事故でてんかんの後遺症は残る?|弁護士が解説
事故により、てんかんで、焦点発作(部分発作)や全般発作といった後遺症が残ることがあります。
「てんかん」とは、脳内の細胞に発生する異常な神経活動によっててんかん発作を引き起こす神経疾患のことです。
交通事故によって引き起こされるてんかんの多くは、「外傷性てんかん」です。
外傷性てんかんが後遺症として残った場合には、後遺障害等級の認定がなされる可能性があります。
この記事では、てんかんの症状やその治療法、てんかんで認定される可能性のある後遺障害等級、後遺障害を受けた場合の賠償金などについて、お伝えいたします。
目次
てんかんとは
「てんかん」とは、脳内の細胞に発生する異常な神経活動によっててんかん発作を引き起こす神経疾患のことです。
もう少しわかりやすく、かみ砕いてお伝えします。
人間の身体を作っている細胞にはすべて電気的な流れがあります。
大脳の神経細胞(ニューロン)についても、規則正しいリズムで、お互いの調和を保ちながら電気的に活動しています。
しかし、「てんかん発作」が起こると、この規則正しいリズムを持った電気的な活動が壊れてしまうことになります。
そのため、てんかんは「脳の電気的嵐」と例えられることがあります。
このように、脳の神経細胞で発生する過剰な電気的興奮によって、引き起こされる神経症状をてんかん発作といいます。
てんかんの症状がある人については、100人に1人の割合で存在していると言われており、日本全国にはおよそ100万人いると推定されています。
さらに、一生の間に1回、あるいは数回だけしか発作を起こさないような症状の方を含めると、てんかんの症状がある方は、5%の割合、人口にして約500万人にもなると考えられています。
てんかんには、幼少期に発症するものや、脳に何らかの病変があることで引きおこるものや、脳の検査をしても原因がわからないものなど、さまざまな種類があります。
てんかんの症状や日常生活への影響
交通事故によって引き起こされるてんかんの多くは、頭部外傷により脳にダメージを受けたことによって異常な信号を発し、その結果、脳の神経細胞のバランスが崩れて過剰な興奮状態に陥ることで発症する「症候性てんかん」です。
このような外傷に起因するてんかんを「外傷性てんかん」といいます。
それでは、交通事故で頭部にダメージを受けたことで「外傷性てんかん」になった場合の具体的な症状や、日常生活への影響などについてお伝えします。
てんかんの症状には、脳の損傷・異常によって「部分発作」を起こす部分てんかんと、「全般発作」を起こす全般てんかんに分類することができます。
それでは、部分発作と全般発作の症状について説明いたします。
焦点発作(部分発作)
焦点発作(部分発作)とは、脳のある部分から始まる発作です。
発作症状の現れ方は非常に幅が広く、神経細胞の異常興奮が生じる部位や強さによって大きく異なります。
脳のどの部分からおこるのかによって、発作のはじめの症状が決まり、発作中の意識の状態とけいれんへの移行によって次のように分類することができます。
- ① 単純部分発作
- ② 複雑部分発作
- ③ 二次性全般化発作
①単純部分発作
単純部分発作とは、意識がはっきりしている状況で起こる発作のことをいいます。
意識が保たれている単純部分発作では、原因部位により症状はさまざまです。
意識がはっきりしているため、発作中にどのような症状があったかを認識して覚えています。
発作の原因部位と症状については以下のとおりです。
- 前頭葉:顔面・手・足がつっぱる・ねじれる・ガクガクとけいれんするなど
- 頭頂葉:感覚発作などの異常感覚
- 側頭葉:な異常の異常感覚や恐怖感、既視感、未視感、異常嗅覚、幻聴、幻視、めまい感など
- 後頭葉:光や点、線、模様などが見える幻視、視野欠損など
②複雑部分発作
複雑部分発作では、意識障害が発生するため、発作中のことを認識・記憶できません。
複雑部分発作が起こった場合には、話しかけても反応することができません。
発作の持続時間は1分〜3分程度であると言われています。
また、その場にそぐわない一連の動作・表情・行動が無意識に生じることがあるため、自動症と呼ばれることがあります。
側頭葉に由来する発作の場合には、動作がとまり、呼びかけに反応がないか、あっても「うん」くらいの反応しかできないことが多いと言われていますが、倒れることはありません。
顔を見ると目の焦点が合っていない・一点を見つめていることがあります。
自動症の場合には、口をモグモグさせたり、舌・唇をクチャクチャと無意識に動かす、あるいは、無意識に手をモゾモゾと動かし周囲の者に触れるという症状がみられます。
③二次性全般化発作
単純部分発作あるいは複雑部分発作から、電気的興奮が全体に広がって全身のけいれんにつながることをいいます。
二次性全般化発作は、単純部分発作から強直間代発作、複雑部分発作から強直間代発作、単純部分発作から複雑部分発作を経て強直間代発作という3つに分類することができます。
ただし、単純部分発作か複雑部分発作かについては、明確には区別できない場合も少なくありません。
全般発作
「全般発作」は、発作のはじめから左右の脳全体が「脳の電気的嵐」に巻き込まれ、発作の最初から意識障害が発生するという特徴があります。
全般発作は症状によって次のように分類することができます。
- ① 強直間代発作
- ② 欠伸発作
- ③ ミオクロニー発作
- ④ 脱力発作
①強直間代発作
強直間代発作とは、いわゆる全身けいれん発作(大発作)のことで、強直後、四肢が硬くなりつっぱるけいれんを起こすなど、持続的な筋肉の収縮ではじまります。
その後、全身の筋肉が収縮と弛緩を繰り返し、身体がガクガクとけいれんします。
強直間代発作は通常1分~2分程度で終了すると言われています。
しかし、5分間けいれんが続くと、てんかん重積状態となり発作がとまらなくなるため、救急車を呼ぶ必要があります。
②欠伸発作
欠伸発作が起こると、5秒〜10秒ほど意識が遠のき、目はうつろになって動作が停止します。
発作の最中に倒れることはほとんどありません。
発作が終わると何事もなかったかのように、それまでの動作を再開するという特徴があります。
欠伸発作は、主に小児期に発症し、成人期に発症することはまれです。
③ミオクロニー発作
ミオクロニー発作が起こると、両手や片手が一瞬びくっと動くため、持っている物を落とすことがあります。
単発で発生することも、連続して発生することもあります。
意識を失うことはなく、寝起きによく起こる傾向があります。
病院で問診を受ける場合、「寝起きに朝ご飯を食べているときに、箸・茶碗を落としたことがあるか」、「朝起きて歯磨きの時に、歯ブラシやコップを落としたことがあるか」と尋ねられることがあるのは、このミオクロニー発作を有無を確認するためです。
④脱力発作
脱力発作が起こると、突然、全身の力が入らなくなり、崩れ落ちるように倒れこんでしまいます。
筋緊張の突然の減弱によって発生し、部分的で頭部が前に垂れ、下あごが緩んだり、手・足がだらりとしたりする場合もあります。
脱力発作がきわめて短い時間の場合には、転倒発作と呼ばれることもあります。
意識を失ったとしても、その時間は比較的短時間であると言われています。
脱力発作の持続時間は1〜2秒ほどのごく短い時間ですが、突然転倒するためけがをしやすいため、頭部を保護しておく必要があります。
てんかんの原因
てんかんは、その原因が特定されるかどうかで「特発性てんかん」と「症候性てんかん」にわけることができます。
「特発性てんかん」とは、さまざまな検査をしても脳に明らかな病変や異常が見つからない、原因不明のてんかんのことをいいます。
てんかんは遺伝しないと考えられていますが、一部には「発作を起こしやすい傾向」が遺伝する可能性も指摘されています。
「症候性てんかん」とは、脳に何らかの障害が起きたり、脳の一部が傷ついたことによって起こるてんかんです。
症候性てんかんは、出生時のトラブルや低酸素、脳炎、髄膜炎、脳出血、脳梗塞、脳外傷、アルツハイマー型などが原因で脳が傷害を受けた場合に起こると言われています。
てんかんの主な治療法
てんかんの治療には、薬物治療、外科治療、その他の治療方法があります。
薬物治療
薬物治療では、抗てんかん薬を毎日規則的に服用して、発作を抑制していくという方法が一般的です。
抗てんかん薬はてんかん発作を起こさないように、大脳の過剰な電気的興奮を抑える働きをもっており、発作を起こす可能性のある間は、続けて飲む必要があります。
薬物治療にあたっては、毎日規則正しく服用する、生活リズムを整えて暴飲暴食・睡眠不足を避ける、勝手に服薬を中断しない、ことが大切です。
1種類の薬で発作を抑制する単薬療法が好ましい形ですが、1種類のみでは発作が抑制されないときには、2種類以上の薬をもちいる多薬療法をおこないます。
なお、抗てんかん薬は、長期にわたって飲むことが多いため、副作用の少ない薬が望まれます。
副作用をさけるため、抗てんかん薬を飲み始める時には少量から始めて徐々に量を増やしたり、血中濃度を測定したりします。
また、ご自分が飲んでいるお薬によって起こりうる副作用についても、よく理解しておくことが大切です。
外科治療
薬物治療でてんかん発作を抑制することができない場合には、外科手術による治療を検討することになります。
ただし、すべてのてんかんに外科治療ができるわけではなく、一定の条件を満たす場合に外科手術を検討することになります。
次にあげるてんかんについては、外科治療ができるてんかんと言われています。
- 内側側頭葉てんかん
- 器質病変が検出された部分てんかん
- 器質病変を認めない部分てんかん
- 片側半球の広範な病変による部分てんかん
- 脱力発作をもつ難治てんかん
発作を起こす場所が脳の一部であることが明らかであり、抗てんかん薬をどのように工夫しても発作が止まらない場合や、発作の種類・あるいは発作回数が多いために生活が大きく障害されるような場合に、外科手術を検討することになります。
また、発作が起こるようになってから3〜4年経っても改善する方向になく、手術をする脳の部分が言葉の障害や手足の麻痺などの後遺症を起こす心配がないことも、外科手術を行う際の条件になります。
その他の治療法
薬物治療や外科治療以外の治療法として、迷走神経刺激療法や食事療法があります。
迷走神経刺激療法とは、電気刺激を出す小さな器機を体に埋め込んで、内臓や運動神経を司っている迷走神経を毎日、一定の間隔で刺激するという治療法です。
このような治療により、てんかん発作の回数を減らしたり、発作の程度を軽くすることができます。
食事療法の代表的なものに「ケトン食療法」があります。
これは、糖や炭水化物を減らして脂肪を増やした食事を摂ることで、脂肪が分解されてケトン体が体内で作られることで効果を発揮します。
高脂肪・低炭水化物食を続けることで、ミオクロニー発作や脱力発作などの難治性発作を抑制する効果のほか、発達や精神面の改善効果がみられることもあります。
てんかんの後遺障害認定の特徴と注意点
てんかんで認定される可能性がある後遺障害等級
交通事故で外傷性てんかんを発症した場合には、治療を継続しても治癒せずに、後遺症として発作が続く可能性があります。
このような後遺症については、後遺障害等級の認定申請を行うことで、「後遺障害」と認められる可能性があります。
「後遺障害」とは、交通事故と因果関係のあるものと医学的に証明され、さらに労働能力が低下した、あるいは喪失したものと認められ、さらに、その程度が自賠責保険の後遺障害等級に該当するものを指します。
交通事故による後遺障害については、部位や程度によって「1級〜14級」までの等級と140種類、35系列の後遺障害に細かく別れています。
てんかんの後遺障害は、神経系統の障害に分類されており、症状や発作の程度によって次のような認定基準となっています。
後遺障害等級 | 認定基準 |
---|---|
5級2号 | 1ヶ月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が意識障害の有無を問わず転倒する発作又は意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作であるもの |
7級4号 | 転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの |
9級10号 | 数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの |
12級13号 | 発作はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの |
後遺障害認定の注意点
後遺障害の申請をしてから結果が出るまでの期間については、多くの場合1〜3ヶ月程度かかります。
これはあくまで目安なので、事案によっては6ヶ月以上かかるということもあり得ます。
また、損害保険料率算出機構が公表しているデータによれば、2021年度に自賠責保険が賠償金を支払った件数は、全部で837,390件です(「自動車保険の概況」より)。
そのうち、何らかの後遺障害に対して賠償金が支払われた件数は、38,837件です。
したがって、事故全体の支払い件数に対する後遺障害の支払い率、すなわち認定率については約4.6%となります。
よって、後遺障害の認定については、申請すれば必ず認められるというものではないという点には注意する必要があります。
てんかんの慰謝料などの賠償金
後遺障害慰謝料
交通事故で受けた外傷性てんかんについて、後遺障害に認定された場合には、後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害の慰謝料とは、交通事故によるけがで残ってしまった後遺障害に対して、被害者の身体的・精神的な苦痛を補償するお金です。
被害者の方は、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料を請求することができます。
てんかんの症状で認定される可能性があるのは、5級〜12級の後遺障害です。
5級〜12級の後遺障害慰謝料の弁護士基準での相場は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 弁護士基準による慰謝料相場 |
---|---|
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
なお、後遺障害慰謝料については、以下のページで詳しく解説しております。
後遺障害逸失利益
てんかんが後遺障害に認定された場合には、後遺障害逸失利益を請求することもできます。
後遺障害が残ると、労働能力が低下し、将来の収入の減少が予想されます。
逸失利益は、このような減収に対する補償のことをいいます。
なお、後遺障害逸失利益については、以下の記事で詳しく解説しております。
その他の賠償金
交通事故で負傷した場合には、以下のような賠償金を受け取ることができます。
- 入通院慰謝料
- 積極損害
- 休業損害
慰謝料には、後遺障害慰謝料のほかに、入通院慰謝料があります。
入通院慰謝料とは、入院や通院したことによる精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。
また、積極損害とは、交通事故にあったことによって、被害者が必要となってしまった費用を損害とするものです。
例えば、治療費や入院費、通院のための交通費や、装具や器具(義足や車椅子、コルセットなど)の購入費などが挙げられます。
休業損害とは、交通事故にあったことで会社を休まざるを得なくなったり、家事ができなくなってしまったことを損害とするものです。
休業損害が認められるのは、会社員をはじめとする有職者や、他人のために生活のサポートをする主婦(主夫)が基本です。
ただし、無職の方であっても、交通事故にあった時点で、具体的に就職予定が決まっていたり、労働能力や意欲があり、就労の蓋然性が高い場合には、休業損害が認められることがあります。
なお、慰謝料を含む交通事故の賠償金については、以下の記事を参考にされてください。
てんかんで適切な賠償金を得る3つのポイント
症状固定までしっかり治療する
まずは、症状固定までしっかり治療し、それでも治らなかった時に後遺障害の申請を検討していくことになります。
症状固定とは、これ以上治療を行っても症状の改善を期待することができないであろうという時点のことをいいます。
症状固定まで治療を継続しないと、後遺障害申請をすることはできませんので、症状固定まで医師の指示に従ってしっかり治療しましょう。
適切な後遺障害診断書を作成してもらう
後遺障害申請の必要書類の一つに、「後遺障害診断書」というものがあります。
この後遺障害診断書は、提出する証拠資料の中でも特に重要なものの一つです。
なぜなら、後遺障害診断書は、被害者に残存する後遺障害の内容が説明されているものだからです。
後遺障害診断書は、主治医が基本的に作成するものであり、被害者の残存する後遺障害の内容について、医学的な見解が書かれています。
後遺障害に強い弁護士に相談する
後遺障害認定の鍵は、基本的に証拠資料になります。
どのような証拠資料を提出するかを判断するにあたっては、専門的な知識を必要とします。
そのため、交通事故に精通している弁護士に後遺障害申請も含めて依頼され、少しでも後遺障害認定がされる確率を上げた方が良いと考えています。
交通事故で弁護士に依頼するメリットについて、詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
この記事では、てんかんの症状やその治療法、てんかんで認定される可能性のある後遺障害等級などについて解説しました。
事故にあって、てんかんの後遺症が残ってしまうということは、被害者の方にとって、その後の生活にもとても大きな影響を与えることになります。
少しでも不安を取り除き、安心して生活をするためにも、適切な後遺障害の等級を受けること、適切な賠償金を受けることは非常に重要です。
そのためには、交通事故を専門的に取り扱う弁護士に相談、依頼することが重要です。
当事務所には、交通事故案件を日常的に処理する弁護士が所属する人身障害部があります。
交通事故のご相談やご依頼後の事件処理は、すべて人身障害部の弁護士が対応いたしますので、安心してご相談ください。
電話相談、オンライン相談(LINE、Meet、FaceTime、Zoom)にて、全国対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。