交通事故が原因のTFCC損傷。後遺障害に認定される?
TFCC損傷とは、手首のケガです。
小指側にある軟部組織で、手首の動きに関わっています。
そのため、交通事故などでTFCC損傷し、手首(手関節)の可動域に制限が残存するようなら、可動域の制限の程度によって、後遺障害の8級6号、10級10号、12級6号に該当する可能性があります。
また、痛みが残存する場合には、神経症状の後遺症として12級13号や14級9号が認定される余地があります。
慰謝料については、傷害慰謝料と後遺障害慰謝料があり、自賠責基準や弁護士基準で金額が異なってきます。
この記事でわかること
- TFCC損傷について
- TFCC損傷の該当しうる後遺障害等級
- TFCC損傷の後遺障害認定のためのポイント
- TFCC損傷の慰謝料(傷害慰謝料・後遺障害慰謝料)
TFCC損傷とは?
TFCCとは、日本語でいうと、手首にある三角繊維軟骨複合体(さんかくせんいなんこつふくごうたい)のことです。
このTFCCは骨ではなく、靭帯、半月板に同じような軟部組織です。
親指側にある腕の骨である橈骨(とうこつ)と小指側にある腕の骨である尺骨(しゃっこつ)、8つの骨からなる手根骨という部分の間にある小さな組織です。
TFCCは、手首の外側の衝撃を吸収するクッションの役割と手首を安定する役割があります。
TFCCが正常に機能していることにより、人は手首の複雑な動きができるとされています。
この部分を損傷することをTFCC損傷といいます。
TFCC損傷の原因と症状
テニスなどのスポーツや交通事故などの外傷による場合と、手首を繰り返し使う仕事をする人、加齢変性によって発生することが知られています。
交通事故による場合は、以下のような際にTFCCを損傷することが知られています。
- バイクや自転車の事故で転倒の際、手を強く押して倒れたとき
- 自動車のハンドルを握っている際、過度に手のひらを返す動きがあったとき
手首を急激にひねる動きをしてしまった場合には、TFCCがねじれますので、損傷が起こるというイメージです。
ねじれる力が強いと損傷にとどまらず、断裂という結果になる可能性があります。
TFCCを損傷してしまうと、腕を回す動作をした際、手首の小指側に痛みや腫れ、手首を小指側にひねる際の痛みを伴うクリック音が鳴るという症状があります。
具体的には、車のハンドルを握っている時、掃除機で掃除している時などの手首を用いる時に痛みが生じます。
TFCC損傷の後遺症
運動障害(機能障害)
TFCC損傷は手首のケガですから、手首(手関節)の動きに影響があります。
手首が動かしづらくなった場合、可動域が制限されているとして、運動障害(機能障害)としての後遺障害等級が認定される可能性があります。
8級6号「1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」
具体的には、健側(怪我をしていない側の手首)と比べ、可動域が10%以下に制限されているもの
10級10号「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
具体的には、健側(怪我をしていない側の手首)と比べ、可動域が1/2以下に制限されているもの
12級6号「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」
具体的には、健側(怪我をしていない側の手首)と比べ、可動域が3/4以下に制限されているもの
引用元:後遺障害等級|一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構
神経障害
また、TFCC損傷により、手首の痛みが完全に取れず、痛みが残存する場合には、神経症状の後遺症として12級13号、または14級9号に該当する可能性があります。
12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
具体的には、他覚的所見(MRI等の画像所見)があり、痛みの存在が医学的に証明できるもの
14級9号「局部に神経症状を残すもの」
具体的には、他覚的所見はなくても、痛みの存在が治療経過等から医学的に説明できるもの
引用元:後遺障害等級|一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構
TFCC損傷の後遺症認定のポイント
POINT① MRI検査を受ける
TFCCは、骨ではないため、レントゲンでは映りません。
そのため、この部分が損傷しているかどうかを確認するためには、MRI検査を受けることが大切です。
最初は、打撲だと思っていたけれど、手首の痛みがなかなかとれないといった場合には、MRI検査を主治医に相談してみるということを検討しましょう。
POINT② 症状固定をどの時点にするか、主治医とよく話し合う
TFCC損傷の程度が大きい場合、手術を行って、断裂したTFCCを縫合することになります。
こうした手術をした事案では、手術後、しばらくは可動域回復のリハビリや経過観察のため、一定期間さらに治療が必要になるのが通常です。
その意味では、保険会社も手術をしたら即治療終了とは考えません。
他方、手術をせずに保存療法で治療する場合、治療費を支払う保険会社としては、どこまで保存療法に対する治療費を支払うべきかがはっきりしないこともあり、治療の打切りなどのトラブルに発展してしまうリスクがあります。
保険会社が治療費を支払う義務があるのは、原則的に症状固定時までです。
したがって、被害者としては、保存療法をどのくらい続けるのか(症状固定時期)、主治医と問診で症状をきちんと伝えることを通じて、話をしておくことが必要です。
POINT③ 後遺障害の申請を適切に行う
TFCC損傷では、治療の結果完治せず、可動域制限や痛みが残ってしまうリスクがあります。
このとき、後遺障害を適切に取得できなければ、後遺症に対する補償を受けることが困難になります。
したがって、可動域検査をしっかりと行ってもらう、痛みやTFCC損傷の特徴であるクリック音のことについて、後遺障害診断書にきちんと記入してもらうことが重要です。
なお、後遺障害診断書には、以下のような事項が記載されているかチェックする必要があります。
- 「①精神・神経の障害 他覚症状および検査結果」という欄に、TFCCが損傷している旨の記載がなされているかどうか
- 「⑩上肢・下肢および手指・足指の障害」という欄に、手関節について、主要運動の屈曲(掌屈)と伸展(背屈)の角度が、右手・左手共に記載されているかどうか(なお、参考運動としては、橈屈・尺屈がある)
その上で、被害者の症状が適切に後遺障害の手続に反映されるよう、専門家である弁護士のサポートを受けて、診断書をはじめとする各種書類を精査し、保険会社からではなく、被害者請求の形で自賠責保険へ後遺障害の手続をすることをオススメします。
TFCC損傷の慰謝料は?
傷害慰謝料
傷害慰謝料とは、入院や通院をすることで発生する精神的苦痛に対する賠償のことです。
傷害慰謝料には、主に自賠責基準と弁護士基準(裁判基準、赤い本基準ともいいます)があります(その他に任意保険会社の基準がありますが、保険会社内部の基準であるため公表はされていません)。
自賠責基準の計算式は、
4300円(2020年3月31日以前の事故の場合は4200円)×【通院期間】or【実通院日数の2倍】のいずれか少ない方となります。
具体例 通院期間が180日、実通院日数が60日の場合
例えば、通院期間が180日、実通院日数が60日の場合、180日(通院期間)> 120日(実通院日数60の2倍)なので、少ない方の120日を4300円にかけることになります。
4300円 × 120日 = 51万6000円
他方で、弁護士基準は、通院期間で決まります。
赤い本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準という本)に記載されている表を参考に算出します。
赤い本には、症状により、別表Ⅰと別表Ⅱに分かれていますが、TFCC損傷の場合は、基本的に別表Ⅰで良いと考えられます。
上記の例でいうと、通院期間180日の場合、赤い本別表Ⅰだと、116万円になります。
引用元:当センターの刊行物について(青本及び赤い本)|日弁連交通事故相談センター東京支部
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、基本的に後遺障害等級が認定された場合に発生する慰謝料のことです。
後遺障害慰謝料の自賠責基準と弁護士基準の比較は、以下のとおりです。
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
8級 | 331万円 | 830万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
まとめ
TFCC損傷は、適切な後遺障害の申請をしなければ、非該当になるケースもありますので、弁護士に相談することをオススメします。
また、慰謝料(傷害慰謝料や後遺障害慰謝料)についても、自賠責基準と弁護士基準では、大きな差がありますので、弁護士に交渉を任せた方が増額されることが多いです。