肩鎖関節脱臼とは?後遺症と日常生活への影響について解説
肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)とは、鎖骨(さこつ)と肩甲骨(けんこうこつ)の間の関節がずれてしまうことをいいます。
交通事故や仕事中の事故により、肩に強い力が加わることで肩の周囲の筋肉や靭帯を痛めることで肩鎖関節脱臼してしまうことがあります。
肩鎖関節脱臼した場合には、痛みが残る後遺障害、肩が動かしづらくなる後遺障害、骨が変形する後遺障害などが残ってしまう可能性があります。
以下では、肩鎖関節脱臼による後遺障害などについて、詳しく解説していますのでご参考にされてください。
目次
肩鎖関節脱臼とは
肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)とは、鎖骨(さこつ)と肩甲骨(けんこうこつ)の間の関節がずれてしまうことをいいます。
肩鎖関節は、周囲の人体や筋肉によって支えられて安定を保っています。
こうした靭帯や筋肉を痛めてしまうと不安定になり脱臼(関節がずれる)してしまうのです。
肩鎖関節脱臼の症状
脱臼の程度によって、症状の程度も変わってきますが、以下のような症状が出ます。
- 特に何もしていない時でも痛みを感じる
- 肩を動かすと激しい痛みが生じる
- 関節の周辺が腫れる
- 肩が挙げづらくなることもあります。
肩鎖関節脱臼の日常生活への影響
肩鎖関節脱臼してしまうと、日常生活を送る中でも肩に痛みを感じ、仕事や家事の効率が悪くなる可能性があります。
脱臼の程度が大きいと、肩が挙げづらくなりますので、体をよく使う仕事や、重いものを持ち上げるような仕事をするにあたっては大きな支障が出てしまうでしょう。
デスクワークにおいても、肩の痛みを感じ集中力が散漫になり、作業効率が悪くなってしまうこともあります。
肩鎖関節脱臼の分類
肩鎖関節は、下図の肩鎖靱帯(けんさじんたい)、烏口鎖骨靱帯(こうささこつじんたい)、その他周囲の筋肉により安定的に保たれています。
肩鎖関節脱臼は、関節のずれの程度や方向により、下図のように分類されます。
分類 | 特徴 |
---|---|
捻挫 | 肩鎖靭帯の痛みのみ |
亜脱臼 | 肩鎖靱帯が断裂・烏口鎖骨靱帯の痛み |
脱臼 | 肩鎖靱帯が断裂及び烏口鎖骨靱帯が断裂 |
高度脱臼 | 脱臼の程度が強い |
後方脱臼 | 肩鎖靱帯が断裂及び烏口鎖骨靱帯が断裂+鎖骨の端が後ろにずれている |
下方脱臼 | 鎖骨の橋が下にずれている |
肩鎖関節脱臼の治し方とは?
肩関節脱臼は、一度脱臼すると軽微な外力で脱臼を繰り返す可能性があります。
再度の脱臼を防止するために、手術を必要とすることが多いケガです。
肩鎖関節脱臼を放置したらどうなる?
肩鎖関節脱臼は、軽度のものであれば手術せずに治癒することもあります。
しかし、症状が中・重度のものになると治療をしないと痛みが残ったり、間接が変形し、機能上の障害が残る可能性が高くなります。
したがって、放置せずにきちんと受診するようにしましょう。
肩鎖関節脱臼のリハビリ
肩関節脱臼は、手術を行っても直ちに元の状態への復帰は困難であり、十分な安定性の獲得には長期間のリハビリが必要とされています。
適切なリハビリを行うことで、肩関節の可動域や筋力等が改善し、安定性の獲得に寄与します。
肩鎖関節脱臼の原因
肩鎖関節脱臼の原因としては、バイクや自転車の交通事故で転倒したり、柔道やラグビーなどのスポーツが原因となることが多いです。
交通事故やスポーツで肩に強いエネルギーが加わることで肩鎖関節の周辺の筋肉や靭帯が痛んでしまい脱臼してしまうのです。
また、体をよく使う仕事をしている中で、肩に強いエネルギーが加わり肩鎖関節脱臼してしまうこともあります。
肩鎖関節脱臼の後遺障害認定の特徴と注意点
肩鎖関節脱臼した場合に、残ってしまう後遺障害としては、以下の3つの障害が考えられます。
- 機能障害
関節が動かしづらくなる障害 - 変形障害
骨が変形している障害 - 神経障害
痛みなどの神経症状が残る障害
以下では、それぞれの後遺障害について説明します。
機能障害
肩鎖関節は、肩を動かすのに必要な関節です。
したがって、脱臼した場合には、肩関節が動かしづらくなることがあります。
肩鎖関節が動かしづらくなることを機能障害といいます。
肩関節の動かしづらさの程度によって後遺障害等級が変わります。
動かしづらさの程度は、健側(ケガをしていない側)と比較してどの程度、可動域(動かすことができる範囲)が制限されているかで決まります。
機能障害の後遺障害等級は以下のとおりです。
等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
8級6号 | 「1上肢の3大関節の中の1関節の用を廃したもの」 「用を廃したもの」とは、簡単に言うと、全く肩関節が動かない状態、あるいは、動いたとしても、ケガをしていない方の肩の10%以下しか動かないような場合をいいます。 |
10級10号 | 「1上肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」 「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、肩関節の可動域(動く範囲)が、ケガをしていない側の肩関節と比べ1/2以下に制限されているような場合です。 |
12級6号 | 「1上肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの」 「関節の機能に障害を残すもの」とは、肩関節の可動域(動く範囲)が、ケガをしていない側の肩関節と比べ3/4以下に制限されているよう な場合です。 |
変形障害
肩鎖関節を脱臼して治療したものの、脱臼がきれいに整復されず変形したまま固まってしまうことがあります。
裸になったときに、変形していることが明らかに見て分かる場合には、以下の後遺障害等級に該当する可能性があります。
等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
12級5号 | 「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」 レントゲン上では変形が分かったとしても、裸になったときに明らかに変形が分からない場合には、認定されません。 |
変形障害の注意点
変形障害が残った場合には、後遺障害診断書に確実に記載してもらいましょう。その上で、変形部分の写真を添付して申請しましょう。
後遺障害診断書に記載がなければ、そもそも審査してもらえませんのでご注意下さい。
変形障害の逸失利益
変形障害の場合、後遺障害に認定(12級5号)されたとしても後遺障害逸失利益について争われることがあります。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ったことで、働きづらくなってしまい収入が減少してしまうことに対する補償です。
変形障害の場合、骨が変形しているだけなので、身体の運動や脳の働きには影響せず、労働能力は喪失しないという風に考えられるのです。
したがって、12級5号のみの認定の場合には、保険会社は後遺障害逸失利益を争ってくることが多いです。
しかし、骨が変形している場合、それにともなって痛みも生じていることは多々あります。
被害者側としては、こうした痛みが原因で仕事や家事・育児に支障が出ていることを具体的に主張して逸失利益を認めるよう保険会社と交渉すべきでしょう。
肩鎖関節脱臼で痛みがあると後遺症が残る?
肩鎖関節脱臼で痛みが残った場合には、神経障害として後遺障害に認定される可能性があります。
具体的には、以下の等級に認定される可能性があります。
等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
12級13号 | 「局部に頑固な神経症状を残すもの」 レントゲンなどから客観的に異常が分かり、それが原因で痛みが生じているということが医学的に証明できる場合に認定されます。 |
14級9号 | 「局部に神経症状を残すもの」 医学的に証明することまでは要求されませんが、医学的に説明できることが必要です。つまり、レントゲンやMRIからは異常が明らかに分からないものの、事故態様や治療内容、治療頻度、症状の一貫性や連続性などから、交通事故が原因で痛みが残っていることが医学的に説明できた場合に認定されます。 |
肩鎖関節脱臼の慰謝料などの賠償金
交通事故で肩鎖関節脱臼した場合に請求できる主要な賠償項目としては、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益があります。
慰謝料の計算方法には、3つの基準があります。
自賠責保険の基準、任意保険会社の基準、弁護士基準(裁判基準)の3つです。
基準の高低は、自賠責保険の基準<任意保険会社の基準<弁護士基準となっています。
入通院慰謝料
弁護士基準では、入通院慰謝料は、基本的に入院と通院の期間によって算出されます。
入通院慰謝料を算出するための表があり、入院と通院の期間をその表に当てはめて算出します。
入通院慰謝料の算出のための表を確認されたい場合は、こちらを御覧ください。
後遺障害慰謝料
肩鎖関節脱臼により後遺障害に認定された場合には後遺障害慰謝料を請求することができます。
弁護士基準での具体的な金額は以下のとおりです。
等級 | 慰謝料額 |
---|---|
8級6号 | 830万円 |
10級10号 | 550万円 |
12級5号、6号、13号 | 290万円 |
14級9号 | 110万円 |
逸失利益
逸失利益とは、後遺障害が残ってしまうことで仕事に支障が出て収入が減ってしまうことに対する補償です。
計算方法は以下のとおりです。
基礎収入は、原則として、事故前年の年収額によって計算します。
労働能力喪失率は、後遺障害の等級に応じて決まっており、肩鎖関節脱臼による後遺障害等級の喪失率は以下のとおりです。
等級 | 喪失率 |
---|---|
8級6号 | 45% |
10級10号 | 27% |
12級5号、6号、13号 | 14% |
14級9号 | 5% |
労働能力喪失期間は、原則として症状固定の年齢から67歳になるまでの年数です。
ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための係数です。
逸失利益は、計算方法が複雑なので、概算を計算されたい場合には下記の交通事故賠償金計算シミュレーターをご活用ください。
筋トレで症状が悪化したら賠償金はどうなる?
肩鎖関節脱臼してしまった場合には、医師の指示に従って治療を継続すべきです。
医師の指示を無視して筋トレをした結果、症状が悪化した場合には、保険会社から賠償金の支払いを争われる可能性があります。
保険会社や加害者側から賠償を受けることができるのは、交通事故と因果関係が認められる範囲です。
医師のカルテなどに、「筋トレをして症状が悪化した」といった記載があれば、残っている症状は、事故が原因でなく筋トレが原因なのではないかと疑われる可能性があります。
筋トレやスポーツなどをする場合には、医師と十分に相談するようにしましょう。
肩鎖関節脱臼の装具の代金はどうなる?
肩鎖関節脱臼をした場合には、装具で肩を固定することがあります。
こうした装具は、医師の指示の上で、使用している場合には、保険会社に負担してもらうことができます。
ただ、装具を使用するにあたっては、念の為、保険会社に事前に連絡しておくとスムーズに費用を負担してもらえるでしょう。
肩鎖関節脱臼で適切な賠償金を得る5つのポイント
肩鎖関節脱臼を放置せずに治療を受ける
肩鎖関節脱臼した場合には、速やかに病院に行って治療を受けましょう。
放置してしまうと、痛みが強くなったり、変形してしまう危険性もあります。
入通院慰謝料は、通院期間で算定されるため、適切な通院期間通われていない場合には、適切な入通院慰謝料を補償してもらうことができません。
また、後遺障害認定は、医療記録を中心に審査されますが、適切な治療がされていない場合には十分な医療記録が残っておらず、適切な後遺障害が認定されない可能性もあります。
体をきちんと治して適切な賠償額を補償してもらうためにも、肩鎖関節脱臼を放置せずに治療を受けましょう。
後遺障害を適切に認定してもらう
後遺障害に認定された場合には、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができます。
例えば、14級9号に認定された場合には、後遺障害慰謝料は110万円を請求できます。
逸失利益は、500万円の年収で喪失期間5年、喪失率5%の場合には114万円4925円を請求することができます。
このように、後遺障害に認定されることで賠償額は大きく変わりますので、適切な後遺障害に認定されることはとても重要です。
適切な賠償金の金額を算定する
慰謝料の算定方法については、3つの基準があります。
自賠責保険基準、任意保険会社基準、弁護士基準(裁判基準)の3つで、弁護士基準が最も高い基準です。
保険会社は、営利会社なので、できる限り賠償金を低額にしたいとの思いがあります。
ですから、保険会社の提示は、自賠責保険基準あるいは任意保険基準で計算されており、妥当な賠償金とは言えません。
弁護士基準で適正に賠償金の金額を算定して保険会社と交渉していくことが大切です。
下記のサイトで弁護士基準での賠償額の概算が計算できるので、是非ご活用ください。
加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらう
一度示談してしまうと、原則として追加して賠償請求することができなくなります。
保険会社から、最終的な合意の書面が送られてきた場合には、保険会社の提示する賠償の内訳が記載された書面を持って専門の弁護士に相談に行かれることをお勧めします。
示談前であれば、交渉し直して増額できる可能性があるので、安易に示談しないよう気をつけましょう。
後遺障害に詳しい弁護士に早い段階で相談する
ケガによっては、事故が発生した後、できる限り早い段階でCTやMRIなどの撮影をしなければ、事故との関係性が認められづらくなるケースもあります。
後遺障害に詳しい弁護士に早めに相談することで、必要な検査等についてアドバイスを受けることが期待できます。
適切な後遺障害認定をしてもらうためにも、早い段階で後遺障害に詳しい弁護士に相談して、アドバイスを受けながら、治療を継続していくことも大切です。
肩鎖関節脱臼のよくあるQ&A
肩鎖関節脱臼は全治どれくらい?
軽度の場合は2週間〜4週間程度で日常生活に必要な動きができるようになります。しかし、野球やテニスなどの腕を使用するスポーツに復帰するには1〜2ヶ月程度を要します。
中・重度の場合、手術後、相当な期間リハビリを行う可能性があります。
肩鎖関節脱臼の程度によりますので、くわしくは専門医にご相談ください。
肩鎖関節脱臼は腕立て伏せや筋トレできる?
肩鎖関節脱臼の後、無理に筋トレなどを行うと、再発や損傷のリスクが高まります。
トレーニングの時期については、専門医にご相談の上、適切なタイミングで実施するようにしましょう。
まとめ
交通事故により、肩鎖関節脱臼した場合には、痛みや肩の動かしづらさの後遺障害が残る可能性があります。
こうした障害が残った場合には、後遺障害申請をして、その障害の程度に合った後遺障害認定を受けることが重要です。
適切な後遺障害認定を受けるためにも、後遺障害に詳しい弁護士に早い段階で相談されることをお勧めします。
また、保険会社からの示談の提案にも安易に応じるのではなく、事前に専門の弁護士に相談の上、示談するように注意しましょう。
弊所では、交通事故に注力する弁護士が相談対応しておりますので、肩鎖関節脱臼でお困りの場合には、安心してご相談ください。
面談でのご相談に加えて、LINE、ZOOM、FaceTimeなどを使用したオンライン相談や電話相談も行っており、全国対応しておりますので、お気軽にお問合せください。