後遺障害の認定後、慰謝料の支払いはいつ?弁護士が解説
後遺障害の認定後、慰謝料が支払われるのは、賠償額が確定してからなので、数週間から数ヶ月程度、裁判になれば数年を要する場合があります。
もっとも、後遺障害の申請方法「被害者請求」の場合には事案によりますが、早くて申請から1ヶ月以内で振り込まれることもあります。
他方、後遺障害申請の方法が「事前認定」の場合には、保険会社と示談が済んだ後の支払いになるため、等級認定後、すぐに賠償金の一部の支払いを受けることはできません。
以下では、交通事故で後遺障害が残った場合に賠償金が支払われる時期や、賠償金を受け取るまでの流れなどについて解説していますので、参考にされてください。
目次
後遺障害の認定後の慰謝料の支払いはいつ?
後遺障害が認定された場合に慰謝料などの賠償金が支払われるのはいつになるのでしょうか。
賠償金が支払われるタイミングについては、後遺障害の申請方法が「事前認定」か「被害者請求」かによって異なることになります。
まず、「被害者請求」とは、交通事故の被害者が相手方の自賠責保険に対して賠償金を請求することをいいます。
被害者請求は、その根拠規定が自動車損害賠償保障法第16条にあることから、「16条請求」とも呼ばれます。
これに対して、「事前認定」とは、相手の任意保険会社に後遺障害認定手続きを任せる方法です。
被害者請求による方法は、必要書類の収集など手間がかかることがありますが、比較的早い時期に賠償金の一部を受け取ることができます。
被害者請求をした場合には、後遺障害等級の認定がされたタイミングで、自賠責保険から自賠責保険の基準に従って賠償金の一部の支払いを受けることができます。
一般的に、交通事故で賠償を受け取ることができるタイミングとしては、交渉で示談が成立した後か、裁判等で和解した後や判決が出た後になります。
しかし、被害者請求をすれば、相手方と示談成立前に一定の賠償金を受け取ることが可能となり、事案にもよりますが、早くて請求から1ヶ月以内で振り込まれることもあります。
これに対して、事前認定による方法の場合には、保険会社と示談が済んだ後の支払いになるため、等級認定後すぐに賠償金の一部の支払いを受けることはできません。
事前認定の方法は、相手の任意保険会社が手続きを行ってくれることから、後遺障害申請にあたって被害者の負担が少ないというメリットがあります。
しかし、等級認定後、すぐに賠償金の一部を受け取りたいとお考えの方は、事前認定ではなく被害者請求で申請されることがおすすめです。
賠償金の支払の流れ
交通事故が発生してから、最終的に賠償金を受け取るまでには、以下のような手続きの流れとなります。
交通事故の被害に遭った場合には、適切に医療機関を受診してください。
医師から症状固定・完治の診断がなされるまでは、治療を継続する必要がありますので、ご自身の判断で勝手に中断しないようにしてください。
治療を途中で中断してしまうと、慰謝料等が低額になるおそれがあり、また後遺障害等級の認定において不利になる可能性もあります。
後遺障害認定の申請方法
被害者請求
被害者あるいは被害者の依頼を受けた弁護士が、直接、自賠責保険に請求することを「被害者請求」と言います。
被害者請求をする場合には、加害者が加入している自賠責保険会社に連絡をする必要がありますが、加害者が加入する保険会社については、自動車安全運転センターから取り寄せる「交通事故証明書」に記載されています。
特定した自賠責保険会社に連絡を行い、必要書類をそろえて提出していく必要があります。
被害者請求の場合に必要な書類は以下のとおりです。
- 交通事故証明書
- 支払請求書(保険金・損害賠償額・仮渡金)
- 印鑑証明書
- 事故発生状況報告書
- 診断書、施術証明書および施術費明細書
- 診療報酬明細書
- 後遺障害診断書 など
自賠責保険の請求に必要な書類の様式は、各自賠責保険会社に郵送するよう依頼すれば、必要な様式のセットを送ってくれます。
加害者がどこの自賠責保険に加入しているかは、交通事故証明書に記載されています。
「交通事故証明書」は、自動車安全運転センターから取り寄せることができます。
請求者の印鑑証明書の提出が必要ですが、弁護士に依頼する場合には、弁護士の印鑑証明書を添付して請求します。
「支払請求書」は、自賠責保険から送られてくる様式のセットに入っています。
「事故発生状況報告書」は、事故の態様を図で記載し、その図の説明を文章で記載する必要があります。
「診断書、施術証明書および施術費明細書」及び「診療報酬明細書」については、病院に作成のお願いをすることになります。
このほかにも、必要に応じて追加の書類を提出しなければならない場合がありますが、被害者ご自身がお一人で収集して提出していく作業は非常に大変です。
被害者請求をする場合には、交通事故を専門的に取り扱っている弁護士に依頼してサポートを受けながら進めることがもっとも簡単かつ効率的だといえるでしょう。
必要書類の提出を受けた自賠責保険会社は調査会社に依頼して、事実確認のための必要な調査を行います。
調査結果に基づき自賠責保険会社が保険金の支払額を決定し、被害者に保険金が支払われることになります。
被害者請求のメリット・デメリット
被害者請求の方法の場合、相手方と示談成立前に一定の賠償金を受け取ることができるというメリットがあります。
被害者の後遺障害の程度にもよりますが、早くて請求から1ヶ月以内で振り込まれることもあります。
さらに、一定の割合まで、被害者の受領する金額は過失相殺されません。
例えば、被害者の過失が7割未満の場合は過失相殺されず、自賠責保険の賠償金を受け取ることができます。
しかし、被害者請求には以下のようなデメリットもあります。
まず、被害者請求をするためには一定の必要書類について基本的に被害者ご自身で集めなければならず、時間がかかります。
また、自賠責保険は、交通事故によって生じた損害を全て補償してくれるわけではありませんので、補償される金額に限度額があります。
限度額を超える損害については、相手方や相手方任意保険会社に直接請求していく必要があります。
なお、被害者請求に関する手続きや必要書類についてより詳しく知りたいという場合は、以下のページでより詳細に解説しておりますので、ぜひ参考にしてください。
事前認定
後遺障害の事前認定とは、後遺障害申請を保険会社が行う方法のことをいいます。
事前認定の方法により後遺障害の申請をする場合には、まず後遺障害診断書を医師に作成してもらい手元に用意する必要があります。
そして、後遺障害診断書と、保険会社が医療機関から医療記録(画像など)を取り寄せるための同意書などを保険会社に送付します。
基本的に上記以外の申請書類については、加害者側の任意保険会社が用意して後遺障害申請を行ってくれます。
後遺障害等級の結果は、後遺障害申請をした保険会社に戻ってきますので、保険会社からの電話連絡や後遺障害等級の結果が記載された書面等で結果が知らされることになります。
事前認定のメリット・デメリット
事前認定のメリットは、後遺障害申請にあたって被害者の負担が少ないことです。
被害者は、医師に後遺障害診断書を作成してもらい、同意書などを一緒に保険会社に送付すれば、あとは保険会社から結果が通知されるのを待っているだけです。
しかし、事前認定には以下のようなデメリットもあります。
まず、事前認定は保険会社が後遺障害申請を行うため、実際に提出された書類を被害者側で十分吟味できない可能性があります。
また、保険会社は、後遺障害申請に必要な最低限の書類は提出してくれますが、それを超えて後遺障害認定に有利となる証拠を積極的に添付してくれることはありません。
さらに、事前認定による申請の場合は、保険会社と示談が済んだ後の支払いになるため、等級認定後、すぐに賠償金の一部の支払いを受けることはできません。
事前認定のメリットやデメリット、手続きの流れについては、以下のページで詳しく解説しておりますので、ぜひ参考になさってください。
後遺障害慰謝料の金額
交通事故で後遺障害を負った場合には、後遺障害慰謝料を請求することができます。
慰謝料とは、交通事故により被った精神的苦痛に対する金銭賠償のことです。
交通事故により後遺障害が残った場合に請求できる慰謝料の金額は、後遺障害の等級に応じて異なります。
慰謝料の算定基準には、①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士基準(裁判基準)の3つの基準があります。
- ① 自賠責基準:自賠責保険が、賠償金を計算する場合の基準で、3つの基準の中で最も低い算定基準
- ② 任意保険基準:任意保険会社が内部的に定めている賠償の水準
- ③ 弁護士基準:弁護士が交渉段階から使用する基準であり、3つの基準の中で最も高い算定基準
後遺障害慰謝料の相場を、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準ごとに比較したものが、以下の表となります。
自賠責保険基準 | 旧任意保険基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|---|
1級 | 1150万円(1650万円) | 1600万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円(1203万円) | 1300万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1100万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 900万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 750万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 600万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 500万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 400万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 300万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 200万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 150万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 100万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 60万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 40万円 | 110万円 |
上記表からもわかるとおり、弁護士基準は、自賠責保険基準や任意保険会社基準の慰謝料額を大きく上回っています。
弁護士が、交渉する場合や裁判になった場合には、上記表の裁判基準の金額で交渉を行うことになります。
後遺障害で受け取ることができる賠償金
交通事故で後遺障害が残ってしまった場合に受け取ることができる賠償金としては、以下のようなものがあります。
- 慰謝料
- 積極損害
- 休業損害
- 逸失利益
慰謝料
慰謝料とは、交通事故によって受けた精神的な苦痛を金銭に換算したもので、入通院慰謝料(傷害慰謝料)、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つがあります。
この慰謝料の基準には、①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士基準(裁判基準)の3つの基準があります。
積極損害
積極損害とは、交通事故にあったことによって、被害者が必要となってしまった費用を損害とするものです。
例えば、治療費や入院費、通院のための交通費や、装具や器具(義足や車椅子、コルセットなど)の購入費などが挙げられます。
休業損害
交通事故にあったことで会社を休まざるを得なくなったり、家事ができなくなってしまったことを損害とするものです。
休業損害が認められるのは、会社員をはじめとする有職者や、他人のために生活のサポートをする主婦(主夫)が基本です。
休業損害は、以下の計算式で算出されます。
逸失利益
交通事故に遭ったことで後遺症が残ってしまい、その結果、本来得ることができたであろう利益を失ったことを損害として捉えるものです。
後遺障害の逸失利益については、「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」という計算式によって算出されます。
なお、ご自身の交通事故のケースで大まかな賠償金の金額を知りたいという方は、以下の自動計算ツールをご活用ください。
以下の交通事故賠償金シミュレーターは、慰謝料のほかに、休業損害、逸失利益の算定にも対応しています。
お手元のスマホで必要事項を入力いただくだけで素早く・簡単に賠償金の概算を算出することができます。
後遺障害の認定についてのQ&A
後遺障害認定にかかる日数は?
自賠責損害調査事務所における損害調査所要日数のデータによると、約94%の割合で90日以内に結果が出るというデータになっています。
もちろん、これはあくまで目安なので、事案によっては6ヶ月以上かかるということもあり得ます。
後遺障害の等級認定に係る日数や最短方法などが知りたいという場合は、以下のページを参考になさってください。
後遺障害認定が遅すぎる。どうすればいい?
保険会社に進捗を問い合わせてみるという方法があります。
被害者請求の場合には、提出先の自賠責保険会社に問い合わせてください。
事前認定で相手方任意保険会社で対応してもらっている場合には、その任意保険会社に、人身傷害保険で対応してもらっている場合はご自身の任意保険会社に問い合わせてください。
進捗を問い合わせた結果として、仮に保険会社の業務を進めるのが遅いということが滞っている原因である場合、早めに対応するよう促す必要があるでしょう。
まとめ
この記事では、交通事故で後遺障害が残った場合に賠償金が支払われる時期や、賠償金を受け取るまでの流れなどについて解説してきました。
交通事故で後遺障害を負った場合、ご自身だけで手続きを進めることに不安のある方は、ぜひ交通事故事件の経験が豊富な弁護士にご依頼ください。
当事務所には、交通事故案件を日常的に処理する弁護士が所属する人身障害部を設けており、相談対応から事件処理まで全て人身障害部の弁護士が対応しています。
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