休業損害はいつもらえる?請求方法について弁護士が解説
休業損害は、事故によるケガで休業した後から請求することができます。
多くの場合は、休業損害、慰謝料、治療費などを含む損害賠償金全体についての示談が成立した後(又は判決が出された後)に、支払いが行われます。
ただ、休業損害は、日々の生活を支える収入が交通事故によるケガのせいで減少した場合の補償なので、示談成立後まで支払いを待っていると、生活に困窮してしまう場合もあります。
そのような場合には、休業損害の先払い(内払い)を受けることも可能です。
ただし、休業損害の先払いを受けるかどうか考える際には、どこに請求するか(加害者側の任意保険会社か自賠責か)など、考えなければならない点もあります。
今回は、休業損害をいつもらえるのか、保険会社ごとの支払時期、休業損害を請求する際の流れ、必要となる書類、注意点などについて解説していきます。
休業損害はいつもらえる?
休業損害がもらえるのは、多くの場合、慰謝料、治療費などを含めた賠償金全体の金額が定まった時です。
加害者側の保険会社との間で示談が成立した場合には、示談成立後に休業損害を含めた賠償金がもらえます。
示談が成立せず裁判などになった場合は、裁判手続きなどで賠償金の金額が定まった後に、賠償金が支払われます。
ただ、治療のための休業が長期にわたっている場合など、収入が減って生活が苦しくなっているような場合には、実際に休業した後であれば、休業損害の先払いを受けることも可能です。
休業損害の先払いは、加害者側の保険会社が対応してくれることもあります。
しかし、加害者側の保険会社は、休業損害の先払いに応じないこともあります。
その場合には、自賠責に被害者請求をすることを検討することになります。
休業損害の先払いについては、以下のページで詳しく解説しています。
保険会社ごとの支払時期の傾向
休業損害を含めた賠償金の支払時期は、保険会社によってバラバラです。
支払いまでに1か月近くかかる保険会社もあれば、1週間以内に支払ってくれる保険会社もあるなど様々です。
いくつかの保険会社の例をご紹介します。
損保ジャパンの場合、請求に必要な手続きをした日から、その日を含めて30日以内に支払いが行われます。
ただし、確認を要する事項が発生した場合は、支払いまでの期間が延長されることがあります。
その場合は、「確認に必要な事項」及び「確認を終えるべき時期」が通知され、調査終了後遅滞なく支払いが行われます。
東京海上日動の場合、原則として、必要書類の全てが保険会社に到着した日の翌営業日から、その日を含めて5営業日以内に支払いが行われます。
ただし、書類が不足している場合や記入漏れ等の不備がある場合には、さらに日数がかかります。
また、請求内容によっては追加確認が必要となる場合があります。
その場合は、請求書の到着後、保険会社から連絡があります。
参考:保険金・給付金を受け取るまで|東京海上日動あんしん生命
三井住友海上あいおい生命の場合、必要書類が保険会社又は代理店に到着した日の翌営業日から、その日を含めて5営業日以内に支払いが行われます。
インターネットで請求した場合は、手続き完了した日の翌営業日から、その日を含めて5営業日以内に支払いがあります。
ただし、必要書類に不備があった場合や、治療経緯などの確認が必要な場合など、特に時間を要する場合は、上記の期間内に支払われるとは限りません。
休業損害の請求方法とは?
休業損害の請求の流れ
加害者側の保険会社に請求する場合
休業損害を加害者側の保険会社(任意保険)に請求する場合の流れは、以下のようになります。
休業損害を請求することができるのは、実際に休業してからです。
「全治〇か月」などとの診断を受けても、実際に休業するまでは休業損害は発生しません。
休業損害を請求する際には、休業損害証明書、確定申告書の写しなど必要書類を準備します。
必要書類は、被害者の職業などによって違ってきます。
詳しくは、次の項でご説明します。
資料が準備できたら、加害者側の保険会社に提出し、休業損害の支払いを求めて示談交渉を行います。
休業損害も他の損害賠償(慰謝料など)とまとめて受け取る場合には、損害賠償全体についての示談交渉を行い、休業損害、慰謝料などの各費目の金額を交渉します。
休業損害のみを先に請求する場合は、休業損害のみについて交渉します。
示談交渉で合意することができなければ、訴訟を提起し、裁判で決着をつけます。
休業損害の先払いを受けたいだけの場合は、裁判所に、仮払い仮処分の申立てをすることが考えられます。
自賠責に被害者請求をする場合
休業損害については、加害者の自賠責保険に被害者請求をすることもできます。
この場合の手続きの流れは、以下のようになります。
休業損害について被害者請求を利用することが多いのは、以下のような場合です。
- ① 加害者が任意保険(自動車保険)に入っていない
- ② 加害者側の保険会社から休業損害の先払いを断られた
- ③ 被害者請求によって後遺障害認定の申請を行う
自賠責であれば、被害者請求をすれば休業損害の先払いに応じてくれる(上限額あり。)ため、②の場合に被害者請求を利用する方も多くおられます。
ただし、②の場合、加害者側の保険会社の方で治療費の一括対応(保険会社が病院に直接治療費を支払う対応)が取られている場合には、被害者請求をすることで、一括対応が終了してしまう、ということがあります。
そのため、②の理由で被害者請求をする場合は、弁護士に相談するなどして、事前に十分検討する必要があります。
また、自賠責から支払われる休業損害は、次にご説明するとおり、加害者側の保険会社や裁判などとは異なる基準で計算されるので、そのことにも注意が必要です。
自賠責による休業損害の計算方法、上限額などについての説明は、以下のページでも掲載しております。
休業損害の算定基準について
示談交渉や裁判の際には、損害賠償金を算定するための算定基準が用いられます。
この算定基準には、以下の3種類のものがあります。
- 弁護士基準(裁判基準)(弁護士が関与した示談交渉や裁判所で用いられる基準)
- 任意保険基準(任意保険会社が各社の内部で定めている基準)
- 自賠責基準(自賠責から支払われる賠償金を算定する際に用いられる基準)
これらの基準の中では、弁護士基準(裁判基準)が、被害者にとって最も有利なものになることが多いです。
弁護士基準の場合、休業損害は、基礎収入×休業日数の計算式で算出します。
基礎収入の額には、特に上限はありません。
基礎収入の定め方は、被害者の職業によって異なってきます。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
自賠責基準で算定された賠償金額は、ほとんどの場合、3つの基準の中で最も低額になります。
ただし、休業損害については、例外的に、自賠責基準で算定した方が、弁護士基準で算定するより有利になる場合があります。
自賠責基準の場合、休業損害の額は、原則として1日6100円とされていますので、6100円 × 休業日数の計算式で算定します。
そのため、実際の1日当たりの基礎収入が6100円を下回る場合には、休業損害に限っていえば、弁護士基準よりも自賠責基準の方が有利になるのです。
なお、立証資料等により、実際の収入が1日につき6,100円を超えることが明らかな場合には、実際の収入額で休業損害を算定してもらうことができます(上限額は1日1万9000円)。
任意保険基準による算定額は自賠責基準と同等以上になりますが、弁護士基準によるほどの金額とはならないことがほとんどです。
必要な書類
休業損害を請求するために必要な書類は、被害者の職業ごとに異なります。
それぞれの職業での必要書類について、簡単に解説します。
給与所得者の場合
給与所得者(会社員、アルバイト、派遣社員など)の場合は、会社に作成してもらった休業損害証明書が重要になります(派遣社員の場合は、派遣元の会社に作成してもらいます)。
さらに、休業損害証明書に加え、事故前年の源泉徴収票が必要になります。
源泉徴収票を失くしてしまった場合は、住所地の市町村で所得証明書を発行してもらえば、源泉徴収票の代わりになります。
「入社して間もないため、同じ会社での事故前年の源泉徴収票がない」という場合は、雇用契約書や労働条件通知書などを提出することもできます。
雇用契約ではなく業務委託契約を結んで働いている場合には、自営業者と同じ扱いにありますので、確定申告書の写しや支払調書・明細書を提出しましょう。
給与所得者の休業損害の計算方法については、以下のページをご覧ください。
自営業者の場合
自営業者の場合は、確定申告書の写し、支払調書・明細書などが必要になります。
自営業者の方は、休業損害を計算する際、会社員よりも多くの注意点があります。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
主婦(主夫)の場合
専業主婦(主夫)の場合は、賃金センサスという統計を用いて休業損害を計算するため、基礎収入算定のために定型的に必要となる書類はありません。
ただ、専業主婦(主夫)の場合、家の中での仕事であるため、休業していたかどうか、休業を要する状態だったかが分かりにくく、加害者側の保険会社から、休業損害の支払いに難色を示されることが多くあります。
そこで、専業主婦(主夫)の場合は、ケガによる日々の症状、それによる家事への支障の具体的な状況(腰が痛いために洗濯物が干せない、長時間立っていられない、など)を書き記した日記を準備することをお勧めしております。
休業損害を請求する際にこうした日記を提出すれば、休業を要する状態であったことを明確にすることができます。
また、休業が必要となったために家事代行などを利用した場合は、その領収証等も提出します。
そうすると、場合によっては、これらの費用も休業損害の一部として認められる可能性があります。
交通事故の賠償の基準が記載されている「赤い本」には、兼業主婦の場合は、仕事による収入と賃金センサスを比較し、高い方の収入を基礎収入として、休業損害を算定するとされています。
もっとも、賃金センサスよりも高額な収入を得ている場合には、家事従事者ではないと主張され主婦休損の支払いを拒絶される可能性があります。
また、兼業主婦の場合、週5で働いているようなケースでは家事従事者ではないと争われたり、仕事の欠勤がない場合には、家事にも支障が出ていないとして主婦休損を争われる可能性があります。
さまざまな職業における休業損害の計算方法、適切な休業損害を獲得するためのポイントについては、以下のページをご覧ください。
休業損害の支払時期についての注意点
保険会社ごとに支払時期が異なる
上でもご説明したとおり、実際に休業損害などの賠償金が支払われるまでにかかる期間は、保険会社ごとに色々です。
保険会社のHPを確認するなどして、賠償金を受け取れる時期の目安を把握しておきましょう。
保険会社(任意保険)からの先払いは受けられるとは限らない
休業損害の先払いを受けたいとき、一般的にはまず、加害者側の保険会社(任意保険)に請求します。
しかし、加害者側の保険会社は、こうした請求に必ず対応してくれるわけではありません。
保険会社は、「休業損害の先払いに応じていると、過失相殺などをした後の最終的な損害賠償額を超える金額を支払ってしまうことになりかねない」「休業期間が必要以上に長いのではないか」などと懸念し、休業損害の先払いを断ってくることがあります。
加害者側の任意保険会社から休業損害の先払いを断られた場合は、被害者請求をするなどの対応を行います。
被害者請求にも注意点がある
自賠責に被害者請求を行えば、休業損害の先払いを受けることが可能です。
ただし、自賠責の場合、傷害に関する賠償金(休業損害、入通院慰謝料、治療関係費等の積極損害)は、合計で、被害者1人当たり120万円までしか支払われません。
休業損害の額も、原則的に1日当たり6100円とされており、最高でも1日当たり1万9000円までとされています。
また、上でもご説明しましたが、加害者側の保険会社から治療費について一括対応が取られている場合に被害者請求をすると、一括対応を打ち切られてしまうことがありますので、注意が必要です。
自賠責から支払われる休業損害については、以下のページでもご説明しております。
交通事故に強い弁護士に相談する
上でご説明したような様々な注意点に気を付けつつ、適正な額の休業損害を請求することは、被害者の方だけでは大変です。
交通事故の被害に遭った場合は、なるべく早く交通事故に強い弁護士に相談し、アドバイスをもらうようにしましょう。
弁護士に示談交渉も依頼すれば、被害者の方は治療や生活の立て直しに専念することができ、負担が大きく軽減されます。
それに、弁護士が示談交渉を行えば、被害者に最も有利な弁護士基準により近い額の賠償金を得られる可能性が高くなります。
交通事故については早めに弁護士に相談すべきである理由などについては、以下のページで詳しく解説しています。
まとめ
今回は、休業損害がいつもらえるか、主要な保険会社の支払時期、休業損害の請求をする際の手順、必要書類、注意点などについて解説しました。
休業損害は、多くの場合は示談成立後に支払われますが、先払いを受けることもできます。
ケガによる休業で収入が減り、生活が苦しくなってくるような場合には、休業損害の先払いを請求することを検討することになるでしょう。
ただ、休業損害の先払いは、スムーズに受け取れるとは限らないと知っておく必要があります。
休業中の生活、休業損害に関して困ったことがあるときは、交通事故に強い弁護士に相談してみましょう。
交通事故に強い弁護士であれば、休業損害の受け取り方についても適切なアドバイスをしてくれるはずです。
当事務所でも、交通事故の案件を集中的に扱っている人身傷害部に所属する弁護士が、被害者の皆さまを全力でサポートしております。
交通事故に関する法律相談は、初回無料となっております。
交通事故被害に遭ってお困りの方は、ぜひ一度、当事務所までお気軽にご相談ください。