交差点内の車線変更は禁止なの!?罰則や事故時のリスクを解説
交差点内での車線変更は、一律に禁止されているわけではありません。
しかし、交差点内で追い越しのために車線変更をすることは、禁止されています。
また、交差点の付近に黄色実線の車線境界線がある場合は、追い越しだけでなくそれ以外の場合も含めて、車線変更は禁止されています。
今回の記事では、どのような場合に交差点内での車線変更が禁止されているのか、禁止された車線変更を行った場合の罰則は何か、交差点内で車線変更を行って事故を起こした場合の過失割合はどうなるかについて解説します。
交差点内の車線変更は禁止?
交差点内での車線変更は、全般的に禁止されているわけではありません。
しかし、一定の場合には、交差点内での車線変更は道路交通法違反となります。
ここではまず、交差点内での車線変更が違反となるケース、ならないケースについてそれぞれ解説します。
*なお、法令上の用語では、車線変更は「進路変更」と言われますが、この記事では、分かりやすいよう「車線変更」と言います。
違反となるケース
交差点内での追い越しのための車線変更
交差点内及びその30メートル手前(この記事では、両者を併せて「交差点内等」といいます。)では、他の車両を追い越すための車線変更は禁止されています(道路交通法30条三号)。
そのため、交差点内等で追い越しのために車線変更をすると、交通違反となります。
道路交通法
(追越しを禁止する場所)
第三十条 車両は、道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、他の車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)を追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない。
・・・
三 交差点(当該車両が第三十六条第二項に規定する優先道路を通行している場合における当該優先道路にある交差点を除く。)、踏切、横断歩道又は自転車横断帯及びこれらの手前の側端から前に三十メートル以内の部分
交差点付近の車線境界線が黄色の実線の場合
車線の境界線が黄色の実線で描かれている場合、その線上での車線変更は禁止されています。
交差点の付近でもこの黄色の実線の車線境界線が多く見られます。
黄色の実線の車線境界線がある場合、追い越しでなくても、車線変更は禁止されます。
罰則について
交差点内等で追い抜きのための車線変更をした場合、故意に行ったのであれば、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科されます(道路交通法119条1項五号)。
過失による場合でも、10万円以下の罰金が科されます(同条3項)。
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
五 第三十条(追越しを禁止する場所)・・・の規定の違反となるような行為をした者
3 過失により第一項・・・第五号・・・の罪を犯した者は、十万円以下の罰金に処する。
黄色の実線の車線境界線があるにもかかわらず車線変更をした場合、故意であれ過失であれ、5万円以下の罰金となります(道路交通法120条1項三号、3項)。
道路交通法
第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、五万円以下の罰金に処する。
・・・
三 ・・・第二十六条の二(進路の変更の禁止)第三項・・・の規定の違反となるような行為をした者
3 過失により第一項第三号から第七号まで・・・の罪を犯した者は、五万円以下の罰金に処する。
違反とならないケース
自転車などを追い越す場合
交差点内等で追い越しをする場合であっても、特定小型原動機付自転車及び軽車両(併せて「特定小型原動機付自転車等」といいます(道路交通法18条1項)。)を追い越す場合は、違反にはなりません(道路交通法30条)。
特定小型原動機付自転車とは、いわゆる電動キックボードのことです。
電動キックボードの中でも、道路交通法施行規則で定められた基準を満たしたものが、特定小型原動機付自転車となります。
参考:特定小型原動機付自転車に関する交通ルール等について|警察庁Webサイト (npa.go.jp)
軽車両は、主に自転車のことをいいます。
軽車両にはほかに、荷車、人力車、馬車、牛車、リヤカーなどがあります(道路交通法2条1項十一号)。
つまり、交差点内であっても、電動キックボードや自転車などを追い越す場合は、車線変更をしても違反にはなりません。
白色の実線の車線境界線がある場合
交差点付近の車線境界線が白色の場合、追い越し以外の理由であれば、車線変更をしても違反にはなりません。
ただし、車線境界線が白色であっても、交差点内等で追い越しのために車線変更をすると、違反になります。
優先道路を通行している場合
優先道路を通行している場合は、優先道路上にある交差点内等で車線変更をして追い越しをすることも許されます(道路交通法30条三号かっこ書)。
緊急自動車が通るとき
緊急自動車(救急車、パトカーなど)が通るときに進路を譲る場合には、追い越しには当たらないので、交差点内等であっても進路変更が可能です。
また、交差点付近に黄色の実線による車線境界線がある場合でも、道路の左側に退避して緊急車両に進路を譲るためであれば、車線変更をすることができます(道路交通法26条の2第3項)。
(進路の変更の禁止)
第二十六条の二
・・・
3 車両は、車両通行帯を通行している場合において、その車両通行帯が当該車両通行帯を通行している車両の進路の変更の禁止を表示する道路標示によって区画されているときは、次に掲げる場合を除き、その道路標示をこえて進路を変更してはならない。
一 第四十条の規定により道路の左側若しくは右側に寄るとき、又は道路の損壊、道路工事その他の障害のためその通行している車両通行帯を通行することができないとき。
二 第四十条の規定に従うため、又は道路の損壊、道路工事その他の障害のため、通行することができなかつた車両通行帯を通行の区分に関する規定に従って通行しようとするとき。(緊急自動車の優先)
第四十条 交差点又はその附近において、緊急自動車が接近してきたときは、路面電車は交差点を避けて、車両(緊急自動車を除く。以下この条において同じ。)は交差点を避け、かつ、道路の左側(一方通行となっている道路においてその左側に寄ることが緊急自動車の通行を妨げることとなる場合にあっては、道路の右側。次項において同じ。)に寄って一時停止しなければならない。
2 前項以外の場所において、緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄って、これに進路を譲らなければならない。
車線変更による交通事故の過失割合
交通事故では、多くの場合、事故当事者の双方に何らかの過失があります。
双方に過失がある場合は、双方の落ち度の割合(過失割合)によって過失相殺がなされ、賠償額の調整が行われます。
車線変更による交通事故の場合も、過失相殺が行われます。
次は、車線変更による交通事故の場合の過失割合はどうなっているのかについて解説します。
過失相殺、過失割合については、以下のページをご覧ください。
車線変更による交通事故の基本の過失割合
車線変更による交通事故の基本の過失割合は、車線変更をした側(前方車)70:直進していた側(後方車)30です(両方とも自動車の場合)。
つまり、車線変更をした前方車の方が、過失割合が大きいとされているのです。
車線変更をした場合の過失割合については、以下のページもご参照下さい。
車線変更をした前方車の過失割合が大きい理由
車線変更(進路変更)には、周囲の車両の通行を乱す、接触事故を誘発するなどの危険があるため、次のような規制が設けられています。
- 車両は、みだりにその進路を変更してはならない(道路交通法26条の2第1項)
- 車両は、進路を変更した場合に、その変更した後の進路と同一の進路を後方から進行している車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならない(同条2項)
つまり、車線変更は、①正当な理由もないのに行ってはいけませんし、②理由のある場合でも、後方の車両が急ブレーキをかけたり急に方向を変更したりしなければならないこととなるおそれがある場合には行ってはならない、とされているのです。
このように、車線変更をするドライバーには、周囲の車両の交通を妨げたり事故を起こしたりするような危険がないように車線変更を行うべき注意義務が課せられています。
それにもかかわらず車線変更を行って事故を起こしてしまった場合、車線変更をしたドライバーには、「より注意深く周囲の状況を確認し、慎重に進路変更を行うべき義務があったのに、それを怠った」として、大きな過失があったと判断されます。
一方、後方から直進してきた車両のドライバーにも、前方の車両の動向に注意して事故を避ける義務(前方注意義務)があるので、「前方で進路変更をしている車両があったのに、十分な注意を払わず事故を起こした」として、一定の過失が認められます。
こうした両者の過失の程度を比較して、前方車70:後方車30との基本過失割合が定められているのです。
交差点内で車線変更をして事故を起こした場合の過失割合
交差点内等での車線変更は原則として禁止されていないので、交差点内等で車線変更をした際に事故を起こしたからといって、ただちに基本の過失割合が変更されるわけではありません。
しかし、交差点内等での追い越しのための車線変更、黄色実線の車線境界線がある場所での車線変更など禁止されている車線変更を行った場合は、車線変更をした前方車の過失割合が20%加重され、「前方車90:後方車10」となります。
過失割合は損害賠償額に大きな影響を与えるものです。
場合によっては、過失割合が10%変わるだけで、賠償金に数百万円~数千万円の差が出ることもあります。
交差点内等で禁止された車線変更を行ってしまうと、過失割合が20%も加算されますので、賠償金が大きく減額されてしまいます。
このように、交差点内等で禁止された車線変更を行うことには、賠償金を大幅に減らされるリスクがあります。
車線変更による交通事故の過失割合が修正されるその他の場面
交差点等で禁止されている車線変更を行った場合以外にも、以下のような場合には、車線変更による交通事故の基本過失割合が修正されます。
方向指示器(ウィンカー)を出さなかった場合
車線変更をする場合には、方向指示器(ウィンカー)を出すことが義務付けられています。
この義務を怠り、ウィンカーを出さないまま車線変更をして事故を起こすと、車線変更をした前方車の過失割合が加重され、前方車90:後方車10の過失割合になります。
後方車が初心者マークを付けた初心者だった場合
後方から来ている車が初心者マークを付けている場合、車線変更をしようとする前方車は、通常以上に、後方車が余裕をもって対応できるように気を付けなければなりません。
そのため、事故が起こってしまった場合は、初心者への配慮を怠った前方車の過失割合が加重され、前方車80:後方車20の過失割合となります。
後方車がゼブラゾーンを走行していた場合
後方車がゼブラゾーン(道路に白線で縞模様が描かれた部分)を走行していた場合、後方車の過失割合が加重され、前方車50~60:後方車40~50の過失割合となります。
ゼブラゾーンを走行すること自体は、法律上禁止されているわけではありませんので、違反行為になるわけではありません。
しかし、一般的にはゼブラゾーンは走行すべきでないと考えられており、車線変更をする前方車の運転者にとって、ゼブラゾーンを直進してくる車があるとは予測しにくいため、前方車の過失割合が軽減されることになっているのです。
車線変更禁止場所で車線変更をした場合
交差点以外であっても、黄色の実線での車線境界線があり車線変更が禁止されている場所で車線変更を行い事故を起こすと、車線変更をした前方車の過失割合が加重されます。
この場合、修正後の過失割合は、前方車10:後方車90となります。
速度違反があった場合
前方車であっても後方車であっても、速度違反があった場合には過失割合が加重されます。
時速15キロ以上30キロ未満の速度超過の場合は10%、時速30キロ以上の場合は20%の過失割合が、速度違反を犯した当事者に加算されます。
つまり、修正後の過失割合は
- 前方車に時速15キロ以上30キロ未満の速度超過があった場合は、前方車80:後方車20
- 前方車に時速30キロ以上の速度超過があった場合は、前方車90:後方車10
- 後方車に時速15キロ以上30キロ未満の速度超過があった場合は、前方車60:後方者40
- 後方車に時速30キロ以上の速度超過があった場合は、前方車50:後方車50
となります。
著しい過失・重過失があった場合
事故当事者に著しい過失・重過失があった場合は、過失割合が加算されます。
著しい過失となるものには、以下のようなものがあります。
- わき見運転などの著しい前方不注視
- ハンドル・ブレーキ等の操作が著しく不適切であった
- 携帯電話を使用して運転していた
- 酒気帯び運転
一方、以下のような場合には、重過失となります。
- 酒酔い運転
- 居眠り運転
- 無免許運転
- 薬物を使用しての運転
著しい過失があった運転者には過失割合が10%加算され、重過失の場合には20%加算されます。
つまり、車線変更での事故の際、当事者の一方に著しい過失又は重過失があった場合、過失割合が以下のように修正されます。
- 前方車に著しい過失があった場合は、前方車80:後方車20
- 前方車に重過失があった場合は、前方車90:後方車10
- 後方車に著しい過失があった場合は、前方車60:後方車40
- 後方車に重過失があった場合は、前方車50:後方車50
交通事故の「著しい過失」「重過失」については、以下のページで詳しく解説しています。
交差点内の車線変更についてのQ&A
交差点の30 メートル手前での車線変更は違反ですか?
ただ、交差点の30メートル手前では、追い越しのための車線変更は禁止されていますので、追い越しのために車線変更をしたのであれば、違反になります。
白線の場合、交差点内の車線変更は違反ですか?
ただ、車線境界線の色にかかわらず、交差点内等で追い越しのために車線変更をすることは禁止されています。
交差点の破線は車線変更できますか?
ただし、交差点内及び交差点手前30メートル以内では、車線境界線の色、形状にかかわらず、追い越しのための車線変更は禁止されています。
なお、車線境界線の中には、黄色の矢羽根型の破線となっているものあります。
これは、「この先に進路変更禁止区間がある」と知らせる注意喚起のための表示(法定外表示)です。
そのため、黄色の矢羽根型の破線の区間では、まだ進路変更が可能となっています。
その先の黄色実線の車線境界線の区間では、進路変更は禁止されます。
参考:進路変更禁止の注意喚起表示について|警視庁 (tokyo.lg.jp)
まとめ
今回は、交差点内での車線変更が禁止される場合、禁止された車線変更を行った場合の罰則、過失割合などについて解説しました。
交差点内での車線変更は一般的に禁止されていないと聞いて意外に思われた方も少なくないのではないでしょうか。
このように、どのような運転が交通違反になるかについては、あいまいな記憶になっている方が少なからずおられます。
そのため、交通事故を起こしてしまった場合に、「自分又は相手の運転は交通違反として過失割合を加算されるものだったのか」という点について正しく判断できない方が多くおられます。
交通事故の過失割合については、相手方の保険会社の主張に引きずられてしまわないためにも、一度交通事故にくわしい弁護士にご相談ください。
当事務所でも、交通事故事件を集中的に扱う交通事故チームを設け、過失割合、損害額などについての皆様からのご相談をお受けしております。
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