死亡事故で過失なしのとき慰謝料はいくら?弁護士が解説

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

死亡事故で被害者に過失がない場合の慰謝料の相場は、以下のとおりです。

被害者の家庭での立場 慰謝料の金額
一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他(独身の男女、子ども、幼児等) 2000万円〜2500万円

この相場は、裁判で請求した場合のいわゆる「裁判基準」の相場になります。

死亡事故は、慰謝料などの損害が大きくなりやすいです。

もっとも、被害者に過失が少しでも認められてしまうと、その分過失相殺として大幅な賠償金の減額がされてしまいます。

本記事では、死亡事故の慰謝料や過失割合、被害者の過失をなしとするにはどうしたらよいか等について、交通事故を多く扱う弁護士が解説いたします。

死亡事故の慰謝料について知られたい方、加害者側から被害者にも過失があると主張されている遺族の方などは、ぜひ本記事をご覧になってください。

交通事故では過失が大きく影響する

過失割合とは?

過失割合とは、被害者と加害者のそれぞれの過失の程度がどのくらいかを示す数字のことを言います。

過失とは、簡単に表現すると、落ち度や不注意のことをいいます(法的には、結果発生の予見可能性を前提とした結果回避義務違反などと説明されます)。

例えば、被害者に全く落ち度のない事故態様(例:追突事故)の場合の過失割合は、0(被害者):100(加害者)となります。

また、被害者にも10%の落ち度がある場合の過失割合は、10(被害者):90(加害者)となります。

 

過失割合はどのようにして決まるの?

過失割合の決まり方は、大きく分けて以下の2つに分類されます。

過失割合の決まり方

基本的には、まず当事者による合意で過失割合が決められないか、双方で話し合う(交渉をする)ことになります。

それぞれお互いの言い分があって合意ができない場合は、訴訟などを提起して、裁判所などの機関で過失割合を決めてもらうことになります。

上記①や②で過失割合を決めるにあたって、重要な視点は以下の2つです。

過失割合を決めるにあたっての重要な視点

【1】客観的な事故状況はどのようなものであったか

【2】上記【1】で定まった事故状況を前提にこれまでの裁判例の過失割合はどうなっているか

【1】客観的な事故状況はどのようなものであったか

まず、客観的な事故状況がどのようなものであったかを確定させます。

事故状況に争いがある場合は、証拠の状況から事故状況を確定させていきます

証拠とは、例えば、ドライブレコーダー映像、刑事記録、目撃証言などです。

【2】上記【1】で定まった事故状況を前提にこれまでの裁判例の過失割合はどうなっているか

客観的な事故状況が決まったら、その事故状況を前提とした過去の裁判例がどのように過失割合を判断しているかを参照します。

なお、交通事故の過失割合は、過去の裁判例をもとに、ある程度定型化されており、その定型化されたものをまとめた本(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版] 別冊判例タイムズ38号 別冊38号)があります

実務上は、この過失割合の定型化された本の記載を参考に過失割合を決めていくことになります。

 

過失相殺とは?

過失相殺とは、決まった過失割合に応じて、被害者の過失分を被害者の賠償金から差し引くことをいいます。

以下、具体例になります。

具体例
(前提条件)
①被害者の慰謝料を含む全ての損害5000万円
②過失割合が、30(被害者):70(加害者)(過失相殺)

この場合、5000万円から被害者の過失分の30%を差し引くので、
5000万円 ー 1500万円(5000万 × 0.3) = 3500万円となります。

したがって、このケースでは、被害者が最終的に受領する金額は、過失相殺された後の3500万円ということになります。

 

被害者に過失が認められれば相手の損害等も負担する?

被害者に一定の過失が認められ、かつ加害者や第三者に損害があれば、被害者がその加害者や第三者の損害を被害者の過失分に応じて負担するのが原則です。

被害者が死亡している場合は、相続放棄をしていない限り、相続人が被害者の過失分の損害を負担することになります。

以下、具体例を用いて説明します。

具体例
(前提条件)
①車対車の衝突事故で、過失割合が10(被害者):90(加害者)
②車と車が衝突して加害者の車が押し出されて、近くの駐車場に停めてあったAさん(第三者)の車にぶつかって、Aさんの車も破損
③加害者の車の損害が100万円、Aさんの車の損害が50万円(被害者の損害負担分)

被害者の過失は10%なので、加害者とAさんの損害をそれぞれ10%ずつ被害者が負担しなければなりません
【加害者の損害の負担】
100万円 × 0.1 = 10万円

【Aさんの損害の負担】
50万円 × 0.1 = 5万円

以上から、被害者が負担しなければならない損害の合計は、15万円(10万円 + 5万円)となります。

もっとも、このケースでも、
(1)被害者が対物保険に加入していれば、対物保険を使用して加害者やAさんの損害を保険会社に支払ってもらう
(2)被害者の損害と加害者の損害を相殺する(Aさんの損害は原則相殺できない)
などの方法によって解決するということもあり得ます。

 

 

交通事故の死亡慰謝料とは?

交通事故の死亡慰謝料とは、交通事故で死亡した場合に発生する精神的苦痛に対する補償のことをいいます。

死亡慰謝料には、亡くなった被害者本人の精神的苦痛の分と、遺族の精神的苦痛の分の2種類があります

なお、亡くなった被害者本人の慰謝料といっても、実際に受領するのは被害者の相続人ということになります。

 

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死亡慰謝料の計算方法

死亡慰謝料は、被害者の家庭での立場によって相場が決められております

裁判基準の慰謝料の相場は、冒頭でも説明したように、以下のようになります。

被害者の家庭での立場 慰謝料の金額
一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他(独身の男女、子ども、幼児等) 2000万円〜2500万円

(※)一家の支柱とは、被害者の収入によって家族の家計が支えられていた場合のことを指します。

なお、民法711条で、一定の遺族(被害者の父母、配偶者、子など)には遺族固有の慰謝料が発生すると考えられていますが、上記の相場は、その遺族固有の慰謝料を含んだ金額となります。

参考条文

第七百十一条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

引用:民法|e−GOV法令検索

 

相場から増額されることもある

上記の相場は、あくまで「相場」に過ぎず、個別具体的な事情によっては、慰謝料が増額されるケースもあります

増額されるケースとしては、以下のような事情が挙げられます。

【 増額されるケース 】

  • 加害者に不誠実な態度(謝罪や反省をしない、事故の証拠を隠蔽(いんぺい)する等)がある場合
  • 加害者が意図的に事故を起こした場合
  • 加害者に重過失(ひき逃げ、著しいスピード違反、無免許運転、ことさらに信号無視、薬物などの影響により正常な運転ができない等)がある場合

増額される金額については、ケースバイケースといえます。

 

 

死亡慰謝料以外に請求できる賠償金

死亡慰謝料以外に請求できる賠償金

交通事故で死亡した場合、死亡慰謝料以外にも以下のような損害を請求できます。

①入通院慰謝料

死亡までの間に一定期間入院していた場合、入通院慰謝料を請求できます

入通院慰謝料は、裁判基準の場合、入院や通院の期間に応じて賠償金が算出されます。

 

②休業損害

即死ではなく、一定期間入院して死亡した場合は、その死亡までの期間に働けず収入が得られなかった分の損害である休業損害を請求できます。

休業損害は、会社員、自営業者、主婦などの立場によって計算の仕方が異なってきます。

 

③死亡逸失利益

亡くなったことによって、将来得られるはずであった収入の損害として、死亡逸失利益を請求することができます

死亡逸失利益は、以下のような計算式で算出します。

基礎収入額 ×( 1 - 生活費控除率 )× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

 

④葬儀関係費用

葬儀にかかる費用も損害として請求できます。

葬儀関係費用は、裁判基準において、原則として最大で150万円まで認められます。

 

⑤治療費関係

亡くなるまでにかかった病院での治療費、手術代、入院費なども請求できます。

 

⑥入院雑費

入院雑費とは、入院に伴う日用品や雑貨などの費用のことです。

入院雑費は、裁判基準で入院1日あたり1500円を請求できます。

 

⑦付添人交通費

被害者のご家族が病院に付き添った場合の交通費も請求することができます。

 

⑧付添看護費用

被害者のご家族が病院に付き添い看護をした場合は、付添看護費用として1日あたり6500円を請求できます。

 

⑨物的損害

車・バイク・自転車が壊れた場合の修理費用(全損の場合は時価額等)等の物的損害も請求することができます。

 

 

死亡事故の過失の有無・程度で賠償金は異なる

被害者に過失が認定されるかどうか、過失が認定されたとしてその割合はどのくらいかによって、被害者(実際には被害者の相続人)が受領できる賠償金の金額が異なってきます。

以下、具体例でご説明いたします。

具体例
・被害者の損害の合計(全損害)が8000万円
・既に受領済みの損害が2000万円

以上の条件の時に、最終示談段階で被害者が受領できる損害を比較いたします。

(1)被害者の過失が0の場合
8000万円 ー 2000万円 = 6000万円

この場合は、単純に全損害から既に受領済みの損害を差し引いて計算するだけです。

その計算をすると、最終示談段階で受領できる金額は6000万円になります。

(2)被害者の過失が10%の場合

・8000万円 ー 800万円(10%) = 7200万円

・7200万円 ー 2000万円 = 5200万円

この場合は、まず全損害から10%分を差し引いた後、既に受領済みの損害を差し引いて計算します。

そうすると、最終示談段階で受領できる金額は5200万円になります。

(3)被害者の過失が20%の場合

・8000万円 ー 1600万円(20%) = 6400万円

・6400万円 ー 2000万円 = 4400万円

この場合も、上記(2)と同様の計算式で、まず全損害から20%を差し引いた後、既に受領済みの損害を差し引いて計算します。

そうすると、最終示談段階で受領できる金額は4400万円になります。

 

 

死亡事故で過失なしにする方法

死亡事故で過失なしにする方法

過失割合は、基本的に事故状況によって客観的に決まるため、どうしても被害者に一定の過失が生じる場合もあります。

もっとも、本来は過失が0になるべき事案でも、相手側が被害者の過失を主張してくるようなケースもあります。

このようなケースでは、被害者の方で過失が0であることの主張や立証をしていくことが重要です。

死亡事故の特殊性として、被害者がすでに亡くなっていることから、被害者から事故状況を説明してもらうことができないということが挙げられます。

そのため、死亡事故では、以下のような活動を通じて被害者の過失はなかったと主張していくことになります。

 

(1)ドライブレコーダーの確保

事故の状況を客観的に示すものとして、ドライブレコーダー映像があります

被害者の車両にドライブレコーダーが設置されていた場合は、すぐに確保するようにしましょう。

また、相手方の車両にもついていた場合は、相手方に対してドライブレコーダー映像の開示を求めるべきでしょう。

 

(2)目撃者の証言の確保

事故の目撃者がいる場合は、その目撃者の証言を確保することも重要です。

目撃者として名乗り出てくれた方がいる場合は、連絡先を聞いて証言に協力してもらえる状態にしておくことが理想です。

目撃者の証言は、すでに警察で事情聴取がされている場合は、以下でも説明する刑事記録を取り寄せることによって確保することも可能です。

 

(3)刑事記録を取り寄せる

刑事記録は、警察などが捜査した事故状況を示す客観的資料などのことをいいます。

刑事記録の具体例としては、実況見分調書や刑事裁判の記録です。

刑事記録の取り寄せは、被害者の遺族ができるものもありますが、弁護士に依頼すれば、弁護士会照会制度(いわゆる23条照会)などで取り寄せることもできます。

 

(4)物損の状態から事故の状況を検証する

物損の状態を科学的に分析して事故の状況を推認することができる場合もあります。

例えば、被害者の車が衝突時に停車していたかが争いになるケースで、被害者や相手方の車両の傷の具合から、被害者車両が停車していたかがある程度わかるというような場合です。

科学的に分析するには、鑑定会社に調査を委託するなどの方法が考えられます。

 

(5)弁護士に依頼する

被害者の過失を0にする方法としてもっとも効果的だと考えられるのが、弁護士に依頼するということです。

特に、交通事故に慣れた弁護士であれば、上記(1)〜(4)などの方法を用いて、被害者に有利な主張を組み立てることができます

また、弁護士であれば、判例タイムズの修正要素の主張や過去の同様事案の裁判例を引用などによって被害者の過失を0にしてくれることが期待できます。

 

 

死亡事故で過失なしにする場合の注意点

死亡事故で過失をなしにする場合の注意点としては、以下のようなものが挙げられます。

①素早く証拠確保を行う

過失を0にするためには、やはり証拠の確保が重要です。

もっとも、証拠の中には、時間が経つにつれてなくなってしまうものもあります。

例えば、ドライブレコーダーや防犯カメラ映像は、時間が経つと上書きされて事故当時のデータが消えてしまうことがあります。

そのため、証拠確保のための活動は早い段階から動いていく必要があります

 

②早期に弁護士に相談する

早い段階から適切な主張をすることや適切な証拠確保のためには、専門家のアドバイスが不可欠だと思います。

そのため、遺族の方は、早めに弁護士に相談してアドバイスを受け、状況によっては依頼をして全てのやりとりを弁護士に任せることをお勧めします

 

 

死亡事故で慰謝料等を受け取るまでの流れ

死亡事故で慰謝料等を受け取るまでの流れ

 

パターン1

損害賠償金を計算し相手方に請求

交通事故で死亡した場合、ほとんどのケースでは被害者の死亡後に損害が計算できる状態になります。

そのような状態になったら、全部の損害を計算し、相手方に請求します

この時の請求は、裁判基準に基づいて請求するようにしてください。

ワンポイントアドバイス!〜相手方から賠償を提示してくるときの合意は慎重に〜

相手方に保険会社や弁護士がついている場合は、相手方から損害を計算して提示してくれることも多いです。

しかし、相手方から提示された金額で合意するかどうかは慎重になってください。

執筆者の経験上、特に初回の相手方の提示は、本来補償されるべき被害者の損害とかけ離れていることが多い印象です。

相手方から提示があった場合は、必ず弁護士に相談してその妥当性をチェックしてもらってください。

 

相手方と賠償金について合意・合意した金額を受領

通常は相手方と何度か交渉を重ね、賠償金が一定の水準に達した時に合意するということになります。

合意ができたら、合意書(示談書)を作成し、合意した金額を相手方から振り込んでもらいます

相手方に保険会社がついている場合、合意書を相手方任意保険会社に送付後、2週間前後で賠償金が振り込まれることが多いです。

 

パターン2

自賠責保険に被害者請求

賠償金の一部を早く受領したい場合などは、自賠責保険に被害者請求をするという方法があります。

被害者請求は、必要書類を集めて自賠責保険に提出して認定を待つことになります。

被害者請求は、原則書類審査になります。

 

自賠責保険で補償されていない部分を相手方に請求

自賠責保険で受領できる金額は、基本的に全損害の一部に過ぎません。

裁判基準で損害を計算すると、自賠責保険で受領した金額を上回ることがほとんどです。

そのため、自賠責保険で補償されていない部分の損害は、別途相手方(もしくは相手方任意保険会社)に請求していくことになります。

 

 

死亡事故と過失についてのQ&A

過失割合が決まらないとどうなる?

最終的な賠償額が定まらず、賠償金の全てをもらうことができません

賠償金は、個々の損害項目の金額を定め、その損害額から被害者の過失分の金額を差し引いて最終的な受領額を確定させます。

そのため、過失割合が定まらなければ、賠償金(示談金)も決まらないため、加害者側から賠償金の全額を受領することはできないということになります。

もっとも、過失割合が厳密に決まらなくても、自賠責保険に被害者請求をして賠償金の一部を受領することはできます。

 

相手が過失を認めない場合はどうすればいいですか?

すぐに専門家である弁護士に相談し、適切な対応のアドバイスを受けてください

相手が自らの過失を全く認めない場合、被害者側の主張する過失割合を認めない場合などは、まず専門家の妥当な過失割合の見解を聞くようにしましょう。

その上で、相手方の主張が不当である場合は、一つの手段として、弁護士に依頼し被害者側の見解をまとめた文書を弁護士名義で相手方に送るということが考えられます。

そして、交渉段階で相手方の見解が変わらない場合は、最終的に訴訟を提起して裁判所で相手方の過失の有無や程度を決めてもらうことになります。

 

死亡事故で過失なしの場合に免許はどうなる?

死亡事故で被害者に過失がない場合、原則加害者の運転免許は取り消されます

免許が取り消される点数は、違反点数が15点以上になった時です。

死亡事故を起こし、加害者にのみ過失がある場合は、以下のような点数になります。

2点(安全運転義務違反)+20点(専ら加害者の過失によって発生した死亡事故)
=22点

22点は、免許取り消し点数の15点以上に該当するので、原則加害者の免許は取り消されることになります。

参考:交通事故の付加点数|警視庁

 

 

まとめ

本記事では、被害者に過失がない場合の交通事故の死亡慰謝料などを説明してきました。

死亡事故の損害は基本的に多額になるため、過失が10%異なるだけでも受領金額に大きく影響することになります。

そのため、最後まで粘り強く、過失割合が低くなるよう被害者側で主張や立証することが大切です。

デイライト法律事務所では、死亡事故を扱った経験のある弁護士が在籍しています。

死亡事故のご遺族の方は、一度当事務所にご相談いただければと思います。

 

 

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