後遺障害の等級は誰が決める?仕組みやポイントを解説

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

交通事故で後遺障害が残った場合、後遺障害等級は誰が決めるのでしょうか?

結論としては、どのような手続きを行うかによって異なる3種類の認定機関があります。

その3種類の認定機関とは、①損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所、②自賠責保険・共済紛争処理機構、③裁判所です。

本記事では、交通事故の後遺障害等級の認定機関や後遺障害認定の基礎知識について、これまで多くの後遺障害申請を行った経験のある弁護士が解説いたします。

これから後遺障害申請を考えている方などは、本記事をご覧になれば、後遺障害申請についてのイメージを持っていただけると思います。

後遺障害等級は誰が決める?

冒頭でもご説明したとおり、後遺障害等級は誰が決めるかという問題については、どのような手続きを行うかによって3種類の認定機関があります。

3種類の認定機関とは、以下のとおりです。

後遺障害の認定機関
  1. ① 損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所
  2. ② 自賠責保険・共済紛争処理機構
  3. ③ 裁判所

 

①損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所

交通事故の後遺障害等級の認定機関として、最も一般的なのは、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所です。

後遺障害の申請は、任意保険会社が行う事前認定、被害者やその代理人弁護士が行う被害者請求を通じて、加害者の自賠責保険に申請が行われます。

そして、申請を受けた自賠責保険は、専門的機関である損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所というところに調査を依頼し、当該機関が調査を行って等級の判断をします。

自賠責保険に対して異議申立てがなされた時は、自賠責損害調査事務所の上位機関である地区本部あるいは機構本部で審査が行われます。

後遺障害申請について、詳しくは以下のページもご覧ください。

 

②自賠責保険・共済紛争処理機構

自賠責保険(自賠責調査損害調査事務所)の判断に納得がいかない場合には、自賠責保険・共済紛争処理機構(以下「紛争処理機構」といいます。)という機関に申立てをして後遺障害等級を吟味してもらうことも可能です。

紛争処理機構は、中立な立場の医師、弁護士、学識経験者などの紛争処理委員が後遺障害等級の判断を行います。

紛争処理機構の特徴としては、自賠責保険に提出した証拠をもとに判断を行うため、自賠責保険に提出していない新たな証拠を提出することはできません。

また、紛争処理機構は、申請が一度のみしかできないことに注意が必要です。

参考:一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構|自賠責保険・共済紛争処理機構

 

③裁判所

裁判所に訴訟を提起して、裁判所(裁判官)に後遺障害等級を決めてもらうこともできます。

もっとも、裁判所では、自賠責や紛争処理機構に認められた等級と異なる判断もすることもありますが、多くの事案では自賠責や紛争処理機構に認められた等級と同様の判断がされる傾向にあります。

そのため、訴訟提起までにできる限り納得のいく等級の認定をされていることが理想です。

 

ワンポイントアドバイス!〜結局どこの認定機関が一番いいの?〜

3種類の認定機関を説明しましたが、「結局どこの認定機関が一番被害者にとっていいの?」という疑問を持たれた方もいらっしゃると思います。

結論としては、ケースバイケースとしか言いようがありません。

もっとも、筆者は、時効の問題がない限りは、納得のいく等級が得られるまで全ての機関で等級の判断をしてもらうべきだと考えています。

すなわち、以下の手順で申請をしていくのが良いです。

認定機関への申請手順

筆者がこのような手順をお勧めする理由は、単純に等級の認定チャンスが多ければ多いほど被害者の納得のいく等級を得られる可能性が高まるといえるからです。

ただし、上記①〜③の自賠責保険と紛争処理機構では一度認定された等級を下回る等級が認定されることがありませんが、④の裁判では、自賠責保険や紛争処理機構で認定された等級を下回る認定がされることもあります。

例えば、自賠責保険で14級9号が認定されたが納得できず、上位等級である12級13号の獲得を目指して裁判所に訴訟提起をしたが、判決では14級9号の後遺障害すら残っていないと判断されるケースもあり得るということです。

したがって、訴訟提起には、状況によって後遺障害等級の不利益変更のリスクがありますので、訴訟提起をする前に専門家である弁護士にそのリスクがどのくらいあるか確認してもらうことが良いでしょう。

 

後遺障害等級を決めるのは主治医や相手方任意保険会社ではない?

よくある勘違いとして、「後遺障害等級を決めるのは主治医や相手方任意保険会社では?」とご質問を受けることがありますが、上記で解説したとおり、後遺障害等級を決めるのは自賠責損害調査事務所等です。

主治医は、後遺障害診断書を作成したり、被害者に残る後遺障害についての意見書を書いてくれたりするだけであって、後遺障害等級の判断者ではありません。

主治医の中には、「あなたの症状だと後遺障害等級として妥当なのは◯◯級ですね。」や、「今回のあなたの症状では後遺障害等級は認められないですね。」などとお話をされる方もいらっしゃいますが、これはあくまで当該主治医の意見に過ぎません。

また、相手方任意保険会社から自賠責損害調査事務所等で認定された等級に基づかない賠償提示をされることもありますが、これはあくまで相手方任意保険会社の認定された後遺障害等級に対する主張や反論であって、相手方任意保険会社が等級の判断者ではないのです。

そのため、主治医や相手方任意保険会社の後遺障害等級に関する発言は、参考程度に留めるようにしましょう。

 

 

後遺障害等級はどのように決まる?

後遺障害等級の認定の流れ

後遺障害等級の認定の流れ

以下、重要ポイントに絞って説明いたします。

 

症状固定まで通院

後遺障害申請をする前提として、主治医から症状固定と判断されるまで通院を継続する必要があります。

症状固定とは、症状の改善が見込まれない時期のことを指します。

症状固定は、ケガの程度や本人の回復具合によって異なってきますので、症状固定となっているかどうかは主治医に意見を聞くようにしてください。

 

主治医に後遺障害診断書を作成してもらう

症状固定時期になったら、後遺障害申請に必須のものである後遺障害診断書を主治医に作成してもらいます。

後遺障害診断書は定型の書式があり、残存している後遺障害の内容や自覚症状などを記載してもらうことになります。

 

その他必要書類・資料を揃えて後遺障害申請(被害者請求の場合)

被害者請求で後遺障害申請を行う場合、被害者自ら必要書類や資料を集める必要があります。

必要書類・資料の例としては、以下のようなものが挙げられます。

後遺障害申請に必要な書類・資料
  • 交通事故証明書
  • 事故発生状況報告書
  • 被害者の印鑑証明書
  • 診断書
  • 診療報酬明細書
  • 支払請求書
  • 後遺障害診断書
  • レントゲン・MRI・CTなどの画像データ

なお、事前認定の場合には、任意保険会社が必要書類・資料を集めてくれますが、最低限のものしか集めてくれないということがデメリットになります。

 

その他について

後遺障害申請の準備が整ったら、まずは自賠責保険に申請するのが基本です。

自賠責保険では、1〜3ヶ月ほど審査に時間がかかります。

審査が終わったら、後遺障害認定の結果が届きます。

その結果に納得がいく場合には、その等級を前提に相手方と賠償金の交渉に入ります。

逆に認定された等級に納得がいかない場合は、自賠責保険に異議申立てをしたり、その異議申立てでも等級が変わらなかった場合には、紛争処理機構に申立てをしたりします。

紛争処理機構でも結果が変わらず納得できない場合は、最終的に裁判所に訴訟提起をすることになります。

なお、裁判所に訴訟提起をすることについては、時効にかかっていない限り、いつでも行えます。

例えば、一度目の後遺障害の結果が望んでいたものと違っていたら、その後にすぐに訴訟提起をすることもできます。

もっとも、筆者としては、上記でも説明したとおり、後遺障害等級の認定チャンスは多い方が良いので、時間が許す限り、自賠責への異議申立てや紛争処理機構などの申請も行い、訴訟提起は最終手段にすべきかと考えています。

 

後遺障害等級の認定基準

後遺障害等級には、1級〜14級まで種類があります。

1級と2級は、さらに介護が必要な場合とそうでない場合で基準が分かれています。

また、各等級の中でも、症状が残った内容や部位によって、〇号という分類がされています(例:11級7号)。

各等級の認定基準がどのような内容かについては、下記のページで詳しく解説しておりますのでぜひご参照ください。

 

 

後遺障害の等級に納得がいかないときの対処法

後遺障害等級に納得がいかない時は、自賠責保険に対して異議申立て等を検討することになります。

異議申立て等をする際には、以下のような活動を行う必要があります。

後遺障害等級の結果通知を分析する

後遺障害の結果の判断は、書面で通知されます。

その書面には、どのような理由でその後遺障害等級の認定がされたか、あるいはなぜ後遺障害の認定されなかったかが記載されています。

異議申立て等を行う際は、まずはここに記載されている認定理由をよく分析することが重要です。

この結果通知をよく分析することによって、異議申立てをするにあたってどのような証拠を収集すべきかある程度わかってきます。

 

新たな証拠の収集

後遺障害の結果通知を分析したら、その分析結果に基づいて、新たな証拠の収集を試みます。

新たな証拠は事案によって様々です。

例えば、骨が明らかに変形しているにも関わらず変形障害が認められなかった場合は、変形した部分の裸体写真を撮影し、新たな証拠として提出する等です。

その他に考えられる新たな証拠としては、カルテ、医師の意見書、レントゲン・MRI・CTなど画像鑑定書、物損資料、刑事記録、被害者の陳述書などです。

 

なぜ認定された等級が妥当ではないか等を具体的に異議申立書に記載

異議申立てを行う際は、異議申立書を作成し、新たな証拠とともに自賠責保険に提出することになります。

異議申立書は、ただ単に被害者の不満や感情論を書いても意味がありません。

異議申立書には、自賠責保険の後遺障害等級基準の内容を念頭に置いて、なぜ今回認定された等級が妥当ではないと考えているか、本来どの等級が認定されるべきかなどを、新たな証拠の重要部分について触れながら記載することも重要であるといえます。

 

 

後遺障害等級認定のポイント

後遺障害等級は、申請すれば必ず認定されるものではありません。

そのため、後遺障害等級が認定されるために、一定の工夫や努力が必要です。

後遺障害等級認定のためのポイントとしては、以下のようなものが挙げられます。

後遺障害等級認定のポイント

 

①治療はしっかり行う

まずはできるだけ治療を行うことが重要といえます。

後遺障害の中には、例えばむちうちなどの捻挫系の怪我は、実通院日数も考慮されるものもあります。

また、一般論として、通院回数が多い程、その主治医は症状の変化などを長期間にわたって把握していたことになりますから、後遺障害診断書・意見書などの重要書類の記載内容も充実したものになることが期待できます。

 

②症状に応じて必要な検査を受けるようにする

病院において、症状に応じて必要な検査を受けることも大切です。

例えば、レントゲンで所見がない場合でも、MRIやCTでは何らかの所見がみられるケースもあります。

また、可動域制限(負傷部位の動かしにくさのこと)がある事案では、角度を測る検査などしてもらう必要があります。

必要な検査を受けてその結果が記載された診断書やカルテなどは、後の後遺障害申請証拠として認定を左右するものになり得ます。

 

③充実した内容の後遺障害診断書を提出する

後遺障害診断書は、後遺障害申請の際に必ず自賠責保険へ提出するものです。

そして、後遺障害診断書は、被害者の症状固定時点における被害者の後遺障害の内容を示すものですので、非常に重要な書類の一つです。

もっとも、医師に悪気はないとは思いますが、この後遺障害診断書の内容が薄いものをよく見かけます。

例えば、他覚症状の欄がほとんど記載されていなかったり、自覚症状の欄に被害者が訴えていた症状の記載がなかったりするというものです。

このように、後遺障害診断書の内容が薄い場合は、自賠責保険へ提出前であれば、医師に追記や修正をお願いするようにしましょう。

すでに自賠責保険へ提出し、異議申立て段階で後遺障害診断書に問題があることに気づいた場合は、追加で意見書等を作成してもらって補填するなどの方法も考えられます。

 

④申請はできるだけ被害者請求で行う

上記でも触れたとおり、後遺障害の申請には、保険会社が行う事前認定と、被害者側で行う被害者請求の2種類があります。

このうち、後遺障害認定のためにオススメの申請方法は、被害者請求です。

その理由としては、被害者請求は、申請に必ず必要な書類以外は、どのような書類を提出するかについて被害者側で選べるからです。

そのため、認定に有利になりそうな証拠を収集し、被害者請求で自賠責保険にその有利な証拠を提出すれば、認定の確率は上がるといえます。

 

⑤後遺障害に強い弁護士に相談する

後遺障害等級が認定されるために最も効果的だと考えられるのが、後遺障害に強い弁護士に相談することです。

交通事故の後遺障害に経験豊富な弁護士であれば、その事案に応じてどのような証拠を集めなければいけないか、異議申立て段階であればどのような異議申立書を作成すべきか等を熟知しているはずです。

また、弁護士に依頼をすれば、後遺障害申請を弁護士に任せられることも可能です。

なお、弁護士費用が気になる方もいらっしゃると思います。

もっとも、被害者が加入している保険で弁護士費用を使用すれば、弁護士費用を大幅に抑えることができます。

加えて、相談料が無料の法律事務所も多くありますので、まずは一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

 

後遺障害等級認定のQ&A

自賠責保険がないような事案(加害者が自転車や歩行者の場合)、後遺障害認定は誰が行いますか?

自賠責保険がないような事案の場合、等級の認定機関は裁判所ということになります。

自賠責保険のような等級認定機関がないようなケースでは、被害者の側で、「自賠責保険だったら何級を認定するはずだ」ということを証拠をもって立証していくことが重要になってきます。

交渉段階で加害者側が被害者の主張する等級をそのまま認めてくれれば問題ないのですが、認めない場合は裁判を提起して裁判官に判断してもらう必要があります。

 

労災で等級が認定されたら自賠責保険でも同じ等級が認定されますか?

労災と自賠責保険で等級の判断が異なる場合もあります。

自賠責保険での後遺障害等級の判断にあたっては、労災保険の等級認定の基準が準用されているため、等級内の号数の付け方や表記に若干の違いがあるものの、基本的には労災保険と同じ基準が用いられています。

もっとも、労災保険と自賠責保険は制度趣旨が異なるため、認定結果が異なることがあり得ます。

すなわち、労災保険では労働者の保護が重要視されるのに対し、自賠責保険は被害者の保護とともに適正公平な賠償ということも加味されているため、労災保険の方が被害者にとって有利な等級になりやすいという現象が起きます。

なお、労災保険の方が上位の後遺障害等級が認定された場合は、自賠責保険でも同じ等級がつく可能性があるということですので、必ず自賠責保険に対する異議申立ては検討すべきでしょう。

 

まとめ

  • 後遺障害等級の認定機関には、①損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所、②自賠責保険・共済紛争処理機構、③裁判所の3つの種類がある。
  • 後遺障害等級の認定の流れは、症状固定まで通院して後遺障害診断書を作成してもらい、その他必要書類などを集めて自賠責保険に申請し、等級が認定されるというものである。等級に納得がいかない場合は、自賠責保険に異議申立て、紛争処理機構に申立て、裁判所へ訴訟提起などを行っていく。
  • 後遺障害の等級に納得がいかないときの対処法は、①後遺障害等級の結果通知を分析する、②新たな証拠の収集、③なぜ認定された等級が妥当ではないか等を具体的に異議申立書に記載するなどが挙げられる。
  • 後遺障害等級認定のポイントは、①治療はしっかり行う、②症状に応じて必要な検査を受けるようにする、③充実した内容の後遺障害診断書を提出する、④申請はできるだけ被害者請求で行う、⑤後遺障害に強い弁護士に相談するなどが挙げられる。

デイライト法律事務所では、これまで多くの後遺障害申請に携わり、被害者救済に力を注いできました。

後遺障害等級に関してお困りの方はぜひ一度当事務所にご相談ください。

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