自転車「逆走」とは?罰則や事故時のリスクも解説
自転車の「逆走」とは、自転車が道路の左側を走行せず、右側を走ってしまうことです。
一部の道路を除いて、自転車は、「車両」として、道路の左側を通行することが義務付けられています。
これに違反すると、3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられる可能性もあります。
その上、自転車で「逆走」していて事故を起こしてしまうと、過失割合が加重され、損害賠償に関して不利になってしまいます。
今回の記事では、自転車の「逆走」についてご説明し、自転車で走行できる道路、歩道を通行する際のルール、自転車で「逆走」した場合の罰則、「逆走」中に事故を起こしてしまった場合のリスクなどについてご紹介していきます。
目次
自転車「逆走」とは?
自転車の「逆走」とは、自転車は本来道路の左側を走行すべきであるのに、逆の右側を走ってしまうことをいいます。
自転車も、道路交通法上の「車両」に含まれるものとして、道路の中央から左の部分を走行することが義務付けられています(道路交通法17条4項)。
これに違反すると、自転車であっても「逆走」とされます。
4 車両は、道路(歩道等と車道の区別のある道路においては、車道。以下第九節の二までにおいて同じ。)の中央(軌道が道路の側端に寄って設けられている場合においては当該道路の軌道敷を除いた部分の中央とし、道路標識等による中央線が設けられているときはその中央線の設けられた道路の部分を中央とする。以下同じ。)から左の部分(以下「左側部分」という。)を通行しなければならない。
なぜ自転車の右側通行は禁止されているのか?
自転車が道路の右側を通行すると、左側を通行している自動車と逆方向に走行することになります。
すると、自転車と自動車が正面から相対してすれ違う形になります。
そうなると、すれ違いざまに自転車と自動車の間で事故が起こる危険が増してしまいかねません。
このことが、自転車の右側通行を禁止する理由であるといわれています。
自転車で走行できる道路とは?
自転車で走行できる道路については、以下のようになっています。
車道
自転車も「車両」とされていますので、歩道と車道の区別のある道路では、車道を通行することとされています。
車道の中には、車両通行帯のある道路とない道路、一方通行道路などがあります。
車両通行帯のある道路
車両通行帯のある道路の場合は、一番左側の通行帯(左側車線)を通行しなければなりません。
車両通行帯のない道路
車両通行帯のない道路では、追い越しをする場合などを除いて、車道部分の左側端に寄って走行します。
一方通行道路だけれども、自転車には逆方向への走行が認められている場合
一方通行となっている道路の中には、自転車には一方通行の規制が適用されないところがあります。
その場合、進入禁止や一方通行の道路標識のすぐ下に、「自転車を除く」との補助標識が設けられています。
このような道路では、自転車は、一方通行が許されている方向とは逆側に走行することが認められています。
このような道路で一方通行規制と逆方向に走行する場合には、原則どおり、道路の左側を走行することになります。
一方通行規制と同じ方向に走行する場合にも、当然、左側通行となります。
普通自転車専用通行帯
普通自転車専用通行帯とは、道路標識などにより、自転車が通行しなければならない車両通行帯として指定された部分のことをいいます。
普通自転車専用通行帯がある場合は、自転車は、そこを走行しなければなりません。
普通自転車専用通行帯では相対通行はできませんので、自転車は、道路の左側部分に設けられた普通自転車専用通行帯を走行しましょう。
自転車道
自転車道は、車道に設置された、縁石や柵などによって区画された部分をいいます。
自転車道が設けられている場合、自転車は、やむを得ない場合を除いて自転車道を通行しなければなりません。
自転車道では、普通自転車専用通行帯と違い、相互通行が可能です。
そのため、自転車は、道路の左側に設けられた自転車道でも右側に設けられた自転車道でも、どちらでも走行できます。
ただし、自転車道の内部では、自転車道の左側を通行するようにしましょう。
路側帯
自転車は、歩行者の通行を著しく妨げるのでなければ、路側帯の中を通行することができます(路側帯の外を通行することも可能です)。
路側帯を走行する場合は、左側通行が必要となりますので、道路の左側の路側帯を走るようにしましょう。
ただし、白の2本線で表示された路側帯は「歩行者用路側帯」となっており、自転車が通行することはできません。
歩行者用路側帯がある場合は、道路の左側の路側帯の外側を通行するようにしましょう。
自転車で歩道を走行できる?
自転車であっても、一定の場合には歩道を通行することができます(道路交通法63条の4第1項)。
自転車が歩道を通行できるのは、以下のような場合です。
道路交通法(普通自転車の歩道通行)第63条の4
普通自転車は、次に掲げるときは、第十七条第一項の規定にかかわらず、歩道を通行することができる。ただし、警察官等が歩行者の安全を確保するため必要があると認めて当該歩道を通行してはならない旨を指示したときは、この限りでない。
一道路標識等により普通自転車が当該歩道を通行することができることとされているとき。
二当該普通自転車の運転者が、児童、幼児その他の普通自転車により車道を通行することが危険であると認められるものとして政令で定める者であるとき。
三前二号に掲げるもののほか、車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき。
普通自転車歩道通行可の標識がある場合
「普通自転車歩道通行可」の標識が設置されている歩道は、自転車も通行することができます。
普通自転車歩道通行可の標識がある歩道の中には、普通自転車通行指定部分がある歩道があります。
つまり、歩道の中で、自転車が通行すべき部分が指定されているのです。
この場合には、自転車は、普通自転車通行指定部分を通行しなければなりません(相互通行は可能です)。
なお、この普通自転車通行指定部分もあくまで「歩道」ですので、歩行者優先となっています。
そのため、自転車は、普通自転車通行指定部分でも原則として徐行し、歩行者の通行を妨げるような場合は一時停止しなければなりません(普通自転車通行指定部分に歩行者がいない場合は、すぐに徐行に移ることができるような速度で走ることができます。)。
子どもや高齢者などが運転者の場合
13歳未満の子ども、70歳以上の高齢者、又は身体の不自由な人が自転車を運転している場合は、歩道を走行することができます。
自転車の通行の安全を確保するためにやむを得ない場合
車道又は交通の状況に照らして自転車の通行の安全を確保するためにやむを得ないと認められる場合には、自転車も歩道を通行することが可能です。
歩道の通行が可能となるケースの代表的な例としては、次のようなものがあります。
- 道路工事により車道の左側を通行するのが困難な場合
- 連続した駐車車両などにより車道の左側を通行するのが困難な場合
- 著しく自動車の通行量が多い上に車道の幅が狭いなどといった事情で、追い越しをしようとする自動車などとの接触事故が起こる危険がある場合
歩道を走行する場合のルール
自転車が歩道を通行できる場合、歩道上では自転車同士の相互通行が可能なので、道路のどちら側の歩道でも通行することができます。
ただし、歩道の中では、中央から車道寄りの部分を通行する必要があります。
スピードは、すぐに停止できる速度(徐行)とします。
また、歩行者の通行を妨げるような場合は、自転車は一時停止しなければなりません。(道路交通法63条の4第2項)
2 前項の場合において、普通自転車は、当該歩道の中央から車道寄りの部分(道路標識等により普通自転車が通行すべき部分として指定された部分(以下この項において「普通自転車通行指定部分」という。)があるときは、当該普通自転車通行指定部分)を徐行しなければならず、また、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げることとなるときは、一時停止しなければならない。ただし、普通自転車通行指定部分については、当該普通自転車通行指定部分を通行し、又は通行しようとする歩行者がないときは、歩道の状況に応じた安全な速度と方法で進行することができる。
自転車「逆走」で課される罰則
自転車で「逆走」をした場合、3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科される可能性があります(道路交通法119条1項六号、17条4項)。(2024年9月時点)
特に、何回も違反を繰り返しているような場合や他の自動車や自転車、歩行者に迷惑をかけるような態様で「逆走」をしているような場合だと、刑罰を科される危険性が通常よりも高くなりますので、注意が必要です。
自転車「逆走」で警察に注意されたらどうなる?
警察官に注意された場合は、指摘された「逆走」を改め、状況に応じて、道路の反対側に移るか、自転車を押して歩道などを歩くかなどすることになります。
ただ、警察に注意されただけで済んだ場合は、通常それ以上のペナルティを課されることはありません。
とはいえ、悪質な違反があった場合には、刑事罰の対象となることがありますので、ご注意ください。
なお、自転車走行中に交通違反があったとしても、運転免許の点数に影響することはありません。
ところで、自転車の交通違反に対しても反則金が課され、違反切符が切られるようになることが、法改正により決まっています(2024年5月成立、2年以内に施行)。
この制度が施行されると、自転車での交通違反でも違反切符を切られることが出てくる可能性があります。
違反切符を切られた場合には、自動車の場合と同様、反則金を納付する義務が発生してきます。
自転車「逆走」の事故時のリスク
自転車で「逆走」していて事故を起こしてしまうと、過失割合を加重されるリスクがあります。
過失割合を加重されると、過失相殺が行われる際、通常よりも賠償金額において不利になりってしまいます。
過失相殺・過失割合とは?
交通事故の場合、加害者と被害者の双方に過失があることが多くあります。
そのような場合には、被害者に過失があったことも考慮に入れて、賠償額をお互いの落ち度の割合(過失割合)によって減額するなどして、最終的な賠償額を定めます。
これを、「過失相殺」といいます。
過失相殺・過失割合についての詳細は、以下のページをご覧ください。
自転車の「逆走」の場合の過失割合
自動車対自転車の事故の場合、「自転車は交通弱者である」ということで、全般的に自転車の過失割合は軽減され、自動車の過失割合の方が加重されます。
しかし、自転車側が「逆走」していたとなると、自転車側に交通違反があったことになるため、過失割合の修正が行われ、自転車側の過失割合が通常より重くなり、その分自動車側の過失割合が軽減されることになると考えられます。
このように修正された過失割合によって過失相殺が行われると、自転車側が受け取ることができる損害賠償額が、「逆走」がなかった場合よりも少なくなってしまいます。
加えて、自転車に乗っていて自動車との間で事故を起こした場合、自転車の運転者が大きなケガなどをする危険性も比較的高く、損害額が大きくなる場合が少なからずあります。
損害額が大きい場合には、過失割合が少し変わるだけでも、賠償金の金額が大きく変わります。
場合によっては、過失割合が10%変わるだけで、賠償金の額が数百万円変わることもあるのです。
そのため、自転車での「逆走」中に事故に遭い、過失割合を加重されてしまうと、受け取れる賠償金が大きく減額されてしまう危険性があります。
自転車と自動車の事故の過失割合についての解説は、以下のページもご参照ください。
自転車対自転車、自転車対歩行者の事故の場合でも、自転車で「逆走」していた側の過失割合は加重されると考えられます。
そのため、「逆走」していた当事者としては、支払うべき賠償金額は逆走をしていなかった場合よりも上がり、自分が受け取ることができる賠償金額は下がってしまう、ということになります。
このように、自転車での「逆走」には、事故を起こしてしまったときに、損害賠償額で損をするというリスクがあるのです。
自転車「逆走」についてのQ&A
自転車「逆走」を注意したら逆ギレされた、対処法は?
自転車の「逆走」が法律上禁止されたのは比較的近年のこと(2013年12月)ですので、ルール変更をまだよく知らない人も多くいます。
そのため、自転車の「逆走」を注意すると、逆に「何を言っているんだ」などと逆ギレされることもあるかもしれません。
そのような場合には、努めて冷静に対応し、「逆走」が法律違反になったことを説明したり、速やかにその場を離れたりしましょう。
激しい言葉で侮辱したり脅したりしてくる、謝罪などを要求してその場から離れることを許さない、暴力を加えてきそうな気配があるといった場合には、警察に通報し、対応をお願いしましょう。
なお、相手が逆上している様子を動画で撮影してインターネット上に公開などすると、撮影者ご自身が肖像権侵害や名誉棄損となる場合もありますので、ご注意ください。
まとめ
今回は、自転車の「逆走」、自転車が走行すべき場所、自転車で「逆走」して事故になった場合の過失割合などについて解説しました。
自転車での「逆走」は、事故を起こす可能性が高くなる危険性の高い行為である上、「逆走」していて事故に遭うと、過失割合が加重される可能性もあります。
自転車に乗るときは、「逆走」をせずに走行するようにしましょう。
自転車で交通事故に遭った場合は、「逆走」の有無にかかわらず、なるべく早く、弁護士に相談して対応を依頼することをお勧めします。
そうすることで、適切な賠償金を獲得できる可能性が高まりますし、保険会社や相手側との交渉を弁護士に任せて治療や生活の立て直しに専念することもできるようになります。
当事務所でも、自転車に乗っていて交通事故に遭った被害者の方々のご依頼をお受けしております。
当事務所には、交通事故を集中的に取り扱う交通事故チームを設けており、交通事故の経験を積み重ねた弁護士・スタッフが皆様により良いサポートを提供できる体制を整えております。
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