サラリーマンの休業損害の算定方法【弁護士が解説】
サラリーマンの休業損害
休業損害とは、交通事故による傷害のため、休業又は不十分な就労を余儀なくされ、減収した場合、その減収額を損害とするものです。
ここでは、サラリーマン、すなわち給与所得者の休業損害について具体的に説明します。
休業損害の具体的な計算方法は、以下の計算式で算定されることになります。
休業損害の計算方法
1日あたりの基礎収入 × 休業日数 = 休業損害
1日当たりの基礎収入
まず1日あたりの基礎収入について説明します。
自賠責保険であれば、1日あたりの基礎収入を日額6100円(2020年3月31日以前の事故は 5700円)で計算しますが、裁判基準では、現実の収入をもとに基礎収入を算出していきます。
実務的には、事故前の3ヶ月の平均賃金を基礎に算定されます(ここでの収入額は、いわゆる手取額ではなく、税金や公的保険料などが控除されていない税込み額で計算します。)。
ここでよく問題となるのは、1日単価を算出するにあたって、①事故前の3ヶ月の平均賃金を90日で割るのか、②実稼働日数で割るのかという点です。
いずれの方法をとるかによって金額が大きく変わる場合があります。
具体例 3か月の給料合計額120万円、実稼働日数65日、休業日数20日の場合
例えば、過去3か月分の給料の合計額120万円、実稼働日数65日、休業日数20日(連続した日でないことを前提)とした場合で考えてみます。
①90日で割った場合
(120万円 ÷ 90日)× 20日 = 26万6666円
②実稼働日数で割った場合
(120万円 ÷ 65日)× 20日 = 36万9230円
上記のような計算式となりますが、②の方法の方が10万円以上高額になります。
①の計算方法の問題点は、土日や祝日も働くことを前提として1日単価を出している点です。
通常、土日祝日も平日も休まず働くということは考えられません。労働基準法違反です。
サラリーマンは、通常、月20~25日程度働いて、毎月の給料をもらっているので、1日単価を算出するにあたっても、実労働日数で割って算出すべきです。
しかし、保険会社は、当然のように①の方法で、90日で割って1日単価を出して提示してくることがほとんどなので、注意しなくてはいけません。
なお、仮に、休業日が連続していて、1カ月間の全てを休業日数として計算する場合、つまり、土日や祝日など会社が休日としている日についても休業日数としてカウントしている場合には、90で割って1日単価を出しても問題ありません。
休業日数
休業日数とは、事故発生日から、事故により受けたケガの症状が固定する日までの期間において、療養のために現実に休業した日のことです。
入院している場合には、休養せざるを得ませんから、入院期間中は、原則として休業日数としてカウントされます。
通院期間においては、受傷の状況によっては、必ずしも休業する必要がない場合もありえますから、当然に休業日数としてカウントしてよいか問題となることもあります。
例えば、医師からすでに通院する必要がないことを言われていたり、明らかに通院の必要性がないような場合には、休業日数として認められません。
また、骨折や脱臼などがなく、むちうちや打撲のみの場合で、交通事故発生から数か月後に突然休業が生じているような場合も保険会社から争われることが多いです。
通院もしておらず単に自宅療養している場合も、休業日とは認められないことが多いです。
ただ、自宅療養であっても医師の指示があり、その必要性が認められる場合には、休業日として認められることもあります。
ですから、自宅療養する場合には、療養期間などについてしっかりと医師と相談することが必要です。
交通事故が原因で有給休暇を取得して会社を休んだ場合も休業日数にカウントすることができます。
有給休暇は、本来、自由に使えるものなので、交通事故によって使わざるを得なくなった場合には、その分の賠償が認められるのです。
休業損害の請求方法
保険会社に休業損害を請求するには、会社に休業損害証明書を作成してもらい、保険会社に提出する必要があります。
請求するタイミング
休業損害を請求するタイミングとしては、最終的な示談交渉の段階で請求して交渉することが考えられます。
しかし、休業損害は、毎月の収入の減少を補填するものです。
毎月の収入が減少することは、生活を維持していくうえで死活問題ですから、減収が生じる毎、つまり、毎月休業損害を請求することもできます。
休業損害証明書の様式は、保険会社が持っているので、休業が長引きそうな場合には、多めに休業損害証明書の様式をもらっておいて、随時、会社に作成してもらうとスムーズに休業損害を受け取ることができるでしょう。
収入の証明
算定資料として、休業損害証明書、源泉徴収票が用いられます。
休業損害証明書
被害者の勤務先に作成してもらう書類です。
事故による欠勤期間、欠勤期間中の給与支払状況、事故直前の3ヶ月間の給与支払いの状況が記載された書類です。
ほとんどの会社が作成に協力してくれるとは思いますが、万一、作成してもらえない場合には、別の証拠で証明しなければなりません。
給与明細や所得証明書で収入を証明し、出勤簿などで欠勤日を証明する必要があるでしょう。
源泉徴収票
源泉徴収票を提出することができない場合には、納税証明書や課税証明書で確認することがあります。
また、賃金台帳の提出を求められるケースもあります。
ボーナスの補償
交通事故によって欠勤した場合、ボーナスの支給額も減額されることがあります。
こうした場合も、その減額分は損害として請求することができます。
会社に賞与減額証明書を作成してもらい、相手保険会社に請求します。
ボーナスの減額分まで請求できるとは思い至らず、請求されていない方も多いので、賠償から漏れないように注意しなければなりません。