交通事故で上腕骨近位端骨折|後遺症について弁護士が解説
上腕骨近位端(じょうわんこつきんいたん)を骨折すると、肩関節をうまく動かすことができなくなったり、肩に痛みが生じるなどの後遺症が残る可能性があります。
交通事故により上腕骨近位端骨折をして、後遺症が残ってしまった場合、後遺障害に認定されることで後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができます。
後遺障害の認定基準や、賠償金の額を弁護士が解説します。
上腕骨近位端骨折と後遺障害
上腕骨は、肩から肘にかけて位置する骨です。二の腕の部分の骨に該当します。
交通事故の場合、バイクや自転車に乗っていて車と衝突したり、歩行者として車に衝突した場合に、転倒した拍子に肩を地面に打ったときや手をついて倒れた時に骨折が起こりやすくなります。
また、車に乗っている場合でも衝突の衝撃で肩をハンドルにぶつけたりした場合に、上腕骨を骨折する可能性があります。
上腕骨近位端とは、上腕骨の肩関節近くの部分です。
この部分を交通事故で骨折すると、以下のような後遺症が生じる可能性があります。
- 肩関節をうまく動かすことができない
- 肩に痛みが生じる
こうした後遺症が治療を行っても残ってしまった場合、自賠責保険の後遺障害の申請手続を行わなければなりません。
上腕骨近位端骨折の後遺障害の基準
この点、自賠責保険では、上腕骨近位端骨折の後遺障害について、
①機能障害、②神経障害、③変形障害
の3つの後遺障害が設定されています。
機能障害
先ほど解説したとおり、上腕骨近位端は肩関節に近い部分です。
そのため、この部分を骨折すると、肩関節の動きに影響を与える可能性があります。
自賠責保険では、こうした機能障害の等級基準として以下の3つの基準を設定しています。
- 8級6号
「1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」 -
- 10級10号
「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」 -
- 12級6号
「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」
引用元:自賠責保険(共済)における後遺障害の等級と保険金額|指定紛争処理機関 一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構
まず、8級6号の「用を廃したもの」といえる場合については、関節が強直したものが該当することとされています。
強直とは、関節の完全強直又はこれに近い状態にあるものをいうと定義されており、けがをしていない方の可動域の10%程度以下に制限されているものが該当します。
したがって、イメージとしてはほとんど動かすことができない状態ということです。
次に、10級の「著しい障害を残すもの」と12級の「障害を残すもの」については、可動域の制限の程度によって該当するかどうかを判断することになります。
具体的には、肩関節の可動域が2分の1以下に制限されている場合には10級、4分の3以下に制限されている場合には12級に該当します。
肩関節の主な運動としては、腕を体につけたところから耳の上まで体の横を通して挙げる外転運動と腕を前から回して頭の上に挙げる屈曲運動とがあり、基本的にはこの動きの可動域の程度を判断材料としています。
この可動域の数値は、自分の力のみで肩を動かす場合のものではなく、理学療法士などの方が補助をして動かした場合の数値(他動といいます。)を用いています。
ここまで説明してきたとおり、自賠責保険の機能障害においては、後遺障害として認定される可動域制限に基準が設定されています。
したがって、屈曲運動の可動域が10度や20度ほど制限されているとしても、肩関節の屈曲運動の可動域は、けががない場合180度となっていますので、4分の3以上の制限はないため非該当(後遺障害には該当しない)という結果になってしまいます。
このように、機能障害については、可動域を正確に測定してもらうことが適切な等級認定のためには必要になってきます。
後遺障害診断書を作成する段階で、理学療法士の方に角度計を使用してもらって、きちんと測定してもらい、その結果を診断書に反映してもらうことがポイントです。
神経障害
交通事故によって、上腕骨近位端を骨折した場合、骨折した周辺の痛みが治療をしても完全には取れないということもあり得ます。
こうした骨折後の痛みの後遺症については、神経障害として、自賠責保険の後遺障害では、以下の基準が用意されています。
- 12級13号
「局部に頑固な神経症状を残すもの」 -
- 14級9号
「局部に神経症状を残すもの」
引用元:自賠責保険(共済)における後遺障害の等級と保険金額|指定紛争処理機関 一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構
12級と14級の違いは、痛みが医学的に他覚的にも証明できるものかどうかという点になります。
上腕骨近位端骨折の場合、骨折した部分がきちんとくっついていて、レントゲン画像上では特に異常が認められない場合には、12級ではなく14級が認められるかどうかの問題になります(もちろん、非該当という場合もあります。)。
他方で、骨折した部分が正常にくっついておらず、不正癒合があると確認できる場合には、12級13号が認められる可能性があります。
痛みについては、後遺障害診断書の自覚症状の項目に、その旨の記載がなければなりません。
そのため、骨折した部分の痛みが残っている場合には、医師にその旨を伝えて後遺障害診断書に記入をしてもらうことが必要です。
変形障害
交通事故により上腕骨近位端の骨折が生じた場合、骨折のずれの程度によっては、元どおりにきれいに骨がくっつかずに不全癒合を生じることもあります。
このように、上腕骨近位端が変形してしまった場合、自賠責保険では以下の後遺障害が設けられています。
- 12級8号
「長管骨に変形を残すもの」
引用元:自賠責保険(共済)における後遺障害の等級と保険金額|指定紛争処理機関 一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構
どのような場合に変形障害が認められるかについてですが、遠位部骨折の場合には、骨端部に癒合不全を残すものや上腕骨の骨端部のほとんどを欠損したものなどのケースが考えられます。
上腕骨近位端骨折の後遺障害の賠償例
後遺障害に該当した場合には、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができます。
以下では、8級6号、10級10号、12級6号、12級8号、12級13号、14級9号に該当した場合の後遺障害慰謝料と逸失利益の金額を説明します。
前提条件として、被害者は、会社員、45歳、年収400万円、2020年4月1日以降の事故を前提に計算します。
※2020年3月31日より前の事故の場合、逸失利益の金額が異なります。
8級6号の場合
後遺障害慰謝料 830万円
逸失利益 2868万6420円
計算式
400万円(年収) ✕ 45%(労働能力喪失率) ✕ 15.9369(22年のライプニッツ係数)=2868万6420円
10級10号の場合
後遺障害慰謝料 550万円
逸失利益 1721万1852円
計算式
400万円(年収) ✕ 27%(労働能力喪失率) ✕ 15.9369(22年のライプニッツ係数)=1721万1852円
12級6号の場合
後遺障害慰謝料 290万円
逸失利益 892万4664円
計算式
400万円(年収) ✕ 14%(労働能力喪失率) ✕ 15.9369(22年のライプニッツ係数)=892万4664円
12級8号の場合
後遺障害慰謝料 290万円
逸失利益 477万6912円
計算式
400万円(年収) ✕ 14%(労働能力喪失率) ✕ 8.5302(10年のライプニッツ係数)=477万6912円
※12級8号は、変形障害の後遺障害等級です。変形障害の場合、骨が変形しているという点に着目して後遺障害認定がなされています。そこで、保険会社から、骨が変形しているだけで、働きづらくなっているとは言えないとして、逸失利益について、強く争われる可能性がありますので、この点ご留意ください。
12級13号の場合
後遺障害慰謝料 290万円
逸失利益 477万6912円
計算式
400万円(年収) ✕ 14%(労働能力喪失率) ✕ 8.5302(10年のライプニッツ係数)=477万6912円
14級9合の場合
後遺障害慰謝料 110万円
逸失利益 91万5940円
計算式
400万円(年収) ✕ 5%(労働能力喪失率) ✕ 4.5797(5年のライプニッツ係数)=91万5940円
参照:別表Ⅰ 労働能力喪失率表|労働省労働基準局長通達(昭和32年7月2日基発第551号)
※上記の賠償例は、あくまで目安であり、個々の事案の事情によって増減しますので、この点ご留意ください。