交通事故で使える保険とは?種類や補償内容をわかりやすく
交通事故に遭った場合に使える保険には、
- 加害者の自賠責保険
- 任意保険
- 被害者の任意保険(人身傷害保険、搭乗者傷害保険、車両保険、弁護士特約など)
- 健康保険・国民健康保険
などがあります。
業務中又は通勤中に交通事故に遭った場合には、労災保険を使えるケースもあります。
複数の保険を使える場合には、それぞれの保険の特徴を知り、どの保険を優先的に使うと有利になるかを考える必要があります。
今回の記事では、交通事故で使える各種の保険の内容・特徴、加害者が不明な場合に使える保険、交通事故で保険を使う際のポイントなどについて解説していきます。
交通事故で使える保険の種類
交通事故の保険の種類一覧
交通事故に遭った場合に使える保険としては、以下のものがあります。
保険加入者 | 保険の種類 |
---|---|
加害者 | 加害者の自賠責保険 |
加害者の任意保険 | |
被害者 | 被害者の任意保険
|
被害者の健康保険・国民健康保険 | |
被害者の勤務先 | 労災保険 |
加害者の保険
加害者の保険は、「加害者が支払うべき損害賠償金を保険会社が代わりに支払う」という形で活用されます(賠償責任保険)。
加害者の保険で利用することができるのは、
- 加害者の自賠責保険
- 加害者の任意保険
の2つになります。
それぞれの保険の内容、特徴について説明します。
自賠責保険
自賠責保険は、自動車を運転のために使う場合には必ず加入しなければならないと法律上義務付けられている保険です。
そのため、自賠責保険は、強制保険とも呼ばれています。
自賠責保険は、自動車が社会に広く普及する中、その自動車のために事故に遭ってケガをしたり生命を奪われたりしてしまった被害者が全く補償を受けられない、ということがないようにと設けられているものです。
自賠責保険で補償される金額
自賠責保険で補償される金額は、法令で定められた支払基準(自賠責基準)により定められます(自動車損害賠償保障法16条の3第1項)。
自賠責保険からは、自賠責基準による算定額を超える金額は支払われません。
ところが、自賠責基準による算定額は、実際に生じる損害に比べて低くなってしまうことがほとんどです。
自賠責保険は法律によって加入を強制されるものであることから、保険料を上げすぎるわけにもいかない、ということもあり、自賠責保険からの支払額は最低限のものとされているのです。
自賠責保険から支払われる金額には、以下のような上限もあります。
損害の種類 | 支払額の上限 |
傷害部分による損害 | 120万円 |
後遺障害による損害 | 75万円~4000万円 |
死亡による損害 | 3000万円 |
引用元:自動車損害賠償保障法施行令 | e-Gov 法令検索
このように自賠責保険からの支払額が低く抑えられているため、自賠責保険だけでは賠償金の全てをまかなうことができないことが多く、不足分をカバーするため、任意保険にも加入している方が多いです。
自賠責保険の補償範囲
自賠責保険は、人身損害(ケガ、後遺障害、死亡)のみを対象としています。
そのため、物損(車の修理費など)については補償してもらえません。
自賠責保険での過失相殺
自賠責保険からの支払額を算定する際には、被害者の過失が7割未満である場合、過失相殺は行われません。
過失が7割以上の場合でも、以下のように、減額される幅は小さくなっています。
被害者の過失割合 | 減額割合 | |
後遺障害又は死亡の場合 | 傷害のみの場合 | |
7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 | |
9割以上10割未満 | 5割減額 |
自賠責保険から支払われる金額、自賠責保険の特徴などについては、以下のページで詳しく解説しています。
任意保険
任意保険は、交通事故を起こした場合の損害賠償の支払いに備えて、運転者等が任意で加入する保険です。
多くの場合、任意保険に加入すると「対人・対物無制限」の補償に入ることになりますので、人身損害についても物的損害についても補償の対象となります。
支払額についても、「対人・対物無制限」の補償に加入していれば、上限額はありません。
そのため、自賠責保険ではカバーできない損害についても、任意保険で補償してもらうことができます。
任意保険から支払われる金額
任意保険には、自賠責基準のような法律上決められた支払基準はありません。
任意保険の算定基準としては、任意保険会社が内部で定めている算定基準(任意保険基準)があります。
しかし、自賠責保険の場合と違い、「任意保険基準を超える賠償金は支払わない」という仕組みにはなっていません。
実際、被害者側が弁護士を付けて示談交渉をすると、被害者にとって最も有利な弁護士基準による算定額をベースに示談交渉が行われることになり、示談内容も、任意保険基準による算定額よりも高額の賠償金を支払う内容になることが多いのですが、このような場合にも、任意保険会社は、賠償金全額を補償してくれます。
ただ、任意保険では、両当事者の過失割合に従って過失相殺がなされますので、被害者の過失が大きいと、受け取れる保険金が大幅に下がってしまう可能性があります。
任意保険会社から支払われる金額については、以下のページもご参照ください。
自賠責保険と任意保険の特徴、違い、どちらを優先的に使うべきかについては、以下のページで解説しています。
被害者の保険
交通事故では、被害者自身の保険を使うことも可能です。
被害者自身の保険で交通事故の際に使えるものには、以下のようなものがあります。
人身傷害保険
人身傷害保険は、任意保険に付帯しているもので、加入していれば、自分が交通事故に遭ってケガをした場合などに、それにより受けた損害額の分の保険金を受け取ることができるという内容の保険です(契約で定められた上限額あり)。
人身傷害保険の大きな特徴は、受け取ることができる金額に、保険加入者の過失割合が影響しないという点です。
そのため、
- 被害者の過失割合が大きく加害者から受け取れる賠償金が少ない場合
に、被害者が人身傷害保険に入っていれば、過失相殺により減額された分を補うことができます。
ただ、人身傷害保険では、実際の損害額を算定した上で保険金が支払われますので、保険金を受け取れるまでに時間がかかります。
人身傷害保険については、以下のページでもご紹介しています。
搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険は、任意保険に付帯するもので、任意保険の対象となっている車両に乗っていた時に起きた事故で死傷した人(運転者も含む)がいる場合に保険金が支払われるという内容の保険です。
搭乗者傷害保険では、実際の損害を算定することなく、「被害者が死亡した場合は○○円、腕の骨折なら通院日数1日につき○○円、入院日数1日につき○○円」といったように、定額方式で保険金が支払われます。
人身傷害保険との関係・共通点
搭乗者傷害保険は、人身傷害保険と同じく、自動車に乗っている際の事故でケガをした場合に保険金が支払われるものです。
搭乗者傷害保険と人身傷害保険の両方に加入している場合、搭乗者傷害保険の保険金は、人身傷害保険とは別に計算され、支払われます。
そのため、搭乗者傷害保険の保険金を受け取ったからといって、人身傷害保険からの支払額が減らされることはありません。
また、人身傷害保険も搭乗者傷害保険も、保険金を請求する人の過失割合によって、支払われる保険金の額が影響を受けることはありません。
人身傷害保険との違い
人身傷害保険では、損害額を確定する必要があるため、原則として、保険金を受け取れるのは治療が終了した後となり、保険金の受け取りまでに時間がかかります。
一方、搭乗者傷害保険に加入していれば、損害額とは関係なく支払額が算定されるので、事故後比較的早期に保険金を受け取ることができます。
さらに、搭乗者傷害保険の保険金は、保険加入者が支払った保険料の対価であり損害の填補とは異なりますので、損益相殺の対象とならず、搭乗者傷害保険の保険金を受け取ることで加害者への損害賠償請求権が減額されることはありません。
一方、人身傷害保険の保険金は、交通事故による損害を填補するために支払われるものなので、損益相殺の対象となり、人身傷害保険を受け取った分、加害者に請求できる損害賠償額は減少してしまいます。
損益相殺についての解説と損益相殺の対象となる保険については、以下のページをご参照ください。
搭乗者傷害保険の説明、請求できるケースなどについては、以下のページをご参照ください。
無保険車傷害保険
無保険車傷害保険は、交通事故の相手方が任意保険に入っていない、又は、任意保険には入っていたものの、補償内容が十分でない、といった理由で、相手方から十分な賠償を受けることができない場合に、不足分を自分が加入している保険会社から支払ってもらえるという内容の保険です。
無保険車傷害保険は、ひき逃げのように加害者が不明の場合にも、利用することができます。
無保険車傷害保険を利用できるのは、被害者が死亡した場合か被害者に後遺障害が残った場合になります。
なお、交通事故の相手方が無保険の場合に取るべき対応については、以下のページでも詳しく解説しています。
車両保険
任意保険に加入する際には、車両保険を付けることも多くあります。
車両保険を利用すれば、過失相殺によって自分で負担しなければならなくなった自分の車の修理費を、保険会社に支払ってもらうことができます。
車両保険は、交通事故の場合だけでなく、落書きなどのいたずら、盗難、台風・洪水などの自然災害(地震・噴火・津波を除く)の場合などにも利用できます。
さらに、契約内容によっては、自損事故や加害者不明の場合にも使うことができます。
ただ、車両保険を利用すると、保険の等級(ノンフリート等級)が下がり、翌年以降の保険料が上がってしまいます。
そのため、車両保険を利用するかどうかは、修理費用等と等級が上がることにより増える保険料の額を比較するなどして検討する必要があります(なお、交通事故により等級が下がり、保険料が上がるからといって、その分を加害者に損害賠償として請求することはできません。)。
車両保険の内容、保険料が増額することなどについては、以下のページをご参照ください。
弁護士特約
任意保険で弁護士費用特約(弁護士特約)に加入していれば、交通事故に遭った際に弁護士に相談・依頼するための費用を保険会社に支払ってもらうことができます(契約によって、300万円程度の上限額あり)。
任意保険に加入している方には、弁護士特約にも加入している方が多くいらっしゃいます。
また、自分では弁護士特約に加入していない場合でも、家族が加入していれば、弁護士特約を使うことができます。
交通事故では、弁護士に依頼して示談交渉を進めるかどうかで得られる賠償額に大きな違いが出る場合もありますので、弁護士特約を使って費用を気にせず弁護士に依頼できると、大変有利になります。
交通事故に遭った場合には、早いうちに、使える弁護士特約があるかどうか確認してみてください。
なお、弁護士特約を使っても、保険の等級が下がることはありません。
弁護士特約については、以下のページで詳しく解説しています。
健康保険
交通事故によってケガをした場合も、健康保険・国民健康保険を利用することができます。
健康保険・国民健康保険を使えば、病院で支払う治療費の自己負担率が3割で済みます。
健康保険・国民健康保険では過失相殺は行われませんので、被害者の過失割合にかかわらず、自己負担率は3割となります。
なお、「交通事故の場合には健康保険などは使えない」と病院の窓口で言われることがありますが、そのようなことはありません。
厚生労働省・通達「保国発0809第2号」平成23年8月9日、旧厚生省・通達「保険発106号」昭和43年10月12日で、交通事故での治療に健康保険が使えるとの指導も出されています。
健康保険では、傷病手当金を受け取れる可能性もあります(国民健康保険では、交通事故の場合に傷病手当金はありません。)。
傷病手当金は、病気やケガによって休業を余儀なくされ、給料をもらえなくなった場合に支払われます。
傷病手当金に関する詳細は、以下のページをご参照ください。
交通事故でのケガの治療に健康保険を使う場合は、健康保険の保険者(保険組合、市町村など)に「第三者行為による傷病届」を提出する必要があります。
交通事故によるケガの治療に健康保険を使えること、その場合の注意点については、以下のページで詳しく解説しています。
労災保険
業務中又は通勤中に交通事故に遭った場合は、労災保険を使うことができます。
交通事故が労災に該当する場合は、「第三者行為災害届」を提出し、労災保険を受給することになります。
労災保険からは、次のような給付を受けることができます。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 傷病(補償)給付
- 障害(補償)給付
- 介護(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料(葬祭給付)
なお、労災保険の対象となる場合は、健康保険は使うことができません。
労災保険の特徴
労災保険では、自賠責保険と違い、支払額に上限がありません。
そのため、自賠責保険の上限を超える額の損害についても、労災保険であれば補償してもらえます。
労災保険には、過失相殺が行われないという特徴もあります。
そのため、7割以上の過失が被害者にあり、自賠責保険だと過失相殺が行われる場合には、自賠責保険に請求するよりも労災保険に請求する方が有利になる可能性があります。
自賠責保険などとの関係
労災保険と加害者の自賠責保険から、二重に保険金を受け取ることはできません。
労災保険から給付を受けると、自賠責保険との間で支給調整が行われ、自賠責保険から受け取れる給付が減らされます。
たとえば、損害賠償での休業損害に相当する休業(補償)給付を労災保険から受け取ってしまうと、その分、自賠責保険に請求できる休業損害の額を減らされてしまうのです。
自賠責保険を先に受け取った場合も同様です。
さらに、労災保険から給付を受けると、加害者への損害賠償請求権自体も、損益相殺により、支給調整の場合と同様に減額されることになります。
労災保険と自賠責保険のどちらを先に請求する?
自賠責保険と労災保険の両方を利用できる場合は、まずは労災保険から請求することが多いです。
上で見たとおり、労災保険には、上限額がない、過失相殺も行われないなど、被害者にとって有利な点があるためです。
ただ、被害者が死亡した場合や後遺障害が残った場合には、後遺障害慰謝料についても補償してもらえることなどから、自賠責保険に先に請求することが多いです。
とはいえ、労災保険には自賠責保険などに上乗せして受け取ることができる特別支給金(休業特別給付金、障害特別支給金、傷病特別支給金、遺族特別支給金など)がありますので、自賠責保険への請求と並行して(又は後から)労災保険への請求も行うことが多いです。
加害者が不明な場合の補償はどうなる?
ひき逃げなどで加害者が不明な場合、加害者の保険(自賠責保険、任意保険)を使うことはできません。
しかし、加害者が不明な場合でも、治療のために健康保険や国民健康保険を使うことはできます。
また、通勤中、業務中の事故であれば、労災保険を使える可能性もあります。
労災保険が使用できる場合には、健康保険や国民健康保険は使用できません。
被害者自身が加入している任意保険についても、人身傷害保険、車両保険など、加害者不明の場合でも利用できる補償があります(ただし、契約内容によっては利用できない場合もあります。)。
被害者自身の任意保険で無保険車傷害保険に加入している場合も、任意保険から、損害賠償額を補償してもらえる可能性があります。
ほかにも、加害者が不明な場合又は自賠責保険に加入していない場合に活用できる、政府保障事業による被害者救済制度もあります。
政府保障事業を利用できれば、加害者の自賠責保険からの補償と同等の補償を受けることができます。
参加:政府保障事業|国土交通省
加害者が不明な場合に使える保険については、以下のページでも詳しく解説しています。
交通事故の保険のポイント
①請求できる保険の種類・特徴を知る
交通事故に遭った際に使える保険には、ここまでご説明したとおりたくさんの種類があります。
これらの保険から最大限有利に補償を受けるためには、請求できる保険の種類やそれらの特徴(補償の内容、上限額の有無、過失相殺の有無、算定基準、支払時期など)を知り、適切に利用していく必要があります。
②保険金の請求にも時効がある
交通事故での保険金の請求にも、時効があります。
自賠責保険・任意保険であれば3年、労災保険であれば、給付の種類によって2~5年で時効が成立します。
交通事故で保険金を請求する場合は、なるべく早く請求しましょう。
③交通事故に強い弁護士に相談する
交通事故に遭うと、どのように保険を使うかだけでなく、治療の進め方、後遺障害等級認定申請への対応、賠償額の相場の見積もりなど、専門知識を要する問題がたくさん出てきます。
そのため、交通事故に遭ってしまった場合には、なるべく早く、交通事故に強い弁護士に相談することをお勧めします。
交通事故に強い弁護士に相談すると、以下のようなメリットがあります。
- 被害者に最も有利な弁護士基準による算定額によって示談交渉を進めることができるため、賠償金の増額が期待できる
- 後遺障害等級について適切な認定を受けられる可能性が高くなる
- 各種の保険会社や加害者側との交渉窓口を任せることができる
- 後遺障害等級認定のための被害者請求などへの対応も任せることができる
- 治療中、示談交渉中の疑問、不安などについて手軽に相談できる
- 適切な過失割合で解決できることが期待できる
交通事故問題を弁護士に依頼するメリット、交通事故に強い弁護士の選び方については、以下のページで詳しく解説しています。
交通事故の保険についてのQ&A
事故で保険の二重取りはできますか?
実際に生じた損害額までしか保険金を受け取ることができませんので、保険の二重取りはできません。
自賠責保険、加害者の任意保険、政府保障事業、被害者が加入している人身傷害保険、無保険車傷害保険、健康保険(傷病手当金を含む。)、労災保険(特別支給金を除く。)といった保険については、全て合わせても実際に生じた損害額までしか保険金を受け取ることができませんので、保険の二重取りはできません。
一方、以下の保険からは、上の各保険とは関係なく、別に保険金を受け取ることができます。
- 搭乗者傷害保険
- 労災保険の特別支給金
(休業特別給付金、障害特別支給金(年金・一時金)、傷病特別支給金(年金・一時金)、遺族特別支給金(年金・一時金)など) - 生命保険・傷害保険
まとめ
今回は、交通事故に遭った場合に使える保険の内容・特徴などについて解説しました。
交通事故に遭うと、金銭的にも大きな損害を被ることが多いので、使える保険は的確に使い、十分な補償を確保することが大切です。
交通事故での保険の使い方に疑問がある場合は、なるべく早く、交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。
当事務所でも、交通事故事件を集中的に扱う交通事故チームを設けており、このチームに所属する交通事故の経験が豊富な弁護士が、交通事故に遭った場合の保険の使い方についての皆様からのご相談をお受けしております。
全国からのお電話・オンラインによるご相談にも対応しています。
交通事故での保険の使い方についてお悩みの方は、ぜひ一度、当事務所までお気軽にご連絡ください。