従業員が会社所有の車を無断使用で事故。会社は責任を負う?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

会社は事故の責任を負うことになります。

会社は、民法715条の使用者責任と自動車損害賠償保障法3条の運行共用者責任を負うことになります。

使用者責任と運行共用者責任は事実上の無過失責任のため会社が過失を免れるのは難しいものです。

会社の責任を認める根拠

使用者責任

会社会社は、他人を使用することによって利益を得ています。

一方で対外的に危険を発生・増大させているともいえます。

そこで会社の活動によって生じた危険は会社が責任を負うべきという趣旨から使用者責任は認められています(危険責任の原理、報償責任の原理)。

使用者責任が認められるためには、原則的に、事故が会社の事業の執行中に起きたことが要件となっています。

もっとも、判例では、事業の執行中でなくても、外形から客観的に見て職務の範囲内といえれば、使用者責任は認められます(最判S39.2.4等)。

実務上使用者責任は、被害者救済のため、事実上の無過失責任となっています。

つまり、会社は、会社側に非がなかったことを主張して責任を免れることが現実的に厳しくなっているということです。

会社の使用者責任を認めた判例

無断運転に関する会社の使用者責任を認めた裁判例は多く見られます。

判例① 勤務時間外の帰宅途中、従業員が私用のために会社所有 の自動車を運転中に起こした事故について

・事故を起こした車が、会社の業務のために用いられていたこと
・事故を起こした従業員が、仕事の必要に応じ、当該自動車の使用を許されていたこと
などから外形から客観的に見て職務の範囲内といえるとして、会社の使用者責任を認めました。

【最判S37.11.8】


判例② 平素の職務分担上、車の運転に無関係であった個人会社の従業員が、休憩時間中に会社の原動付自転車を無断で持ち出し、運転中に起こした事故について

・車のキーが事務所の施錠されていない引き出しに保管されていたもので、いつでも利用可能であったこと
・従業員の起こした事故が、完全な勤務終了後ではなかったこと
などから会社の使用者責任を認めました。

【最判S46.9.16】


判例③ 運送会社を営む会社の従業員が、遊びに行くために無断で車を持ち出し起こした事故について

事故を起こした車が、事故を起こした従業員の専用自動車で、普段から業務を行ううえで使用された車だったことから、外形的に見て職務の範囲内だとし、会社の使用者責任を認めた。

【福岡地判S45.2.27】

 

運行者供用責任

助手席運行供用者とは、「自己のために自動車を運行の用に供する者」(自動車損害賠償保障法3条)です。

実際に自動車を運転する人だけでなく、自動車の運行に支配を及ぼせ、運行を支配制御でき、他人(被用者である従業員)に自動車の使用を承諾している場合運行利益認められる人も運行供用責任者となります。

運行供用責任も、対外的に危険を発生・増大させ、それによって生じた危険の責任を負うべきという趣旨から認められています。

被害者救済のため、運行者供用責任も事実上の無過失責任となっています。

会社の運行供用責任を認めた裁判例

無断運転に関する会社の運行供用責任を認めた裁判例も裁判例が多くみられます。

判例① 業務の就業時に農協所有の自動車を返却した従業員が、無断で農協所有の自動車の鍵を持ち出し起こした事故について

・自動車の所有者と第三者(運転手)との間に雇用関係等の密接な関係が存し、
・日常の自動車の運転及び管理状況
などから客観的外形的に所有者のためにする運行と認められる場合、所有者は運行供用責任を負うと判示しました。

【最判S39.2.11】


判例② 牛乳配達のパートタイマーが、会社の近くに止めてあった会社所有の自動車を無断で運転して歩行者にケガを負わせた事故について

牛乳販売会社の代表取締役の指導で、会社所有車を使って運転の練習をしていた事実から、会社は運行供用責任を負うと判示しました。

【最判S42.11.30】


判例③ 会社を退職した翌日、元従業員がエンジンキーを差し込んだまま、ドアロックをしないで駐車してあった会社所有の自動車を運転し起こした事故について

会社は運行供用責任を負うと判示しました。

【最判S49.11.12】


判例④ タクシー会社の従業員が、就業後、知り合いの女性をタクシーの助手席に乗せ中央分離帯に衝突し、女性が受傷した事故について

タクシー会社は運行供用責任を負うと判示しました。

【神戸地判H10.12.17】

 

 

賠償金


 
賠償金の計算方法

なぜ交通事故は弁護士選びが重要なのか

続きを読む