休業損害に通院日数が影響する?休業日数の数え方を弁護士が解説
通院日数は、ほとんどの場合、休業損害に直接的には影響しません。
ただし、自賠責に自営業・個人事業主、主婦の方が休業損害を請求する場合には、通院日数 = 休業日数とされることが多いため、通院日数が休業損害に影響を与えます。
また、通院日以外にも休業した場合、休業する必要性を立証する必要がありますが、その際、通院日数も判断資料とされることがあります。
休業損害は、交通事故によるケガの治療のために働けない期間の生活を支える大切なものですので、休業損害に関する正しい知識を身に付けるのは重要なことです。
今回は、休業損害と通院日数の関係、休業日数の数え方、休業損害の計算方法について解説します。
休業損害に通院日数が影響する?
弁護士基準では、休業損害に通院日数は直接的には影響しません。
入通院しておらず自宅で療養していた場合でも、医師の指示があった場合など休業する必要性があれば、休業損害が認められる可能性があります。
ただし、入通院していない期間について休業損害を請求する場合は、診断書、カルテ、画像、医師の意見書等の資料が必要となることがあります。
また、自賠責基準で休業損害を請求する場合、原則として治療実日数(入通院日数) = 休業日数とされるため、通院日数が休業損害に影響します。
休業損害の計算方法・休業日数の数え方とは?
休業損害等の交通事故での損害賠償を算定する基準には、以下の3つがあります。
- 自賠責基準(自賠責保険からの賠償金の支払時に用いられる基準)
- 任意保険基準(任意保険会社が内部的に定めている支払い基準)
- 弁護士基準(弁護士が示談交渉などの際に使っている基準。裁判基準ともいう。)
多くの場合、被害者に最も有利な算定結果を導くのは、弁護士(裁判)基準となります。
弁護士基準による休業損害の計算式は、以下のとおりとなります。
1日当たりの基礎収入、休業日数の求め方は、被害者の職業によって異なってきます。
給与所得者の場合、1日当たりの基礎収入は、事故前直近3か月の平均賃金を基礎に算定されます。
「事故前直近3か月の平均賃金」は、手取額ではなく、税金や社会保険料などが控除される前の税込み収入を用いて計算します。
このようにして1日当たりの基礎収入を計算するのですが、よく問題になるのが、事故前直近3か月間の給与額の合計を、①90日で割るのか、②実働日数で割るのか、という点です。
3か月間の実働日数は、多くの場合60~80日程度ですので、②の方法で計算する方が1日当たりの基礎収入額は高くなります。
弁護士基準では、
- 休業日が連続している場合(土日も含めて休業日を計算している場合)は、①90日で割る
- 休業日が連続していない場合(本来勤務日である日に会社を休んだ日だけを休業日としている場合)は、②実働日数で割る
といったように、場面によって①②の方法を使い分けています。
休業日数は、実際に休業した日数になります。
休業した日数は、勤務先の会社に作成してもらう休業損害証明書に記載してもらいます。
なお、有給休暇を利用した日数も、休業日数に含まれます。
サラリーマンの休業損害の算定方法については、以下のページで詳しく解説しています。
自営業・個人事業主の基礎収入は、事故前年の確定申告所得額に、休業中も支払わざるを得ない固定経費(店舗家賃、リース料、従業員の給与、光熱費、税金、損害保険料など)を加算した金額によって算定することが基本となります。
なお、「所得額」には、青色申告控除や専従者控除など、税金上の優遇措置を利用している部分を加算することが可能です。
自営業等の場合、会社員と違い、事故前直近3か月の収入ではなく、事故前年の収入から基礎収入を求めることが多いです。
年度によって収入額に大きな変動がある場合は、事故前数年分の平均値によることもあります。
なお、自営業者の場合、「夫婦で自営業を営んでいる場合はどうなるか」「確定申告と実際の所得額が異なる場合はどうするのか」など、会社員と比べると、基礎収入を計算する際に問題が生じることが多いです。
休業した日数は、会社員と違い、明らかにすることが難しい場合も多いです。
そこで、自営業者・個人事業主の場合、弁護士基準では、入通院期間や通院日数を参考に休業日数を求めることになります(自賠責基準では、休業日数=治療実日数(入通院日数)となることが多いです。)。
こうした休業日数の求め方については、次の家事従事者(専業主婦・兼業主婦)のケースの項でご説明します。
自営業者の休業損害を計算する方法については、以下のページでも様々なケースを取り上げて解説しています。
主婦(主夫)のような家事従事者にも、休業損害が支払われます。
専業主婦(主夫)の場合は、賃金センサスの女性労働者の全年齢平均賃金が基礎収入とされます。
兼業主婦(主夫)の場合は、賃金センサスの平均賃金と現実の収入額を比較し、高い方を基に基礎収入を算定します。
家事従事者の場合、家の中でする仕事なので、休業したかどうかが明確にならず、休業期間がどの程度であったか問題となりやすいです。
自賠責基準では、主婦の場合、休業日数 = 治療実日数(入通院日数)とされることが多いです。
この場合については、入通院日数が休業損害に影響を与えるといえます。
ただ、同じ主婦の休業損害の算定でも、弁護士基準では、入通院日数による計算が行われる場合もありますが、通院期間による計算が行われる場合もあります。
ケガの程度によっては、通院していない時間も家事を行うことが難しいと考えられるからです。
つまり、通院期間が100日、その間の通院日数が50日だった場合に、通院期間100日全部を休業日数として認める場合があるのです。
通院期間全体が休業日数と認められるか否かは、ケガの状況、実際に表れている症状、ケガによる家事への支障の具体的な状況などによって変わってきます。
そのため、主婦(主夫)が休業損害を請求する場合には、ケガの状況やそれによる家事への影響を書き記した日記があると役に立ちます。
ただ、通院期間全体が休業期間と認められる場合でも、通院期間中の初めの頃については100%の休業損害を認めても、その後、80%、50%・・・と割合的に休業損害を計算することが多くなっています。
なお、弁護士基準での休業日数に関するこのような考え方は、自営業・個人事業主の場合にも用いられています。
主婦の休業損害の計算方法について、詳しくは以下のページをご覧ください。
無職・失業者の場合、原則として休業損害は支払われません。
ただし、休業期間中に実際に働く予定があった場合や就業の蓋然性があった場合(内定があった場合など)は、休業損害が支払われます。
この場合、基礎収入は、内定が得られている場合は内定先の賃金とされることが多いです。
内定などがない場合は、賃金センサスの年齢別平均等を参考に、それを下回った額で算定されることが多いです。
休業期間の始期は、働き始めたであろうと想定される時からとなるケース、事故直後からとするケースなど、事情により様々です。
休業期間の終期については、症状固定時とするものが多いですが、再就職した日の前日までとするものもあります。
無職の方の休業損害についてのより詳しい説明は、以下のページをご覧ください。
学生の場合、休んでも収入が減少することはないので、基本的には、休業損害は発生しません。
ただし、アルバイトをしていた場合は、給与所得者(会社員・アルバイトなど)のケースでご説明した扱いとなります。
また、ケガのために留年した、就職活動が行えなかった等により就職に遅れが生じた場合、本来であれば就職して働いていたであろう期間に得られたはずの収入が休業損害と認められることが多いです。
この場合、賃金センサスの同学歴・同年代の平均賃金を基に基礎収入が定められることが多いですが、事情によっては、賃金センサスを下回る金額になる場合や内定先から提示されていた給与額を参考とする場合などもあります。
会社役員の場合は、会社の実情、報酬の性質などにより、休業損害の考え方に違いがあります。
個人事業と同視できるような会社の場合には、会社役員の休業損害は、自営業・個人事業主と同じように計算します。
それ以外の場合には、まず、実際に報酬が減額されているかが問題となります。
休業中も報酬が減額されていない場合には、休業損害は認められないことがほとんどです。
報酬が減額された場合でも、会社の利益配当として支払われている報酬については休業損害の対象とはなりません。
他方、労務提供の対価として報酬が支払われている場合には、減額があれば休業損害の対象となります。
会社役員の休業損害については、以下のページでも詳しく解説しています。
休業損害に通院日数が影響するケース
上でご説明したとおり、弁護士基準で休業損害を算定する際の休業日数は、通院日数のみに限られるものではありません(自賠責に自営業・個人事業主、主婦が休業損害を請求する場合には、通院日数=休業日数とされることが多いです。)。
ただ、通院していない期間については、仕事を休む必要があったことを立証することができなければ、休業損害の対象となりません。
仕事を休む必要があったかの判断に際しては、傷害の程度、状態が問題となってきます。
傷害の程度、状態の判断に用いられる資料としては、診断書、カルテ、画像、日記などがありますが、これに加え、通院状況も考慮に入れられる可能性があります。
例えば、医師からは月2回の通院を指示されているにもかかわらず、月1回程度しか通院していない場合、通院できなかった事情がないようであれば、受傷の程度、状況は軽いものとみられてしまうおそれがあります。
そのような見方をされてしまうと、自宅療養していたとしても、「自宅療養が必要なほどの重大なケガではないのではないか」と疑われ、休業損害の支払いを受けられなくなることがあり得ます。
逆に、通院日数が多すぎる場合、「そこまでの通院は必要なかった」として、通院に伴って休業した場合でも、一部の休業損害が支払われなくなる可能性があります。
休業損害の注意点
休業損害証明書は勤務先に作成してもらう
会社員などの給与所得者が休業損害を請求する場合、休業損害証明書が重要になります。
休業損害証明書は、勤務先に作成してもらう必要がありますので、総務、人事などの担当者を探し、依頼するようにしましょう。
ただ、場合によっては、会社に休業損害証明書の作成を嫌がられることもあります。
そのような場合、「自分で作成して保険会社に提出すればよいか」と思ってしまうかもしれません。
しかし、休業損害証明書を自分で作成してしまうと、保険会社から、「勤務先に作成してもらうべき休業損害証明書を自分で書いてしまうとは、怪しい」と思われ、休業損害証明書の信憑性を疑われてしまいます。
休業損害証明書は、必ず勤務先に作成してもらいましょう。
どうしても作成してもらえない場合には、弁護士に相談し、何とか会社に作成してもらう方法、又は、他の資料で休業損害について立証する方法について、アドバイスをもらうようにしましょう。
休業損害証明書に虚偽の記載をしない
休業損害証明書には、虚偽の記載(休業日数の水増しなど)をしてはいけません。
虚偽の記載をした休業損害証明書を提出して本来もらえる額よりも多くの休業損害を得ようとしたことが保険会社にバレてしまった場合には、信用を失ってしまい、その後の交渉が大変難しいものになります。
最悪の場合、詐欺罪に問われることもあります。
加害者側の保険会社からの示談案を鵜呑みにしない
示談交渉では、加害者側の保険会社から示談案が提示されることが多くあります。
被害者の中には、この示談案について、「交通事故に詳しい保険会社が言うことなのだから、適切な内容になっているのだろう」と考えて、鵜呑みにしてしまう方もおられます。
しかし、加害者側の保険会社は、あくまで自分たちの利益を守ることを考えて交渉を行っていますので、実は、被害者に不利な内容の示談案を提示してくることも多いです。
実際、被害者にとって最も有利な弁護士基準からみると、保険会社から提示された示談案の額は適正額の半分以下、ということも少なくありません。
示談案を提示された際には、そのまま了承してしまわず、弁護士基準での相場を調べたり、弁護士に相談してみたりしましょう。
当事務所では、手軽に損害賠償額の相場をご覧いただける交通事故賠償金計算シミュレーターを無料でご提供しております。
結果はその場で確認できます。
個人情報を入力する必要もなく、後日当事務所から連絡することもございません。
ぜひ一度、どうぞお気軽にお試しください。
先払いを断られた場合は被害者請求を検討する
休業損害の支払いは、最終的に示談が成立した時になることが多いです。
ただ、示談成立後でなければ受け取れないと決まっているわけではありません。
休業期間が長くなり生活費が苦しくなるなど、休業損害の先払いを受けたい場合には、示談成立前から休業損害の先払いを受けることも可能です。
ただ、場合によっては、加害者側の保険会社から休業損害の先払いを断られることもあります。
そのような場合には、自賠責への被害者請求なども検討しましょう。
自賠責への被害者請求を行えば、示談成立前・治療継続中でも、休業損害を得ることができます。
ただし、自賠責へ請求した場合、加害者側の保険会社に治療費の一括対応(保険会社が病院に直接治療費を支払う対応)を終了されることがありますので、事前に十分検討しましょう。
休業損害の先払い、自賠責から支払われる休業損害については、以下のページをご覧ください。
交通事故に強い弁護士に相談する
交通事故による休業損害については、なるべく早く交通事故に強い弁護士に相談することをお勧めします。
交通事故に強い弁護士であれば、どのような資料を揃えれば十分な額の休業損害を請求できるか、加害者側の保険会社から提示された示談案は妥当か、といったことについて適切なアドバイスをしてくれます。
弁護士に示談交渉を依頼すれば、保険会社との交渉の窓口を弁護士に頼むこともでき、ご自身は生活の立て直しや治療に専念することができます。
交通事故に遭った場合に弁護士に依頼することの重要性、交通事故に強い弁護士の探し方については、以下のページをご覧ください。
まとめ
今回は、休業損害と通院日数の関係、各種のケースでの休業損害の計算方法、休業損害を請求する際の注意点などについて解説しました。
十分な休業損害を得るためには、保険会社の提示額をそのまま受け入れるのではなく、休業損害の相場を知る、ケガの状況等についての具体的な主張・立証をする、といった対処が必要です。
こうした対処を一般の方が全て行うのは大変なことですので、交通事故に遭った場合は、早めに交通事故に強い弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所では、人身傷害部を設け、同部に所属する弁護士が交通事故について豊富な経験・知識を得られる環境を整え、被害者の方々に充実したサポートを提供できる体制を築いております。
交通事故の被害に遭われた方は、ぜひ一度、当事務所までお気軽にお問い合わせください。