交通事故の休業補償とは?相場や請求方法を解説
交通事故の休業補償とは、通勤中又は勤務中の交通事故によって従業員がケガをし、働けなくなってしまった場合に、それによって減少した収入を補償するために支払われる労災保険の給付です。
勤務中などに交通事故に遭ってしまった場合、加害者に損害賠償を請求できるだけでなく、労災保険も利用することができます。
労災保険の休業補償を活用すれば、加害者に請求する損害賠償(休業損害)と合わせて、実際の減収を上回る補償を得ることも可能です。
今回は、交通事故の休業補償とは何か、休業損害と休業補償の違い、休業補償はいつからいつまでもらえるか、休業補償の計算方法、休業補償の請求方法、交通事故の休業補償の注意点などについて解説していきます。
※休業補償は、正確には休業補償給付(業務災害の場合)あるいは休業給付(通勤災害の場合)といいますが、以下では、「休業補償」と呼称して説明します。
目次
交通事故の休業補償とは
交通事故の休業補償とは、従業員が通勤中又は勤務中に交通事故に遭ってケガをし、そのせいで仕事ができなくなってしまった場合に、これによる減収分を補うために労災保険から支払われる給付です。
休業補償が支払われるケースとしては、次のようなものがあります。
- 自宅から勤務先へ公共交通機関 + 徒歩で通勤していたところ、歩行中に自動車にひかれた
- 営業先に行くために自動車を運転していたところ、他の自動車と接触した
*ただし、仕事の帰りに私用で自宅以外のところに立ち寄った場合(スポーツジム、プライベートの飲み会など)は、原則として、そこからの帰宅途中で事故に遭っても通勤災害とは認められません。
交通事故の休業補償が支払われるための条件は、以下の3つです。
- 休業が4日以上継続している
- 業務上の理由や通勤による負傷の療養をしている
- 労働不能であり賃金を受け取っていない
通勤災害での休業補償については、以下のページもご参照ください。
休業補償と休業損害との違い
休業補償と似たものに、休業損害があります。
休業損害は、加害者に請求する損害賠償の一項目です。
交通事故によりケガをしたために仕事を休む羽目になった場合に、それによる減収額を損害賠償の対象とするというのが、休業損害です。
休業損害には、次のような特徴があります。
- 減収額が100%休業損害の対象となる
- 3日以内の休業でも発生する
- 有給休暇を取得した日についても休業損害の発生が認められる
- 主婦・主夫の場合も休業損害が認められる
- 加害者(又は加害者が加入している保険会社)に請求する
- 被害者にも過失がある場合、過失相殺により減額される
一方、休業補償は、交通事故でのケガによる減収を補うものであることは休業損害と同じですが、次のように、休業損害とは異なる点も多くあります。
- 補償される金額は給付基礎日額の80%までである(休業特別支給金を含む。)
- 4日以上休業しないと支給されない
- 有給休暇を取得した日の分は支給されない
- 労働者でない主婦・主夫には支給されない
- 労災保険(国)に請求する
- 労働者に故意があったのでない限り、過失相殺で減額されることがない
休業損害と休業補償は併せて受け取ることができる
休業損害と休業補償は、併せて受け取ることができます。
ただし、休業損害と休業補償の両方を全額受け取れるわけではありません。
この点について解説するために、まずは、休業補償の内訳についてご説明します。
休業補償は、
- 給付基礎日額の60%が支給される休業(補償)給付*
- 給付基礎日額の20%が支給される休業特別支給金
で成り立っています。
*業務上の事故の場合には休業補償給付、通勤途中の事故の場合には休業給付といいます。
この記事では、以上をまとめて「休業(補償)給付」としています。
これらのうちの休業(補償)給付は、損害賠償の中で既に休業損害を受け取っている場合には、「二重取りになってしまう」として、請求することができなくなります。
一方、休業特別支給金は、休業損害を受け取っていても、併せて受け取ることができます。
つまり、加害者から減収額の100%に相当する休業損害を受け取っている場合でも、加えて、給付基礎日額の20%に当たる休業特別支給金を受け取ることができる(合計120%)のです。
上の説明は最初に休業損害を全額受け取っていることを前提としていますが、労災保険の休業補償を先に受け取っている方も多くおられます。
その場合には、休業(補償)だけでは給付基礎日額の60%までしか支給されませんので、残りの40%について、加害者に休業損害の支払いを請求することが可能です。
その上、この場合も、休業特別支給金は別に受給することができるので、労災保険からの休業補償と損害賠償での休業損害を合わせて120%の補償を受けることができます。
交通事故の休業補償はいつもらえる?
労災保険の休業補償には、待機期間というものがあり、すぐに支給されるわけではありません。
待機期間は3日間となっており、休業し始めて1~3日の間は、休業補償を請求する権利自体が発生しません。
休業補償を請求できるのは、休業4日目からになります。
(休業3日目までの減収については、加害者に休業損害として請求できます。また、仕事中の事故(通勤中の事故は除く)である場合、勤務先にも請求することができます。)
さらに、休業補償が発生し始めても、すぐに支払いが実行されるわけではありません。
休業補償の支払いを実際に受けるためには、労働基準監督署に申請書を提出し、審査を受け、支給決定を得なければなりません。
そのため、申請から実際に支払いを受けられるまでには、通常1か月程度かかります。
休業補償はいつまでもらえる?
休業補償がもらえるのは、ケガが治癒して働ける状態になる日までの間です。
万が一、治療をしても十分に働ける状態にまで回復しなかった場合は、これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態(症状固定日)になるまで休業補償が支払われます。
症状固定後も障害等級表に掲げられている障害等級に該当する障害が残ってしまった場合には、休業補償から障害補償に切り替わります。
労災の後遺障害については、以下のページで詳しく解説しています。
治療開始から1年6か月経ってもケガが治らない(症状固定もしない)場合は、一度審査が行われます。
その審査で、傷病が傷病等等級第1級から第3級に該当すると判断された場合には、休業補償が傷病年金に切り替わります。
これらの等級に該当しないと判断された場合は、休業補償が継続します。
なお、被害者が治療中に亡くなってしまった場合には、治療中の休業補償に加え、遺族補償給付、葬祭給付などが支給されます。
休業補償以外の労災給付については、以下のページで詳しく解説しています。
休業補償の期間がいつまでかについては、以下のページもご参照ください。
休業補償の時効に注意!
休業補償は、療養のために賃金を受けられない日(給料日)ごとに請求権が発生し、その発生日の翌日から2年を経過してしまうと、時効により請求できなくなります。
休業補償の申請は、できるだけ早いうちに行いましょう。
交通事故の休業補償は1日いくら?
休業補償の金額を自動計算ツールで簡単に算定!
休業補償を計算しようとすると、
- 3か月分の給与の総額を実日数で割って給付基礎日額を求める
- 休業(補償)給付(給付基礎日額の60%)、特別支給金(給付基礎日額の20%)の金額を計算する(休業(補償)給付と休業特別支給金については、次の項で説明します)
- 休業(補償)給付と休業特別支給金を合計して休業補償の額を求める
など、何回も計算をしなければならず、手間がかかります。
そこで、当事務所では、皆様に簡単に休業補償の額を算定していただけるよう、労災の休業補償自動計算ツールを作成しました。
このツールをご利用いただけば、事故前3か月分の給与と事故前3か月間の実日数をご入力いただくだけで、1日当たりの休業(補償)給付、休業特別支給金の額と、これらを合算した給付基礎日額(1日当たり)を求めることができます。
ご利用に当たって、連絡先などの個人情報をご入力いただく必要はございませんし、後日当事務所からご連絡することもございません。
結果も、その場ですぐにご覧いただくことができます。
ご関心がおありの方は、以下のリンクから、ぜひ一度お気軽にお試しください。
休業補償の計算方法
労災からの休業補償には、休業(補償)給付と休業特別支給金の両者が含まれています。
休業補償の金額は、以下の計算式によって計算されます。
- 休業(補償)給付=給付基礎日額の60%×休業日数
- 休業特別支給金=給付基礎日額の20%×休業日数
給付基礎日額とは
上の計算式にある「給付基礎日額」は、原則として、事故が発生した日の直前3か月間に支払われた賃金の総額を実日数で割った1日当たりの賃金額です。
例えば、8月1日に事故に遭ってケガをした場合、5月、6月、7月分の給与の合計額を実日数(5月:31日+6月:30日+7月:31日=92日)で割った金額が、給付基礎日額となります。
休業日数
休業日数は、ケガの療養のために休業しており、給料を受けていない日数です。
休業補償の場合、有給休暇を取得した日は、給料を受けられているので、休業日に含みません。
交通事故の休業補償の請求方法
交通事故の休業補償の請求方法は、以下のようになります。
業務中又は通勤中に交通事故が発生した場合、現場での対応(警察への通報、被害者の救護等)と合わせて、事故の発生を会社に報告することも必要になります。
報告を受けた会社は、労働者がその事故によって死亡又は休業した場合には、遅滞なく、労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出しなければなりません。
参考:労働災害が発生したとき|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
その後は、労働者本人から、労働基準監督署に対し、休業補償等の支払いを請求します(勤務先を通じて請求することも多いです。)。
請求の際には、定められた様式の申請書を提出します。
労災の申請書については、以下のページで詳しく解説しています。
申請書が提出されると、労働基準監督署は、その内容について調査を実施します。
そして、労災保険を支給するべき事案であると判断されると、支給決定が出されます。
逆に、労災保険の対象とならないケースであると判断されると、不支給決定が行われます。
不支給決定に不服がある場合は、通知を受けてから3か月以内に、労働者災害補償保険審査官に対して不服申立てをすることが可能です。
労災保険の手続の流れについては、以下のページもご参照ください。
交通事故の休業補償の注意点
副業をしている場合は、副業先の収入も合算する
近年では多くの会社で副業が解禁されており、実際に副業をしている人も珍しくなくなっています。
副業をしている場合は、休業補償を計算する際の基礎となる給付基礎日額(平均賃金)を計算する際に、副業での収入も合算しておくのを忘れないようにしましょう。
交通事故に遭ったのが主たる勤め先での業務中であったか副業中であったかは関係なく、いずれの場合でも、両者での収入の合計額を基に給付基礎日額を計算することができます。
交通事故に遭ったら数日以内に病院に行く
交通事故に遭ってしまったら、ケガがない又は軽いと思っても、数日以内に一度は病院を受診するようにしましょう。
特に仕事中の事故だと、「まだこれから仕事が残っている」「会社に迷惑をかけたくない」といった思いから、ケガがなさそうだったり、打撲と言っても軽いものだと思われたような場合に、病院に行かずに済ませようとする方がおられるかもしれません。
しかし、交通事故のケガは、日にちが立ってから痛みなどの症状が出現又は悪化することも少なくありません。
そのようなことになった際に、事故直後に病院で検査を受けていた記録がないと、「事故の後に他のことが原因でケガをしたのではないか」などとの疑いを招き、休業補償や休業損害が受け取れなくなる可能性があります。
このようなことにならないためにも、交通事故に遭ったら、事故後数日のうちに、念のために病院を受診して検査を受けておくことをお勧めします。
会社が労災保険に加入していない場合などでもあきらめない
会社が労災保険に入っていない場合や保険料を滞納している場合でも、労働者は労災保険を受け取ることができます。
会社が労災保険に加入していない場合も、労働基準監督署に申請を行い、手続きを進めましょう。
退職後でも申請・受給できる
労災保険は、退職した後でも申請・受給することができます。
「ケガはしたけれどももう退職してしまった」、「短期のバイトで、もう働いていない」などとあきらめてしまわず、退職後であっても労災保険の申請を行いましょう。
加害者との間での示談内容は労災保険に影響する
交通事故があった場合、損害賠償については、加害者と被害者の間で示談をすることで解決することが多いです。
ところが、交通事故の示談には、実は、被害者にとって不利な内容で決着しているケースが少なくありません。
交通事故では、任意保険会社が当事者に変わって示談交渉を行うことが多いのですが、このとき、保険会社は、自社の内部基準(任意保険基準)を基に示談金額を算定しています。
しかし、任意保険基準による算定額は、裁判所や弁護士が関与した示談交渉で用いられる弁護士基準による算定額と比べると、被害者にとって不利な内容になっていることが大変多いです。
そのため、弁護士に依頼することなく示談交渉を進めていると、被害者にとって不利な内容の示談で決着してしまいかねません。
しかも、加害者側との間で成立した示談は、労災保険にも影響を及ぼします。
示談の際に加害者への損害賠償請求権を免除(減額)してしまうと、その分、労災保険に請求できる金額も減ってしまうのです。
例えば、本来であれば労災保険から休業(補償)給付100万円を受け取ることができたにもかかわらず、加害者との間で「加害者からの損害賠償では、休業損害は50万円とする」との内容で示談をしてしまったとします。
この場合、労災保険からの休業(補償)給付も、50万円までしか受け取れなくなってしまいます(休業特別支給金は別途支払われます。)。
このように、交通事故の労災の場合、不利な内容で示談をしてしまうと、労災保険にも影響が出るという大変困った事態になります。
特に、示談書にサインをしてしまうと、「示談契約」が成立してしまいますので、不利な内容だったとしても、もはや示談内容を変更することはほとんど不可能になります。
交通事故の労災に遭った場合は、加害者側との間で示談を成立させてしまう前に、ぜひ一度、労災保険と交通事故に詳しい弁護士に相談し、示談内容が適切かなどについて相談してみしょう。
過失割合による減額・支払い上限額はない
加害者に請求する損害賠償については、加害者と被害者の事故発生に対する落ち度の割合(過失割合)に応じて損害賠償額を調整する過失相殺が行われます。
一方、労災保険では、故意に事故を起こしたのでない限りは、過失相殺は行われません。
また、交通事故の場合、加害者の自賠責保険にも休業損害の支払いを請求することができますが、自賠責では、治療費、入通院慰謝料などと合わせて120万円までとの上限額が定められています。
一方、労災保険には、このような上限額は設けられていません。
自営業者、主婦、無職者は対象外
労災保険から支払われる休業補償は、自営業者、主婦、無職の人は、原則的に対象外となっています。
ただ、令和6年11月から、フリーランスの方でも、要件を満たせば、労災保険に特別加入することができるようになります。
労災保険に特別加入していれば、業務上又は通勤中に交通事故に遭った場合に、休業補償を受け取ることができます。
労災保険の特別加入については、以下のページをご参照ください。
参考:令和6年11月から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となります|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
交通事故と労災にくわしい弁護士に相談する
以上のように、労災で交通事故に遭ってしまった場合には、交通事故としての対応だけでなく、労災保険との関係での注意点にも気を付けながら対応を進めなければなりません。
このような複雑な対応を自力ですることは、労災や交通事故に関する経験が乏しいご本人には難しく、弁護士などの専門家に依頼する必要性が高くなります。
しかも、交通事故の示談交渉は、弁護士に依頼することで、被害者にとって最も有利な弁護士基準を基礎として交渉を進めることができるようになるため、賠償額において大きく有利になります。
弁護士基準を用いることができるかどうかで、損害賠償額に倍以上の違いが出ることもあるのです。
それに、弁護士に依頼をすれば、会社や交通事故の加害者、保険会社との対応を全て弁護士に任せることができるようになります。
そうすれば、ご本人は、安心して、治療や生活の立て直しに集中することができるようになります。
他にも、弁護士に依頼するメリットとしては、
- 労災申請、後遺障害等級認定申請などのサポートをしてもらえる
- 適切な後遺障害等級認定を受けられることが期待できる
- 適切な過失割合で示談できる可能性が高くなる
- 治療や示談交渉、労災保険に関して生じた疑問や不安について、気軽に相談できる
などといったことが挙げられます。
交通事故、労災について弁護士に相談することのメリット、弁護士を選ぶ際のポイントなどについては、以下のページもご参照ください。
交通事故の休業補償についてのQ&A
有給を使っても交通事故の休業補償はもらえる?
有給休暇を取得した日については、休業補償の対象外となります。
この点は、有給休暇を取得した日も対象とする休業損害とは異なります。
ただ、有休を使えば、休んだ間の給料が100%支払われるなど、労災に休業補償を請求するよりも有利になる点もあります。
休業補償と有給休暇の違い、それぞれのメリット・デメリットについては、以下のページをご参照ください。
主婦の場合、交通事故の休業補償はどうなる?
休業補償は、雇い主から労働の対価としての賃金を受け取っている人が対象となりますので、主婦は対象とされません。
なお、休業損害については、主婦であっても請求することができます(いわゆる「主婦休損」)。
主婦の休業損害については、以下のページをご参照ください。
まとめ
今回は、仕事中などに交通事故に遭った際に受け取ることができる休業補償について解説しました。
仕事中などに交通事故に遭ってしまった場合、労災保険と自賠責保険などを適切に活用しつつ、交通事故問題と労災問題の両方に的確に対処していかなければなりません。
このような対応は専門家でない方には困難であるため、できるだけ早いうちに、交通事故と労災問題の両方にくわしい弁護士を探して、相談・依頼することをお勧めします。
当事務所では、労災問題と交通事故の両者を取り扱う人身障害部を設けています。
人身障害部には、両分野に関する豊富な知識・経験をもった弁護士が多数在籍し、交通事故の休業補償などに関してお困りの皆様のご相談に対応しております。
電話・オンラインでの全国からのご相談にも対応しております。
休業補償などについてお困りの方はぜひ一度、当事務所までお気軽にご相談ください。