示談交渉とは?流れ・注意点やテクニック|弁護士が解説
示談交渉とは、問題が発生した場合に、裁判所などの機関を介さずに解決するべく、当事者間で話し合うことを言います。
交通事故が起こった場合、ほとんどのケースで示談交渉が行われます。
こうした示談交渉をスムーズに成功に導くためには、抑えるべきポイント、注意点などがあります。
一つ間違えると、相手方との間でトラブルになり、示談交渉が難しくなってしまう可能性もあります。
今回は、示談交渉の流れ、示談交渉で気を付けるべきポイントなどについて解説し、示談交渉のテクニックなどもご紹介していきます。
目次
示談交渉とは?
示談交渉とは、トラブルが発生した際に、裁判所などの機関は通さず、合意によって解決することを目指して当事者間で話し合うことをいいます。
示談交渉は、取引上のトラブル、職場でのトラブル、医療ミスなど、様々な場面で行われており、交通事故の場合にもよく行われます。
今回は、交通事故の場合の示談交渉を中心に解説をしていきます。
示談交渉の流れ
交通事故の場合、示談交渉の流れは以下の図のようになります。
示談の申し入れ
まずは、どちらかの当事者から示談の申入れをすることにより、示談交渉が始まります。
交通事故の場合、加害者が加入している任意保険会社から「示談により解決したい」との申入れがあるのが一般的です。
示談交渉が本格的に始まる時期は、以下のようになります。
- 被害者が死亡している場合:四十九日が過ぎてから
- 後遺障害が残る場合:後遺障害等級確定後
- 後遺障害がない傷害事故:ケガが治癒又は症状固定した時以降
- 物損事故の場合:修理見積完成後
示談交渉にかかる期間は、被害金額、当事者間での争いの有無によって変わります。
短い場合だと1か月~2か月程度で決着することもありますが、長い場合だと3か月以上を要することもあります。
示談交渉の始まる時期、解決までにかかる期間についての詳細は、以下のページをご参照ください。
加害者側からの示談案の提示
交通事故では、まずは、加害者側の任意保険会社から示談案を提示されることが一般的です。
示談案には、示談金の額と内訳、示談金の算定根拠などが示されています。
被害者側での検討・対案の提示
示談案を受け取った被害者側は、弁護士に相談するなどして内容を検討します。
そして、示談案で納得のいかないところや、変更・追加してほしい点について、加害者側の保険会社に伝え、今度は加害者側で検討してもらいます。
こうして、何度かお互いの案を示し合い、話し合いをすることで、示談交渉を進めていきます。
なお、示談交渉で気をつけることでもご説明しますが、加害者側の保険会社から最初に提案される示談金の額は、被害者にとって最善なものとはなっておらず、低額に抑えられていることが少なくありません。
示談案を提示された場合は、交通事故に詳しい弁護士に見てもらい、内容が妥当なものなのかについてアドバイスをもらうようにしましょう。
示談成立又は訴訟提起など
示談交渉を重ね、お互いに納得できる内容となれば、示談が成立します。
示談の際には、加害者側の保険会社から示談書(タイトルは「免責証書」「承諾書」とされていることが多い)が送られてきて、それにサインをすることになります(物損のみの場合には、示談書を作成しないこともあります。)。
示談書にサインをしてしまうと、後から「内容に誤解があった」「追加で請求したい」と思っても、修正することはほぼ不可能になってしまいます。
示談書の内容が適切なものとなっているか、思い違いはないか、といった点を確かめるためにも、示談書にサインする前には、弁護士に相談することを強くお勧めします。
示談交渉を重ねても合意ができないようであれば、示談交渉を終了させ、裁判などを起こすことになります。
裁判を起こす場合は、多くの方が弁護士に依頼しています。
弁護士に依頼すれば、弁護士が訴状を作成して裁判所に提出し、訴訟を提起してくれます。
裁判になった場合の流れについては、以下のページをご覧ください。
示談交渉で気をつけること
加害者側の保険会社からの示談提案は低額な場合が多い
上でもご紹介したとおり、加害者側の保険会社から出される示談案は、示談金額が低く抑えられていることが多いです。
これは、保険会社の示談案が、保険会社の内部基準(任意保険基準)によって算定されているためです。
交通事故の損害賠償を算定する際に用いられる基準としては、以下の3つの算定基準があり、それぞれ場面によって使い分けられています。
- 自賠責基準(自賠責からの賠償額を算定する際に用いられる)
- 任意保険基準(任意保険会社が各社の内部で定めており、示談案の算定の際などに用いられる)
- 弁護士基準(弁護士が示談交渉を行う場合に用いられる。裁判になった場合にも用いられるので、「裁判基準」とも呼ばれる。)
これらの基準のうち、最も算定額が高額となり、被害者に有利なのが、「弁護士基準」です。
任意保険基準で算定した金額は、自賠責基準によるものよりは高額ですが、弁護士基準に比べると低額になることがほとんどです。
そのため、任意保険基準で算定した示談案の金額は、被害者にとっては不利なものとなっているのです。
示談金は被害者とご家族のその後の生活を支える大切なものなので、できる限り適正な金額を主張し、獲得する必要があります。
そのためには、被害者自ら弁護士に依頼し、弁護士基準で算定した示談金を請求していくことが必要です。
損害賠償額の算定基準については、以下のページでより詳しく解説しています。
示談書にサインしてしまうと、取り返しがつかない
相手方の保険会社から提示された示談書にサインをしてしまうと、「示談契約」が成立したことになります。
そうすると、その後は、示談の内容を見直したり、追加の請求をしたりすることは、ほぼ不可能になります。
示談書が送られてきた場合は、サインをする前に、一度弁護士に相談し、内容が適切なものかどうかアドバイスを受けましょう。
示談交渉のテクニック
示談交渉を成功させるためのテクニックとしては、次のようなものがあります。
①トラブルの原因となることはしない
示談交渉には、トラブルになりやすいポイントがあります。
例えば、事故直後に必要な検査を受けていない、保険会社に連絡しないままに整骨院に通う、通院が途切れがちになり治療期間に空白ができる、といったことがあると、トラブルが生じがちになります。
示談交渉時にトラブルになると、示談交渉に時間がかかったり、場合によっては十分な示談金を受け取れなくなったりしてしまいます。
他にもトラブルにつながりやすい点は色々ありますので、弁護士にアドバイスを求めるなどして、トラブルの火種を作らないように注意しましょう。
②冷静に筋を通して話をする
交通事故の示談交渉の相手は、交渉に慣れた保険会社の社員になります。
そのため、感情にまかせて強く迫るなどしても、譲歩を引き出すことはできません。
示談交渉を成功させるためには、筋道を立てて冷静に話をしましょう。
③時には譲歩も必要
示談交渉をしていると、相手がどうしても譲歩してくれない場合があります。
このようなときには、示談の条件全体を見渡し、譲歩が得られない点にこだわり訴訟を起こすか、諦めて自分の側で譲歩をするか、を考えなければなりません。
示談は、全体的な条件を見て考えるものです。
そのため、「こちらの点では不満があり、裁判をしても自分の主張が通るかもしれないけれども、別の点では相手が大きく譲っており、裁判をするとむしろこちらが不利になりかねない」という場合には、争いとなっている点について譲歩し、示談をまとめた方が有利なこともあります。
④弁護士に相談・依頼する
示談交渉をする場合は、弁護士に相談・依頼して行うことをお勧めします。
示談交渉には、どのような点が示談交渉の際のトラブルになるか、どの程度の示談金額が妥当かなど、交通事故に関する専門知識が必要になります。
加えて、被害者にとって最も有利な弁護士基準により算定した示談金を獲得するためにも、弁護士に依頼して示談交渉を任せることが必要になります。
そのため、示談交渉は、弁護士に依頼して進める方が有利になることが多いです。
特に、示談交渉の弁護士費用でもご説明するとおり、ご自身又はご家族の任意保険で弁護士費用特約に加入している場合は、費用のことを気にせず、弁護士に依頼することが可能です。
交通事故に遭った場合は、一度任意保険契約の内容を見直し、弁護士特約の有無を確かめてみましょう。
示談交渉は自分でも可能?
示談交渉は、ご自身で行うことも可能です。
ただし、ご自身で示談交渉を行う場合には、以下のようなデメリットがあることに注意する必要があります。
労力や時間を取られる
慣れない方にとって、示談交渉は、思いのほか、労力や時間を取られます。
示談交渉で不利にならないためには、
- どのようにしたら自分の状況や主張を相手方に納得させることができるか
- 相手方の主張は妥当なものなのか
- どの程度の示談金を請求することが適切か
- 過失割合についてはどう考えたらよいか
など、一般の方にはなじみのない問題について調査・検討する必要があります。
必要な資料なども、自分で全て揃えなければなりません。
そのため、示談交渉は、一般の方にとって、大きな労力、時間を要するものになっています。
保険会社の社員は、示談交渉に慣れている
示談交渉の相手方となる保険会社の社員は、仕事上、交通事故の示談交渉を数多く手がけており、知識も経験も豊富です。
そのため、示談交渉に不慣れな一般の方では、保険会社の社員を相手に、十分に自分の主張を通すことは難しいです。
場合によっては、保険会社の社員に言いくるめられてしまい、不利な条件で示談させられてしまうこともあり得ます。
弁護士基準で算定した額を得ることは難しい
交通事故の損害賠償は、弁護士基準で算定すると、被害者にとって最も有利になります。
しかし、弁護士基準は、内容が専門的なものであるため、弁護士が示談交渉をする場合か裁判になった場合に用いられるものとなっています。
当事者本人が弁護士基準を参照して示談金を請求しても、相手方は、多くの場合、応じてはくれません。
そのため、当事者が自分で示談交渉をした場合、弁護士基準で算定した賠償額を得ることは難しくなります。
示談書の書き方に注意が必要
示談書は、「示談契約」に関する契約書ですので、法律的に適切な形の文章にしなければなりません。
法律的に間違いのない形で、誤解を生まないよう明確に合意内容を記載するためには、雛形や記載例を調べるなど、十分な注意を払って示談書の文面を作成する必要があり、手間がかかります。
しかも、それだけの手間をかけたとしても、専門家でなければ、個別のケースの事情を十分に反映した合意書を作れるとは限りません。
保険会社が示談書の文面を作成した場合でも、ご自身だけで確認していては、思わぬ内容が盛り込まれていても気づかずに過ごしてしまうおそれがあります。
ご自身で示談交渉をしている場合も、示談書にサインする前には、一度弁護士に相談し、内容を確認してもらいましょう。
交通事故の示談書の書式と書き方
上でもご説明したとおり、法律の専門家でない方が示談書を作成する際には、雛形を参照しつつ、必要なチェックポイントを押さえていくことが大切です。
そこで、当事務所では、交通事故の示談書のテンプレートを無料でご提供し、示談書作成時の注意点、条項例についても具体的にご説明したページを設けました。
ご自身で示談書を作成する際には、ぜひご活用ください。
ただ、このページを参照して示談書を作成した場合でも、それぞれのケースの個別の事情まで十分に反映できたものにはならない可能性があります(特に、一度示談した後にも追加の請求をすることが予定されている場合には、慎重な対応が必要です。)。
ご自身で示談書を作成された場合は、ぜひ一度、弁護士に相談して、適切な示談書になっているかどうか確認してもらってください。
示談交渉の弁護士費用
一般的に、交通事故の示談交渉の弁護士費用は、以下のようになっています。
- 法律相談料(法律相談の際に支払うもの):30分5500円~
- 着手金(弁護士に示談交渉を依頼する際に支払うもの):数十万円程度~
- 報酬金(示談が成立した後に支払うもの):得られた経済的利益の10%程度~
(上の弁護士費用は一般的な例であり、法律事務所のなかには、着手金は無料として報酬金を高めに設定するところ、報酬金を弁護士が費やした時間によって決める方式(タイムチャージ制)と取るところなどもあります。)
このように、弁護士に依頼をするには、本来であれば、数十万円以上の費用を要します。
しかし、交通事故の場合、ご自身又はご家族が弁護士費用特約に加入していれば、保険会社が弁護士費用のほとんどを負担してくれます(契約ごとに上限額があります。)。
そのため、交通事故に関しては、自己負担なく弁護士に依頼をしている方が数多くおられます。
交通事故に遭われた場合には、一度ご自身とご家族が加入している保険を確認し、弁護士費用特約に加入していないか調べてみましょう。
示談交渉を成功させるポイント
自分でも示談金の適正額を把握しておく
示談交渉を成功させるには、自分で示談金を算定し、適正額を把握しておくことが大切です。
自分で示談金の目安を把握していないと、相手方からの提案に引きずられ、低い金額で納得させられてしまう可能性があります。
示談金の算定に際しては、当事務所の交通事故賠償金計算シミュレーターをご活用ください。
事故前の収入、ご年齢、後遺障害等級等を入力するだけで、簡単に、慰謝料、逸失利益、休業損害の目安をご覧いただくことができます。
シミュレーターのご利用に際しては、ご連絡先等の個人情報をご入力いただく必要はなく、後日当事務所からご連絡することもございません。
ご関心がおありの方は、以下のリンクから、どうぞお気軽にお試しください。
示談の提案を受けたら、弁護士にアドバイスを求める
加害者側の保険会社から提案された示談案は、被害者にとっては不利なものであることが往々にしてあります。
加害者側の保険会社から示談の提案を受けたら、一度、弁護士に相談してみましょう。
そうすれば、保険会社の提案が妥当なものとなっているか、弁護士基準で損害賠償額を算定するとどのようになるのか、といったことについて、アドバイスをもらうことができます。
示談書はよく確認してサインする
上でもご説明したとおり、示談書は、一度サインしてしまうと、覆すことはほぼ不可能になってしまいます。
示談書にサインをする前には、弁護士に相談して確認してもらい、内容に問題がないことをよく確かめましょう。
専門の弁護士に相談する
示談交渉については、早いうちから専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
これまで見てきたとおり、示談交渉には数々の気を付けるべきポイント、準備すべき事項などがあり、法律の専門家でない方が行うには負担の大きいものになります。
しかも、その負担に耐えて示談交渉を自分で進めても、弁護士に依頼しなければ、被害者にとって最も有利な弁護士基準での賠償金を得ることは非常に難しいのが実情です。
保険会社の示談代行サービスもありますが、これを利用した場合も、弁護士基準による示談金を得ることはほぼ不可能です。
示談交渉を行う場合には、交通事故に精通した弁護士に相談し、対応を依頼することをお勧めします。
交通事故を弁護士に依頼するメリット、交通事故に強い弁護士の探し方については、以下のページで詳しく解説しています。
示談交渉についてのQ&A
示談金は自由に決められますか?
しかし、最終的な示談金は、相手方の同意が必要となりますので、自由に決めることはできません。
また、あまりに高額な示談金を請求したり、根拠のない金額を提示したりしてしまうと、相手方との信頼関係が悪化し、その後の示談交渉に悪影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。
示談を拒否するメリットは?
賠償金額についても、裁判に持ち込めば、被害者にとって最も有利な弁護士基準(裁判基準)で算定してもらえます。
そのため、相手方が低い金額での示談に固執する場合や、過失割合や損害額の算定方法などについて折り合いがつかない場合には、裁判所で判定してもらうため、示談交渉を拒否し、裁判を起こすことがあります。
ただ、裁判をするとなると、時間や労力などを取られますし、思い通りの判決を得ることができるとも限りません。
示談を拒否するかどうかは、弁護士とも相談し、慎重に検討しましょう。
まとめ
示談交渉を有利に進めるには、法律的な専門知識が必要です。
知識のないままに交渉に臨むと、保険会社が提示してくる、「被害者にとって有利とはいえない内容での示談」を、よくわからないままに受け入れてしまうことになりかねません。
示談金・賠償金は、その後のご自身やご家族の生活を支える大切なものですので、示談交渉もできるだけ有利に進められることが望ましいです。
交通事故の被害に遭われた場合は、早いうちから交通事故に詳しい弁護士に相談し、示談交渉を依頼するようにしましょう。
そうすれば、被害者にとっても最も有利な弁護士基準により算定した金額に、より近い示談金を得られる可能性が高くなります。
当事務所でも、交通事故事件を集中的に取り扱う人身障害部を設け、事故によるケガでお困りの方のご相談をお受けしております。
電話・オンラインによる全国からのご相談も受け付けております。
お困りの方はぜひ一度、当事務所まで、お気軽にご連絡ください。