後遺障害になったら自賠責からいくらもらえる?弁護士が解説
後遺障害になると、等級に応じて、75万円〜4000万円が支払われます。
この記事では、交通事故で後遺障害になった場合に自賠責保険からもらえる賠償金の額や自賠責保険利用時の注意点などについて解説します。
自賠責保険からもらえる賠償金は、法令と通達によって定められているため、その基準を適切に理解することが大切です。
また、自賠責保険は一般に使われる任意保険とは異なる特徴があり、使い方を誤ると損をしてしまうことがありますので、注意が必要です。
目次
後遺障害の自賠責限度額と補償内容
自賠責保険による保険金額は、法令と通達で限度額が定められており、自賠責保険からこれを超える保険金を受け取ることはできません。
また、後遺障害の賠償として自賠責保険から受け取ることができる保険金は、慰謝料等と逸失利益です。
以下では、慰謝料等と逸失利益の算定方法についてまとめています。
なお、より具体的な金額を算定する際には、実際の支払基準もご確認ください。
参考:自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁/国土交通省告示第1号)
慰謝料について
慰謝料等の額についても、後遺障害の等級ごとに定められています。
限度額と慰謝料の額を、後遺障害の等級ごとに、以下の表でまとめておりますので、ご確認ください。
【別表第1(後遺症により介護を要する場合)】
等級 | 限度額 | 慰謝料等 |
---|---|---|
第1級 | 4,000万円 | 1,650万円(扶養者がいる場合は、1,850万円) ※これに初期費用等として、500万円が加算 |
第2級 | 3,000万円 | 1,203万円(扶養者がいる場合は、1,373万円) ※これに初期費用等として、205万円が加算 |
【別表第2(別表第1以外の場合)】
等級 | 限度額 | 慰謝料等 |
---|---|---|
第1級 | 3,000万円 | 1,150万円 (扶養者がいる場合は、1,350万円) |
第2級 | 2,590万円 | 998万円 (扶養者がいる場合は、1,168万円) |
第3級 | 2,219万円 | 861万円 (扶養者がいる場合は、1,005万円) |
第4級 | 1,889万円 | 737万円 |
第5級 | 1,574万円 | 618万円 |
第6級 | 1,296万円 | 512万円 |
第7級 | 1,051万円 | 419万円 |
第8級 | 819万円 | 331万円 |
第9級 | 616万円 | 249万円 |
第10級 | 461万円 | 90万円 |
第11級 | 331万円 | 136万円 |
第12級 | 224万円 | 94万円 |
第13級 | 139万円 | 57万円 |
第14級 | 75万円 | 32万円 |
逸失利益について
逸失利益とは、後遺障害による労働能力の減少により、将来発生するであろう収入の減少を指します。
つまり、後遺障害による逸失利益は、本来稼げるはずだった収入を想定した上で、後遺障害によってそのうちどれくらいが稼げなくなったのかによって算出します。
具体的には、将来の年間収入見込額に労働能力喪失率をかけて、事故当時の価値に引き直して算出されます。
ただし、将来毎年ごとにもらえるはずだった収入を事故発生時に早めてもらうことになるため、その利率の分が差し引かれます。
この利率を差し引いた金額を算出するのにもちいられるのが、ライプニッツ係数です。
ライプニッツ係数についても、通達で定められています。
以上の逸失利益の算定方法をまとめると次のとおりです。
①~③について、それぞれの算定方法を以下にまとめています。
①年間収入額又は年相当額
以下の表のとおり、原則として、事故前直近1年間の収入額と平均給与額とを比較して、より高い方を年間収入と認める方法が採られています。
職業等 | 収入額 |
---|---|
有職者 | 原則として、事故前年の収入額 |
家事従事者 | 女性全年齢平均賃金 |
幼児・児童・生徒・学生 | 賃金センサス男女別全年齢平均賃金 |
賃金センサスについては、以下のページをご覧ください。
②労働能力喪失率
労働能力喪失率は、障害等級ごとに定まっています。
【別表第1(後遺症により介護を要する場合)】
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1級 | 100% |
2級 | 100% |
【別表第2(別表第1以外の場合)】
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
③就労可能年数のライプニッツ係数
①と②を掛け合わせて将来1年間の減収相当額を導いたところで、更にこれに通達で定められているライプニッツ係数というものを掛け合わせます。
その理由は、将来年ごとにもらえるはずだった収入を、現時点ですべて支払ってもらうため、その分の利益を差し引くためです。
後遺障害以外の自賠責限度額と補償内容
自賠責保険により、後遺障害以外についても保険金を受け取ることができます。
ただし、後遺障害の場合と同様に保険金額が法令及び通達で定められている点に注意が必要です。
簡単にまとめると次のとおりです。
傷害による損害
損害の内容 | 保険金額 |
---|---|
積極損害 | – |
治療関係費 | 実費(治療費、看護料、諸雑費、柔道整復等の費用、技師等の費用、通院費、診断書等の発行) |
文書料 | 交通事故証明書、被害者側の印鑑証明書、住民票等の発行に必要かつ妥当な実費 |
その他の費用 | 事故発生場所から医療機関まで被害者を搬送するための費用 |
休業損害 | 休業1日につき、6,100円
(ただし、1万9000円を上限として、実際の損害額を請求可能) |
慰謝料 | 治療期間1日につき4,300円 |
死亡による損害
損害の内容 | 保険金額 |
---|---|
葬儀費 | 100万円 |
逸失利益 | 将来の年間収入見込額から本人の生活費を控除した額を、事故当時の価値に引き直して算出した額 |
死亡本人の慰謝料 | 400万円 |
遺族の慰謝料 ※遺族=被害者の父母、配偶者及び子 |
遺族が1人=550万円 遺族が2人=650万円 遺族が3人以上=750万円 ※被害者に被扶養者がるときは、上記金額に200万円を加算 |
死亡に至るまでの傷害による損害 | 【傷害による損害】に準ずる。 (事故当時又は事故翌日死亡の場合は、積極損害のみ) |
自賠責の注意点
自賠責は任意保険とは異なる特徴がいくつもあるため、利用の際には注意が必要です。
物損は補償されないこと
自賠責保険では、物損は補償されません。
つまり、車の修理費などは補償されないので注意が必要です。
そのため、相手が物損について任意保険に加入していない場合には、加害者本人に請求する必要があります。
人身損害でも限度額や補償内容が限定されていること
次に、自賠責保険では既にご説明したように、限度額や補償内容が限定されています。
つまり、裁判により賠償金が認められたとしても、自賠責保険から支払いを受けられるのは、そのうち支払基準に定められた金額までです。
この場合、自賠責保険から支払いを受けられない部分については、加害者本人や任意保険会社に対して請求することになります。
自賠責を利用すべきケースとは?
相手が任意保険に加入していない場合
任意保険はその名のとおり、加入するかどうかは個人の自由ですので、事故の相手が任意保険に加入していない場合が往々にしてあります。
加害者が任意保険に加入していなくても、加害者本人が適切な賠償を支払ってくれるのであれば、それほど問題はありませんが、多くの場合、加害者本人から十分な補償を速やかに支払われることはありません。
したがって、こうした場合には、自賠責保険を利用して、賠償の一部を先に受領することを検討すべきでしょう。
なお、自賠責の利用方法は、「加害者請求」と「被害者請求」があります。
「加害者請求」とは、加害者が被害者に賠償金を支払った後に、自賠責保険に請求する方法です。
一方、「被害者請求」とは、被害者が加害者の加入している自賠責保険に直接、損害賠償額を請求する方法です。
加害者が賠償に応じない場合には、「被害者請求」によって、自賠責から支払いを受けることができます。
相手が責任を認めず、当面の生活費等に困る場合
相手が事故の責任を認めない場合は、交渉が難航し保険金の支払いまでに長い時間がかかることがあります。
この間、被害者は治療費など様々な出費を自身で一旦負担しなければならないため、生活費等に困ってしまう場合があります。
このような場合には、自賠責保険の仮渡金制度を使うことを検討します。
仮渡金制度は、相手の自賠責保険から賠償金の一部を仮に支払ってもらう制度です。
いわば賠償金の前払いなので、仮渡を受けた分は、後の賠償金の支払いの際に差し引かれます。
これによって、早期に賠償金の支払いを受け、生活費等に充てることができるようになります。
仮渡金についても、限度額が定められています。
死亡した者 | 290万円 |
|
40万円 |
|
20万円 |
11日以上医師の治療を要する傷害を受けた者 (「傷害を受けた者」に当たる者を除く) |
5万円 |
こちらの過失割合が大きい場合
自身の過失割合が大きい場合には、訴訟等をする前に自賠責保険を使うべき場合があることに注意が必要です。
以下、具体的に説明します。
まず、過失相殺とは、自己に対する責任割合に応じて、賠償額を減じる制度です。
例えば、訴訟によって慰謝料が100万円認められた場合であっても、自身に3割の過失がある場合には、100万円 × 30% = 30万円が賠償金から差し引かれ、70万円の支払いしか受けられません。
このように請求する側に過失がある場合には、その割合に応じて賠償金が減少します。
ところが、自賠責の場合は過失割合が7割未満であれば、減額されません。
また、7割を超える場合であっても、次のように減額の割合が定められています。
減額割合 | ||
---|---|---|
被害者の過失割合 | 後遺障害又は死亡に係るもの | 傷害に係るもの |
7割未満 | 減額なし | 減額なし |
7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 | |
9割以上10割未満 | 5割減額 |
このように自賠責の場合は大きな過失が認められるとしても、一定の割合に限り減額されます。
そうすると、自身の過失が大きいときは、訴訟をするよりも先に自賠責保険を利用する方がより多くの賠償金を受けられることになります。
例えば、傷害慰謝料が100万円発生しているが、自身に過失が7割認められるおそれがある場合を考えてみましょう。
この場合、訴訟と自賠責では次のように受領できる金額が異なり、自賠責の方が多くの賠償金を受領することができることがわかります。
自身に7割の過失が認められる場合 | ||
---|---|---|
自賠責の場合 | 100万円 × 8割(2割過失相殺) = 80万円 | |
訴訟の場合 | 100万円 × 3割(7割過失相殺) = 30万円 |
注意が必要なのは、訴訟で過失割合が認定され、賠償額が確定してしまうと、自賠責保険はそれ以上の金額を支払わない点です。
そのため、訴訟で自身の過失割合が大きく認定される可能性が高い場合には、訴訟に優先して自賠責保険から保険金を受け取るべきです。
後遺障害で適正な賠償金を受け取るポイント
後遺障害に強い弁護士に相談する
後遺障害で適正な賠償金を受け取るポイントは、後遺障害に強い弁護士に相談することです。
その理由は、大きく3つあります。
後遺障害の申請についてアドバイス、サポートを受けることができる
交通事故は人生で何度も経験するものではありません。
被害者は、けがをして治療をしなければならず、日常生活にも大きな影響を受けますが、それだけではなく、保険会社との間でも情報弱者となってしまいます。
後遺障害についても同様で、被害者の方は、痛みや動きの制限、骨の変形などが残っても、どのような補償が受けられるのか、自分の症状は後遺障害になるかどうかなど、わからないことがたくさんあるのです。
そこで、交通事故を専門とする弁護士に相談することで、後遺障害のことについて、アドバイスを受けることができます。
その上で、後遺障害についての申請も必要書類の収集など、被害者が自分で行うことはとても大変な手続です。
そのため、弁護士に相談して、依頼をすれば、後遺障害の申請に向けた書類の準備や整理、後遺障害診断書の作成についてのアドバイス、サポートを受けることができます。
この点は、被害者の方にとって大きなメリットになります。
後遺障害の認定結果が妥当かどうかの確認ができる
また、すでに後遺障害の認定結果が出ているケースでは、弁護士に相談することで、その認定結果が妥当なものなのかどうか、専門家の視点からチェックしてもらうことができます。
チェックの結果、結論が変わる可能性があると判断できれば、先ほど紹介した後遺障害の再調査=異議申立てのサポートを受けることも可能です。
具体的には、異議申立て書の作成やその根拠となる資料の収集、分析を弁護士に行ってもらうことができます。
妥当な賠償金額についての把握ができる
さらに、後遺障害も含めて、今回のケースでどのくらいの賠償金が妥当な金額なのかについて、専門家である弁護士からアドバイスを受けることができます。
そのため、被害者自身が弁護士に相談することで、賠償金の目安を把握することができるという点も弁護士に相談することで得られる大きなメリットといえます。
どんな弁護士に相談したら良いか
それでは、実際に相談しようと思った場合にどんな弁護士に相談すればよいのでしょうか?
ポイントになる項目を4点ご紹介します。
①後遺障害についての専門性
後遺障害については、どのようなケースで何級が認定される可能性があるか、具体的なけがの診断名や症状といった医学的な知識も必要です。
そのため、弁護士であれば誰でも対応できるというものではなく、高い専門性が必要になります。
したがって、後遺障害についての相談をする場合には、交通事故を数多く取り扱っていて、後遺障害の申請、示談交渉の実績のある法律事務所、弁護士に相談すべきでしょう。
②被害者側の取扱い件数
交通事故については、主に被害者側と保険会社の側で依頼を受ける弁護士とに分かれます。
保険会社側の弁護士については、もちろん保険会社の立場で被害者側への支払いを少しでも抑えるように活動をします。
そのため、後遺障害の相談については、保険会社側の弁護士ではなく、被害者側の立場に立ってくれる弁護士に相談することがポイントになります。
被害者側の取扱い件数が多い法律事務所かどうかは弁護士選びのコツの一つになります。
③相談のし易さ(アクセス、対応時間、相談方法など)
事故で治療をしている場合などは特に、病院での通院に時間がかかります。
待ち時間も含めるとかなりの時間になってしまいます。
そのような中で日常生活を送って、弁護士への相談をするわけですので、相談のしやすさという点は被害者の方にとって大切なポイントになります。
相談のしやすさには、事務所の場所、対応している時間、オンラインや電話などでの相談ができるかといった相談方法といった点が挙げられます。
④実際に相談してみる
こうしたポイントを押さえて、実際に弁護士に相談をしてみるということが重要です。
ご自身が聞きたいことを適切に回答してくれるかやその弁護士の雰囲気、アドバイスの内容などを直接受けてみることで、その後の手続や保険会社との示談交渉をその弁護士に依頼するかどうかを決めるのがよいでしょう。
後遺障害と自賠責についてのQ&A
後遺障害9級の自賠責はいくらですか?
年収400万円42歳の会社員の場合、逸失利益の金額は2438万円になりますが、慰謝料と併せると限度額616万円を超えるため、全体で616万円のみを自賠責から受け取ることができます。
逸失利益の計算方法は次のとおりです。
後遺障害9級の場合労働能力喪失率は35%です。
また、就労可能年数は25年ですので、ライプニッツ係数は17.4131です。
以上のことから、逸失利益は次のように計算されます。
またこれらとは別途、後遺障害の診断がされるまでの期間の治療費等については、原則として、その実費を請求することができます。
後遺障害12級の自賠責はいくらですか?
また、これに加えて限度額までの範囲で、事故時の収入や年齢等に応じて逸失利益の支払を受けることができます。
年収400万円42歳の会社員の場合、逸失利益の金額は975万円になりますが、慰謝料と併せると限度額224万円を超えるため、全体で224万円のみを自賠責から受け取ることができます。
逸失利益の計算方法は次のとおりです。
後遺障害12級の場合労働能力喪失率は14%です。
また、就労可能年数は25年ですので、ライプニッツ係数は17.4131です。
以上のことから、逸失利益は次のように計算されます。
また、後遺障害の診断がされるまでの期間の治療費等については、原則として、その実費を請求することができます。
まとめ
この記事では、交通事故によって後遺障害を負った場合に自賠責保険からどのような補償を受けることができるのか、自賠責保険を利用する際の注意点などについて、ご紹介しました。
後遺障害を負ったときは、適切な後遺障害等級が認定されるかだけでなく、自賠責保険の制度をきちんと理解し、適切に利用していく必要があります。
しかし、自賠責保険の制度は複雑で、それに任意保険との関係もあいまって非常に理解が難しいもので、手続を誤ると損をしてしまう場合もあります。
そのため、交通事故に精通した専門家のサポートを受けながら、手続を進めていくことをお勧めいたします。
当事務所では、交通事故案件を日常的に取り扱う弁護士がご相談対応しております。
また、来所でのご相談、電話相談、オンライン相談(Zoom、LINE、Meet、フェイスタイム)も対応しており、全国対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
この記事が交通事故でお困りの方にとってお役に立てれば幸いです。