交通事故で有給を使用。休業損害・休業補償を請求できる?
交通事故の治療のために有給休暇を取得した場合には、その取得日数分の休業補償を請求することができます。
交通事故賠償実務では、休業補償のことを「休業損害」と呼ぶため、以下では、「休業損害」と表記して説明します。
目次
有給取得の取得も休業損害になる?
交通事故の治療のために有給休暇を取得した場合には、その取得日数分の休業損害を請求することができます。
有給休暇を使った場合、会社から給与が支払われるので、減収がなく、支給される給与は減りません。
休業損害は、事故によって会社を休み減収した場合に認められる損害であるため、有給休暇を取得した場合には、休業損害が認められないとも思われます。
しかし、交通事故に遭わなければ、有給休暇を他のために自由に使用することができたはずです。
また、有給休暇は、労働者の権利として財産的な価値があるものですから、交通事故の治療のために使用した場合には、財産的損害が発生したともいえます。
こうした事情から、交通事故が原因で有給休暇を取得した場合には、休業損害を請求することができるのです。
実際に交通事故で有給を使用して、休業損害が認められた事例を紹介します。
14級9号の認定を受けた会社員について、事故前3ヶ月の給与の合計105万円を稼働日数67日で除した金額を1万5672円を1日単価として認め、有給休暇12日分の約18万円を休業損害として認めた。
有給で15日間休んだ看護師について、事故前3ヶ月の給与収入を稼働日数で除した金額1万7029円を基礎として15日分の休業損害を認めた。
また、症状固定後の手術のために取得した有給については、手術前3ヶ月の給与を稼働日数で除した金額を1日単価として休業損害を認めた。
有給取得で休業損害が認められないケース
有給休暇の取得で休業損害が認められないケースとしては、以下の2つのケースが考えられます。
私的な理由で取得した有給休暇
治療期間中に使用した有給休暇であっても、それが私的な理由で取得したものであれば、休業損害として請求することはできません。
休業損害として認められるには、交通事故が原因で有給休暇を使用することが必要となります。
交通事故から相当期間経過して取得した有給休暇
交通事故から相当期間経過してから、有給休暇を取得した場合には、本当に治療のために必要であったのか保険会社から争われることがあります。
特に、事故から近接した時期は休んでいないのに、相当期間経過して有給休暇を取得するような場合には、その理由を合理的に説明できなければ、休業損害として認められない可能性が高いです。
有給の記載があるか休業損害証明書を確認
有給取得日を休業損害として補償してもらうには、休業損害証明書に有給を取得したことが記載されており、休業日数としてカウントされていることが必要です。
<休業損害証明書確認事項>
- 有給取得日に有給の印がついているか確認
- 有給取得日数が正確に休業日数としてカウントされているか確認
通院以外で有給をとった場合も休業損害証明書に書ける?
休業損害として補償される有給は、事故が原因で有給を取らざるを得なくなった場合です。
したがって、治療期間中であっても、事故が原因でなく私用で有給をとった場合には、補償の対象にはならず、休業損害証明書に休業日として記載することはできません。
もっとも、通院以外でも、医師から働くことを制限されていて自宅療養が必要であるような状況で有給を取得する場合には、事故が原因で有給をとったといえるため、休業損害証明書に記載しても問題ありません。
有給休暇を取得した場合の休業損害はいくら?
以下では、具体的な休業損害の計算例を自賠責保険基準、弁護士基準、任意保険基準の各基準を用いて説明します。
前提となる数値(具体例) | |
---|---|
事故日 | 2021年3月21日 |
直近3ヶ月の給与 | 105万円 |
直近3ヶ月の稼働日数 | 64日 |
休業日数 | 15日 |
休業損害は、次の計算式で計算されます。
日額 × 休業日数 = 休業損害
自賠責保険基準で計算した場合
自賠責保険では、休業損害は、原則1日6100円と決まっています(2020年3月31日以前に発生した交通事故は1日5700円)。
実際の収入が6100円よりも低い金額であったとしても、6100円で計算してもらうことができます。
もっとも、1日の実収入が6100円よりも高額であることを証拠によって証明することができれば、1万9000円を限度として実際の収入の金額で計算してもらうことができます。
具体例を用いて計算すると以下のようになります。
(105万円 ÷ 90)× 15日 = 17万4990円
この場合の休業損害は、17万4990円となります。
6100円 × 15日 = 9万1500円
この場合の休業損害は、9万1500円となります。
弁護士基準で計算した場合
弁護士基準の場合、交通事故の直近3ヶ月の給与を「稼働日数」で割って1日単価を出し、その金額に休業日数を乗じて計算します。
(直近3ヶ月分の給与の合計 ÷ 稼働日数)✕ 休業日数 = 休業損害
具体例を用いて計算すると以下のようになります。
(105万円 ÷ 64日) × 15日 = 24万6090円
この場合の休業損害は、24万6090円となります。
休業損害の計算は複雑です。
当事務所は、素人の方が簡単に休業損害の概算額を確認できる計算ツールをウェブサイトに掲載しており、どなたでも無料でご利用可能です。
任意保険基準で計算した場合
具体的には、交通事故の直近3ヶ月分の給与を90で割って1日単価を出し、1日単価に休業日数を乗じることで算出しています。
もっとも、休業損害の計算にあたっては、いずれの保険会社もほぼ同じ計算方法を用いています。
計算式としては以下のとおりです。
(直近3ヶ月分の給与の合計 ÷ 90)× 休業日数 = 休業損害
具体例を用いて計算すると以下のようになります。
(105万円 ÷ 90) × 15日 = 17万4990円
この場合の休業損害は、17万4990円となります。
以上のように、弁護士基準が計算するうえで、最も高い基準となっています。
交通事故で有給を使ったら休業補償を請求できる?
休業損害と休業補償の違い
休業損害は、これまで説明したとおり、交通事故によって減収したことに対する補償のことをいいます。
他方で、休業補償は、一般に労災保険から支給される休業に対する補償のことをいいます。
正確には、休業補償給付といいます(通勤災害の場合は休業給付)。
休業補償給付は、業務災害や通勤災害に遭った場合に、休業から4日目〜支給されるものです。
支給額は、給料の約60%で、それに加えて特別支給金として約20%支払われるので、実質給料の約80%が補償されることになります。
交通事故で労災保険が使用できる場合、労災保険から約60%の補償を受けた後、残りの約40%を保険会社(加害者側)に請求することが可能です(特別支給金の約20%も手元に残すことができます)。
先に保険会社から100%の補償を受けている場合は、特別支給金の約20%分を請求することができます。
つまり、交通事故で労災保険が使用できる場合には、実質約120%の給与を補償してもらうことができます。
有給を使っても休業補償は請求できない
休業補償は、有給を使用した場合には支給されません。
休業補償が支給される条件として、給料をもらっていないことが条件となっているからです。
有給でなく代休の場合の休業損害は?
代休とは、土日などに休日出勤をした代わりに、平日に休みが付与されるというものです。
では、代休に通院した場合、休業損害を請求できるのでしょうか。
残念ながら代休の場合には、休業損害を請求することはできません。
代休は、交通事故が原因で休みになったわけではなく、休日出勤したことが原因で休みになっているので、交通事故との関係性が認められないのです。
事故で欠勤した結果、有給が付与されなかった場合の補償は?
有給休暇は、入社してから6ヶ月が経過し、かつ、その期間の全労働日の8割以上出勤した場合に付与されるものです(労働基準法39条)。
交通事故によって、長期間にわたり会社を休まざるを得なくなった場合には、8割以上の出勤の条件を満たすことができず、有給休暇の付与を受けることができない可能性があります。
有給休暇は、労働者にとって財産的に価値あるものなので、交通事故が原因で付与されなかったとすれば、やはり財産的損害があるとして賠償が認められるべきです。
この点について、裁判例でも休業損害として賠償を認めたものがあります。
判例 大阪地判H20.9.8
34歳の男性会社員が、交通事故が原因で会社を293日欠勤し、出勤日数が全労働日の8割未満だったため、事故翌年度と翌々年度に付与されるはずであった有給休暇の合計20日分が付与されませんでした。
裁判例では、この付与されなかった20日分について、休業損害として認めました。
このように、交通事故によって有給休暇が付与されなかった場合も、その付与されなかった日数分を休業損害として請求できる可能性がありますので、請求漏れがないように注意が必要です。
まとめ
- 有給取得の場合も休業損害は請求できる
- 休業損害の1日単価は、稼働日数で割って計算する
- 代休の場合、休業損害は請求できない
- 事故で欠勤が多くなり、有給が付与されなかった場合も休業損害として請求可能