害者側と話し合う必要が出てきます。
この際、相手方の窓口となるのは保険会社となることが多いのですが、保険会社は、必ずしも被害者に最善の補償を提案してくれるわけではありません。
むしろ、保険会社からの提案は、被害者側が弁護士を立てて交渉した場合の基準(弁護士基準)による相場より低くなるのが通常です。
しかも、一般の方が弁護士基準を用いて賠償金を請求しても、保険会社はほとんどの場合応じてはくれません。
適切な補償を受けるためには、被害者側で弁護士を立てることが大変重要になります。
被害者が亡くなった場合は特に、今後のご遺族の生活を支えるためにも十分な補償を受ける必要がありますので、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に相談するメリットは、賠償金額に関するものだけではありません。
交通事故の損害賠償の請求では、加害者側に自分の要求を主張して交渉しなければならない場面が出てきます。
これは、身近な方を事故で亡くしたばかりのご遺族にとっては、大きな精神的負担となります。
こうした交渉を弁護士に任せてしまえると、ご遺族の方の負担は随分軽くなり、生活の立て直しに集中することもできるようになります。
これも、弁護士に依頼することの大きなメリットになります。
当事務所でも、死亡事故のご遺族へのサポートを行っております。
詳しいサポートの内容は、以下のページからご覧ください。
自転車の死亡事故についてのQ&A
自転車で車とぶつかったらどっちが悪い?
そのため、同じような態様の事故(出会い頭、正面衝突等)であれば、自転車とぶつかった場合の方が、車にぶつかった場合よりは、車の運転者の過失が重くされます。
例えば、信号機のない交差点で車が右折しようとした際に、対向方向から直進してきた自転車と衝突した場合、過失割合は、右折車90:自転車10となります。
これに対し、相手が車だった場合は、右折車70:直進車30となります。
このように、事故当事者が自転車である場合、自転車側の過失割合は車同士の事故の場合よりも低く認定され、車の過失割合は重く認定されます。
自転車と車の事故における過失割合については、以下のページでも解説しています。
母親が子供を自転車に乗せていた場合はどうなる?
まとめ
今回は、自転車事故の発生状況について紹介し、自転車での死亡事故の場合の賠償金の相場、事故後にご遺族がするべきことなどについて解説しました。
自転車事故は、自転車側に違反がなくとも巻き込まれることがあり、その場合には命を落とす危険もあります。
不幸にして事故に遭った場合や身近な方を事故で亡くされた場合は、なるべく早く信頼できる弁護士を探して相談してみるようにしましょう。
弁護士に依頼することができれば、加害者側との示談交渉を任せてしまうことができますし、最も適切で被害者に有利な算定基準である弁護士基準での損賠賠償を請求することもできるので、安心です。
当事務所でも、交通事故のご遺族の皆様をサポートしております。
当事務所では人身傷害部を設け、弁護士・スタッフが交通事故の人身事故に関する経験を積み重ねていける体制を整えており、皆様により良いサポートを提供できるようにしております。
お困りの方は、ぜひ一度当事務所までご相談ください。