過失相殺とは?計算方法や注意点をわかりやすく解説
過失相殺は、事故が発生したこと・損害が拡大したことについて、加害者だけでなく被害者にも過失があった場合に、被害者の過失も考慮に入れ、加害者の支払う損害賠償額を調整する、というものです。
過失相殺を行う割合を、過失割合といいます。
過失割合は、「8対2」「95対5」などのように表します。
過失相殺の割合は、損害賠償額に大きな影響を及ぼす重要な問題です。
今回は、過失相殺・過失割合の意味、根拠条文、損益相殺との違い、過失相殺の具体例、過失相殺の割合の決め方、過失相殺に納得がいかない場合の対処法などについて解説していきます。
過失相殺とは?
過失相殺の意味や読み方
過失相殺(読み方は「かしつそうさい」)とは、事故の発生や損害の拡大に被害者の過失も寄与していた場合には、被害者の過失も考えて、損害賠償額を決める、ということをいいます。
例えば、交通事故の場合、双方の当事者に前方不注意等の過失があった、ということは珍しくありません。
このような場合には、それぞれの当事者に損害の全額を賠償させるのではなく、各当事者の過失の割合に応じてそれぞれの損害賠償額を減額します。
これが、過失相殺です。
過失割合とは?
過失割合とは、事故が起こったことについての落ち度の割合です。
過失割合は、通常、全体を10又は100とし、「Aに80%の落ち度があり、Bに20%の落ち度がある」という場合には、「AとBの過失割合は8対2」などと表します。
Aの落ち度が65%、Bの落ち度が35%の場合は、「65対35」となります。
なお、過失割合は、通常、上のとおり、両者の過失割合を足すと10又は100となるように定めます。
しかし、場合によっては、9対0などといった過失割合で合意することもあります(片側賠償)。
片側賠償については、以下のページをご覧ください。
過失相殺の計算例
過失相殺の計算に関する具体例を挙げると、次のようになります。
具体例① AとBの過失割合が3対7だった場合
Aが運転する自動車とBが運転する自動車が衝突した。
各当事者が被った損害額、過失割合は以下のとおりであった。
- Aの損害額:100万円
- Bの損害額:500万円
- AとBの過失割合:3対7
Aが請求できる損害賠償額 100万円 ×(10 − 3)= 70万円
Bが請求できる損害賠償額 500万円 ×(10 − 7)= 150万円
一方、同じ損害額で、過失割合がA:4対B:6であった場合、損害賠償額は以下のようになります。
- Aの損害額:100万円
- Bの損害額:500万円
- AとBの過失割合:4対6
Aが請求できる損害賠償額 100万円×(10 − 4)= 60万円
Bが請求できる損害賠償額 500万円×(10 − 6)= 200万円
このように、過失割合が少し変わっただけで、Aにとっては、請求できる損害賠償額が10万円減り、支払わなければならない損害賠償額が50万円増えて、合計60万円の損失となりました。
これを見ると、過失相殺の割合が損害賠償額に大きな影響を与えることが分かります。
双方の損害額が大きくなればなるほど、過失相殺の割合が変化することによる賠償額への影響は大きくなります。
過失相殺と損益相殺との違い
損益相殺は、被害者が損害を被った際に同じ原因によって利益も受けた場合、損害と利益の間に同質性がある限り、損害額から利益額を差し引いて損害賠償額を定めるというものです。
自動車事故の場合、被害者が得た社会保険給付、保険金などの一部が、損益相殺により損害賠償額から控除されることがあります。
損益相殺で控除される給付・控除されない給付の詳細は、以下のページをご覧ください。
このように、損益相殺は、被害者の過失とは関係なく、被害者が得た利益に着目して行われます。
これに対し、過失相殺は、被害者に過失がある場合に、その過失の程度に着目して行われます。
過失相殺の根拠とは?
民法の条文
交通事故のような不法行為における過失相殺については、民法722条2項に規定があります。
民法第722条
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索
この条文を根拠に、交通事故での過失相殺が行われています。
過失相殺の目的〜なぜ過失相殺をするのか〜
過失相殺をする目的は、公平性を担保することにあります。
過失のある被害者が加害者に対して生じた損害の全額について賠償請求できることとすると、「被害者にも過失があったのに公平でない」ということになりますので、過失相殺を行い、請求できる損害賠償額を少なくするのです。
過失相殺の具体例
過失相殺の割合について判断した裁判例には、次のようなものがあります。
判例
制限速度を約20㎞上回る速度で車両を走行させた上、遠方を見ていたために事故直前まで相手方車両を発見できなかった運転者の過失を9割、自損事故を起こし、車線の大部分をふさぐ形で車を停車させていて、夜間であるにも関わらず駐車灯や非常点滅等を点灯させておらず、発炎筒や三角停止板の設置等の後続車両への警告措置を行ってもいなかった当事者の過失を1割とした事例
信号のある交差点で、青色信号で交差点に直進して進入した車両と、右方から赤信号で交差点に進入したパトカー(赤色灯は点灯させていたが、サイレンは鳴らしていなかった)が出会い頭で衝突した事故で、車両側の過失をゼロ、パトカー側の過失を10とした事例
携帯電話を操作しながら対向方向から歩いてきていた歩行者と、歩道を走行して歩行者の直前を左折した自転車が衝突した事案で、自転車の過失割合を9、歩行者の過失割合を1とした事例
丁字路において、一時停止規制のある道路から交差点に進入しようとした自動車(タクシー)と、これと交差する優先道路を直進していた自転車が、交差点内で衝突した事故について、自動車(タクシー)の過失割合を9、自転車の過失割合を1とした事例(さいたま地判平成23年1月26日・裁判所HP)
過失相殺の決め方
過失割合の基準
過失相殺は、実務上、東京地裁民事交通訴訟研究会編「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」(別冊判例タイムズ38号)(以下では「別冊判例タイムズ」といいます。)に定められた基準を参考に決められています。
この本では、当事者の走行方法(歩行者、自転車、単車、車)や事故状況によって事故を類型化し、それぞれについて、基本となる過失割合と過失割合の修正要素を定めています。
過失割合の決め方
過失割合を決めていく手順は、以下のようになります。
事故態様の確定
まず、起こった交通事故の状況を調べ、事故態様を確定します。
たとえば、赤信号無視による事故だったのか、追突事故か、追い越し中の事故か、など、事故状況を調べて、どの類型の事故に当たるのかを判断していきます。
事故態様の確定に関しては、次のようなことに注意しましょう。
ドライブレコーダーの画像は、事故の状況を直接的に示す大変重要な証拠です。
交通事故が起きてしまった場合には、データが消えてしまわないよう、確実に画像を保存しておきましょう。
ドライブレコーダーの機種によっては、その後運転を続けていると、いつの間にかデータが上書きされ、事故時の画像が消えてしまうおそれがありますので、なるべく早く画像を自分のパソコンなどに保存しておくようにしましょう。
事故直後の車の状態は、警察でも写真を撮りますが、自分でも写真に撮っておきましょう。
車両の壊れ方からだけでも、事故の態様をうかがい知ることができる場合も多くあります。
また、警察に写真を撮ってもらう際には、気になる箇所を指摘し、その部分について漏らさず写真に撮ってもらうようにしましょう。
現場を目撃した人がいる場合、可能であれば、名前や電話番号、LINEなどの連絡先を聞いておけるとよいです。
後々事故態様について争いが生じた場合に話を聞くことができると、有利になる可能性があります。
事故状況を映した防犯カメラがあれば、その映像は重要な証拠になり得ます。
周辺の防犯カメラの有無を確認し、見つけたら、警察に依頼して、映像を確認してもらうようにしましょう。
交通事故が起きた場合、警察に通報し、警察官に現場に臨場してもらうことになります。
その時警察官から事故状況に関する聴き取りがありますので、その際には、自分の主張をはっきりと伝えるようにしましょう。
事故直後で混乱していたり、ショックを受けていたりすることもあるかもしれませんが、安易に「警察官や相手がそういっているならそうなのだろう」などと、警察官や相手方の主張を受け入れたようなことを言ってしまうと、そうした発言が実況見分調書や捜査報告書、供述調書などの捜査資料に残ってしまうおそれがあります。
そうすると、場合によっては、その後「実はあの事故の時このようなことがあった」と主張しても、取り上げてもらえず、自分に不利な内容を前提とした捜査が進み、覆せなくなってしまうかもしれません。
警察官からの聴き取りには、時間がかかっても良いので、しっかりと自分の主張を伝えるようにしましょう。
どうしてもすぐに思い出せないこと、話せないことについては、「今はショックで思い出せず、上手く話せないので、後日改めてお話しする」などと伝えるようにしましょう。
事故態様について確認する際には、実況見分調書を入手します。
実況見分調書には、各当事者の説明に加え、事故現場の状況、道幅、一時停止・一方通行などの交通規制の有無なども記載されますので、事故態様の確認の際に役立ちます。
実況見分調書は、実況見分を行った警察署・検察庁に連絡して、閲覧・謄写して入手します。
任意保険に加入し、保険会社に示談交渉への対応を任せている場合は、保険会社の方で入手していることもありますので、まずはそちらに問い合わせてみましょう。
事故類型の確認
事故の態様が分かったら、別冊判例タイムズに定められたどの事故類型に当たるのかを確認します。
事故類型が確定できれば、基本となる過失割合を確定することができます。
ただ、完全に一致する事故類型がない場合もあります。
その場合には、最も近い事故類型を探し、その基本過失割合を参考にすることになります。
修正要素の有無の確認
事故類型を確定することができたら、過失割合の修正要素がないかを確認します。
修正要素としては、例えば、
- 片側の車両が明らかに先に交差点に入っていた
- 徐行が必要なのにしていなかった
- 著しい過失(脇見運転、酒気帯び運転、おおむね15㎞以上30㎞未満の速度違反など)
- 重過失(居眠り運転、酒酔い運転、無免許運転、30㎞以上の速度違反など)
などがあります。
他にも、一方が大型車両であった場合、被害者が幼児・児童や老人であった場合など、当事者の属性による修正もあります。
なお、何が修正要素となるかは事故類型によって異なるため、上に挙げた事項も、事故類型によっては修正要素とならない場合がありますのでご注意ください。
過失割合の決定
修正要素も確定することができたら、別冊判例タイムズの基準を参照しながら過失割合を決定します。
そして、相手方も自分の立場から過失割合について検討し、算定していますので、双方の考えを突き合わせて、示談交渉において、お互いが合意できる過失割合を定めます。
過失割合について合意することができなければ、裁判を提起する、又は、ADR、調停などを申し立てることになります。
過失相殺対応の交通事故の慰謝料計算機
交通事故の被害に遭った場合、損害賠償として慰謝料、休業損害、逸失利益などを請求することができます。
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過失相殺がおかしい!納得がいかないときの対処法
交通事故に詳しい弁護士に相談する
自分で過失割合について一応の結論を得ていても、示談交渉において、相手方からおかしな過失割合を主張されることがあります。
保険会社に示談交渉を代行してもらっている場合には、保険会社から納得のいかない過失割合を提示されることもあるでしょう。
このような場合には、納得のいかないままに、「相手が折れてくれないから仕方ない」「保険会社が言っているからそうなのだろう」などと考えて了承してしまわず、一度、交通事故問題に詳しい弁護士にご相談下さい。
弁護士に相談すれば、資料などを検討し、裁判になった場合にどうなるかの見通しも考えながら、どのような割合で過失相殺するのが適当かについてアドバイスをしてくれます。
さらに、弁護士に示談交渉を依頼すれば、証拠に基づいて主張を組み立て、相手方や保険会社と交渉してくれます。
示談書に一度サインをしてしまうと、示談契約が成立してしまうため、仮に過失割合などの内容が不当なものだったとしても、もはや内容を変更することがほとんど不可能になってしまいます。
示談書にサインするよりも前に、ぜひ一度、弁護士までご相談ください。
なお、交通事故の場合、ご自身又はご家族の任意保険で弁護士費用特約に入っている方が多く、自己負担なしで弁護士に相談・依頼できるケースが多くなっています。
交通事故に遭われた場合は、一度、利用できる弁護士費用特約の有無を確認することをお勧めします。
裁判、調停、ADRなどの法的手続を行う
弁護士に相談する以外の方法としては、裁判、調停、ADR等を利用することが考えられます。
これらの手続を利用すれば、中立の立場の専門家(裁判官、調停委員など)が、客観的な立場から、過失相殺の割合を定めたりアドバイスしてくれたりします。
ただし、これらの機関はあくまでも中立の機関ですので、申立て等をした側の立場に立った判断をしてくれるわけではなく、逆に、相手側の主張が認められる場合もありますのでご注意ください。
過失相殺の割合に納得がいかない場合の対処法については、以下のページも参考になります。
まとめ
今回は、過失相殺・過失割合について解説しました。
過失相殺は、損害賠償額に大きな影響を及ぼす重大な問題です。
場合によっては、過失割合が7対3となるか6対4となるかといった小さく見える違いでも、損害賠償額に数百万円を超える違いが出ることもあります。
過失割合について納得いかない場合には、一度、交通事故に注力している弁護士に相談してみましょう。
保険会社から提示された過失割合に特に疑問がない場合でも、妥当なものとなっているかの確認のため、一度は弁護士にご相談されることをお勧めします。
当事務所では、交通事故を集中的に取り扱う交通事故チームを設け、交通事故問題でお困りの方のサポートに力を注いでおります。
電話又はオンラインによる全国対応も行っております。
過失割合についてお困りの方はぜひ一度、当事務所までお気軽にご連絡ください。