自転車同士の事故の過失割合は?|示談までの流れや注意点を解説
自転車同士の事故の過失割合は、当事者の走行の状況、事故現場の状況、当事者の性質(高齢者、幼児等)などの事情を踏まえて決まります。
自転車事故の場合、自動車の事故の場合と比べて、加害者が保険に加入していないことも多いため、当事者本人同士の話し合いとなり過失割合がなかなか決まりづらいことがあります。
この記事では、自転車同士の事故の具体的な過失割合や、解決までの流れ、請求できる賠償金の内容等について、詳しく解説していますので、ご参考にされてください。
目次
自転車同士の過失割合の基準は?
自動車やバイクが関係する交通事故の過失割合は、「別冊判例タイムズ38」という書籍を参考に検討しますが、自転車同士の事故は、記載されていません。
参考:別冊判例タイムズ38
したがって、以下では、日弁連交通事故相談センターが示している自転車同士の事故の過失相殺基準の試案に基づいて解説します。
自転車同士の事故の過失割合
基本過失割合と修正要素
過失割合は、「基本過失割合」と「修正要素」を踏まえて検討します。
基本過失割合は、事故の状況に応じて設定されている過失割合のことです。
修正要素とは、当該事故の個別事情に応じて、基本過失割合を修正する要素のことです。
主な修正要素としては以下のような要素があります。
児童 | 6歳位以上13歳未満の子ども |
---|---|
高齢者 | 65歳以上 |
高速度進入 | 概ね時速20kmを超えて交差点に進入した場合 |
著しい高速度進入 | 概ね時速30kmを超えて交差点に進入した場合 |
著しい過失 | 以下のような事情がある場合
|
重過失 | 以下のような事情がある場合
|
以下では、具体的な事故状況に応じて基本過失割合、修正要素をご紹介します。
信号がある交差点
①信号がある交差点で、一方が赤信号、他方が青信号の事故
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
0% | 100% |
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②信号がある交差点で、一方が赤信号、他方が黄色信号の事故
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
20% | 80% |
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③信号がある交差点で、一方が赤信号、他方が赤信号の事故
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
50% | 50% |
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信号がない交差点での事故
①信号がない交差点で一方に一時停止がある場合の事故
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
30% | 70% |
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「左側通行義務違反」について、自転車は、道路の中央から左の部分を通行する義務があります(道路交通法17条4項)。そのため、この義務に違反した場合は不利に過失割合が修正されます。
「通行禁止の歩道通行」について、自転車は、歩道又は路側帯と車道の区別がある道路では、原則として車道を通行しなければなりません(道路交通法17条1項本文)。したがって、この義務に違反した場合は不利に過失割合が修正されます。
②信号がない交差点で一方に一時停止がある場合の事故(丁字路での事故)
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
25% | 75% |
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③信号がない交差点で同幅員の交差点での事故
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
45% | 55% |
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④信号がない交差点で同幅員の交差点での事故(丁字路の場合)
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
40% | 60% |
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対向方向に進行
①対向方向に進行する自転車同士の事故(生活道路上での事故)
生活道路とは、ここでは、歩車道の区別がされていない道路で幅が4〜6メートル程度の道路を前提としています。
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
50% | 50% |
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②対向方向に進行する自転車同士の事故(歩道上での事故)
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
50% | 50% |
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同じ方向に走行
①同じ方向に走行する自転車が追い越す際の事故
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
0% | 100% |
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「追抜危険場所」とは、狭い道路や、車両の往来が激しいため、追い抜く十分なスペースがないような場所を指します。
②同じ方向に並走して走行している場合の事故
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
0% | 100% |
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③同じ方向に走行している自転車が進路変更した際の事故
このケースでは、後続車両(B車)の方が速い速度で走行していることが前提となっています。
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
60% | 40% |
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「側方間隔不十分」とは、後続車が先行車の横を安全に通過できるスペースを保持していない場合のことを指します。
交差点を右左折する際の事故
基本過失割合 | |
---|---|
A車 | B車 |
65% | 35% |
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自転車同士の事故で気をつけること
自転車同士の事故でも警察への届出が必要
自転車同士の事故であっても警察への届け出が必要です。
自転車は、子供から高齢者まで免許など必要なく気軽に乗れるため、警察にまで通報する必要がないと思われている方もいるかも知れません。
しかし、道路交通法上、自転車同士の事故であっても警察に通報する義務があります。
道路交通法72条1項では、交通事故を起こした際には、警察に通報する義務があることが規定されており(報告義務)、これは自転車同士の事故でも適用されます。
また、道路交通法72条1項では、交通事故により負傷者がいる場合には、負傷者を救護する義務も規定されています(救護義務)。
引用元:道路交通法|e−GOV法令検索
また、警察に届け出をしておかないと、事故の発生を証明する「交通事故証明書」が発行されません。
そのため、保険会社への保険金や賠償請求が困難になってしまう可能性があります。
したがって、自転車同士の事故であっても必ず警察に届け出するようにしましょう。
自賠責保険が利用できない
自賠責保険とは、車やバイクで道路を走るにあたって必ず加入しなければならない保険です。
加入することが法律で義務付けられているので強制保険と言われています。
車やバイクが関係する事故では、この自賠責保険があるため、最低限の補償は確保されます。
しかし、自転車には、自賠責保険のような仕組みがないため、相手方が自転車保険等の任意保険に加入していない限りは、必ず補償してもらえるという拠り所がありません。
また、自転車同士の事故は、自賠責保険がないため、自動車事故のような後遺障害を認定してくれる仕組みがありません。
したがって、痛みや関節の動かしづらさ等の症状が残った場合には、医師に後遺障害診断書を作成してもらい、その症状が後遺障害に該当することを主張・立証しなければなりません。
交渉段階で、相手方が後遺障害部分の請求を否定しているような場合は、裁判を提起して裁判所に認めてもらったり、労災事故の場合は労災で後遺障害を認定してもらい、それに基づいて後遺障害部分の請求をするなどの方法が考えられます。
分割払いになる場合には示談書を作成する
賠償金を分割払いで合意するときは、必ず示談書を作成しましょう。
口頭でも分割払いの合意は成立しますが、後々に「言った、言わない。」の争いにならないためにも、示談書は必須です。
場合によっては、公正証書の作成も検討すべきです。
公正証書は、公証役場で作成することができます。
裁判官や検察官等の経験者である公証人が事前に内容を整理して公正証書を作成します。
公正証書は、加害者が支払いを怠った場合に強制執行(財産の差押など)できる条項を入れることができます。
また、示談内容にも注意しましょう。
例えば、相手方が分割払いの遅滞した場合のペナルティーの条項(期限の利益喪失条項や遅延損害金の条項)は盛り込んでおくべきです。
以下、示談書の例です。
示談書
●●●●(以下、「甲」という。)と▲▲▲▲(以下、「乙」という。)は、下記記載の交通事故(以下、「本件事故」という。)の損害に関して、以下の通り合意した。
(交通事故の表示)
発生日時 令和●年●月●日午後●時●●分頃
発生場所 福岡県●●●●●●●●●●●先路上
当事者 ●●●●(甲)
▲▲▲▲(乙)
事故発生の状況 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
第1条 乙は、甲に対して、本件事故の損害賠償金として、金●●●●万円の支払義務があることを認める。
第2条 乙は、甲に対して、前条の金員について、令和●年●月から同年●月まで毎月末日限り金●●●●円を下記口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
記
銀行名:●●銀行
支店名:●●支店
口座の種別:普通
口座番号:●●●●●●●
口座名義:●●●●
第3条 乙が前条の分割金の支払いを1回でも怠った場合には、当然に期限の利益を喪失し、乙は第1条の金員から既払金を控除した残額に年●%の遅延損害金を付して直ちに支払わなければならない。
第4条 甲及び乙は、本示談書に定めるものの他、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
以上の通り合意が成立したので、本示談書2通を作成し、各自押印の上、互いに各1通を所持することとする。
令和●年●月●日
(甲)住所 ●●●●●●●●●●●●●
氏名 ●●●● 印
(乙)住所 ●●●●●●●●●●●●●
氏名 ▲▲▲▲ 印
自転車同士の事故の解決までの流れ
事故の発生
自転車同士の事故が発生した場合には、まずは警察に通報します。
その後、加害者が自転車保険や個人賠償責任保険に加入していないかを確認しましょう。
保険に加入している場合には、加害者から保険会社に事故の報告をしてもらい、治療費等について保険会社が対応してくれるか確認しましょう。
また、被害者自身が加入している保険から保険金が出る場合がありますので、自分が加入している保険内容も確認しておくことをお勧めします。
治療
事故でケガをした場合には、必ず病院を受診して医師の指示に従って、治療を継続しましょう。
医師の指示に従わず通院しない場合には、症状も治らない危険性もありますし、適切な慰謝料も支払ってもらえない可能性があります。
加害者に請求することができる入通院慰謝料は、通院の期間や頻度により金額が決まるため、適切な治療を受けておかないと適切な入通院慰謝料を支払ってもらえない可能性があるので注意しましょう。
症状固定、治癒
症状固定とは、症状は残っているものの、治療を継続しても症状が一進一退で改善の見込みがない状態をいいます。
症状固定の判断は、医学的な判断になりますので、基本的には主治医の意見が尊重されることになりますが、不自然に治療期間が長いような場合には加害者側から争われる可能性があります。
治癒とは、事故によるケガの症状が治ったことをいいます。
症状固定あるいは治癒の状態に至った後は、示談交渉に入ります。
示談交渉
示談交渉では、賠償金の金額を加害者側と協議することになります。
加害者が保険会社に加入している場合には、保険会社から賠償の提示があるのが一般的です。
もっとも、被害者が弁護士に依頼している場合には、その弁護士から保険会社あるいは加害者に賠償の提示を行います。
後遺障害に該当するレベルの症状が残っている場合には、後遺障害診断書、カルテ等の医療記録等をふまえて、具体的に後遺障害等級の◯級に該当するということを主張立証しなければなりません。
また、保険会社が提示してくる賠償の内容は不十分であることが多々あります。
安易に保険会社の提示を鵜呑みにするのではなく、合意する前に弁護士に相談して適切な賠償額を算出してもらいましょう。
獲得金額の見通しによっては、弁護士に依頼して示談交渉を依頼することも検討されてください。
裁判
示談交渉で解決できない場合には、裁判をするか検討する必要があります。
裁判をするかどうかは、示談交渉段階での加害者側の提示額、裁判になった場合の獲得見込額、裁判に要する時間と費用等を踏まえて検討します。
裁判は、被害者自身で行うこともできますが、とても大変ですし、適切な主張立証ができず、十分な補償を得られない可能性があります。
したがって、裁判をする場合には、弁護士に依頼されることをお勧めします。
解決、賠償金の支払い
示談交渉で合意に至った場合は、その合意内容に基づいて賠償金が加害者側から支払われます。
裁判の場合には、和解あるいは判決での解決となります。
裁判上の和解は、裁判所が双方の主張と立証を踏まえて妥当と考える金額を当事者に提示し、双方の当事者が納得した場合に成立します。
和解が成立しなかった場合には、尋問手続を経て判決によって解決となります。
判決になり、当事者のいずれかが控訴した場合には、上級裁判所でさらに審理されることになりますが、判決が確定した場合には、その判決内容に従って加害者側から賠償金の支払いを受けることになります。
自転車同士の事故で請求できる賠償金
ケガに関する賠償金
ケガに関する主な賠償費目は以下のとおりです。
- 治療関係費・・・診察代や薬代、整骨院での施術費用など
- 通院交通費・・・病院へ通院するために要した車のガソリン代、公共交通機関の利用料金
- 休業損害・・・ケガにより仕事を休業した場合の収入減少分の損害
- 入通院慰謝料・・・事故によって入院や通院を余儀なくされたという精神的苦痛に対する賠償
- 付添費用・・・通院の付添費用、入院の付添費用
- 入院雑費・・・入院した際に必要な雑費
後遺障害の賠償金
後遺障害とは、体の痛みや関節の動かしづらさなどの症状が残り、その障害により労働能力が低下してしまうような場合のことをいいます。
後遺障害には、症状の重さによって等級が定められており、その等級に応じて後遺障害の賠償金を請求することになります。
後遺障害の賠償金としては、以下の2つがあります。
- 後遺障害慰謝料・・・後遺障害が残存したことによる精神的苦痛に対する賠償
- 後遺障害逸失利益・・・後遺障害が残存したために、将来の労働能力が低下したことによる減収の損害
死亡に関する賠償金
- 死亡逸失利益・・・被害者が死亡しなければ得られたであろう利益
- 死亡慰謝料・・・死亡したことによる被害者本人とその遺族の精神的苦痛に対する賠償
- 葬儀費用・・・被害者の葬儀の費用
自転車同士の事故でよくある質問
怪我がない場合には、警察は呼ばなくても良い?
怪我の有無に関わらず、道路交通法では、交通事故が発生した場合には、当事者は警察に通報する義務(報告義務)を課しており、これは自転車同士の事故でも適用されます。
怪我もなく、自転車も破損していないような状況であれば、当事者間でトラブルになることは少ないかもしれませんが、法的には怪我をしていなくても警察を呼ぶ必要があります。
自転車同士の事故の過失割合は誰が決める?
多くの場合は、当事者間の協議で過失割合は決まりますが、いずれかが納得できない場合には、裁判をして裁判所に決めてもらうケースもあります。
自転車同士の事故で相手が立ち去ったらどうしたらいい?
事故が発生したにもかかわらず、そのまま立ち去った場合には、報告義務違反、救護義務違反に該当する可能性があります。
被害者が明らかに怪我をしている状況下で現場を立ち去っているような場合には、加害者は逮捕され刑罰を受ける可能性もあります。
したがって、自転車同士の事故で相手が立ち去った場合には、躊躇なく警察に通報しましょう。
まとめ
自転車事故でも重大事故が引き起こることがあります。
賠償に向けた適切な活動を行わなければ、被害者にとって不十分な賠償金しか払われないことになります。
自転車事故の分野は専門的知識を必要としますので、お困りの方は弁護士にご相談ください。
当事務所では、交通事故案件を日常的に取り扱う弁護士がご相談の対応をしております。
また、来所でのご相談、電話相談、オンライン相談(Zoom、LINE、FaceTime、Meet)も実施しており、全国対応しておりますので、自転車同士の事故でお困りのことがあれば、お気軽にお問い合わせください。