物損事故で損害賠償できる内容は?【弁護士が解説】
車両の修理費用、車両の買替費用、代車使用料、評価損、休車損害、その他損害(レッカー費用など)などがあります。
この記事でわかること
- 物損事故で損害賠償できる内容について
- 代車使用料、評価損、休車損害などの請求にあたっての留意事項
- 物損の慰謝料について
物損事故で賠償できる内容
物損事故で損害賠償請求できる項目は、以下のとおりです。
- 車両本体の賠償
- 車両の買い替え費用
- 代車使用料
- 評価損
- 休車損害
- その他損害(レッカー費用など)
以下、それぞれについて解説します。
車両本体の賠償
交通事故により、車が損傷した場合には、その修理費用を請求することができます。
もっとも、「修理費用額」が「車の時価額 + 買い替え費用の合計額」よりも高額になる場合には、「時価額 + 買い替え費用の合計額」までしか請求することが出来ません。
つまり、修理費用が50万円かかる場合で、車の時価額 + 買い替え費用の合計額が30万円にとどまる場合には、30万円しか賠償として認められないのです。
したがって、車両本体への賠償額を考えるにあたっては、修理費用と時価額の算定が重要なポイントになります。
修理費用の確定までの流れ
修理費用の確定にあたっては、まず、自動車の修理工場の担当者が修理費用の見積りを出します。
その見積もりを踏まえて、相手保険会社の技術者であるアジャスターが、車両の損傷状態などを確認して、修理工場の担当者と修理費用の交渉を行います。
こうした交渉を、「協定」や「協定作業」と呼ばれています。
協定により、交通事故によって破損した範囲を確定し、加害者が賠償すべき修理費用が決定します。
多くの場合、協定によって修理費用額は確定しますが、協定に不審な点があれば、被害者は、その点を指摘して修理費用額について争うことは出来ます。
加害者が任意保険に加入していない場合には、被害者自身で修理工場に見積もりを取り、その見積額を修理費用として考えます。
もっとも、見積書に信憑性がない場合には、加害者から修理費用の減額を主張される可能性はあります。
時価額の算定方法
車両の時価額について、最高裁判例は、「原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離などの自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額」(最二小判昭和49年4月15日民集28巻3号385頁)であると判示しています。
したがって、時価額の算定にあたっては、中古車市場価格を参考にすることになります。
中古車市場価格は、以下を参考に算定します。
- オートガイド社自動車価格月報(レッドブック)
- 中古車価格ガイドブック(イエローブック)
- インターネットの中古車販売価格
レッドブックやイエローブックの価格は、インターネット上の中古車販売価格よりも低額である傾向があるため、インターネット上の中古車販売価格を参考にして時価額を算出したほうが被害者としては有利になる場合が多いでしょう。
車両本体の賠償額の確定
上記の流れで確定した修理費用額と時価額に買い替え費用(下記で説明)を加えた金額を比較して車両本体への賠償額を確定します。
具体的には以下のようになります。
修理費用 > 時価額 + 買い替え費用
【時価額 + 買い替え費用の合計額】が賠償額となります。
修理費用 < 時価額 + 買い替え費用
【修理費用額】が賠償額となります。
買い換え費用
買い替え費用とは、自動車を買い替えるにあたって、必要となる諸費用のことです。
例えば、以下のような費用があります。
- 車両本体価格に対する消費税
- 車両の登録手数料
- 車庫証明の取得の費用
- 廃車の手続の費用
- 納車をディーラーに依頼した場合の報酬額として相当な金額
- 自動車税環境性能割
他方で、以下については、買替諸費用として請求できません。
- 事故車両の自賠責保険料
- 新しく取得した車両の自動車税、自賠責保険料
代車使用料
車両を修理する場合には、修理工場に一定期間預けなければなりません。
その間、車両は使用できませんからレンタカー等の代車が必要となります。
こうした場合の代車費用も請求することができます。
ただし、代車使用料を請求するにあたっては、以下の3点の事項に留意すべきです。
代車の必要性
代車使用料を請求できるための要件として、代車の必要性が肯定される必要があります。
この点につき、営業用車両は比較的、代車の必要性は認められる傾向にあります(京都地判平成14年8月29日)。
ただし、被害車両と同車種の車を保有しており、その車両で代替できる場合には、必要性が否定される可能性もあります。
事故車両が通勤や通学に用いられていた場合も代車の必要性は認められやすいです。
逆に、レジャーや趣味を用途とする自家用車の場合は、代車の必要性は否定される可能性があります。
加えて、代車の必要性を判断するにあたっては、代替車両の存否や代替交通機関の存否が考慮要素になります。
判例では、被害者が事故車両以外に2台の外国車を含む3台の自動車を所有していたことから、自動車を使用する家族と同居し、かつ、住居地が駅や商業施設から離れていたとしても、代車の必要性を否定したものがあります(東京地判平成25年3月6日)。
代車の使用期間
認められる代車の期間は、修理の場合は約2週間、買い替えの場合は約1ヶ月と考えられています。
意外と短いので、注意が必要です。
なお、部品の調達等で修理が長引く場合は、必要に応じた期間が認められます。
代車の種類・グレード
基本的には、事故車両と同程度の車種が代車として認められます。
ただし、裁判例においては、事故車両が高級外車の場合は、国産高級車の限度でしか認められないものが多いです(東京地判平成11年9月13日等)。
評価損
評価損とは、交通事故に遭って車両が破損した場合には、修理歴・事故歴によって、修理したとしても自動車の価値自体が下落することがあり、この下落分を損害と捉えるものです。
事故にあった車は、修理しても回復しなかった欠損が残っていることや、事故歴があるという理由で評価損が発生します。
高級車で走行距離も短く、登録年数もそれほど経過していない車両ほど、評価損は認められる傾向にあります。
評価損には、以下のの2種類があります。
修理の技術上、機能や外観に欠陥が残る場合
事故歴や修復歴が残り、取引上の価値が下落してしまう場合
評価損が認められるかどうかは、事故車両の車種、初年度登録からの期間、走行距離、損傷の程度、事故当時の同一車種の時価などを総合考慮して決められます。
また、評価損の算定方法は、以下のような方法があります。
- ① 事故時の時価から修理後の価値を控除する方法
- ② 時価の〇〇%を損害とする方法
- ③ 修理費の〇〇%を損害とする方法
- ④ 事故車両の車種、損傷状況等の事情を総合考慮して算定する方法
休車損害
休車損害とは、交通事故により営業用車両が修理や買い替えで事業活動ができなくなった場合、当該事故車両が稼働していれば得られたであろう営業利益のことをいいます。
トラック、バス、タクシーなどの主に緑ナンバーの車両が事故にあった場合に問題になります。
休車損害が認められるためには、以下を立証する必要があります。
- 事故日以降も事故車を使用する業務があること
- 遊休車(車検や故障のため営業車両を使用できないとき、予備として保有している車両のこと)がないこと
その他
車両の引き揚げ費・レッカー費用
事故車両が損傷のために自走できない状態になり、事故現場から修理工場等に移動するためのレッカー費用は、必要性等が肯定される限り、損害として認められます。
保管料
経済的全損の場合において、事故車両を修理するか買い替えするかを判断するために必要な期間の保管料は、事故との相当因果関係が認められ範囲において損害として認められています(大阪地判平成10年2月20日等)。
時価査定料、見積費用
事故車両を修理すべきかどうか判断するための時価査定料や見積費用も損害として請求できる余地があります(東京地判平成14年8月30日等)。
廃車料、車両処分費用
経済的全損の場合の事故車両の廃車にかかる費用も請求対象となります。
事故で壊れた物
事故が原因で破損した衣服、時計、携帯電話等も請求することができます。
ただし、「事故が原因」という相当因果関係を立証できることが前提です。
また、使用済みのものは基本的に価値が下落していることから、新品相当額ではなく、時価額相当の賠償になります。
物損で慰謝料は認められる?
物損についての慰謝料は、原則として認められていません。
物損は、侵害されている利益が財産権であることから、損害も財産的損害に限られるという考え方があるからです(東京地判平成元年3月24日等)。
もっとも、判例上、例外的な場合に物損の慰謝料を認めることがあります。
例えば、愛着のあるペットが死亡した場合等です(大阪地判平成18年3月22日)。
なお、物損と人損(事故による怪我)の両方の損害がある場合は、物損の慰謝料は請求できなくても、人損としての慰謝料(傷害慰謝料や後遺障害慰謝料)は当然に請求可能です。
まとめ
上記のように、物損事案において、請求可能性のある損害は多岐にわたります。
しかし、それぞれに請求できる要件があり、実際にその要件充足性を立証できるかという問題があります。
物損は専門的な分野であるため、交通事故に精通した弁護士に相談されることをお勧めします。