損益相殺とは?弁護士がわかりやすく解説
損益相殺とは、被害者またはその相続人が事故に起因して何らかの利益を得た場合、利益が損害の補てんであることが明らかなときは、その利益を損害から控除(差し引くこと)を言います。
損害賠償制度の趣旨は、損害の公平な分担にあるため、事故によって被害者が「二重取り」するということがないようにされています。
損益相殺として減額される受取金
控除される受取金を紹介します。
- ① 受領済の自賠責保険金や政府保障事業のてん補金
- ② 支給が確定した各種社会保険の給付金
- ③ 受領済の所得補償保険金
- ④ 健康保険法に基づく給付金
- ⑤ 人身傷害保険
- ⑥ 加害者による弁済
支給が確定した各種社会保険の給付金
遺族年金について、支給が確定した遺族年金の限度額で、加害者に対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべきものである(最判H5.3.24)と判断されました。
これをうけ、将来支給の受けることが確定した給付額の限度で
- ① 地方公務員共済組合法に基づく遺族年金
- ② 労働災害補償保険法に基づく障害年金
- ③ 厚生年金法に基づく障害厚生年金
- ④ 国民年金法に基づく障害基礎年金
- ⑤ 国家公務員共済組合法に基づく遺族共済年金
- ⑥ 介護保険法に基づく給付
上記給付金の控除が認められるようになりました。
健康保険法に基づく給付金
第三者(加害者)へ損害賠償請求権を代位取得するため、控除を認めています(神戸地判H6.12.9)。
人身傷害保険
人身傷害保険について、詳しくはこちらへどうぞ。
加害者による弁済
加害者から直接弁済を受けている場合は、当然のことながら、その分は控除されます。
損益相殺として減額されない受取金
控除されない受取金を紹介します。
- ① 自損事故保険金
- ② 搭乗者傷害保険金生命保険金
- ③ 生命保険金
- ④ 傷害保険金
- ⑤ 労災保険上の特別支給金
- ⑥ 失業保険金
- ⑦ 生活保護法による扶助費
- ⑧ 社会的儀礼相当額の香典・見舞金
- ⑨ 雇用対策法に基づく職業転換給付金
- ⑩ 特別児童福祉扶養手当
- ⑪ 介護扶養の公的扶助
- ⑫ 身体障害者福祉法に基づく給付
- ⑬ 独立行政法人自動車事故対策機構法に基づく介護料
- ⑭ 未受給の各種社会保険給付金
自損事故保険金
自損事故保険金額は、実際に生じた損害額とはかかわりなく、定額とされているうえ、保険約款上、保険者代位の規定が排除されていることを理由に、自損事故保険金額を損害賠償額から控除することを認めていません(東京高判S59.5.31)。
搭乗者傷害保険金
保険会社が被保険者に保険金を支払った場合でも、第三者(加害者)へ損害賠償請求権を代位取得する定めがなく、被保険者が被った損害を填補する性質のものではないとして控除を認めていません(最判H7.1.30)。
生命保険金
生命保険の給付金は支払った保険料の対価であるため、交通事故とは関係なく支払われるものとされ、控除を認めていません(最判S39.9.25)。
傷害保険金
支払った保険料の対価として給付されるため控除を認めていません(京都地判S56.3.18)。
労災保険上の特別支給金
第三者(加害者)へ損害賠償請求権を代位取得する定めがないため、以下の給付金について裁判例で控除を認めませんでした。
②障害特別支給金
③傷害特別年金
④傷病特別年金
⑤遺族特別年金
⑥遺族特別一時金
⑦遺族特別支給金
⑧就学等援護費
⑨福祉施設給付金
⑩労災援護給付金
失業保険金
失業者の生活の安定を社会保険制度であり、損害の補てんを目的としていないため控除を認めていません(東京地判S47.8.28)。
社会的儀礼相当額の香典・見舞金
- ① 香典30万円の場合は控除を認めました(大阪地判H5. 2.22)
- ② 企業の業務災害特別支給規定に基づき事故の被害者に支給した見舞金(1万円)、および傷害見舞金(50万円)は控除されませんでした(岡山地判H9.11.25)
未受給の各種社会保険給付金
最高裁によって遺族年金について、いまだ支給を受けることを確定していない遺族年金の額についてまで限度額から控除することを要しない(最判H5.3.24)と判断され、未受給の各種社会保険給付金に及びようになりました。
まとめ
損益対象の対象かどうかは、結局は、損害と利益との間に同質性があり、その利益の取得によって被害者側の損害が補填されてかどうかが重要な考慮要素になります(最判H5.3.24)。
どのような給付金が損益相殺の対象となるか、専門的な知識がないと判断が難しいところです。
損益相殺にお悩みでしたら、一度弁護士に相談されることをお勧めします。