高齢者が交通事故により死亡した場合、逸失利益の算定方法は?
死亡による年金収入の交通事故の逸失利益の算定式は、以下の式を使います。
「死亡による逸失利益」とは、高齢者が年金を受給していれば、交通事故に遭わず生存していれば得ることができた年金収入の合算額のことです。
基礎収入額
65歳を超える高齢者の方は年金を受給しています。
ここで高齢者の年金所得を収入の基礎と考えられるのかが問題になります。
なぜなら高齢者の年金や恩給は労働能力を失ったわけではなく、損害には含まないと考えられるからです。
しかし、事故によって亡くなった場合、それ以降年金は支給されなくなるわけですから、事故後に収入が減少するという点で、給与等の収入が無くなった場合と同じように考えることができます。
さらに、年金については相続が認められています。
だから、逸失利益として認められることになります。
一方、遺族厚生年金、遺族年金、軍人恩給の扶助料、老齢福祉年金は、受給者である高齢者の生活維持を目的とするものであるとして逸失利益を否定している裁判例があります(最判H12.11.14、東京地裁H14.3.12など)。
判例 逸失利益として肯定した裁判例
- 国民年金(最判H5.9.21 )
- 老齢厚生年金(東京地判H13.12.20 )
- 恩給(最判S41.4.7)
- 地方公務員の退職年金給付(最判H5.3.24)
- 国家公務員の退職年金給付(最判S50.10.24)など
判例 その他の逸失利益を肯定した裁判例
- 農業者年金(神戸地判H18.12.15)
- 港湾労働者年金(神戸地判H8.12.20)
- 私学共済年金(名古屋地判H22.5.21)
年金以外の逸失利益
高齢者の中には、アルバイト等で実際に収入を得ている方もいらっしゃいます。
このような方達は、就労の蓋然性が認められれば、賃金センサス等を用いて基礎収入が計算される場合もあります。
生活費控除率
被害者が不幸にも死亡してしまった場合、生活費は発生しなくなります。
逸失利益の算定にあたっては、生活費分を控除します。
そこで生活控除率を使います。
それは、家族関係、性別、年齢に照らして決められています。
年金部分の生活費控除率は、通常より高く設定されることが多いです。
具体的には、50%〜70%の生活控除率を用います。
年金はほとんど生活費に使われるので、控除率が高く設定されています。
就労可能年数に対応するライプニッツ係数
将来の収入を現在受けとるわけですから、中間利息を控除する必要があります。
簡易生命表の平均余命に対応するライプニッツ係数を乗じます。
なお、民法改正の影響で、令和2年3月31日までの事故と、令和2年4月1日以降の事故では、用いるライプニッツ係数が異なります。
逸失利益計算の具体例
具体例 75歳男性が死亡した場合
- 基礎収入:年金144万円
- 生活費控除率:50%
- 平均余命:
【令和2年3月31日までに発生した事故の場合】11年(対応するライプニッツ係数:8.306)
【令和2年4月1日以降に発生した事故の場合】 12年(対応するライプニッツ係数:9.954)
逸失利益は以下のようになります。
【令和2年3月31日までに発生した事故の場合】144万円 ×( 1 − 0.5 )× 8.306 = 598万0320円
【令和2年4月1日以降に発生した事故の場合】 144万円 ×( 1 − 0.5 )× 9.954 = 716万6880円