休業損害の先払いはできる?請求方法と注意点【弁護士が解説】
休業損害は、示談成立前に先払いを受けることができる場合があります。
休業損害の先払いを受ける方法には、以下のようなものがあります。
- ① 加害者側の保険会社に請求する
- ② 自賠責に仮渡金の請求をする
- ③ 自賠責に被害者請求をする
- ④ 仮払い仮処分の申立てをする
交通事故によるケガで仕事を休まなければならなくなると、その分収入が減ってしまいます。
この収入の減少を補償するのが、休業損害です。
現在の実務では、休業損害も、慰謝料などと同様に、損害賠償額全体についての示談が成立した後に支払われることが多くなっています。
しかし、これでは、休業が長引いてしまうと、生活に困窮してしまいます。
そのようなことになった場合は、休業損害の先払いを受けることを検討することになります。
今回は、休業損害の先払いを受ける方法、先払いを受けた場合のデメリット、注意点などについて解説していきます。
休業損害の先払いはできる?
休業損害は、実際に休業した後であれば、示談が成立する前に先払いを受けることが可能です。
休業損害は、交通事故によるケガで休業が必要となり、収入が減少している、という事態があればすぐに発生するので、示談の成立を待たずに先払いを受けることができるのです。
ただ、加害者側の保険会社は、こうした休業損害の先払いにすんなりと応じてくれるとは限りません。
休業損害の先払いする4つの方法
休業損害の先払いを受ける方法としては、以下のようなものがあります。
①加害者側の保険会社と交渉する
休業損害の先払いを受けたい場合は、まずは加害者側の保険会社と交渉してみましょう。
最初に、休業損害証明書などの必要書類を揃えます。
そして、加害者側の保険会社に、生活に困っていることなどを話し、書類を提出して、休業損害の先払いをしてほしいと申入れをし、交渉します。
交渉が上手くいけば、加害者側の保険会社から、損害賠償金の内払として、休業損害の先払いを受けることができます。
休業損害の先払いを受けられることになった場合は、必要に応じて、毎月、保険会社に、休業損害証明書など休業損害を証明する資料を提出することになります。
ただ、休業損害の先払いに関する交渉は、上手くいくとは限りません。
休業損害の場合、治療費とは違い、先払いを行う取り扱いが一般的にはなっていないのが実情です。
そのため、加害者側の保険会社から、休業損害の先払いを断られることも珍しくありません。
また、先払いを受けることができたとしても、必ずしも満足のいく金額をもらえるとは限りません。
休業損害の先払いを受けたい場合、加害者側の保険会社に先払いに応じてもらう必要があるため、金額については強気で交渉することができず、多少不満のある金額でも我慢せざるを得ないということが起こってきます。
ただし、「休業損害については先払い分以上請求しない」という内容の合意をしたのでない限り、先払いで十分な休業損害を得られなかった場合は、最終的な示談交渉で差額分を請求することが可能です。
②自賠責に仮渡金を請求する
自動車損害賠償保障法(自賠責法)は、被害者に対して仮渡金(かりわたしきん)を支払う制度を設けています(同法17条)。
この制度を利用すれば、最終的な損害賠償金額が定まっていない時期(示談成立前)や休業損害証明書など休業損害を請求するのに必要な書類が揃っていない時期にも一定の金額を受け取ることができます(ただし、仮渡金は、最終的な損害賠償額から差し引かれます)。
仮渡金は、加害者から何の示談金も受領していないことが条件です。
仮渡金の金額は、以下のとおりとなっています(自動車損害賠償保障法施行令5条)。
- 被害者が死亡した場合 290万円
- 傷害を受けた者 傷害の程度によって5万円~40万円
仮渡金の支払いを求めるときは、以下の書類を提出します。
- ① 仮渡金支払請求書
- ② 交通事故証明書
- ③ 事故発生状況報告書
- ④ 医師の診断書又は死体検案書(死亡診断書)
- ⑤ 印鑑証明書
- ⑥ 事故発生状況報告書
これらの書類については、以下のページで詳しく解説しています。
(被害者に対する仮渡金)
第十七条 保有者が、責任保険の契約に係る自動車の運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、政令で定める金額を第十六条第一項の規定による損害賠償額の支払のための仮渡金として支払うべきことを請求することができる。
③自賠責への被害者請求を行う
自賠責へは、②仮渡金を請求するだけでなく、被害者請求をすることもできます。
被害者請求も、仮渡金の請求と同様、示談成立前に行うことができるため、休業損害の先払いを受けたい場合に利用することができます。
受け取ることができる金額も、仮渡金の請求の場合は死亡事故以外では最大40万円ですが、被害者請求であれば、より多い金額を受け取ることができます。
ただし、被害者請求にも上限額があります。
被害者請求の場合、傷害による損害(休業損害、入通院慰謝料、積極損害(治療関係費等))の合計額は120万円が上限とされています。
また、自賠責に休業損害を請求する場合、1日当たりの休業損害の額は原則6100円とされてしまいます。
立証資料等により休業損害が上記の額を超えることが明らかな場合には、休業損害が増額されますが、その場合でも1日1万9000円が上限となります。
加えて、後ほど詳しくご説明するとおり、被害者請求を行うと、加害者側の保険会社が行っていた治療費の一括対応が打ち切られてしまう可能性があります。
そのため、一括対応が取られている場合には、被害者請求をする際に慎重な検討が必要になります。
被害者請求をする場合は、一度、交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
自賠責から支払われる休業損害について、詳しくは、以下のページをご覧ください。
被害者請求については、以下のページで詳しく解説しています。
当事務所でご提供している被害者請求サポートについては、以下のページをご覧ください。
④仮払い仮処分の申立てをする
自賠責への請求を行わない場合は、裁判所に仮払い仮処分の申立てを行うことが考えられます。
訴訟を提起すれば被害者が勝訴する可能性が高く、かつ、損害賠償金が早く支払われないと被害者が生活に困窮する、といった場合に、仮払い仮処分の申立てが認められます。
申立てが認められれば、裁判所から、加害者に対し、損害賠償(休業損害を含む)の仮払い(先払い)を命じる仮処分命令が出されます。
ただ、仮払いを命じる仮処分は、訴訟などで最終的な結論が出る前に行う処分なので、裁判所も発令するかどうかを慎重に判断しますから、申立てをしたからといって必ず認められるわけではありません。
仮払い仮処分を申し立てる場合、早期に賠償金を得られないと生活に支障を来すこと、裁判で勝訴する可能性があることなどについての資料を準備しなければなりません。
仮払い仮処分の申立ての場合、こうした資料を準備する際も手続きをする際も、専門的な知識が必要ですので、弁護士に依頼することが多いです。
休業損害の先払いをするデメリット
最終的な損害賠償から差し引かれる
上の①~④の方法で休業損害の先払いとして支払われた金額は、最終的な損害賠償額から差し引かれます。
そのため、損害賠償額が過失相殺などによって減額された場合、示談成立後に受け取れる金額が思いのほか少なくなってしまう場合があります。
遅延損害金が請求できなくなる
裁判で損害賠償金を請求する場合、事故日からの遅延損害金(支払いが遅れたことによる損害。年3%。2020年3月31日以前に発生した事故については年5%)も合わせて請求します。
しかし、休業損害の先払いを受けていると、その分については、遅延損害金を請求することができません。
ただ、示談をする場合は、遅延損害金まで請求することは多くありません。
多くのケースは示談や和解で決着がつきますので、遅延損害金を請求できないことは、それほど大きなデメリットと捉える必要はないかと思われます。
交通事故での遅延損害金については、以下のページもご参照ください。
手間がかかる
休業損害の先払いを受けるためには、一定の手間がかかります。
被害者請求や仮払金の請求をするためには、自賠責への請求のために必要な書類を整えなければなりません。
裁判所に仮払い仮処分の申立てをするとなると、書類の準備や手続はより煩雑になります。
最も手間がかからないのは加害者側の保険会社に請求する方法ですが、その場合でも、最初に交通事故証明書などの必要書類を準備する必要がありますし、先払いが始まった後も、必要であれば、毎月、休業損害証明書等の資料を準備し、提出する必要があります。
被害者請求をすると治療費の一括対応を打ち切られることがある
休業損害の先払いを受けるために自賠責への被害者請求を行うと、加害者側の保険会社が行っていた治療費の一括対応(治療費の肩代わり)が打ち切られることがあります。
そのため、休業損害は受け取れるようになったけれども、病院の窓口での治療費負担が増してしまった、ということになる可能性があります。
もちろん、交通事故によるケガの治療のために必要だった治療費は、後から加害者側に損害賠償として請求することができます。
しかし、一括対応が終了すると、その時点での金銭負担は増してしまいますので、「生活が苦しくなっているから」、と、休業損害の先払いを受けたにもかかわらず、期待したほど経済状態が改善しない、ということにもなり得ます。
休業損害の先払いの注意点
先払いが受けられるとは限らない
休業損害の先払いは、自賠責への仮渡金の請求・被害者請求を除くと、必ずしも受けられるとは限らないことを知っておきましょう。
加害者側の保険会社が先払いに応じてくれるかどうかは、双方の過失割合やケガ・休業の状況にもよりますし、保険会社ごとの対応方針の違いも影響してきます。
仮払い仮処分の申立ても、必ずしも認められるとは限りません。
自分の保険が使えないかも検討する
交通事故の場合、被害者やその家族が自動車保険の人身傷害保険や搭乗者保険に加入していると、ご自身や家族の保険から保険金を受け取ることができる可能性があります。
この保険金を請求するのであれば、必要な書類も少なくて済みます。
「生活が苦しいから休業損害の先払いを受けたい」と思われる場合には、ご自身やご家族の保険から保険金を受け取れないかも確認してみましょう。
休業補償と重ねて受け取ることはできない
交通事故が労災に当たる場合、労災保険から休業補償の支払いを受けることができます。
しかし、休業補償は、特別支給金と合わせても事故前の収入の8割までしか受け取ることができません。
そのため、より多くの生活費を得るために休業損害の先払いを請求したい、ということもあります。
ただし、休業補償は、休業損害を受け取っている場合は受け取ることができませんので、注意が必要です(収入の2割に当たる特別支給金は、休業損害と関係なく受け取ることができます。)
休業損害証明書は勤務先で作成してもらう
会社員などの給与所得者の場合、休業損害を請求する際には、勤務先に休業損害証明書を作成してもらいます。
この休業損害証明書は、必ず勤務先で作成してもらってください。
勤務先に頼みにくい、断られてしまった、などということがあって自分で作成してしまうと、相手方の保険会社との関係がこじれ、その後の交渉が難しくなりかねません。
休業損害証明書の作成を勤務先の会社から断られた場合の対応方法については、以下のページをご覧ください。
交通事故に強い弁護士に相談する
休業損害の先払いを受けようとすると、加害者側の保険会社との交渉が必要になったり、自賠責への仮渡金請求・被害者請求の手続、裁判所への申立て手続が必要になったりします。
ケガをして治療中の被害者の方にとって、こうした手続きをご自身で行うことは、大変大きな負担になります。
交通事故の被害に遭われた場合は、なるべく早く、交通事故に強い弁護士に相談してください。
交通事故に強い弁護士であれば、休業損害の先払いを受ける方法についてもアドバイスしてくれますし、交渉等を依頼すれば、加害者側の保険会社との話し合いの窓口にもなってくれます。
それに、慰謝料などを含む損害賠償金についての示談交渉も弁護士に担当してもらえば、被害者にとって最も有利な弁護士基準による算定額により近い示談金を獲得することができるようになってきます。
交通事故について弁護士に相談するメリットについては、以下のページでも詳しく解説しています。
休業損害の先払いについてのQ&A
休業損害は毎月請求できますか?
その場合、休業損害証明書など休業損害について証明する書類を毎月提出することになる場合があります。
まとめ
今回は、休業損害の先払いについて解説しました。
交通事故で大きなケガをしてしまうと、仕事を休む必要が出てくるなど、経済的にも大きな負担が生じる場合があります。
苦しい状況を改善するためには、休業損害の先払いを受けるといった対応を取る必要がある場合もあります。
しかし、こうした対応を取るには、書類を準備する、デメリットが生じることがないか確認する、手続きや交渉を行う、など、多大な労力を要します。
こうした負担を軽くするためにも、交通事故に遭われた場合は、なるべく早く弁護士に相談してください。
そうすることで、ご自身は、ケガでの治療や生活の立て直しに力を注ぐことができるようになります。
当事務所でも、交通事故に精通した人身傷害部の弁護士たちが、皆様を強力にサポートしております。
弁護士費用特約を利用したご依頼にも対応しております。
交通事故でお困りの方は、ぜひ一度、当事務所までお気軽にご連絡ください。