もらい事故で得する方法がある?泣き寝入りしないための知識
もらい事故で得をする方法、というものは、存在しません。
もちろん、もらい事故の被害にあった場合は、被った損害に対する賠償金を受け取ることはできます。
しかし、これにより得られる賠償金は、あくまで生じた損害を補償するためのものであり、これにより利益を得られる、得をするといったものではありません。
今回は、もらい事故とは何か、もらい事故にあった場合に請求できる損害賠償の内容、もらい事故で泣き寝入りしないためのポイントについて解説していきます。
もらい事故で得する方法がある?
もらい事故にあった場合に得をする方法というものは、特にありません。
適正額以上の賠償金を得ようとすると、どこかで無理が生じ、逆に賠償額を減らされるなど不利な状況になることもあります。
交通事故の損害賠償を請求する際は、適正額の賠償金を得られるようにすることが最も大切です。
通院回数を増やすことで慰謝料を稼げる?!
事故でケガをした場合、通院期間や通院日数に応じて入通院慰謝料が支払われます。
そのため、中には、「頻繁に通院することで、より高額な入通院慰謝料を獲得できるのではないか」と考える方がおられます。
しかし、必要以上に頻繁に通院しても、入通院慰謝料が増えることはありません。
入通院慰謝料は、週に2回程度通院していれば最大化されるので、それ以上に通院しても、増額することはありません。
むしろ、毎日のように通院してしまうと、加害者側から「それほど頻繁に通院する必要があるのか」と疑われ、治療費の一部を損害賠償に含めることを拒否されたり、加害者側の保険会社から病院に直接治療費を支払っている対応(一括対応)を早めに打ち切られたりしてしまうおそれがあります。
頻繫に通院することで慰謝料を稼ごうという考えは、やめましょう。
もらい事故とは?
もらい事故とは、被害者には全く過失がなく、一方的に加害者の過失によって引き起こされた事故のことをいいます。
加害者にのみ過失があるため、過失割合は、加害者10:被害者0となります。
もらい事故の典型的な例は、次のようなものです。
- 赤信号で停車している時に、後ろから追突された
- 青信号で走行していたら、赤信号を無視した車に衝突された
- 対向車がセンターラインをオーバーしてきたために正面衝突した
もらい事故の場合、被害者には過失はありませんので、過失相殺を受けることなく、生じた損害の全額について賠償を受けることができます。
また、被害者から加害者に損害賠償を支払う義務も一切ありません。
もらい事故については、以下のページもご参照ください。
もらい事故で請求できるものとは?
もらい事故にあった場合、加害者に対し、事故により生じた損害の賠償を請求することができます。
損害賠償として請求できる項目は、主に以下のようになります。
慰謝料
慰謝料は、交通事故によるケガ、後遺障害、死亡などのために被った精神的苦痛を償うために支払われます。
交通事故の慰謝料には、生じた被害に応じて、次の3種類があります。
- 死亡慰謝料(被害者が死亡した場合に発生する)
- 後遺障害慰謝料(被害者に後遺障害が残った場合に発生する)
- 入通院慰謝料(被害者がケガをして入通院した場合に発生する)
死亡慰謝料は、被害者の家族内での立場に応じて、2000万円~2800万円程度となります。
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級に応じて決まり、110万円~2800万円程度となります。
入通院慰謝料は、入通院した期間やケガの程度に応じて決まります。
入通院慰謝料の算定表は、以下のページをご覧ください。
それぞれの慰謝料の詳しい内容や金額は、以下のページをご覧ください。
逸失利益
逸失利益は、交通事故により死亡したり後遺障害が残ったりした場合に、事故がなければ得られたはずの収入を補償するものです。
逸失利益には、死亡逸失利益と後遺障害逸失利益があります。
それぞれの逸失利益の計算式は、以下のようになります。
- 死亡逸失利益
基礎収入 × (1 - 生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
- 後遺障害逸失利益
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
上の式にある「生活費控除率」は、死亡せずに生きていれば必要となった生活費を逸失利益から控除するために用いられるものです。
生活費控除率は、性別、年齢、家族関係などによって変わり、30%~70%程度の間で定められます。
労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて決まります。
就労可能年数、労働能力喪失期間は、原則として、死亡時又は症状固定時から67歳までの年数です。
逸失利益の詳しい算定方法、早見表などは、以下のページをご覧ください。
休業損害
休業損害は、事故によるケガの治療のために仕事を休まざるを得なくなり、減少してしまった収入のことです。
休業損害は、「基礎収入(日額) × 休業日数」の計算式により計算します。
有給休暇を利用した日についても、休業損害が発生します。
休業損害については、以下のページもご参照ください。
積極損害(治療費など)
積極損害とは、交通事故により支出することが必要になった費用のことをいいます。
積極損害の主なものには、主に次のようなものがあります。
- 治療費
- 入院雑費
- 付添費用
- 通院交通費
- 装具代
- 葬祭費
- 弁護士費用
積極損害に関する詳しい説明は、以下のページをご覧ください。
車の修理代
もらい事故で車が破損した場合、加害者に対し、車の修理代を請求することができます。
車の修理代を請求できる場合には、併せて、事故の影響による車の評価額の下落分(評価損)の賠償も求めることができます
ただし、修理代が車の時価額と買替費用(消費税、登録手数料など)の合計額を上回る場合には、経済的全損とされ、修理代を請求することは認められなくなります。
この場合、加害者に対しては、買替差額(事故時の車の時価相当額と事故後の車の売却価格の差額)を請求することになります。
車が破損した場合の損害賠償の内容については、以下のページでも解説しています。
自分の保険からの見舞金
被害者自身の任意保険で搭乗者傷害保険に加入していた場合、もらい事故でケガをすると、定額で保険金が支払われます。
この搭乗者傷害保険からの保険金を、「見舞金」ということがあります。
この搭乗者傷害保険からの「見舞金」は、損害額とは関係なく定額で支払われるものであり、損害を填補する性質のものではないので、受け取ったとしても、加害者に請求できる損害賠償額が減ることはありません。
「見舞金」の金額は契約内容やケガの部位、程度によりそれぞれですが、5~10万円となることが多いです。
搭乗者傷害保険からの「見舞金」については、以下のページもご参照ください。
もらい事故で泣き寝入りしないための8つのポイント
警察への通報を怠らない
もらい事故にあったら、きちんと警察に通報しましょう。
軽い事故であっても、事故を起こした限りは、加害者と被害者双方に警察に通報する義務があります。
警察への通報を怠ってしまうと、交通事故証明書が発行されなくなり、交通事故があったことを公的に証明することができなくなるため、保険会社に保険金を請求することが難しくなるおそれがあります。
事故状況に関する証拠を確保する
警察への通報を済ませたら、事故状況を示す証拠を押さえておきましょう。
事故状況を示す証拠として、まず重要になるのがドライブレコーダーの画像です。
ドライブレコーダーが故障していない場合は、映像が上書きされてしまわないように、画像を保存しておきましょう。
ドライブレコーダーが破損している場合は、画像が保存されているSDカードなどを確保しておきましょう。
他にも、
- 現場の状況(スリップ痕、移動させる前の車の位置、タイヤの向きなど)や双方の車両の破損状況を写真に撮る
- 目撃者を探し、警察に見たことを話すようお願いする(可能であれば、氏名、住所、連絡先(電話番号、LINEなど)を聞いておく)
- 現場周辺に監視カメラがあれば、警察に画像を確保してもらうよう依頼する
といった方法によって証拠を確保することが考えられます。
警察官には自分の主張・認識をはっきり伝える
警察官が到着すると、現場の実況見分や事故当事者への聴き取りが行われます。
この時には、事故の状況についての自分の認識をはっきりと主張するようにしましょう。
こうした聴き取りの際、警察官から、「加害者は○○と言っているが、そうだったのではないか?」などと言われることがあるかもしれません。
この時に、うっかりと「もしかしたらそうだったかもしれない・・・」などと言ってしまうと、場合によっては、その後の捜査が加害者の言い分を前提に進められてしまうかもしれません。
そうなると、後になって、「やはり自分は△△という事故状況だったと記憶している」と言っても、もはや加害者の言い分を前提に捜査が進んでおり、聞き入れてもらえなくなるおそれがあります。
警察官と話す時には、自分の認識をきっちりと主張することが大切です。
もし記憶がはっきりしない、上手く話せない、という場合には、「今すぐにははっきり思い出せない(上手く話せない)ので、後で改めて説明する」などと伝えるようにし、あいまいなこと、相手や警察官の言い分に合わせたようなことは言わないように気を付けましょう。
自分が加入している保険会社にも連絡する
現場での対応が終わったら、なるべく早いうちに、自分が加入している任意保険会社に連絡しておきましょう。
もらい事故の被害者の中には、「もらい事故ではこちらに賠償責任はないのだから、自分の任意保険を使う必要はなく、保険会社に連絡する必要もない」と考える方もおられます。
しかし、ご自身ではもらい事故だと思っていても、加害者と交渉を重ねる中で、被害者の側でも一定の過失は認めざるを得なくなることもあります。
そのようなことになってから初めて自分の任意保険会社に連絡すると、保険会社から、「なぜこんなに遅くなってから連絡をするのか」と怪しまれ、保険をスムーズに利用できなくなる、保険金を減額されたり支払いを拒否されたりする、といったおそれがあります。
それに、自分の過失はゼロの場合でも、自分の任意保険で車両保険、人身傷害保険、搭乗者傷害保険、レンタカー費用特約、弁護士費用特約などに加入していれば、それらを利用することができます。
こうした保険を使う場合にも、事故後なるべく早く連絡しておいた方が、スムーズに対応してもらえます。
事故後はなるべく早く病院を受診する
もらい事故の被害にあってしまったら、事故後数日のうちには病院を受診し、ひととおり検査を受けるようにしましょう。
痛みなどの症状がなくとも、ケガをした可能性がある、身体に違和感がある、といった場合には、念のためにひととおりの検査を受けることが大切です。
実は、交通事故のケガでは、事故後しばらく痛みなどの症状が出ない場合も少なからずあります。
そのため、「ケガをしたかもしれないが、痛みなどが出てきてから受診すればいいだろう」と考えていると、病院に行くのが遅れてしまいます。
そうして事故後に病院を受診するのが遅れてしまうと、加害者側から、「交通事故で負ったケガではなく、事故後に他の原因によって生じたケガなのではないか」などと、事故とケガの因果関係を疑われ、示談交渉が円滑に進まなくなったり、損害賠償を減額されたりするおそれがあります。
示談代行サービスを使えないことに注意!
交通事故の当事者になった場合、多くの方が、任意保険会社の示談代行サービスを利用します。
示談代行サービスを利用すると、自分が支払うべき損害賠償に関する示談交渉を保険会社が代わりに行ってくれます。
保険会社は、加入者の損害賠償義務がどのようになるかによって自社が負担する損害賠償の内容も影響を受けるので、自らも示談交渉に利害関係をもっている、として、示談交渉に関わってくるのです。
示談代行サービスの内容、注意点については、以下のページをご覧ください。
ところが、もらい事故の場合、被害者は全く損害賠償を支払う義務を負わないので、保険会社は示談交渉に関与する余地がありません。
そのため、もらい事故の被害者は、示談代行サービスを利用することができないのです。
示談代行サービスを利用できないと、被害者は自ら加害者又は加害者側の任意保険会社と交渉しなければならず、時間的・精神的負担が重くなります。
それに、加害者が保険会社や弁護士に示談交渉を任せている場合、被害者本人で対応していると、交通事故問題に詳しい弁護士や保険会社を相手にすることになるので、どうしても不利になります。
そのため、もらい事故の被害にあってしまった場合は、早いうちから交通事故にくわしい弁護士に相談し、対応を依頼することがとても重要になります。
弁護士に依頼すれば、弁護士が依頼者に代わって交渉窓口になり、加害者側の弁護士や保険会社とも対等以上の立場に立って交渉を進めてくれます。
示談内容については一度弁護士に相談する
交通事故の示談交渉では、加害者側の任意保険会社から示談案を示されることが多いです。
保険会社から示談案を示されると、「交通事故問題を数多く取り扱っている保険会社が出してくる案だから、妥当なものなのだろう」と思う被害者の方が多くおられます。
しかし、残念ながら、実際にはそうとは限りません。
加害者側の任意保険会社が提示している示談案は、自社の内部で定めている支払基準(任意保険基準)に基づいて算定されていることがほとんどです。
この任意保険基準による算定額は、裁判や弁護士が携わる示談交渉の際に用いられる弁護士基準での算定額に比べると、低い額に抑えられていることが多いのです。
そのため、保険会社の示してきた示談案をそのまま受け入れてしまうと、弁護士基準で算定していれば得られたはずの賠償金を得られなくなってしまいます。
弁護士基準での算定額と任意保険基準での算定額では、倍以上の違いがあるケースもありますので、よく調べないままに示談をしてしまうと、後悔することになりかねません。
示談案に同意する前には、一度交通事故にくわしい弁護士に相談し、加害者側が示してきた示談案が適切なものか確かめてもらうようにしましょう。
特に、示談書にサインをしてしまうと、「示談契約」が成立してしまいますので、補償内容が不十分なものであっても覆すことは難しくなってしまいます。
弁護士への相談は、必ず示談書にサインする前に行いましょう。
交通事故に強い弁護士に相談する
もらい事故の被害者になった場合は、なるべく早く、弁護士に相談しましょう。
既にご説明したとおり、もらい事故の場合、任意保険会社の示談代行サービスを利用できないので、通常の場合以上に弁護士に対応を依頼する必要性が高くなります。
交通事故に強い弁護士に相談・依頼することには、次のようなメリットもあります。
- 被害者に最も有利な弁護士基準による算定額によって示談交渉を進められる
- 加害者側の保険会社との交渉窓口になってもらえる
- 賠償金の適正額はいくらかについてアドバイスしてもらえる
- 治療中、示談交渉中の疑問・不安について気軽に相談できる
- 治療費打ち切りへの対応、後遺障害等級認定の申請などをサポートしてもらえる
交通事故について弁護士に相談・依頼することのメリット、交通事故に強い弁護士の選び方などについては、以下のページもご参照ください。
もらい事故で得する方法についてのQ&A
事故の慰謝料を多く取る方法はありますか?
被害者に生じた損害が通常より大きい場合としては、次のようなケースが考えられます。
- 被害者が妊娠中であった
- 被害者や被害者の近親者が事故を原因に精神疾患を発症した
- 事故により解雇、退職、退学、離婚などに至った
- 家族内における被害者の立場(一人っ子、幼児の両親など)のために周囲の受けた影響が大きかった など
当事務所の取扱い事例で、被害者が妊娠中だったために慰謝料を増額させることができたケースを、以下のページでご紹介しております。
加害者に故意又は重過失がある場合としては、次のようなものが挙げられます。
- 意図的に交通事故を起こした
- 無免許運転
- ひき逃げ
- 酒酔い運転
- 著しいスピード違反
- スマホを見ながらの運転 など
加害者に著しく不誠実な態度がある場合としては、次のようなものが挙げられます。
- 嘘をついて被害者に責任をなすりつけた
- 証拠を隠滅しようとした
- ひき逃げをした など
以上のような事情がない場合は、もらい事故であるという理由だけで、慰謝料を増額させることは難しいです。
慰謝料が増額されるケースについては、以下のページもご参照ください。
もらい事故はラッキーですか?それとも損ですか?
確かに、もらい事故であれば、過失相殺を受けることなく、まとまった金額の賠償金を得ることができますので、一見ラッキーなように思われるかもしれません。
しかし、もらい事故といえども事故にあえば、現場で警察官を待って対応しなければならない、加害者側の保険会社や自分が加入している保険会社とも適宜やり取りをしなければならない、車の修理や代車も手配しなければならない、ケガをしていれば治療しなければならない・・・など、さまざまの面倒や不利益を被ります。
もらい事故といえども、交通事故にはあわない方がよい、と考えた方が良いでしょう。
まとめ
今回は、もらい事故にあった場合の損害賠償の内容、もらい事故への対応のポイントなどについて解説しました。
もらい事故の被害者は、相手方に対する賠償義務はなく、一方的に賠償金を受け取ることができる立場になります。
しかし、これにより得られる賠償金はあくまで生じた損害を補償するものであって、もらい事故により得することができるわけではありません。
もらい事故で得をしようとして頻繁に通院するなどといったことをすると、余計にかかった治療費については自己負担になるおそれがあるなど、むしろ損をしてしまいかねません。
このように、「もらい事故で得する方法を見つけた!」などと思って行動すると、思わぬトラブルに発展する可能性もあります。
もらい事故にあった場合は、得をしようとするのではなく、「適切な額の賠償金」を確保するように努めることが大切です。
もらい事故の被害にあった場合には、保険会社の示談代行サービスも使えませんので、適切な額の賠償金を確保するためにも、早いうちに交通事故にくわしい弁護士に相談し、対応を依頼することをお勧めします。
当事務所でも、多数の交通事故事件を扱い豊富な経験を積んだ交通事故チームの弁護士たちが、もらい事故にあわれた方へのサポートを行っております。
電話・オンラインによる全国からのご相談もお受けしております。
もらい事故にあわれた方はぜひ一度、当事務所までお気軽にご相談ください。