交通事故のお詫びはいらない?加害者が謝らない理由と正しい対処法

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

交通事故にあったのに、加害者からお詫びがなく「誠意が感じられない」と不満を抱く被害者の方は少なくありません。

実際、「なぜ加害者は謝らないのか?」「お詫びがない場合、被害者はどうすればいいのか?」といったご相談を多くいただきます。

加害者が謝罪をしないのには、いくつかの理由があります。

たとえば、「過失を認めたくない」「保険会社に任せている」などです。

一方で、被害者としては謝罪がないことに強い不安や不満を感じるのも当然です。

本記事では、加害者がお詫びをしない心理やいらないとされる理由、そして謝罪がないときに被害者がとるべき正しい対応方法について、交通事故問題に注力する弁護士がわかりやすく解説します。

交通事故でお詫びはいらないの?

一般的に考えて、交通事故を発生させた加害者が被害者にお詫び(謝罪)することは普通のことです。

法律上の問題というよりも道徳上の問題で、お詫びするのは当然のことだと言えます。

加害者側が謝罪もせずに放置すると、被害者としても「許せない」という思いが強くなるでしょう。

そうなれば、示談交渉の際もスムーズにいかず、解決まで長期化する可能性もあります。

したがって、自分が原因で事故を発生させてしまったのであれば、その謝罪はきちんとすべきです。

謝罪の方法としては、事故直後に自分が悪いことが明らかな場合(追突事故)であれば、すぐに謝罪すべきですし、事後的に自分が悪いことが分かったのであれば、その時点で電話や被害者宅を訪問をして謝罪すべきでしょう。

保険会社が間に入っている場合には、事故の補償のことは保険会社が交渉するため、過失割合や賠償額について、謝罪の場で話をすることは避けるにしても、きちんと誠意をもって謝罪をすべきだと思います。

 

 

交通事故の加害者がお詫びをしない理由とは?

加害者が謝罪に来ない理由加害者が謝罪に来ない理由としては、以下の理由が考えられます。

 

①保険会社から連絡をとらなくてよいと言われている

加害者が謝罪に来ない理由の一つとして、加入している任意保険会社から「被害者と直接やりとりをしないように」と助言されているケースがあります。

これは、次の目的があります。

  • 被害者との不用意な接触でトラブルになることを防ぐ
  • 加害者がその場で安易に示談応じてしまい、成立してしまうリスクを避ける(民法第695条)
  • 加害者が安易に賠償責任を認めてしまうリスクを減らす

実際、加害者が保険会社に相談せずに示談してしまうと、保険金が支払われないといった理由で、後から「無効にしたい」と考えても基本的には認められません。

そのため保険会社は、加害者に「直接やりとりを控えるように」と指示するのです。

しかし、謝罪をしないことで被害者が頑なになり示談交渉がスムーズにいかないことも多々ありますから、加害者としては、賠償に関する話は避けながら、謝罪はきっちり行ったほうがいいでしょう。

参考:民事弁護実務の基礎(P5)

 

②加害者は自分が悪いと思っていない

追突事故のように10:0の事故ではなく、被害者側にも過失割合がある場合には、加害者は自分を完全な加害者としては認識しておらず、どっちもどっち程度に考えていることもあります。

加害者によっては、自分の落ち度について保険会社や弁護士から説明してもらうまでは、自分が被害者と思っていることさえあります。

こうした場合には、自分だけでなく被害者にも落ち度があるから謝罪する必要はないと考えている加害者も多いように思います。

 

③加害者が謝罪すると責任が重くなると考えている

加害者の中には、自分が悪いと分かっていても謝罪することで、責任が重くなってしまうのではないかと考え、謝罪しに来ない人もいるでしょう。

しかし、交通事故の過失割合は、客観的な事故態様から決まるのであり、謝罪の有無によって変わることはありません

一般的に考えると、加害者が被害者に謝罪するのは当然ですが、交通事故事件では、こうした事情から、加害者が被害者に謝罪しないといったことが多々発生しています。

 

 

加害者からお詫びがほしい!直接連絡を取ることはできる?

加害者と直接連絡取ることは難しい

加害者が任意保険に加入している場合には、任意保険会社が全て窓口になります。

したがって、この場合には、加害者本人と直接連絡をとることが難しくなります。

最近は、交通事故の被害者と加害者が直接会ったりするとトラブルに発展する可能性もあるため、保険会社の方で、加害者が自ら被害者に謝罪に行くことを控えるように伝えるところもあるようです。

もっとも、保険会社を通じて、謝罪をするよう加害者本人に伝えてもらうことは可能です。

謝罪するよう申し入れたい場合には、保険会社にその旨を伝えましょう。

 

加害者へ直接連絡取ることができるケースとは?

加害者が任意保険に加入しておらず、弁護士にも依頼していない場合には、加害者と直接交渉することになります。

ただし、当事者の本人同士が直接交渉すると感情的になりやすく、スムーズに示談交渉が進まない可能性があります。

そうした場合には、弁護士に依頼するなど第三者を介在させることも検討すべきでしょう。

 

 

交通事故でお詫びがない場合、慰謝料の増額請求はできる?

加害者の誠意が感じられないことを理由とした慰謝料の増額請求は、簡単ではありません

交通事故の慰謝料とは、交通事故によって受けた精神的苦痛に対する賠償です。

したがって、被害者としては、加害者が不誠実な態度をとって不快な思いをすることも考慮して慰謝料を増額してほしいと考えることは当然のことと言えます。

しかし、交通事故の慰謝料の金額の考え方は、命を失ったり、ケガをしたことに重点が置かれています。

単に不誠実で不快な思いをさせられたという事情は、それほど重視されていないのです。

もっとも、悪質な運転や極めて不誠実な態度がある場合には、慰謝料の増額が認められています

加害者側の事情として考慮される事情としては、以下のような事情があります。

考慮される加害者側の事情
  1. 加害者の過失、事故態様として考慮されるもの
    1. ① 飲酒、酒気帯び運転
    2. ② ひき逃げ、当て逃げ
    3. ③ 速度超過
    4. ④ 信号無視
    5. ⑤ 居眠り運転
    6. ⑥ わき見運転
    7. ⑦ 無免許運転
  2. 加害者の著しく不誠実な態度がある場合として考慮されるもの
    1. ① 事故の証拠隠滅をはかる
    2. ② 謝罪、弔意、看護などをしない
    3. ③ 死亡事故の場合、通夜・葬儀へ参列しない
    4. ④ 事故の責任を否定する、虚偽供述をする
    5. ⑤ 事故現場で被害者を罵倒した
    6. ⑥ 被害者に脅迫まがい言動をした
    7. ⑦ 不当に示談をこじらせ、裁判を余儀なくさせる
    8. ⑧ 社会通念を超える不当な仕打ちをする
      1. ・ 勤務先まで電話をかけ、被害者が弁護士を選任したことを非難する
      2. ・ 調査会社に依頼し、撮影禁止場所や自室内の被害者を写真やビデオ撮影する

慰謝料の増額については、以下の被害者側の事情も考慮されます。

考慮される被害者側の事情
  1. 負傷した部位及びその程度、入通院期間
  2. 後遺症残存の有無
  3. 年齢・性別・職業・既婚未婚の別・社会的地位
  4. 資産・収入・生活程度
  5. 家庭内における地位・扶養関係
  6. その他
    1. ① 被害者の親族が精神疾患にり患した無念の思い
    2. ② 治療期間中倒産した無念の思い
    3. ③ 人工中絶を余儀なくされた
    4. ④ 長期の入院等により離婚をした など

特に加害者の過失、事故態様は、慰謝料の増額が認められやすい傾向にあります

例えば、加害者が、常習的な飲酒運転でひき逃げをし、逃走後に修理して隠蔽工作を行い、無車検・無保険車であったケースで慰謝料の増額を認めている裁判例(大阪地判平成21年1月30日)があります。

また、加害者が被害者をひき逃げし、刑事事件の裁判でも事故を起こしたことを否認し、不合理な弁解を述べ反省しておらず、被害者が任意保険から何の補償も受けられなかったこととなどを理由に慰謝料を増額した裁判例(さいたま地判平成30年10月11日)があります。

 

謝罪があった場合は減額しないといけない?

加害者側から謝罪があったとしても賠償金を減額しなければならないということはありません。

誤って他人にケガをしたり物を壊した場合には、謝罪するのが当然であり、賠償金が減額されるということはありえません。

 

 

交通事故の示談交渉のポイント

加害者本人との交渉のポイント

加害者本人との交渉のポイント

 

冷静に交渉する

加害者と直接交渉する場合の懸念点は、お互い感情的になってしまうことです。

感情的になってしまっては示談交渉は進みません。

冷静に賠償額を算定の上、加害者に対して提示して合意に向けて交渉すべきです。

お互い感情的になって話が進まなくなった場合には、弁護士に依頼して交渉してもらうことを検討すべきでしょう。

 

根拠をもって賠償の提示をする

加害者に賠償の提示をするにあたっては、根拠をもって提示されたほうがいいでしょう。

加害者としても適切な賠償額であるか確認するでしょうから、その根拠がわからないと適切かどうかも判断できません

以下の交通事故賠償金計算シミュレーターは、必要事項を入力するだけで賠償額の概算を計算することができますので、賠償額の算出にあたって参考にされて下さい。

 

弁護士に相談する

加害者に提示する賠償額や示談交渉の進め方について不安がある場合には、弁護士に相談しましょう。

弁護士費用特約に加入している場合には、弁護士費用を加入していている保険会社に支払ってもらうことができるので、加害者との交渉に行き詰まったら確認してみて下さい。

弁護士費用特約について詳しくは以下のページをご覧ください。

 

保険会社との交渉のポイント

保険会社との交渉のポイント

 

保険会社からの提示を鵜呑みにしない

保険会社からの賠償の提示額を鵜呑みにしてはいけません。

賠償額の計算には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)があり、最も高い基準は、弁護士基準(裁判基準)です

しかし、保険会社からの提示は、自賠責保険基準あるいは任意保険基準のいずれかで計算されています。

したがって、保険会社から賠償の提示があった場合にすぐに示談するのは避けましょう

一度示談してしまうと、増額の交渉もできなくなってしまうので注意して下さい。

 

増額の打診をしてみる

保険会社からの賠償の提示に対しては、増額してもらうよう交渉しましょう。

保険会社が気を使って増額してくれることはありませんので、被害者から増額の打診をしましょう

被害者自身の交渉で賠償金を増額させることは簡単なことではありませんが、打診しなければ増額はされないので、駄目もとでも言ってみることが大切です。

また、保険会社との交渉においても、弁護士に相談することは大切です。

適切な補償額を知らないと適切な補償を受け取ることはできません

保険会社との交渉で少しでも不安がある場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

まとめ

加害者は、自分の落ち度が原因で交通事故を発生させ、被害者に迷惑をかけたのであれば、謝罪すべきです。

加害者が悪質な態度を取った場合には、慰謝料が増額される可能性もありえます。

きちんと誠意ある対応をすることで、その後の示談交渉がスムーズにいくことも期待できますので、誠意ある対応を心がけましょう。

当事務所では、交通事故事件を専門的に取り扱う弁護士が所属しています。

交通事故の相談の対応については、全て専門弁護士が対応しますので、ご安心してご相談下さい。

また、当事務所では、電話相談、オンライン相談(LINE、ZOOM、Meetなど)により全国対応しておりますので、遠方の方もお気軽にご相談ください。

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